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最終章
16.実力を、今すぐに
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「エスが、ノーフェイスの孫……?」
愕然として思わず彼の言葉を繰り返すと、苦々しそうに頷いてくれた。
「あぁ。ノーフェイスは確かに一部のユーザーや運営にとっては迷惑行為を繰り返す違反者ユーザーだが、すべてのユーザーを平等に、という信念で動いていた。だから当時のユーザーたちにはノーフェイスのファンが多いんだ。義賊って思って貰えばわかりやすいのかもしれない」
義賊。金品を奪い貧困した人たちへと分け与える盗賊。
やっていることは犯罪だが、確かにその行動の結果助けられた人は多いのだろう。
“まだシステムが確立していなかったころのCCは今よりずっとセキュリティが甘くて衣装やアイテムを奪うような犯罪行為が万延していたのよね”
奪った相手から取り上げ必要な人へと再分配していたとすれば、それは確かに一部のユーザーからは熱狂的な支持を得るだろう。
もちろん運営側からすればどちらも犯罪者に違いはないのだが。
“でも、ユーザーの大多数が支持をしていたんだしそれが自分のおじいちゃんだと知ればヒーローみたいで大好きになると思うんだけど”
そう考えた私が首を傾げると、そんな私の疑問を察したのかエスが苦笑を漏らした。
「確かにCC内では人気だった。でも運営はもちろん、どんな時も電脳世界にダイブし現実世界を顧みない人だったら?」
「……!」
「おばあちゃんが、自分の妻が倒れた時も電脳世界を優先して見舞いに一度もこなかった。息子である父さんが会いに行っても、孫である俺が遊びに行ってもダイブしたまま浮上して来ないんだ」
孫に子供、そして妻すらも見ずエスにとっては知らない他人のために身を粉にして献身する。
それをずっと目の当たりにしていたとすれば、確かにいつしか期待したりすることもなく失望もしなくなるのかもしれない。
しかもやっていることは犯罪行為なのだ。
それは幼い子供にどれほどの闇を刻むのだろう。
“あのエルフのおじいさんと正反対――”
もうただのアバターという外側だけなのに、身を挺して守ろうとするくらい大事にしていたあの姿を思い出し胸が苦しくなる。
“だから嫌いだって断言していたんだ”
嫌いだけど、許せないけど、それでもその名を悪用する人もまた許せない。
きっと彼にはたくさんの葛藤があったんだと思った。
「誰かが俺を呼び出そうとしているのはわかった。そしてその為のカモフラージュとして大規模サイバー攻撃を仕掛けるってことも」
「それが、電脳セキュリティを利用したってこと?」
「そうだよ。俺に必要な情報は隠して電脳セキュリティに情報を流し、自分の邪魔になりそうなやつらを相手して貰ったんだ」
吐き捨てるようにそう告げるエス。
私はそんな彼の方へとまっすぐ向き直って口を開いた。
「それの何が悪いの」
「……は?」
「勘違いしてるみたいだけど、電脳セキュリティは一般ユーザーを守る組織なのよ。利用した? 好きなだけすればいいじゃない、どんな事情であれ私たち電脳セキュリティは絶対味方なんだから!」
「でも、俺は情報を故意に隠して」
「いたからって何なの。電脳セキュリティに入る通報なんて8割勘違いなのよ、それにエスが情報をくれなきゃ私たちは他の一般ユーザーを助けられなかったんだからむしろ感謝してるって」
どんな事情があったとしても、彼が私へ流した情報は正しかった。
そしてその情報がなければ、きっとこのサイバー攻撃から守れなかった人が沢山いる。
外では相変わらず騒音が続き、先輩たちもきっと一般ユーザーを守るために奮闘しているのだろう。
“だったら、私も”
「エス。あんたがどこの誰で、どんな事情があるかなんて関係ない。あんたはただの一般ユーザー」
「い、いっぱん、ユーザー……」
「だから、電脳セキュリティとして私もあんたを守るから!」
私はキッと黒スーツの男を睨みつけてそう断言した。
そんな私の断言を聞いていたその男は、何が面白いのか吹き出すように笑いだす。
「いやぁ、いいお友達をお持ちなようで。でも私にも必要なんですよねぇ、その孫の『アバター』が」
「アバター?」
「疑っていたのなら本人が来るべきじゃなかったですよ、私にとってはありがたい話だが」
クックッと笑うその男が不気味で、なんだか倉庫内の湿度が上がりじっとりと肌にまとわりつくように感じる。
「生体認証ってやつですよ。あなた本人がノーフェイスのことをどう思っていたのかなんて興味はないが、ノーフェイスは集めた物品や資金を隠してしまっていてね」
「まさか……」
「えぇ、そのまさかです。その鍵が孫であるあなたのアバターだ。見つけたのは偶然でした。ノーフェイスのスタンプが押された小さな倉庫。けれどどう頑張ってもアバターエラーで開かなかった……が、鍵であるあなたなら開けられるでしょう」
「嘘だ、そんな、じいちゃんが俺に何か残すなんて」
「信じなくても構いません、目障りなことをする相手を懲らしめに来たつもりのようでしたが私という蜘蛛の糸にかかった獲物は君自身だ」
ずっと見向きもされていないと思っていた相手が自分を指定し何かを残している。
それは、いつも冷静なエスを動揺させるには十分で――
「エスッ!!」
そして、私はその瞬間に改めて実感する。
電脳セキュリティという仲間だと思っていたのに私だけ外された作戦。
「う、うわぁぁぁあ!?」
それは私が学生だということももちろんあるのだろうが――
――一番の理由は、私の実力不足だということを。
愕然として思わず彼の言葉を繰り返すと、苦々しそうに頷いてくれた。
「あぁ。ノーフェイスは確かに一部のユーザーや運営にとっては迷惑行為を繰り返す違反者ユーザーだが、すべてのユーザーを平等に、という信念で動いていた。だから当時のユーザーたちにはノーフェイスのファンが多いんだ。義賊って思って貰えばわかりやすいのかもしれない」
義賊。金品を奪い貧困した人たちへと分け与える盗賊。
やっていることは犯罪だが、確かにその行動の結果助けられた人は多いのだろう。
“まだシステムが確立していなかったころのCCは今よりずっとセキュリティが甘くて衣装やアイテムを奪うような犯罪行為が万延していたのよね”
奪った相手から取り上げ必要な人へと再分配していたとすれば、それは確かに一部のユーザーからは熱狂的な支持を得るだろう。
もちろん運営側からすればどちらも犯罪者に違いはないのだが。
“でも、ユーザーの大多数が支持をしていたんだしそれが自分のおじいちゃんだと知ればヒーローみたいで大好きになると思うんだけど”
そう考えた私が首を傾げると、そんな私の疑問を察したのかエスが苦笑を漏らした。
「確かにCC内では人気だった。でも運営はもちろん、どんな時も電脳世界にダイブし現実世界を顧みない人だったら?」
「……!」
「おばあちゃんが、自分の妻が倒れた時も電脳世界を優先して見舞いに一度もこなかった。息子である父さんが会いに行っても、孫である俺が遊びに行ってもダイブしたまま浮上して来ないんだ」
孫に子供、そして妻すらも見ずエスにとっては知らない他人のために身を粉にして献身する。
それをずっと目の当たりにしていたとすれば、確かにいつしか期待したりすることもなく失望もしなくなるのかもしれない。
しかもやっていることは犯罪行為なのだ。
それは幼い子供にどれほどの闇を刻むのだろう。
“あのエルフのおじいさんと正反対――”
もうただのアバターという外側だけなのに、身を挺して守ろうとするくらい大事にしていたあの姿を思い出し胸が苦しくなる。
“だから嫌いだって断言していたんだ”
嫌いだけど、許せないけど、それでもその名を悪用する人もまた許せない。
きっと彼にはたくさんの葛藤があったんだと思った。
「誰かが俺を呼び出そうとしているのはわかった。そしてその為のカモフラージュとして大規模サイバー攻撃を仕掛けるってことも」
「それが、電脳セキュリティを利用したってこと?」
「そうだよ。俺に必要な情報は隠して電脳セキュリティに情報を流し、自分の邪魔になりそうなやつらを相手して貰ったんだ」
吐き捨てるようにそう告げるエス。
私はそんな彼の方へとまっすぐ向き直って口を開いた。
「それの何が悪いの」
「……は?」
「勘違いしてるみたいだけど、電脳セキュリティは一般ユーザーを守る組織なのよ。利用した? 好きなだけすればいいじゃない、どんな事情であれ私たち電脳セキュリティは絶対味方なんだから!」
「でも、俺は情報を故意に隠して」
「いたからって何なの。電脳セキュリティに入る通報なんて8割勘違いなのよ、それにエスが情報をくれなきゃ私たちは他の一般ユーザーを助けられなかったんだからむしろ感謝してるって」
どんな事情があったとしても、彼が私へ流した情報は正しかった。
そしてその情報がなければ、きっとこのサイバー攻撃から守れなかった人が沢山いる。
外では相変わらず騒音が続き、先輩たちもきっと一般ユーザーを守るために奮闘しているのだろう。
“だったら、私も”
「エス。あんたがどこの誰で、どんな事情があるかなんて関係ない。あんたはただの一般ユーザー」
「い、いっぱん、ユーザー……」
「だから、電脳セキュリティとして私もあんたを守るから!」
私はキッと黒スーツの男を睨みつけてそう断言した。
そんな私の断言を聞いていたその男は、何が面白いのか吹き出すように笑いだす。
「いやぁ、いいお友達をお持ちなようで。でも私にも必要なんですよねぇ、その孫の『アバター』が」
「アバター?」
「疑っていたのなら本人が来るべきじゃなかったですよ、私にとってはありがたい話だが」
クックッと笑うその男が不気味で、なんだか倉庫内の湿度が上がりじっとりと肌にまとわりつくように感じる。
「生体認証ってやつですよ。あなた本人がノーフェイスのことをどう思っていたのかなんて興味はないが、ノーフェイスは集めた物品や資金を隠してしまっていてね」
「まさか……」
「えぇ、そのまさかです。その鍵が孫であるあなたのアバターだ。見つけたのは偶然でした。ノーフェイスのスタンプが押された小さな倉庫。けれどどう頑張ってもアバターエラーで開かなかった……が、鍵であるあなたなら開けられるでしょう」
「嘘だ、そんな、じいちゃんが俺に何か残すなんて」
「信じなくても構いません、目障りなことをする相手を懲らしめに来たつもりのようでしたが私という蜘蛛の糸にかかった獲物は君自身だ」
ずっと見向きもされていないと思っていた相手が自分を指定し何かを残している。
それは、いつも冷静なエスを動揺させるには十分で――
「エスッ!!」
そして、私はその瞬間に改めて実感する。
電脳セキュリティという仲間だと思っていたのに私だけ外された作戦。
「う、うわぁぁぁあ!?」
それは私が学生だということももちろんあるのだろうが――
――一番の理由は、私の実力不足だということを。
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