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第一章
4.ノーフェイス
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「ただの模倣ね」
「模倣?」
タロ先輩と今回の通報者であるドワーフアバターのユーザーと一緒に電脳セキュリティの本部に戻った私たちは、一通り事情聴取を終えたあと小会議を開いていた。
「何年も前、このCCが出来たばかりの頃に『ノーフェイス』って呼ばれる違法ユーザーがいたことは知ってる?」
「確か、システムの抜け道をことごとく使ってありとあらゆるイタズラをしたって言う大犯罪者ですよね」
ノーフェイスの名前は色んな場所で色んな意味を持つ。
CC運営からすれば内部を荒らす違法ユーザー、そして一部のユーザーから見れば救世主。
“CC内での窃盗やアイテム強奪行為をする悪徳ユーザーからそれらのアイテムを取り返し元の持ち主へ返してたんだっけ”
方法が問題なだけで、そういったところがユーザーからは人気で一部のユーザーからはヒーローのよう扱われていたと聞いたことがある。
「でも、やっていることは犯罪ですし、ノーフェイスがキッカケで電脳セキュリティが生まれたんですよね」
「そうね。最初は自警団みたいな感じだったけど、今では企業としても運営と連絡を密に取っての自他ともに認める民間警察立場になったわね」
「ということは、ノーフェイスと電脳セキュリティってもしかして因縁がある感じですか?」
美里さんの話にハッとした私がそう聞くと、少し困った顔で微笑んだ。
「んー、因縁……とまではいかないわね。あくまでも結成のキッカケになったのは確かなんだけど、電脳セキュリティが活動を開始した頃にノーフェイスはCCに現れなくなったの」
「現れなく?」
「あぁ。運営にアカウントを捕捉されて永久BANされたとも言われてるが真相はわかってないな」
「そのノーフェイスが、また現れたんですが?」
「模倣だがな」
“あ、さっきそんなこと言ってたっけ”
そういえばそうだった、とハッとした私はそのままタロ先輩へと視線を向けそっと手を差し出す。
すかさずタロ先輩は私の手のひらにそっと自身の手を乗せて――
「お手をさすな! 俺は犬じゃないぞ!」
「やだなぁ、勝手にお手したのはタロ先輩じゃないですか。私は話の続きを促したんですって」
「……」
しれっとそう言うと、ジト目を向けられた。
“あんな表情モーションも追加されてるんだ”
ちょっとか可愛いと思ってしまった私は、こっそりバイトが終わったら自分も入手方法を確認するとして。今聞くべきは模倣の方である。
そしてそれはタロ先輩もだったようで、小さくため息を吐いたタロ先輩は続きを話し始めた。
「この白い丸だけのシンプルなスタンプは元々ノーフェイスが、自分がいた証にといたるところに残していたものなんだが」
チラッとタロ先輩が美里さんへ視線を向けると、すかさず美里さんがモニターに二つの丸スタンプを並べてくれた。
「パッと見は同じですけど」
「重ねてみるぞ」
「あ、あれ?」
一目みただけではわからないが、この二つのスタンプを重ねるとわずかに今回のスタンプの方がまん丸に近い形をしていた。
「非常によく似ているが、これは別物だろう。たまにこういうノーフェイスの模倣犯が出るんだ」
“確かに一部のユーザーにはヒーロー扱いをされるくらい人気の大犯罪者ユーザーって話だもんね”
「ただ、似すぎてる上にスタンプに消えない加工がされていてスタックをおこすのよね」
「あのドワーフアバターのユーザーみたいにですか?」
「そうなの。ノーフェイスファンが本物かとスタンプに近寄ったところに罠のように自動でスタンプが大量に起動してユーザーを閉じ込める檻になる仕組みみたいで」
「うわ、悪質……!」
ノーフェイスを知っていなくても、本来ないはずの場所にスタンプが残っていたら気になって近寄ってしまうだろう。
そして近寄ったら最後、あっという間に檻に閉じ込められるという戦法だ。
「実はこれと同じ事件が西地区ですでに六件も起きてるらしい」
「六件!?」
「ありがたいことに、解決方法がスタンプを重ねて押すだけだから簡単に解決は出来るんだけど、システム上ひとりじゃ解決できないから……」
「確かに、檻の中からスタンプを押しても離れないと消えませんし、誰かに外から押してもらうしかないってことですもんね」
「当分はこの檻に捕らわれちゃった人たちをパトロールしながら助けてもらうことになりそうよ」
やれやれ、と右手を頬にあてた美里さんがゆっくり顔を左右に振る。
「ま、やることはいつもと変わらないってことですよね!」
「うっかり俺らが二人ともこのスタックに捕まる真似はしないよう、変なもの見つけたらまず報告しろよ。間違っても起動するようなへまはするな」
「わかってますよ! タロ先輩こそ不思議なものがあるからって匂いを嗅ぎにいったり前足でひっかきに行かないでくださいよね」
「だから俺は犬じゃねぇんだって!」
「アバターは犬でーす」
「犬アバターに匂い感知機能は実装されてねぇっつの!」
“でも、ノーフェイスの模倣犯か”
いや、本物のノーフェイスと違い他のユーザーにも無差別に迷惑行為をしているので、ノーフェイスの名前を語ったただの違反者ユーザーにだろう。
「これからちょっと大変になりそう」
なんでこのタイミングで突然現れたのかはわからないが、それでも私たちは電脳セキュリティだから。
「ま、困ってるユーザーがいたらまるごと全員助けてみせますよ!」
私は一層気合を入れてそんな宣言をしたのだった。
「模倣?」
タロ先輩と今回の通報者であるドワーフアバターのユーザーと一緒に電脳セキュリティの本部に戻った私たちは、一通り事情聴取を終えたあと小会議を開いていた。
「何年も前、このCCが出来たばかりの頃に『ノーフェイス』って呼ばれる違法ユーザーがいたことは知ってる?」
「確か、システムの抜け道をことごとく使ってありとあらゆるイタズラをしたって言う大犯罪者ですよね」
ノーフェイスの名前は色んな場所で色んな意味を持つ。
CC運営からすれば内部を荒らす違法ユーザー、そして一部のユーザーから見れば救世主。
“CC内での窃盗やアイテム強奪行為をする悪徳ユーザーからそれらのアイテムを取り返し元の持ち主へ返してたんだっけ”
方法が問題なだけで、そういったところがユーザーからは人気で一部のユーザーからはヒーローのよう扱われていたと聞いたことがある。
「でも、やっていることは犯罪ですし、ノーフェイスがキッカケで電脳セキュリティが生まれたんですよね」
「そうね。最初は自警団みたいな感じだったけど、今では企業としても運営と連絡を密に取っての自他ともに認める民間警察立場になったわね」
「ということは、ノーフェイスと電脳セキュリティってもしかして因縁がある感じですか?」
美里さんの話にハッとした私がそう聞くと、少し困った顔で微笑んだ。
「んー、因縁……とまではいかないわね。あくまでも結成のキッカケになったのは確かなんだけど、電脳セキュリティが活動を開始した頃にノーフェイスはCCに現れなくなったの」
「現れなく?」
「あぁ。運営にアカウントを捕捉されて永久BANされたとも言われてるが真相はわかってないな」
「そのノーフェイスが、また現れたんですが?」
「模倣だがな」
“あ、さっきそんなこと言ってたっけ”
そういえばそうだった、とハッとした私はそのままタロ先輩へと視線を向けそっと手を差し出す。
すかさずタロ先輩は私の手のひらにそっと自身の手を乗せて――
「お手をさすな! 俺は犬じゃないぞ!」
「やだなぁ、勝手にお手したのはタロ先輩じゃないですか。私は話の続きを促したんですって」
「……」
しれっとそう言うと、ジト目を向けられた。
“あんな表情モーションも追加されてるんだ”
ちょっとか可愛いと思ってしまった私は、こっそりバイトが終わったら自分も入手方法を確認するとして。今聞くべきは模倣の方である。
そしてそれはタロ先輩もだったようで、小さくため息を吐いたタロ先輩は続きを話し始めた。
「この白い丸だけのシンプルなスタンプは元々ノーフェイスが、自分がいた証にといたるところに残していたものなんだが」
チラッとタロ先輩が美里さんへ視線を向けると、すかさず美里さんがモニターに二つの丸スタンプを並べてくれた。
「パッと見は同じですけど」
「重ねてみるぞ」
「あ、あれ?」
一目みただけではわからないが、この二つのスタンプを重ねるとわずかに今回のスタンプの方がまん丸に近い形をしていた。
「非常によく似ているが、これは別物だろう。たまにこういうノーフェイスの模倣犯が出るんだ」
“確かに一部のユーザーにはヒーロー扱いをされるくらい人気の大犯罪者ユーザーって話だもんね”
「ただ、似すぎてる上にスタンプに消えない加工がされていてスタックをおこすのよね」
「あのドワーフアバターのユーザーみたいにですか?」
「そうなの。ノーフェイスファンが本物かとスタンプに近寄ったところに罠のように自動でスタンプが大量に起動してユーザーを閉じ込める檻になる仕組みみたいで」
「うわ、悪質……!」
ノーフェイスを知っていなくても、本来ないはずの場所にスタンプが残っていたら気になって近寄ってしまうだろう。
そして近寄ったら最後、あっという間に檻に閉じ込められるという戦法だ。
「実はこれと同じ事件が西地区ですでに六件も起きてるらしい」
「六件!?」
「ありがたいことに、解決方法がスタンプを重ねて押すだけだから簡単に解決は出来るんだけど、システム上ひとりじゃ解決できないから……」
「確かに、檻の中からスタンプを押しても離れないと消えませんし、誰かに外から押してもらうしかないってことですもんね」
「当分はこの檻に捕らわれちゃった人たちをパトロールしながら助けてもらうことになりそうよ」
やれやれ、と右手を頬にあてた美里さんがゆっくり顔を左右に振る。
「ま、やることはいつもと変わらないってことですよね!」
「うっかり俺らが二人ともこのスタックに捕まる真似はしないよう、変なもの見つけたらまず報告しろよ。間違っても起動するようなへまはするな」
「わかってますよ! タロ先輩こそ不思議なものがあるからって匂いを嗅ぎにいったり前足でひっかきに行かないでくださいよね」
「だから俺は犬じゃねぇんだって!」
「アバターは犬でーす」
「犬アバターに匂い感知機能は実装されてねぇっつの!」
“でも、ノーフェイスの模倣犯か”
いや、本物のノーフェイスと違い他のユーザーにも無差別に迷惑行為をしているので、ノーフェイスの名前を語ったただの違反者ユーザーにだろう。
「これからちょっと大変になりそう」
なんでこのタイミングで突然現れたのかはわからないが、それでも私たちは電脳セキュリティだから。
「ま、困ってるユーザーがいたらまるごと全員助けてみせますよ!」
私は一層気合を入れてそんな宣言をしたのだった。
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