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プロローグ

プロローグ:『電脳セキュリティ』

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「えー、あと一個がわかんない! 亜由わかる?」
「ん? どれどれ」

 放課後、高校近くのファミレスに入った私は、メニューの裏に付いている間違い探しをしていた友達からのSOSを受けてメニュー表を受け取った。

“確か、最後のひとつが難易度おかしいって評判なのよね”

 自身の方へ置き、全体を眺める。
 間違い探しというのは一ヶ所ずつ確認するのではなく、全体を遠目で眺めて探すのが最も効率がいいからだ。

「雪だるまの帽子、プレゼントの数、もみの木の枝、クッションの色、窓枠の光、フローリングの向きに……リモコンのボタンだね」
「リモコンのボタン!?」

 見つけた違いを片っ端から口にすると、ぎょっとした友達が身を乗り出して覗き込む。

「これはわかんない、言われなきゃわかんないやつ……」
「見つかって良かった」
「むしろなんでわかったのってレベル」

 愕然としながら再びファミレスのソファに沈んだ友達は、そんな言葉を口にして。


「ま、そういう仕事してるからね」
「そうでした、亜由ってば電脳セキュリティのメンバーなんでしたぁ……」

 どこか虚無りながらそんなことを呟く友人に思わず笑ってしまった。
 


――『電脳セキュリティ』

 大手企業の参入により、爆発的に広がった『CC』と呼ばれる電脳世界。
 老若男女関係なくほぼ全ての人が『アバター』と呼ばれる自分の分身を電脳世界に持ち、当たり前のように過ごすようになった。


 現実世界の私と、電脳世界の私。

 それらは必ずしもイコールにする必要はなく、電脳世界に自分の分身を作るも良し、なりたい自分を性別どころか種族を超えて作るも良し。

 天使やエルフなんてものもいれば、恐竜にだってなんでもなれる。
 お手軽さと、そんな夢が詰まった仕様も後押しし、今では電脳世界で仕事につき生計を立てる人だっているほどだ。


 そして、なんでもありなバーチャル空間だからこそトラブルだって起きやすい。

 対人同士のトラブルはもちろん、違法アバターや複垢、そして愉快犯による迷惑行為なんてものも起こったりする。

 そんなトラブルに対応する、いわばこの『CC』内の警察的なポジションにいるのがまさに『電脳セキュリティ』で、私こと浅賀亜由が働いている会社なのだ。

 
“……なんて言っても、ただのバイトなんだけどね”

 仕事内容も、やはり私が高校生だからか放課後から数時間だけダイブし、問題がないかパトロールするだけのことがほとんど。

 警察ドラマで観るような派手なアクションなんてほとんどなく、想像よりもずっと地味。
 

「でもさ、女子高生警察ってパワーワード過ぎ」
「警察とは違って公的機関じゃないから、民間の警備員の方が近いけどね」

 それでも凄いよ、なんて私をキラキラした瞳で見つめていた友人は、注文していたポテトフライが届いた途端にそのキラキラした視線をポテトへとあっさり移す。

「ね、今日CCで軽音部の皆がライブするんだけど、潜る?」
「潜る……けど、今日はバイトの日だから観れないや」
「残念ー、次こそ観に行こ」
「皆にもごめんって言っといて」

 そんな会話を交わしながら、私も目の前に置かれたポテトへ手を伸ばしたのだった。




「思ったより遅くなっちゃった……!」

 友達と解散した後、少し小走りで家に帰る。
 現在16時半。バイトの時間までのあと一時間半で、ご飯と出来ればお風呂も終わらせてしまいたいところで。
 
「お、亜由今帰りか?」
「巧くん!」

 丁度玄関の鍵を探しているところに後ろから声をかけられる。
 振り向いた先にいたのは母親同士が同僚、かつ仲良しだったお陰で本当の兄妹のように育った隣の家のお兄ちゃんで。

「おかえり、飯食ってくか?」

 ふわりと微笑む巧くんにドキリとする。

“無駄に顔が整ってるんだから!”

 お互いの両親が共働きだったため、昔から巧くんの家で晩ご飯を食べていて。
 

“でも、今日バイト18時からだしな……”
「ダイブするの18時だろ?」
「なっ、なんで知ってるの!?」

 口に出してないはずなのに絶妙なタイミングで言い当てられてギョッとすると、ふはっと巧くんが吹き出した。

「この時間に走って帰ってきたならわかるっつの」
「確かに」

 その説明に納得した私は、ちらりとスマホの画面で時間を確認して。

“でもお風呂も入りたいんだよね”

 
「今日はやめとく」
「了解、バイト頑張れよ」

 そう返事をし、それぞれの家に帰ったのだった。
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