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睡眠の質を上げる為に
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「なに、まだ残ってんの?どれ」
「あ、あー、どれ⋯って聞かれても⋯まぁ、ちょっと」
隣の部署の主任である彼が少し眉を吊り上げそう聞いてくる。
突然現れた彼の問いに思わずまごついてしまうのは、彼が元々俺の教育担当だったからでー⋯
“昔から苛立ち隠さないんだよなぁ、この人”
部署が変わったのにまだ俺の世話をやこうとでもいうのか、抜き打ちのようにこっちの部署を覗いてはガミガミと文句を言われてばかりだった。
外ではにこやかで爽やかな仮面を着けているくせに、誰も残っていない時間の彼はいつもどこかイライラしている。
その理由がわからず、今日も今日とて戸惑っていた俺だったのだが。
「ほら、唇カサカサになってる」
「なッ!?」
突然彼の親指が俺の唇をそっと撫で、思わずビクリと肩を跳ねさせた。
「⋯⋯なに、感じちゃった?」
「んな訳ないでしょ!?」
少しかさついていたのは彼の指なのか俺の唇なのか。
無意識に彼が撫でた後の唇をペロリと舐めた俺は、その様子をじっと見る彼の視線に気が付いて。
“やば⋯!”
何故だか堪らなく恥ずかしくなった俺は、思わず頬が熱くなる。
そんな赤くなってしまった頬を隠すように、くるりと椅子を回し再びパソコンに向き直り⋯
「早く帰れよ」
「ッ!」
椅子を掴みくるりと戻されたと思ったら首から下げていたID付きの社員証をぐいと引っ張られ、そしてさっき俺の唇に触れた指とは違うもので口を塞がれてーー
「ぁ、へ⋯⋯っ?」
突然の出来事に唖然としている俺の目の前で、今度は彼がペロリと唇を舐める。
その様子を見た俺は、無意識にごくりと唾を呑んだ。
「ん?ほら、やっぱりかさついてる」
「は⋯?」
「お前の唇。栄養と睡眠が足りてない証拠だバカ」
「バ⋯っ!?」
さっきまで不機嫌だった彼は何故か上機嫌で、そしてそのまま俺の首から社員証を外してしまって。
「あ!ちょっ、それ無いと出れないし入れないんですけど!?」
「知ってるっつの。ほら、ここから出たいならついてこい」
「な⋯っ!」
鼻歌を歌い出すんじゃないかと思うほどご機嫌になったらしい彼に戸惑いつつ、仕方なくファイルを保存しパソコンの電源を落とした俺は、鞄を掴んで慌てて追いかけー⋯
「それ、いつ返してくれるんですか」
思わず恨みがましくそう聞くが、少しも堪えてくれない彼はニヤッと笑って。
「そうだなぁ、とりあえずお前が質の良い睡眠取った後かな」
なんて、とんでもない爆弾を落とすのだった。
「あ、あー、どれ⋯って聞かれても⋯まぁ、ちょっと」
隣の部署の主任である彼が少し眉を吊り上げそう聞いてくる。
突然現れた彼の問いに思わずまごついてしまうのは、彼が元々俺の教育担当だったからでー⋯
“昔から苛立ち隠さないんだよなぁ、この人”
部署が変わったのにまだ俺の世話をやこうとでもいうのか、抜き打ちのようにこっちの部署を覗いてはガミガミと文句を言われてばかりだった。
外ではにこやかで爽やかな仮面を着けているくせに、誰も残っていない時間の彼はいつもどこかイライラしている。
その理由がわからず、今日も今日とて戸惑っていた俺だったのだが。
「ほら、唇カサカサになってる」
「なッ!?」
突然彼の親指が俺の唇をそっと撫で、思わずビクリと肩を跳ねさせた。
「⋯⋯なに、感じちゃった?」
「んな訳ないでしょ!?」
少しかさついていたのは彼の指なのか俺の唇なのか。
無意識に彼が撫でた後の唇をペロリと舐めた俺は、その様子をじっと見る彼の視線に気が付いて。
“やば⋯!”
何故だか堪らなく恥ずかしくなった俺は、思わず頬が熱くなる。
そんな赤くなってしまった頬を隠すように、くるりと椅子を回し再びパソコンに向き直り⋯
「早く帰れよ」
「ッ!」
椅子を掴みくるりと戻されたと思ったら首から下げていたID付きの社員証をぐいと引っ張られ、そしてさっき俺の唇に触れた指とは違うもので口を塞がれてーー
「ぁ、へ⋯⋯っ?」
突然の出来事に唖然としている俺の目の前で、今度は彼がペロリと唇を舐める。
その様子を見た俺は、無意識にごくりと唾を呑んだ。
「ん?ほら、やっぱりかさついてる」
「は⋯?」
「お前の唇。栄養と睡眠が足りてない証拠だバカ」
「バ⋯っ!?」
さっきまで不機嫌だった彼は何故か上機嫌で、そしてそのまま俺の首から社員証を外してしまって。
「あ!ちょっ、それ無いと出れないし入れないんですけど!?」
「知ってるっつの。ほら、ここから出たいならついてこい」
「な⋯っ!」
鼻歌を歌い出すんじゃないかと思うほどご機嫌になったらしい彼に戸惑いつつ、仕方なくファイルを保存しパソコンの電源を落とした俺は、鞄を掴んで慌てて追いかけー⋯
「それ、いつ返してくれるんですか」
思わず恨みがましくそう聞くが、少しも堪えてくれない彼はニヤッと笑って。
「そうだなぁ、とりあえずお前が質の良い睡眠取った後かな」
なんて、とんでもない爆弾を落とすのだった。
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