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トリックor???
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「日本人ってイベント好きだよな」
「あー⋯、ハロウィン?」
「なのに、イベントさせる気ないよな」
「平日だもんな」
ハロウィンもクリスマスもバレンタインだって。
近年よく聞くようになったイースターも平日なら仕事。
なのに町並みやコンビニのラインナップ、スーパーに遊園地などイベントを全面に押してくる現実に納得がいかない。
「そんなにイベントさせたいなら祝日にしろよ⋯っ!」
10月31日、ついでに時刻は20時50分を回ったところ。
急遽クライアントからの変更が入ったとかで残業中の俺は、隣の席に陣取る同僚の前で苛立ちながらパソコンと向き合っていて。
「けどさぁ、お前予定あった?イベント」
「⋯⋯え」
言われて思わずキーボードを叩く指が止まる。
「⋯なんでそんな悲しい事言うんだ⋯?」
「うはっ、悪い、そうだよなぁ⋯予定とかある訳なかったよな?」
「ひでぇ!今の追い討ちって言うやつだからな!」
思わず文句を言うと、全く反省していないそいつはケラケラと笑った。
「でもさぁ、会社ねぇとイベントにあやかれないだろ?バレンタインとかさ」
「確かに義理だとわかりきってても嬉しい、けどな、お前のその言い方は俺に本命をくれる奴がいない前提だし今日はハロウィンだ。バレンタインまでまだ余裕ある」
「4ヶ月で彼女を作ると?」
「諦めたらそこで試合終了って言うだろ」
「あははっ」
“な、なんだよ!なんで今日に限ってこんな絡んでくるんだ?”
終わらない仕事に苛立ちつつも戻ろうと視線をパソコンに戻すと、そんな俺の顔を覗き込む同僚。
「⋯あのさ、まじでなんなの。つかそもそもお前の席そこじゃねぇだろ」
「まぁな。てか俺はとっくに仕事終わってるし」
「なら帰れよ!」
“もしくは手伝えよ!?”
内心抗議する俺に、ニヤッと笑ったそいつは。
「トリックorトリート!」
「は?」
両手を出しそう宣言され、苛立ちがピークに達した俺はそいつの手のひらを叩くように振り下ろす。
俺達以外いない事務室にバチンと音が響いた。
「いって!暴力はんたーい!イタズラするぞー?」
「勝手にしろ!つか仕事ないなら帰れよ!」
「ちぇ、ノリ悪いなぁ。じゃあどんなイタズラすっかなぁ~」
なんて、叩かれたのに楽しそうな同僚が、徐に俺の横にピッタリと引っ付いてきて。
「⋯いや、まじでなに?」
「んー、イタズラ?」
「どこが?」
「そうだなぁ⋯これと、これかな」
「なっ!」
パソコン画面を覗いていたそいつが俺のマウスを奪ってカチカチと何やら操作をすると、Excelデータが一部書き変わった。
「ちょ、え!?いやイタズラ⋯って、あ!!?」
「どうだ?」
「どうだって⋯、ちょ⋯、ん?」
手打ちで直していたデータが一気に変わったことで焦った俺だったが、打ち直す予定だった数字と見比べてハッとする。
「え⋯、な、なんで?これ⋯」
「あぁ、クライアントに連絡してFAXだけじゃなくメールでもデータくれって言っといた。それをExcelに落とし込んで反映させただけ」
「うそ、俺の残業⋯」
「データ貰えなかったら手打ちしかなかったし、無駄ではなかったんじゃね?」
“こいつ、担当外のくせにわざわざ連絡してくれたのか⋯”
しれっと言われ悔しい気持ちと嬉しい気持ちが沸き上がった。
お礼を言うべきなのに、なんだか素直にお礼を言う気になれないのは何故なのか。
それは同じ男として、さらっとこういうことが出来るこいつが『格好いい』とか思ってしまったからー⋯
「⋯もっかい、言え」
「?」
「さっきの!もっかい言えって」
「さっきの⋯って、あぁ、トリックorトリート?」
半ば無理やり言わせた俺は、きょとんとしているそいつに飲もうと思いつつ飲みそびれていた缶コーヒーを渡す。
「え、何?くれんの?」
「お礼」
「うっは、素直じゃねぇー!しかもこれめちゃくちゃ甘いやつじゃん。俺ブラック派なのに!」
「文句言うなら返せバカ!」
俺なりの精一杯な感謝を笑い飛ばされ羞恥心を煽られた俺が両手を伸ばし缶コーヒーを取り替えそうとするが、スルリとかわしたその同僚は。
「お前も言ってよ、トリックor?」
「はぁ!?そんなんいいし!文句言うならまじで缶コーヒー⋯」
「ほら、言って?」
「う⋯っ」
にこりと意思が強そうな笑顔を向け俺にハロウィンを求めてくる。
どこか拒否出来ない雰囲気を察した俺が、渋々口を開くが⋯
「トリックorトリー⋯んんっ!?」
あ、と思った時には唇を塞がれていて。
「なっ、は!?なに⋯えっ!?」
「うは、間抜けな顔~!」
「いやっ、いやいやいや、え!い、今⋯」
「ん?イタズラした」
「はあぁ?なんでっ、つかトリックorトリートって言ってんの俺なんだから俺がイタズラする方だろ!?」
「え、する?いいぞ?」
「いやしないけど!!!」
反射的に言い返すと、やはりそいつはケラケラ笑う。
「ま、甘いお菓子は4ヶ月後期待しててよ。それまではイタズラ一択で」
「ハロウィンは1日だけだから!つか4ヶ月後って何⋯」
そこまで口にした俺は、ふと口ごもる。
“4ヶ月後って⋯⋯”
「日本人ってイベント好きだよな?」
少し意地悪そうな笑顔を向けられ、じわりと俺の頬が赤くなった。
「イベント好きなのお前だろ!」
4ヶ月後のバレンタインまで、甘いお菓子はお預けのままーー⋯
「あー⋯、ハロウィン?」
「なのに、イベントさせる気ないよな」
「平日だもんな」
ハロウィンもクリスマスもバレンタインだって。
近年よく聞くようになったイースターも平日なら仕事。
なのに町並みやコンビニのラインナップ、スーパーに遊園地などイベントを全面に押してくる現実に納得がいかない。
「そんなにイベントさせたいなら祝日にしろよ⋯っ!」
10月31日、ついでに時刻は20時50分を回ったところ。
急遽クライアントからの変更が入ったとかで残業中の俺は、隣の席に陣取る同僚の前で苛立ちながらパソコンと向き合っていて。
「けどさぁ、お前予定あった?イベント」
「⋯⋯え」
言われて思わずキーボードを叩く指が止まる。
「⋯なんでそんな悲しい事言うんだ⋯?」
「うはっ、悪い、そうだよなぁ⋯予定とかある訳なかったよな?」
「ひでぇ!今の追い討ちって言うやつだからな!」
思わず文句を言うと、全く反省していないそいつはケラケラと笑った。
「でもさぁ、会社ねぇとイベントにあやかれないだろ?バレンタインとかさ」
「確かに義理だとわかりきってても嬉しい、けどな、お前のその言い方は俺に本命をくれる奴がいない前提だし今日はハロウィンだ。バレンタインまでまだ余裕ある」
「4ヶ月で彼女を作ると?」
「諦めたらそこで試合終了って言うだろ」
「あははっ」
“な、なんだよ!なんで今日に限ってこんな絡んでくるんだ?”
終わらない仕事に苛立ちつつも戻ろうと視線をパソコンに戻すと、そんな俺の顔を覗き込む同僚。
「⋯あのさ、まじでなんなの。つかそもそもお前の席そこじゃねぇだろ」
「まぁな。てか俺はとっくに仕事終わってるし」
「なら帰れよ!」
“もしくは手伝えよ!?”
内心抗議する俺に、ニヤッと笑ったそいつは。
「トリックorトリート!」
「は?」
両手を出しそう宣言され、苛立ちがピークに達した俺はそいつの手のひらを叩くように振り下ろす。
俺達以外いない事務室にバチンと音が響いた。
「いって!暴力はんたーい!イタズラするぞー?」
「勝手にしろ!つか仕事ないなら帰れよ!」
「ちぇ、ノリ悪いなぁ。じゃあどんなイタズラすっかなぁ~」
なんて、叩かれたのに楽しそうな同僚が、徐に俺の横にピッタリと引っ付いてきて。
「⋯いや、まじでなに?」
「んー、イタズラ?」
「どこが?」
「そうだなぁ⋯これと、これかな」
「なっ!」
パソコン画面を覗いていたそいつが俺のマウスを奪ってカチカチと何やら操作をすると、Excelデータが一部書き変わった。
「ちょ、え!?いやイタズラ⋯って、あ!!?」
「どうだ?」
「どうだって⋯、ちょ⋯、ん?」
手打ちで直していたデータが一気に変わったことで焦った俺だったが、打ち直す予定だった数字と見比べてハッとする。
「え⋯、な、なんで?これ⋯」
「あぁ、クライアントに連絡してFAXだけじゃなくメールでもデータくれって言っといた。それをExcelに落とし込んで反映させただけ」
「うそ、俺の残業⋯」
「データ貰えなかったら手打ちしかなかったし、無駄ではなかったんじゃね?」
“こいつ、担当外のくせにわざわざ連絡してくれたのか⋯”
しれっと言われ悔しい気持ちと嬉しい気持ちが沸き上がった。
お礼を言うべきなのに、なんだか素直にお礼を言う気になれないのは何故なのか。
それは同じ男として、さらっとこういうことが出来るこいつが『格好いい』とか思ってしまったからー⋯
「⋯もっかい、言え」
「?」
「さっきの!もっかい言えって」
「さっきの⋯って、あぁ、トリックorトリート?」
半ば無理やり言わせた俺は、きょとんとしているそいつに飲もうと思いつつ飲みそびれていた缶コーヒーを渡す。
「え、何?くれんの?」
「お礼」
「うっは、素直じゃねぇー!しかもこれめちゃくちゃ甘いやつじゃん。俺ブラック派なのに!」
「文句言うなら返せバカ!」
俺なりの精一杯な感謝を笑い飛ばされ羞恥心を煽られた俺が両手を伸ばし缶コーヒーを取り替えそうとするが、スルリとかわしたその同僚は。
「お前も言ってよ、トリックor?」
「はぁ!?そんなんいいし!文句言うならまじで缶コーヒー⋯」
「ほら、言って?」
「う⋯っ」
にこりと意思が強そうな笑顔を向け俺にハロウィンを求めてくる。
どこか拒否出来ない雰囲気を察した俺が、渋々口を開くが⋯
「トリックorトリー⋯んんっ!?」
あ、と思った時には唇を塞がれていて。
「なっ、は!?なに⋯えっ!?」
「うは、間抜けな顔~!」
「いやっ、いやいやいや、え!い、今⋯」
「ん?イタズラした」
「はあぁ?なんでっ、つかトリックorトリートって言ってんの俺なんだから俺がイタズラする方だろ!?」
「え、する?いいぞ?」
「いやしないけど!!!」
反射的に言い返すと、やはりそいつはケラケラ笑う。
「ま、甘いお菓子は4ヶ月後期待しててよ。それまではイタズラ一択で」
「ハロウィンは1日だけだから!つか4ヶ月後って何⋯」
そこまで口にした俺は、ふと口ごもる。
“4ヶ月後って⋯⋯”
「日本人ってイベント好きだよな?」
少し意地悪そうな笑顔を向けられ、じわりと俺の頬が赤くなった。
「イベント好きなのお前だろ!」
4ヶ月後のバレンタインまで、甘いお菓子はお預けのままーー⋯
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