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勝ち負けよりも大切なもの
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「今日夜あいてる?」
付き合ってる人からそんな事を言われて期待しない男なんていない訳で。
“けど、コイツに限ってはない、よな⋯?”
ごくりと鳴りそうになる喉を必死に堪えた俺は、平静を装って確認する。
「なんかあんの?」
「見たい心霊番組あるんだよな」
「あーーー、そうだよな、うん」
“だよな、わかってた!”
期待した俺は悪くない、と必死に自分を慰めた。
腐れ縁で中学からの同級生。
ずっと片想いしていて、拗らせていた自覚だってある。
このまま高校も卒業するんだろうな、なんて考えていた高3の夏、お互いの進路が違う事を知った。
『俺、就職するつもりなんだ』
大学でもつるむんだろうと漠然と考えていたからこその彼の一言にいいしれない焦燥感を感じて。
“俺はたいして何も考えてなかったのに、その間にコイツはしっかり自分の人生設計を立てていたのか”と、気付き焦ったのだと思う。
『俺、お前の事好きなんだけど』
なんの脈略もなく突発的に溢れ出たその想いは、一瞬ぽかんと目を見開いた後に顔を背けられて。
『あー、うん、俺も』
なんて言葉で受け止められた。
友達として側にいれるだけでいいなんて、そんな事を思っていたハズが気付けば力一杯抱き締めていて。
『痛いって、ばーか』
なんて笑うそいつに、潤んだ瞳を見られたくなかった俺は更に力を込めて抱き締めていたーーーーのは、もう4ヶ月前だ。
“腐れ縁の拗らせ方やっべぇ”
と自分でも思うほど、『恋人』という特別な響きで満足してしまった俺は未だにキスすら出来なくて。
やっぱり女よりも硬いだろう唇とか体とか。
男はやっぱ無理だ、なんて言われたらとか。
ぐるぐると思考だけ回り、俺自身は一歩も動けてなくて。
“こいつからも言わねぇし⋯”
何も求められないというのは、やはり友達の延長なのかと思うと少し思考が暗くなる。
そんな日々に訪れた『夜のお誘い』は。
「ま、そうだよな⋯」
思わずはぁ、と小さくため息を吐くが、それでもこういう時に声をかける相手が俺だと思うと気分も良くて。
「?で、ダメなのか?」
「いや、行くよ。飯は?」
「よっしゃ、飯は俺んちで!泊まりでいいだろ?」
「と⋯っ!?お、おぉ、わかったわ」
一瞬で跳ねる心臓を少し怨めしく思いつつ、他意がない事はわかりきっているのでなるべく自然に見えるように俺は了承した。
そして、夜。
「お邪魔します」
「おー!上がって上がって!」
「これ母さんから。渡したいんだけどご両親は?」
「あれ、言ってなかったっけ、今日二人ともいないんだよ」
「⋯⋯⋯え?」
「だからまぁ、お前誘ったんだけど」
「誘ったってのは⋯」
“ま、まさか⋯”
「今日はホラー大会な!」
「ん、知ってた」
簡単に期待する自分を殴りたくなりつつ促されるままベッド横の座椅子に座る。
すぐ隣に腰掛けたそいつを見ないようにしつつ心霊番組を観始めた。
「ーーうわっ」
小さく声を漏らし俺の腕にしがみつく恋人は正直言って可愛すぎて。
“あーーー、これが生殺しってやつか?”
なんて内心頭を抱える。
全く頭に入らない心霊番組に苦笑しながら、これ以上意識して理性を飛ばさないようにあやふやな般若心経を唱えてみた。
「や、やめて!?なんかいんの!?なぁ!」
「え、俺口に出してた?」
「ほんっと怖いんだけど!?」
うっかり口から出てたらしい般若心経は恐怖心をめちゃくちゃ煽ってしまったらしく、腕にしがみついていたはずなのに気付けば胴体にまとわりつくように抱き締められていて。
「ちょ、おま、それはやめろ、流石にまずいから」
「え、何が!?何かいんの!?」
「そうじゃなくて!だから俺の⋯っ」
“理性がヤバイ!!”
なんとか剥がそうと絡み付く腕に手を伸ばすが思った以上に強い力で抱き締められていて剥がれない。
“嬉しい、嬉しいのは間違いないんだが⋯!”
期待するのが心だけなら良かったのだが、しっかり体も期待してしまって。
反応してしまう下半身に俺は頭を抱えるしかなかった。
「その、それ⋯。」
「え、あ、あぁ、その、これは生理現象っていうか」
「俺でそうなったんだよな」
「その、ま、まぁ⋯」
“ヤバイ、引かれたか!?”
なんて焦り変な汗が背中を伝う。
そんな俺に重ねられた言葉は。
「ーーー、手、出さねぇの?」
「は?」
一瞬何を言われたかわからずぽかんとそいつを見ると、俺の下半身から顔を無理やり背ける頬が赤らんでいて。
「俺達付き合ってんだろ?なのにお前キスすらしてこねぇし⋯」
「え、しても、いいのか?」
胸が痛いほど跳ねる。
いつもなら期待するなと必死に押し込める感情を、今だけはーーーーとりあえず保留にして。
「拒否らねぇなら、する、けど⋯」
あんなに剥がれなかった腕が、いとも簡単に剥がれ少し上目遣いの恋人と目が合って。
“い、いいのか、いいのか!?”
混乱しつつも、このチャンスを逃すべきではないと両肩をそっと手で掴む。
ギリギリで拒否されるかもしれない可能性を考慮して、恐る恐る顔を近付けてーーー⋯
「⋯ふっ」
「っ!」
小さく噴き出されビクッと肩が跳ねる。
「な、なん⋯」
「悪い、めちゃくちゃ震えてるからなんか面白くなっちまってーー⋯」
「な!!!」
“こちとら中学から拗らせてるんだぞ!ファーストキスなんだぞ!!”
という主張はダサすぎるので内心に留めつつも、それでも抗議の意味を込めて彼の方を見た時だった。
ーーーちゅ。
それは少し掠めるだけの、それでも確かな口付けで。
「ーーーっ!」
「ははっ、焦れったくてつい」
「つ、ついってお前ーー⋯」
嬉しくてなのか恥ずかしくてなのかわからないが、もう隠しようもないくらい跳ねる胸と赤い顔をした俺を可笑しそうに見た彼は、ニヤッと笑い爆弾を落とした。
「夜はまだまだ、だな?」
恋愛は惚れた方が負けっていうけれど。
“まじで一生勝てねぇ気がする⋯”
俺はこっそり喜びを噛み締めながら、気付かれないようにそっと降伏宣言をするのだった。
付き合ってる人からそんな事を言われて期待しない男なんていない訳で。
“けど、コイツに限ってはない、よな⋯?”
ごくりと鳴りそうになる喉を必死に堪えた俺は、平静を装って確認する。
「なんかあんの?」
「見たい心霊番組あるんだよな」
「あーーー、そうだよな、うん」
“だよな、わかってた!”
期待した俺は悪くない、と必死に自分を慰めた。
腐れ縁で中学からの同級生。
ずっと片想いしていて、拗らせていた自覚だってある。
このまま高校も卒業するんだろうな、なんて考えていた高3の夏、お互いの進路が違う事を知った。
『俺、就職するつもりなんだ』
大学でもつるむんだろうと漠然と考えていたからこその彼の一言にいいしれない焦燥感を感じて。
“俺はたいして何も考えてなかったのに、その間にコイツはしっかり自分の人生設計を立てていたのか”と、気付き焦ったのだと思う。
『俺、お前の事好きなんだけど』
なんの脈略もなく突発的に溢れ出たその想いは、一瞬ぽかんと目を見開いた後に顔を背けられて。
『あー、うん、俺も』
なんて言葉で受け止められた。
友達として側にいれるだけでいいなんて、そんな事を思っていたハズが気付けば力一杯抱き締めていて。
『痛いって、ばーか』
なんて笑うそいつに、潤んだ瞳を見られたくなかった俺は更に力を込めて抱き締めていたーーーーのは、もう4ヶ月前だ。
“腐れ縁の拗らせ方やっべぇ”
と自分でも思うほど、『恋人』という特別な響きで満足してしまった俺は未だにキスすら出来なくて。
やっぱり女よりも硬いだろう唇とか体とか。
男はやっぱ無理だ、なんて言われたらとか。
ぐるぐると思考だけ回り、俺自身は一歩も動けてなくて。
“こいつからも言わねぇし⋯”
何も求められないというのは、やはり友達の延長なのかと思うと少し思考が暗くなる。
そんな日々に訪れた『夜のお誘い』は。
「ま、そうだよな⋯」
思わずはぁ、と小さくため息を吐くが、それでもこういう時に声をかける相手が俺だと思うと気分も良くて。
「?で、ダメなのか?」
「いや、行くよ。飯は?」
「よっしゃ、飯は俺んちで!泊まりでいいだろ?」
「と⋯っ!?お、おぉ、わかったわ」
一瞬で跳ねる心臓を少し怨めしく思いつつ、他意がない事はわかりきっているのでなるべく自然に見えるように俺は了承した。
そして、夜。
「お邪魔します」
「おー!上がって上がって!」
「これ母さんから。渡したいんだけどご両親は?」
「あれ、言ってなかったっけ、今日二人ともいないんだよ」
「⋯⋯⋯え?」
「だからまぁ、お前誘ったんだけど」
「誘ったってのは⋯」
“ま、まさか⋯”
「今日はホラー大会な!」
「ん、知ってた」
簡単に期待する自分を殴りたくなりつつ促されるままベッド横の座椅子に座る。
すぐ隣に腰掛けたそいつを見ないようにしつつ心霊番組を観始めた。
「ーーうわっ」
小さく声を漏らし俺の腕にしがみつく恋人は正直言って可愛すぎて。
“あーーー、これが生殺しってやつか?”
なんて内心頭を抱える。
全く頭に入らない心霊番組に苦笑しながら、これ以上意識して理性を飛ばさないようにあやふやな般若心経を唱えてみた。
「や、やめて!?なんかいんの!?なぁ!」
「え、俺口に出してた?」
「ほんっと怖いんだけど!?」
うっかり口から出てたらしい般若心経は恐怖心をめちゃくちゃ煽ってしまったらしく、腕にしがみついていたはずなのに気付けば胴体にまとわりつくように抱き締められていて。
「ちょ、おま、それはやめろ、流石にまずいから」
「え、何が!?何かいんの!?」
「そうじゃなくて!だから俺の⋯っ」
“理性がヤバイ!!”
なんとか剥がそうと絡み付く腕に手を伸ばすが思った以上に強い力で抱き締められていて剥がれない。
“嬉しい、嬉しいのは間違いないんだが⋯!”
期待するのが心だけなら良かったのだが、しっかり体も期待してしまって。
反応してしまう下半身に俺は頭を抱えるしかなかった。
「その、それ⋯。」
「え、あ、あぁ、その、これは生理現象っていうか」
「俺でそうなったんだよな」
「その、ま、まぁ⋯」
“ヤバイ、引かれたか!?”
なんて焦り変な汗が背中を伝う。
そんな俺に重ねられた言葉は。
「ーーー、手、出さねぇの?」
「は?」
一瞬何を言われたかわからずぽかんとそいつを見ると、俺の下半身から顔を無理やり背ける頬が赤らんでいて。
「俺達付き合ってんだろ?なのにお前キスすらしてこねぇし⋯」
「え、しても、いいのか?」
胸が痛いほど跳ねる。
いつもなら期待するなと必死に押し込める感情を、今だけはーーーーとりあえず保留にして。
「拒否らねぇなら、する、けど⋯」
あんなに剥がれなかった腕が、いとも簡単に剥がれ少し上目遣いの恋人と目が合って。
“い、いいのか、いいのか!?”
混乱しつつも、このチャンスを逃すべきではないと両肩をそっと手で掴む。
ギリギリで拒否されるかもしれない可能性を考慮して、恐る恐る顔を近付けてーーー⋯
「⋯ふっ」
「っ!」
小さく噴き出されビクッと肩が跳ねる。
「な、なん⋯」
「悪い、めちゃくちゃ震えてるからなんか面白くなっちまってーー⋯」
「な!!!」
“こちとら中学から拗らせてるんだぞ!ファーストキスなんだぞ!!”
という主張はダサすぎるので内心に留めつつも、それでも抗議の意味を込めて彼の方を見た時だった。
ーーーちゅ。
それは少し掠めるだけの、それでも確かな口付けで。
「ーーーっ!」
「ははっ、焦れったくてつい」
「つ、ついってお前ーー⋯」
嬉しくてなのか恥ずかしくてなのかわからないが、もう隠しようもないくらい跳ねる胸と赤い顔をした俺を可笑しそうに見た彼は、ニヤッと笑い爆弾を落とした。
「夜はまだまだ、だな?」
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