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欲しいのはボタンじゃなくて未来なので

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「今日で俺達も卒業か」
なんて感傷に浸っているのか、いつもよりしんみりとした笑いを漏らす君の隣で俺も窓から外を眺める。

「3年あっという間だったよな」
「高校生活に悔いはないが、誰からもボタンくれって言われなかったのは残念だ」
「俺もって言って欲しいのか?ここ男子校だからな?」

何言ってんだよ、と笑い飛ばす。

“俺の気も知らないで⋯”

欲しいといえばくれるのか?
くれって言った後も友達でいてくれる?


心の中で質問をするが口には出さない。
ーーきっと、口に出した瞬間終わるから。



なんて、笑い飛ばしたはずなのにしょんぼりしてしまった俺は、『卒業』という喜ばしくもありしんみりしてしまうイベントのせいだとそう結論付けてそのまま俯いていた。

「なんだよ、お前まで凹むなよ」
「凹んでねぇよ、卒業だからだって。他意はねぇし」
「んー⋯そか。」


案の定騙されてくれたそいつは、いきなりブチッと自分のブレザーのボタンを外すと突然差し出されて。

「⋯は?」
「卒業だからさ、ほら、やるよ」
「あ、え⋯?なん⋯で?」
「お前のも渡せ、交換しようぜ」

交換しようと言われて慌てて自分のボタンに手をかける。
しかし動揺しているからか、なかなか千切れてくれなくて。


「⋯俺がやっていいか?」

そっと伸ばされる手にドキッとした。

“卒業する思い出にって事⋯なんだよな?”

突然自分の身に起きたミラクルに鼓動が早くなる。
絶対手の届かないと思っていた片思いの相手が、自分の服のボタンに手をかけているのだ。

“こんなの、俺⋯”

卒業したからってもう会えなくなる訳じゃない。
それでも、毎日のようには会えなくなる訳で。

“こいつは普通に女の子大好きだし、でも、だけど⋯”

脈があるかも、なんて思った訳じゃない。
でも少しくらいなら言ってもいいのでは、なんて思ったのは確かで。


「ほら、取れた。んじゃお前のは俺が貰うな」

お前はこっち、と渡されたそいつの第二ボタンを握る手に力が入る。


「ー⋯う、嬉しい、その⋯ほんとは欲しかった、から⋯」

それが俺の精一杯だった。
告白ではないけれど、それでも。

“俺の気持ちが、伝わりませんように”

これからも友達ではいたい、なんて都合良すぎる俺はきっとただ臆病なだけなのだ。


「ははっ、なんだそれ」

軽快に笑い飛ばされ、俺も「それな」なんて笑い飛ばす。


ーーどうか俺の笑顔がひきつってませんように。

そう願いながら。


“もし俺がこんなに臆病じゃなかったら”
これからの俺達を、その関係を変えられたのだろうか。


「帰るか」
「そうだな」
「クラスの集まり何時からだっけ」
「16時つってたぞ、着替えて駅集合ってさ」
「制服着れるの今日が最後なのにか?」
「制服だと夜まで騒げないからだろ」
「あーね」


他愛ない会話。
この距離以上に近付けなくても、それでもこの距離でいれるならー⋯


「卒業したかったんだけどなぁ」


ボソリと言われた言葉が理解できず、思わずキョトンとしてしまう。

「⋯は?今日しただろ、卒業」
「まぁ、学校はなー」

訳のわからないそいつの言葉に、何故か胸が痛いほど跳ねた。

「それって⋯その、どういう⋯」
「さぁ、今日はこれだけで満足しとくわ」

しれっとした表情で見せられるのは俺のボタンで。


「は?それ⋯ほんとどういう⋯」

まさか。そう思う気持ちと、もしかして?という小さな期待。

「じゃ、16時にな!」
「あ、あぁ⋯」

平然と教室を出ていくそいつの首が少し赤く染まって見えたのは、俺が期待したからなのか。




この関係の卒業まで、もしかしたら、もう少しー⋯
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