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トイレはいつから戦場になったのか
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男子トイレの構造に対してそこまで意識したことなんてなかったというのが、今までの俺の正直な感想だ。
いや、ーーだった、だ。
横を向けば隣り合った相手のが見える。
それが?って感じ。
音が聞こえる、聞かれる。
はぁ、って感じ。
女子トイレとかにある音姫とか使うやついんの?とか思ってたし。
けど、今ならわかる⋯
男子トイレ。これ、やっっばいわ!!!
“くぁ、絶対、絶対隣を見るな俺!無だ、無になり最短で全てを絞り出してすぐにここから脱出だ⋯っ”
なんて、内心焦りまくるのも仕方ない。
部署が違うせいでチラッと遠くから眺めるだけだった気になる相手と、まさかトイレで会うとか想定外過ぎたのだ。
しかも!隣!!
ごくりと生唾を呑みそうになって、トイレしながら生唾呑むなんて変態過ぎると必死に堪えた。
生唾は堪えられた、のだが。
「経理部って階違うのに⋯」
「は?」
心の声は堪えきれずに漏れてたようで。
ハッとした時にはもう遅く、相手が怪訝な返事をした後だった。
「あーー、その、悪い。経理部の階のトイレにその⋯な。ちょっと虫がいて⋯」
「ぅえっ!あ、虫が!!あー、それはその、怖いですね!?」
“虫が怖くて下の階のトイレに来たってことか!?可愛いな!?”
なんてテンパった頭で考えつつ、そもそも誰がどの階のトイレを使うかは自由な訳で。
「ていうか!別に好きなだけここで用を足して貰えれば俺は嬉しいって言うか!」
「えっ、嬉しいの?」
「えぇっ!?うれ、う、嬉しくないです!」
「あ、やっぱ嫌⋯?自分の階に帰れってこと?」
「ここでトイレしてください!!」
“お、俺は何を言ってるんだぁぁ⋯!”
訳がわからない発言を連発し頭を抱える。
なんだよ、ここでトイレしてくださいって。
だからどこでトイレするのも本人の自由な訳で!!!
焦りすぎてもう自分が何を言ってるのかわからない。
とにかく挙動不審になっているという事しかわからない。
これじゃ変態か⋯なんて思い内心必死に涙を堪えていると。
「つか、長くない?凄い我慢してた?」
なんてひょい、と⋯
「のっ、覗かないで貰えますかねっ!?」
「あ、ごめん、俺なんかに覗かれて気持ち悪いよね⋯」
「気持ち悪いとか言ってませんけどぉ!!」
「え、気持ちいいの?」
「もっと言ってないわ!!」
しゅん、としたと思ったらニヤッと笑われる。
完全に遊ばれているとわかっていてもどうしようもなくて⋯
“くそ、これが惚れた弱みってやつか?いや、つかこれ相手がただ何枚も上手なだけの気もするがっ!!”
葛藤する心の声を、今度はもう漏らす訳にはいかないと必死に口をつぐみつつ、いそいそとチャックを上げる。
敵前逃亡?知るか!
逃げるが勝ちとも言うんだよっ!
とにかく俺はこれ以上格好悪いところを見られまいとそそくさとトイレから出ようとし⋯
「あ、ゴキ⋯」
無意識に言ってしまい、ハッとして慌てて彼の方を振り向いたのだが。
「あー、最近多いなぁ」
なんてチラッと虫を見たかと思ったら、「またね」なんてにこりと微笑み俺の横を過ぎて階段を上っていった。
そんな彼の微笑みを近距離で浴びて“いや、顔が良い⋯”なんて感想しか出なかった俺は、彼が『虫がいたからこの階のトイレまで来た』のに『目の前に出た虫を平然とスルーした』という矛盾に何の疑問も持てなくて。
「また経理部の階のトイレに虫出ねぇかな⋯」
なんて、アホな一人言を呟くのだった。
いや、ーーだった、だ。
横を向けば隣り合った相手のが見える。
それが?って感じ。
音が聞こえる、聞かれる。
はぁ、って感じ。
女子トイレとかにある音姫とか使うやついんの?とか思ってたし。
けど、今ならわかる⋯
男子トイレ。これ、やっっばいわ!!!
“くぁ、絶対、絶対隣を見るな俺!無だ、無になり最短で全てを絞り出してすぐにここから脱出だ⋯っ”
なんて、内心焦りまくるのも仕方ない。
部署が違うせいでチラッと遠くから眺めるだけだった気になる相手と、まさかトイレで会うとか想定外過ぎたのだ。
しかも!隣!!
ごくりと生唾を呑みそうになって、トイレしながら生唾呑むなんて変態過ぎると必死に堪えた。
生唾は堪えられた、のだが。
「経理部って階違うのに⋯」
「は?」
心の声は堪えきれずに漏れてたようで。
ハッとした時にはもう遅く、相手が怪訝な返事をした後だった。
「あーー、その、悪い。経理部の階のトイレにその⋯な。ちょっと虫がいて⋯」
「ぅえっ!あ、虫が!!あー、それはその、怖いですね!?」
“虫が怖くて下の階のトイレに来たってことか!?可愛いな!?”
なんてテンパった頭で考えつつ、そもそも誰がどの階のトイレを使うかは自由な訳で。
「ていうか!別に好きなだけここで用を足して貰えれば俺は嬉しいって言うか!」
「えっ、嬉しいの?」
「えぇっ!?うれ、う、嬉しくないです!」
「あ、やっぱ嫌⋯?自分の階に帰れってこと?」
「ここでトイレしてください!!」
“お、俺は何を言ってるんだぁぁ⋯!”
訳がわからない発言を連発し頭を抱える。
なんだよ、ここでトイレしてくださいって。
だからどこでトイレするのも本人の自由な訳で!!!
焦りすぎてもう自分が何を言ってるのかわからない。
とにかく挙動不審になっているという事しかわからない。
これじゃ変態か⋯なんて思い内心必死に涙を堪えていると。
「つか、長くない?凄い我慢してた?」
なんてひょい、と⋯
「のっ、覗かないで貰えますかねっ!?」
「あ、ごめん、俺なんかに覗かれて気持ち悪いよね⋯」
「気持ち悪いとか言ってませんけどぉ!!」
「え、気持ちいいの?」
「もっと言ってないわ!!」
しゅん、としたと思ったらニヤッと笑われる。
完全に遊ばれているとわかっていてもどうしようもなくて⋯
“くそ、これが惚れた弱みってやつか?いや、つかこれ相手がただ何枚も上手なだけの気もするがっ!!”
葛藤する心の声を、今度はもう漏らす訳にはいかないと必死に口をつぐみつつ、いそいそとチャックを上げる。
敵前逃亡?知るか!
逃げるが勝ちとも言うんだよっ!
とにかく俺はこれ以上格好悪いところを見られまいとそそくさとトイレから出ようとし⋯
「あ、ゴキ⋯」
無意識に言ってしまい、ハッとして慌てて彼の方を振り向いたのだが。
「あー、最近多いなぁ」
なんてチラッと虫を見たかと思ったら、「またね」なんてにこりと微笑み俺の横を過ぎて階段を上っていった。
そんな彼の微笑みを近距離で浴びて“いや、顔が良い⋯”なんて感想しか出なかった俺は、彼が『虫がいたからこの階のトイレまで来た』のに『目の前に出た虫を平然とスルーした』という矛盾に何の疑問も持てなくて。
「また経理部の階のトイレに虫出ねぇかな⋯」
なんて、アホな一人言を呟くのだった。
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