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残業時間をキミと一緒に。
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「疲れた⋯」
まだ月曜日、いや、月曜日だからこそなのだろうか。
新しい週が始まるとはつまり、また休みまでが長い仕事漬けの一週間が始まるという訳で。
“月曜日から元気でいられるのって、新入社員だけだよなぁ⋯”
なんて考え自然とため息を吐いた。
「なんだ、まだ月曜日だぞ?」
「いや、月曜日ですが23時ですよ、普通にしんどいですね」
「で、どれが残ってるんだ」
「あー⋯、いや、本当に大丈夫なんで」
実際問題終電まであと1時間弱。
手伝って貰えるならば手伝って貰うべきだというのはわかっているのだが、今日の残業は自分のミスのせいで。
“というか、他の誰でもなくこの人にだけは見られたくなかったというか⋯”
格好悪い部分を見られた気まずさから思わず視線を外す。
そんな俺の様子に気付いた先輩は小さく苦笑を漏らして。
「仕方ない奴だなぁ」
と、そのまま事務室を出ていった。
一人になった事務室はなんだかさっきより暗く感じる。
それでもこれ以上先輩に頼りない姿を見られるよりはマシだと思い直し、再びパソコンに向かった時だった。
「ほら、戻ったぞ」
「は!?いや、帰れよ!」
「先輩に帰れはないだろ~」
突然また開いたドアに動揺しつつ、反射的に怒鳴るように返事してしまうが全く気にしていない様子の先輩は。
「てか、体が辛いの俺の方だと思わない?」
「うっ」
なんてニッと笑みまで向けてきて。
「次の日仕事だってのに誰かが夜遅くまで無茶するからさぁ」
「⋯ここ、職場なんですけど」
「別に俺は誰か、としか言ってないしナニを、とも言ってないけど?」
「うぅう」
“だから嫌だったんだよ!”
と心の中で頭を抱えてももう遅い。
どうせ全てお見通しのこの人に誤魔化す意味なんてなく。
「あーあーそうですよ!仕方ないでしょ、先週は先輩出張で久しぶりの休日デートですよ!名残惜しくてねっ!夜遅くまで付き合わせて無茶さしてすみませんでしたぁ!!」
なんて開き直った俺に、ふはっと小さく吹き出した先輩の大きな手のひらがポン、と頭に乗せられた。
「ま、つまりお前が寝不足でミスしたのは恋人である俺の責任でもある訳だ」
「そ⋯れは、違うと思いますけど。俺のミスは俺の責任ですし⋯」
「気に入らないか?んー、じゃあ、まぁ後輩のミスは先輩のミスってことでどうだ?」
「どうだって言われても⋯」
口ごもる俺を無視してそのまま隣に座った先輩は、サッと俺から半分以上の書類を取って。
「っ、あ!ちょ、それは俺の⋯」
「今から二人でやれば終電間に合うだろ?」
「それは⋯」
そうだけど。と納得しかけてすぐにハッとする。
「いや!先輩の方の終電って俺より早かったですよね!?本当にいいんで!⋯って、へ?」
慌てて回収された書類を取り返そうと手を伸ばした俺に渡されたのは書類ではなく。
「シャツ⋯?」
「コンビニって何でも売っててすごいよな。これで明日の仕事着もバッチリだ」
「え、それって⋯」
「ほら、さっさと終わらせて帰ろう、もちろん泊めてくれるんだろ?」
思わずポカンと目を見開く俺を少し可笑しそうに笑った先輩は。
「十分頑張ってる後輩を助けるのは先輩の役目だし」
「⋯はい」
「それに、十分頑張ってる恋人を労うのは恋人の特権だしな」
なんて再び向けられた笑みに、思わず顔が熱くなる。
この人には本当に敵わない、と俯きつつも頬が弛むのを止められなくて。
「⋯頑張ります」
「期待してます」
仕事でも、プライベートでも。
何でもスマートにこなすこの人を誰よりも甘やかせるように。
ー⋯それはまだまだ未熟な俺の、いつかの約束。
まだ月曜日、いや、月曜日だからこそなのだろうか。
新しい週が始まるとはつまり、また休みまでが長い仕事漬けの一週間が始まるという訳で。
“月曜日から元気でいられるのって、新入社員だけだよなぁ⋯”
なんて考え自然とため息を吐いた。
「なんだ、まだ月曜日だぞ?」
「いや、月曜日ですが23時ですよ、普通にしんどいですね」
「で、どれが残ってるんだ」
「あー⋯、いや、本当に大丈夫なんで」
実際問題終電まであと1時間弱。
手伝って貰えるならば手伝って貰うべきだというのはわかっているのだが、今日の残業は自分のミスのせいで。
“というか、他の誰でもなくこの人にだけは見られたくなかったというか⋯”
格好悪い部分を見られた気まずさから思わず視線を外す。
そんな俺の様子に気付いた先輩は小さく苦笑を漏らして。
「仕方ない奴だなぁ」
と、そのまま事務室を出ていった。
一人になった事務室はなんだかさっきより暗く感じる。
それでもこれ以上先輩に頼りない姿を見られるよりはマシだと思い直し、再びパソコンに向かった時だった。
「ほら、戻ったぞ」
「は!?いや、帰れよ!」
「先輩に帰れはないだろ~」
突然また開いたドアに動揺しつつ、反射的に怒鳴るように返事してしまうが全く気にしていない様子の先輩は。
「てか、体が辛いの俺の方だと思わない?」
「うっ」
なんてニッと笑みまで向けてきて。
「次の日仕事だってのに誰かが夜遅くまで無茶するからさぁ」
「⋯ここ、職場なんですけど」
「別に俺は誰か、としか言ってないしナニを、とも言ってないけど?」
「うぅう」
“だから嫌だったんだよ!”
と心の中で頭を抱えてももう遅い。
どうせ全てお見通しのこの人に誤魔化す意味なんてなく。
「あーあーそうですよ!仕方ないでしょ、先週は先輩出張で久しぶりの休日デートですよ!名残惜しくてねっ!夜遅くまで付き合わせて無茶さしてすみませんでしたぁ!!」
なんて開き直った俺に、ふはっと小さく吹き出した先輩の大きな手のひらがポン、と頭に乗せられた。
「ま、つまりお前が寝不足でミスしたのは恋人である俺の責任でもある訳だ」
「そ⋯れは、違うと思いますけど。俺のミスは俺の責任ですし⋯」
「気に入らないか?んー、じゃあ、まぁ後輩のミスは先輩のミスってことでどうだ?」
「どうだって言われても⋯」
口ごもる俺を無視してそのまま隣に座った先輩は、サッと俺から半分以上の書類を取って。
「っ、あ!ちょ、それは俺の⋯」
「今から二人でやれば終電間に合うだろ?」
「それは⋯」
そうだけど。と納得しかけてすぐにハッとする。
「いや!先輩の方の終電って俺より早かったですよね!?本当にいいんで!⋯って、へ?」
慌てて回収された書類を取り返そうと手を伸ばした俺に渡されたのは書類ではなく。
「シャツ⋯?」
「コンビニって何でも売っててすごいよな。これで明日の仕事着もバッチリだ」
「え、それって⋯」
「ほら、さっさと終わらせて帰ろう、もちろん泊めてくれるんだろ?」
思わずポカンと目を見開く俺を少し可笑しそうに笑った先輩は。
「十分頑張ってる後輩を助けるのは先輩の役目だし」
「⋯はい」
「それに、十分頑張ってる恋人を労うのは恋人の特権だしな」
なんて再び向けられた笑みに、思わず顔が熱くなる。
この人には本当に敵わない、と俯きつつも頬が弛むのを止められなくて。
「⋯頑張ります」
「期待してます」
仕事でも、プライベートでも。
何でもスマートにこなすこの人を誰よりも甘やかせるように。
ー⋯それはまだまだ未熟な俺の、いつかの約束。
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