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最終章・勇者レベル、???
45.存在しない、存在※
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「存在していない?」
私の言葉が理解出来なかったらしいフランとベルザックが顔を見合わせる。
アベルも首を傾げていて。
「多分、聖女の願いで存在を消したんだと思う」
一度だけ、莫大な魔力を代償に召喚者だけが使える奇跡の力。
彼はその力を無意識に発動し、そして願ったのだろう。
「大事な人を守れなかった自分はいらない」
自分に対するその願いは、同時に自分を許せないという思いも拾ってしまって。
「自分を消し、でも憎悪の対象として存在してる」
魔王の顔がもやがかって判別できないのは、きっと消えたいと願ったから。
個として消えたのにはずなのに今も目の前にいるのは、彼自身に呪う相手が必要だったから。
「本人は消え、けれど同時に呪われた存在として残ってしまったんだと思う」
生きる屍のようになった彼は、自身の願いに蝕まれ寿命を迎えることもなくただただ存在し続けている。
自分すらも『壊して』しまった彼はこの世界の理から外れ、だからこそ次の召喚が成立するようになったのだと思った。
“アルジャーノン、が本当の名前なのかな”
お墓の下に彼女は眠っていない。
だから、練り上げた私の魔力で彼女が生き返ったなんてことはあり得ない。
「フラン、剣、貸して」
「え?」
戸惑うフランの返事を待たずに、私はフランの剣を握る。
自分の特注竹刀よりもずっと重い剣はかなり扱い辛かったが、それでも構わなかった。
“さっきの女性の声が、本物のコルネリアさんの声なら良かったんだけど”
断片的に流れ込んだ彼の記憶から彼女のことを拾い、練り上げた私の魔力がそれを再現しただけだ。
だってここは現実で、そして私は出がらし聖女だから。
凄い奇跡を起こすことすらもう出来ない私は、けれどこの世界と、自分と、そして自分の大事な人たちのために全てを終わらせなくてはならない。
「私たち、そっくりだね」
召喚されたこと。
不要とされたこと。
大事な人が出来たこと。
「私たち、正反対だね」
秘密裏に気遣われていたこと。
捨てられていないこと。
大事な人が生きていること。
もし彼が召喚されたのが今だったら、受け入れられたのかもしれない。
もし私が召喚されたのがその時だったら、処分しようとされていたかもしれない。
少しの歯車のズレで機械が動かなくなるように、何か一つでも違っていれば、私が魔王と呼ばれるような存在になっていただろう。
私の作り出した偶像を求める魔王……いや、アルジャーノンはゆっくりと自身が作ったお墓へと近付く。
そんなアルジャーノンの腕を引いた私は、彼に剣を見せた。
「もう、終わっていい」
アルジャーノンは答えない。
「もう、責めなくていい」
アルジャーノンは答えない。
「もう、解放されていい」
アルジャーノンは答えないが、ゆっくりとお墓に背を向け私の方へと向き直った。
「貴方は自身に罰を与え続けました。もう罪は償われたのです。聖女として、貴方に安らぎを。そして勇者として、魔王に終わりを」
流れ込んできたアルジャーノンの感情の殆どは、コルネリアさんを求め一人を怖がるものだったから。
彼女の元へ行きたいと、切実に願うものだったから。
私が何をしようとしているのか察したアルジャーノンは、大人しく目の前にしゃがみ込む。
「……おやすみなさい」
この考えが正しいのかはわからなかった。
この行動が正解なのかもわからなかった。
けれど私は、剣を高く上げその首めがけて一気に振り下ろし――――
「死後の世界ってあるのかな」
「さぁ。あればいいなとは、思うけど」
「ん、私も」
異世界があるならば、死後の世界もあればいい。
そうすればきっとアルジャーノンは待っていてくれるだろうコルネリアさんの元へいけるだろう。
「私、間違ってなかったかな」
私が剣を振り下ろした時、アルジャーノンの魔法は発動しなかった。
それは彼が受け入れてくれからかもしれないし、ただもう疲れていただけなのかもしれない。
その答えは、もう知ることはないけれど。
アルジャーノンの遺体は残らなかった。
彼の願いで存在が破壊されていたからか、あの顔を覆っていたようなもやのように体ごとふわりと消えたからだ。
せめて、と彼が作った彼の妻の十字架にAlgernonとナイフで名前を刻む。
気持ちだけでも彼女の側にいれることを祈りながら。
「この世界に悪はいると思う?」
ぼんやりお墓を見ながら口に出す。
「誰に対しての悪かによるんじゃないか」
「そっか」
この国にとって悪とされていた魔王だって、魔王からすれば家族を、そして思い出の家を守りたいだけだったのかもしれない。
もしかすれば、彼を召喚しそして処理する事を決定した偉い人にだって、彼らには彼らなりの正義があったのかもしれない。
「この世界に、魔王なんていなかったね」
いたのは魔王と呼ばれただけの、家族を喪い悲しんでいただけの哀しき人。
「この事は、どう伝えられるおつもりですか?」
後ろに立っていたベルザックにそう聞かれ、隣のフランを見上げるが、フランは何も言わず頷くだけ。
“私に委ねてくれてるのかな”
思えば最初はあんなに仲が悪かったのに、親しくなったものだと笑いが込み上げる。
それと同時に堪らなく泣きたくもなった。
「……魔王はいたって報告する。討伐したけど、浄化は必要。だから聖女以外立入禁止にする」
ただ討伐したと報告すれば、必ず国の手が入る。
けれど私は、誰にも彼とコルネリアさんの思い出の場所に足を踏み入れて欲しくないと思いそう答えた。
フランとアベルは賛成してくれるだろうとは思ったが、ベルザックはあくまでも国側の人間。
監視ではなかったとしても、王様からの命令でこちらに派遣されているだけの彼は、私のその判断に反対するかと思ったのだが。
「魔王が死んだからと言って魔物が消える訳ではないですからな。聖女様が浄化に来られる時には護衛としてお供いたしましょう、片手に剣と、そして花を持って」
「ムキゴリラ……」
平和とは誰から見た平和なのだろうか。
私たちの立つこの平和は、誰かの不幸で成り立っているかもしれないのに。
その答えはきっと出ないけれど、その答えを見つける為にも事実を知るこのメンバーでお墓参りに来ようとそう心に決めたのだった。
私の言葉が理解出来なかったらしいフランとベルザックが顔を見合わせる。
アベルも首を傾げていて。
「多分、聖女の願いで存在を消したんだと思う」
一度だけ、莫大な魔力を代償に召喚者だけが使える奇跡の力。
彼はその力を無意識に発動し、そして願ったのだろう。
「大事な人を守れなかった自分はいらない」
自分に対するその願いは、同時に自分を許せないという思いも拾ってしまって。
「自分を消し、でも憎悪の対象として存在してる」
魔王の顔がもやがかって判別できないのは、きっと消えたいと願ったから。
個として消えたのにはずなのに今も目の前にいるのは、彼自身に呪う相手が必要だったから。
「本人は消え、けれど同時に呪われた存在として残ってしまったんだと思う」
生きる屍のようになった彼は、自身の願いに蝕まれ寿命を迎えることもなくただただ存在し続けている。
自分すらも『壊して』しまった彼はこの世界の理から外れ、だからこそ次の召喚が成立するようになったのだと思った。
“アルジャーノン、が本当の名前なのかな”
お墓の下に彼女は眠っていない。
だから、練り上げた私の魔力で彼女が生き返ったなんてことはあり得ない。
「フラン、剣、貸して」
「え?」
戸惑うフランの返事を待たずに、私はフランの剣を握る。
自分の特注竹刀よりもずっと重い剣はかなり扱い辛かったが、それでも構わなかった。
“さっきの女性の声が、本物のコルネリアさんの声なら良かったんだけど”
断片的に流れ込んだ彼の記憶から彼女のことを拾い、練り上げた私の魔力がそれを再現しただけだ。
だってここは現実で、そして私は出がらし聖女だから。
凄い奇跡を起こすことすらもう出来ない私は、けれどこの世界と、自分と、そして自分の大事な人たちのために全てを終わらせなくてはならない。
「私たち、そっくりだね」
召喚されたこと。
不要とされたこと。
大事な人が出来たこと。
「私たち、正反対だね」
秘密裏に気遣われていたこと。
捨てられていないこと。
大事な人が生きていること。
もし彼が召喚されたのが今だったら、受け入れられたのかもしれない。
もし私が召喚されたのがその時だったら、処分しようとされていたかもしれない。
少しの歯車のズレで機械が動かなくなるように、何か一つでも違っていれば、私が魔王と呼ばれるような存在になっていただろう。
私の作り出した偶像を求める魔王……いや、アルジャーノンはゆっくりと自身が作ったお墓へと近付く。
そんなアルジャーノンの腕を引いた私は、彼に剣を見せた。
「もう、終わっていい」
アルジャーノンは答えない。
「もう、責めなくていい」
アルジャーノンは答えない。
「もう、解放されていい」
アルジャーノンは答えないが、ゆっくりとお墓に背を向け私の方へと向き直った。
「貴方は自身に罰を与え続けました。もう罪は償われたのです。聖女として、貴方に安らぎを。そして勇者として、魔王に終わりを」
流れ込んできたアルジャーノンの感情の殆どは、コルネリアさんを求め一人を怖がるものだったから。
彼女の元へ行きたいと、切実に願うものだったから。
私が何をしようとしているのか察したアルジャーノンは、大人しく目の前にしゃがみ込む。
「……おやすみなさい」
この考えが正しいのかはわからなかった。
この行動が正解なのかもわからなかった。
けれど私は、剣を高く上げその首めがけて一気に振り下ろし――――
「死後の世界ってあるのかな」
「さぁ。あればいいなとは、思うけど」
「ん、私も」
異世界があるならば、死後の世界もあればいい。
そうすればきっとアルジャーノンは待っていてくれるだろうコルネリアさんの元へいけるだろう。
「私、間違ってなかったかな」
私が剣を振り下ろした時、アルジャーノンの魔法は発動しなかった。
それは彼が受け入れてくれからかもしれないし、ただもう疲れていただけなのかもしれない。
その答えは、もう知ることはないけれど。
アルジャーノンの遺体は残らなかった。
彼の願いで存在が破壊されていたからか、あの顔を覆っていたようなもやのように体ごとふわりと消えたからだ。
せめて、と彼が作った彼の妻の十字架にAlgernonとナイフで名前を刻む。
気持ちだけでも彼女の側にいれることを祈りながら。
「この世界に悪はいると思う?」
ぼんやりお墓を見ながら口に出す。
「誰に対しての悪かによるんじゃないか」
「そっか」
この国にとって悪とされていた魔王だって、魔王からすれば家族を、そして思い出の家を守りたいだけだったのかもしれない。
もしかすれば、彼を召喚しそして処理する事を決定した偉い人にだって、彼らには彼らなりの正義があったのかもしれない。
「この世界に、魔王なんていなかったね」
いたのは魔王と呼ばれただけの、家族を喪い悲しんでいただけの哀しき人。
「この事は、どう伝えられるおつもりですか?」
後ろに立っていたベルザックにそう聞かれ、隣のフランを見上げるが、フランは何も言わず頷くだけ。
“私に委ねてくれてるのかな”
思えば最初はあんなに仲が悪かったのに、親しくなったものだと笑いが込み上げる。
それと同時に堪らなく泣きたくもなった。
「……魔王はいたって報告する。討伐したけど、浄化は必要。だから聖女以外立入禁止にする」
ただ討伐したと報告すれば、必ず国の手が入る。
けれど私は、誰にも彼とコルネリアさんの思い出の場所に足を踏み入れて欲しくないと思いそう答えた。
フランとアベルは賛成してくれるだろうとは思ったが、ベルザックはあくまでも国側の人間。
監視ではなかったとしても、王様からの命令でこちらに派遣されているだけの彼は、私のその判断に反対するかと思ったのだが。
「魔王が死んだからと言って魔物が消える訳ではないですからな。聖女様が浄化に来られる時には護衛としてお供いたしましょう、片手に剣と、そして花を持って」
「ムキゴリラ……」
平和とは誰から見た平和なのだろうか。
私たちの立つこの平和は、誰かの不幸で成り立っているかもしれないのに。
その答えはきっと出ないけれど、その答えを見つける為にも事実を知るこのメンバーでお墓参りに来ようとそう心に決めたのだった。
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