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第二章・聖女レベル、ぜろ
17.ここからがスタート、と思った時がはじめ時
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「忘れ物ない?」
「問題ない」
「食料足りる?」
「大丈夫だ」
「ね、椅子とかいるかな?」
「それはいらん」
はじめて近場に討伐へ出た時とは違い、荷物を何度も見ながら隣に立つフランに確認する。
“食料はオッケー、寝床は簡易テントがあるし、買い込めるだけ買い込んだ薬草や包帯などの治療道具も鞄にいれたし”
しっかり今日という日を想定して準備した荷物を見渡した私は、より一層気合いを入れて騎士団のみんなへと向き直った。
「慣れない部分で迷惑かけたらごめん!他にも迷惑かけたらごめん!けどみんなで世界救っちゃおー!!」
まるで体育祭当日にかけるようなテンションで言った私が右手をグッと上げると、すっかり私のこのテンションに慣れたのか騎士のみんなも頷きながら右手を上げてくれた。
………………フラン以外は。
「ちょっと、私の方がずっと団長っぽいことやってんだけど?」
「俺はまだ反対してるからな」
「まだ納得してないの!?この往生際悪男め!」
「誰のためだと思ってんだよ浅はかアホ聖女!」
いつもの調子で言い合うとこれもやはり見慣れた光景なのか、集まっていた騎士たちしれっと解散しそれぞれの荷物を鞄に入れる。
こんな土壇場にきてまでまだ往生際悪く討伐にいい顔をしないフランに私は少し苛立った。
「あのね、心配してくれるのは嬉しいけど何度も説明したでしょ?」
「あぁ、だがやはり危険すぎるだろ」
「じゃあこのままの世界でいいってこと?」
「そんなことは、言ってないが……」
エリート集団である近衛騎士団が王都を、そして討伐の要である第一騎士団から第三騎士団は要請のあった各領地に討伐へ出ており、応援が必要な場所や、騎士団内でも上位である第三までの騎士団が出る必要まではない小型の魔物などは第四、第五騎士団員が討伐に出ていた。
新設であり新人が多数所属している第六騎士団は、そもそもの所属人数が少ないことと出がらし聖女である私がいることから、他の騎士団からの応援要請などは来ず、遊撃隊のような扱いになっている。
それでも、 魔物からの襲撃は確実に増えていて。
「このままじゃまずいんじゃない?というか、まずいと思ったから聖女召喚なんてしたんでしょ?」
魔物が現れるのは、魔王が住むとされている暗い森の奥。
他の地域でも全く見ないというわけではないらしいが、ほとんどの魔物はその森から現れるらしくて。
“そしてその暗い森があるのが、私を召喚したこの国の隣なのよね”
他の地域ではあまり見ないというこの状況は、つまり自国を脅かされていない他国からの応援は来ないということでもあって。
自国内で解決しなくてはならないということでもあった。
“他国が動くとしたら、私を召喚したこの国からの要請を受けるか魔物の被害が他国に出たとき……”
国同士の関係性などはわからないが、流石の私も他国がタダで要請を受けてくれないだろうということはわかる。
国として独立している以上、他国を下手に頼ってしまえば大きな借りを作ることになったり、属国扱いになったりする可能性すらあることも理解していた。
“それから……”
他国に被害が出て軍事介入がある場合。
それはつまり、この国が魔物によって滅亡したという世界線――――……
「そんなの、ダメでしょ」
溢すように呟いたその決意は、確かにフランにも伝わったようだった。
“フランだってわかってる”
聖女召喚なんてものをしなくてはならないほど、この国が切迫しているということを。
なのに反対する、その理由。
「人数はこれぐらいがいいでしょ?」
「……ッ!」
にっとフランに笑顔を向けると、苦しそうにフランが顔を歪める。
「本来聖女が討伐に出るときは……」
「魔法師と騎士が周りを固めて守るのよね」
魔法を使える人間はほんの一握り。
その一握りのほとんどは魔法師として王宮魔法師団に勤め、そしてまさにこのような状況の時に集結し聖女を守るのだというが。
“結局第六騎士団へ魔法師の派遣はなかったな”
それは私が聖女として認められてないからか。
それとも力及ばず死ぬのをスムーズにする為なのかはわからないけれど。
「フランは気にしすぎなのよ」
性格的にも、騎士団長という立場的にもこの状況でフランが反対するのは当たり前なのだろう。
「私、一人じゃないじゃん」
ここにはトーマやライザ、アベルといった第六騎士団のメンバーがいて。
そして隣にはフランがいるから。
「私が暴走しそうなときはフランが止めてくれるんでしょ?」
「あぁ」
「私が危ないときはフランが守ってくれるんでしょ?」
「あぁ」
にこりと微笑みながらフランを見ると、やはり彼はまだ苦々しい表情をしていたが。
「私と一緒に、戦ってくれるんでしょ?」
「あー、もう、わかったよ!どーせ止まらないもんな、この暴走聖女!」
「そうこなくっちゃ!」
私の言葉を聞きやけくそのようにそう返事したフランは、ガリガリと頭をかきながら持っていく予定の荷物のもとへ向かう。
そんな彼の背中を追いかけながら、これからやっとはじまる出がらし聖女改め勇者への第一歩に、そしてその歩みを彼らと共に目指せることに、私は胸を高鳴らせたのだった。
「問題ない」
「食料足りる?」
「大丈夫だ」
「ね、椅子とかいるかな?」
「それはいらん」
はじめて近場に討伐へ出た時とは違い、荷物を何度も見ながら隣に立つフランに確認する。
“食料はオッケー、寝床は簡易テントがあるし、買い込めるだけ買い込んだ薬草や包帯などの治療道具も鞄にいれたし”
しっかり今日という日を想定して準備した荷物を見渡した私は、より一層気合いを入れて騎士団のみんなへと向き直った。
「慣れない部分で迷惑かけたらごめん!他にも迷惑かけたらごめん!けどみんなで世界救っちゃおー!!」
まるで体育祭当日にかけるようなテンションで言った私が右手をグッと上げると、すっかり私のこのテンションに慣れたのか騎士のみんなも頷きながら右手を上げてくれた。
………………フラン以外は。
「ちょっと、私の方がずっと団長っぽいことやってんだけど?」
「俺はまだ反対してるからな」
「まだ納得してないの!?この往生際悪男め!」
「誰のためだと思ってんだよ浅はかアホ聖女!」
いつもの調子で言い合うとこれもやはり見慣れた光景なのか、集まっていた騎士たちしれっと解散しそれぞれの荷物を鞄に入れる。
こんな土壇場にきてまでまだ往生際悪く討伐にいい顔をしないフランに私は少し苛立った。
「あのね、心配してくれるのは嬉しいけど何度も説明したでしょ?」
「あぁ、だがやはり危険すぎるだろ」
「じゃあこのままの世界でいいってこと?」
「そんなことは、言ってないが……」
エリート集団である近衛騎士団が王都を、そして討伐の要である第一騎士団から第三騎士団は要請のあった各領地に討伐へ出ており、応援が必要な場所や、騎士団内でも上位である第三までの騎士団が出る必要まではない小型の魔物などは第四、第五騎士団員が討伐に出ていた。
新設であり新人が多数所属している第六騎士団は、そもそもの所属人数が少ないことと出がらし聖女である私がいることから、他の騎士団からの応援要請などは来ず、遊撃隊のような扱いになっている。
それでも、 魔物からの襲撃は確実に増えていて。
「このままじゃまずいんじゃない?というか、まずいと思ったから聖女召喚なんてしたんでしょ?」
魔物が現れるのは、魔王が住むとされている暗い森の奥。
他の地域でも全く見ないというわけではないらしいが、ほとんどの魔物はその森から現れるらしくて。
“そしてその暗い森があるのが、私を召喚したこの国の隣なのよね”
他の地域ではあまり見ないというこの状況は、つまり自国を脅かされていない他国からの応援は来ないということでもあって。
自国内で解決しなくてはならないということでもあった。
“他国が動くとしたら、私を召喚したこの国からの要請を受けるか魔物の被害が他国に出たとき……”
国同士の関係性などはわからないが、流石の私も他国がタダで要請を受けてくれないだろうということはわかる。
国として独立している以上、他国を下手に頼ってしまえば大きな借りを作ることになったり、属国扱いになったりする可能性すらあることも理解していた。
“それから……”
他国に被害が出て軍事介入がある場合。
それはつまり、この国が魔物によって滅亡したという世界線――――……
「そんなの、ダメでしょ」
溢すように呟いたその決意は、確かにフランにも伝わったようだった。
“フランだってわかってる”
聖女召喚なんてものをしなくてはならないほど、この国が切迫しているということを。
なのに反対する、その理由。
「人数はこれぐらいがいいでしょ?」
「……ッ!」
にっとフランに笑顔を向けると、苦しそうにフランが顔を歪める。
「本来聖女が討伐に出るときは……」
「魔法師と騎士が周りを固めて守るのよね」
魔法を使える人間はほんの一握り。
その一握りのほとんどは魔法師として王宮魔法師団に勤め、そしてまさにこのような状況の時に集結し聖女を守るのだというが。
“結局第六騎士団へ魔法師の派遣はなかったな”
それは私が聖女として認められてないからか。
それとも力及ばず死ぬのをスムーズにする為なのかはわからないけれど。
「フランは気にしすぎなのよ」
性格的にも、騎士団長という立場的にもこの状況でフランが反対するのは当たり前なのだろう。
「私、一人じゃないじゃん」
ここにはトーマやライザ、アベルといった第六騎士団のメンバーがいて。
そして隣にはフランがいるから。
「私が暴走しそうなときはフランが止めてくれるんでしょ?」
「あぁ」
「私が危ないときはフランが守ってくれるんでしょ?」
「あぁ」
にこりと微笑みながらフランを見ると、やはり彼はまだ苦々しい表情をしていたが。
「私と一緒に、戦ってくれるんでしょ?」
「あー、もう、わかったよ!どーせ止まらないもんな、この暴走聖女!」
「そうこなくっちゃ!」
私の言葉を聞きやけくそのようにそう返事したフランは、ガリガリと頭をかきながら持っていく予定の荷物のもとへ向かう。
そんな彼の背中を追いかけながら、これからやっとはじまる出がらし聖女改め勇者への第一歩に、そしてその歩みを彼らと共に目指せることに、私は胸を高鳴らせたのだった。
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