【R18】暴走系ヒロインは偽装婚約した騎士団長を振り回しながら聖女ではなく勇者を目指す

春瀬湖子

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第二章・聖女レベル、ぜろ

14.人間には二種類いる。酒が飲める者と飲めない者だ。

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「さてさて皆さぁん!お疲れ様っしたぁ!!」
「いえぇぇい!」

 初めての討伐は近場だったお陰で日帰り出来て。
 
 帰ってすぐ呼び出しなんてハプニングはあったが、あっさり終わった上についでに討伐報告も済ませられたので、結果的に見ればそれも時短に繋がった。

 それに軍資金までゲットしたとあれば、これはもうパーティーするしかない!と、トーマお勧めの小さな酒屋を貸し切って現在打ち上げパーティーを提案すると、第六騎士団全員が参加を表明してくれた。

“私もちゃんと第六騎士団の仲間って認められてるみたいで嬉しいかも”

 不安要素が無くなったお陰もあり、テンションが上がった私はうきうきと周りを見渡す。
 こじんまりとしたお店だが、オレンジっぽい証明と木で出来た内装がなんだか居心地がよく、隠れ家みたいだなんて思った。


「今日は私の奢りだから!これからもよろしくってことで、かんぱぁーいっ!!」

 元気にグラス……ではなく木で出来たようなコップを掲げると、それに習い騎士たちも腕を上げてくれた。

 
「でも、いいんですか……?第六騎士団は他の騎士団より人数は少ないですが、それでも聖女様含めて10人近くいるんですよ」
「アベルったら!大丈夫大丈夫、私今ちょっとした小金持ちだし、あとまだまだ稼げる見込みあるから安心して」

 ですが、とそれでも戸惑うアベルに飲み物を注ぐ。

「いいっていいって、ほら飲め飲め~!」
「ひゃわゎ、聖女さまぁ!」
「おいリッカ、お前まさか酒を……」
「流石に最低限のルールは守ってるわよ!」

 この世界の成人は16歳らしく、15歳のアベルは未成年。
 そんな彼に無理やりお酒を飲ませるなんて真似はしないし、店側もそこら辺はちゃんと配慮してくれているのか、よくお酒大好きな組と未成年やあまりお酒を飲まない組とで席を分けてくれていた。


「フランはあっちじゃなくていいの?」
「リッカが行くならついていくが」
「え、ヒヨコ?」
「なんでだよ!親鳥の後を付いて回ってるんじゃない、心配してるんだ!」

 つーか誰が親鳥だ、むしろ逆だ、なんてぶつぶつ言いながら私の隣に腰を下ろしたフランが、目の前のコップの飲み物を一気飲みする。

「……あ、それ私のお酒」
「え、うわ、悪い……って、酒!?」
「私成人してるもん」

“まだ一口しか飲んでなかったのに!”

 まぁ、また頼めばいいんだけど、と飲まれてしまい空になったコップを覗きながら考えていると、突然フランが机をバンッと両手のひらで叩く。

「え、な、なに……?」
「俺はさぁ、心配してるんだって」
「は?それはさっき聞いたけど」
「だってお前突然こんな世界に呼び出されて、なのにこんな、こんな、こんな仕打ちされて……っ」

“ま、まさか”

 明らかにフランの様子がおかしく、思わずごくりと唾を呑む。

「だから俺が、せめて幸せにするしか……っ」
「あーー!そういう義務感いらないし私はちょっと楽しんでるし変な責任感もいらないから!」
「うはっ、え、団長飲んじゃったんですか?一口で酔うのに?」

 なんだか巻き込み事故で私まで恥ずかしい思いをしそうな流れを察し、慌ててフランの声を遮る。
 そんな私たちに気付いたトーマがケラケラと笑いながら言った言葉を聞いて唖然とした。
 
“フランがこっちの席だった理由は私のためじゃなくて普通に弱いからじゃん!”


「あーあーあー!もう!ちょ、ちょっと風に当たりに行こ!」
「でも俺に出来るのはさぁ」
「早く!!」

 何か言いそうなフランの腕を掴んだ私が立たせるように無理やり引っ張ると、顔を真っ赤にしたフランが少しふらつきながら立ち上がる。
 そのまま二人で酒屋を出ると、ありがたいことにすぐ近くにベンチがあった。


「ちょっと、平気?水とか貰って来ようか?」
「いや、いい……」
「寝てもいいけど吐かないでよ?」
「吐かない……」

 並んで座ると、私の体に体重を預けるようにもたれるフラン。
 普段は絶対しないだろう行動に、その肩の重みに胸が跳ねた。

“酔っぱらいの行動だから!”

 こんなことでいちいち動揺する自分を少し悔しく感じつつ、そっと横目でフランの様子を窺ってみる。


 頬を掠める彼の柔らかなアッシュベージュの髪がくすぐったい。
 
「寝た?」
「いや、寝てない」
「気分は悪くない?」
「んー……」

 少しうとうとしているらしいフラン。
 穏やかな時間を過ごしながら、会話とは言えないような言葉を交わしていると、突然フランに手を握られた。

 
「……殺させ、ないから……」
「へっ!?ふ、フラン?」
「……俺が、守るから」
「守るって、何から?」

 唐突に言われた言葉に驚き聞き返してみるが、微睡んだままのフランから返事はない。

 
“討伐帰りだし、普通に考えたら魔物からかな”


 騎士団長という立場の彼は、騎士の命を預かる身。
 責任感も強い彼ならば、その言葉が自然と出るのも納得だけれど。

“私も、フランの中の守る対象に入ってるんだ”

 彼からも仲間だと認められたという実感が、なんだか胸を熱くする。
 私企画のこの打ち上げに皆が参加してくれた時も、認められたようで嬉しいと感じたのに、相手がフランだと思うと一際嬉しく感じて戸惑った。

「ま、まぁあんなに態度悪男だったんだもん、野良猫が懐いてくれたような嬉しさっていうか……とにかくそんな感じだし」

 
 自分に言い訳するように口に出した私は、ある疑問がふと浮かんだ。 

 
“そんなフランを誰が守るんだろ”

 先輩騎士?もしくはもっと上の立場の人?
――――それとも、聖女?


“でも、その聖女は私じゃないか”

 出がらしになった聖女にどこまで出来るのか。
  
「でも、私はフランの仲間だもんね」

 最初は押し付けられただけでも、今は一緒に戦う仲間になったのは間違いなくて。


「聖女としてじゃなく、仲間として私が守ってあげなきゃね」

 ふふ、と小さく笑った私も少しだけフランの方に体重をかける。
 私の肩に乗せられた彼の頭にもたれるように自身の頭を委ねると、お酒を飲みそびれたというのになんだか酔っ払ったようなふわりとした気分になった。


“やば、私もちょっと眠いかも”

 はじめての討伐でやはり緊張していたのだろうか。
 呼び出された国のトップとの場も、思ったより精神を疲弊したのかもしれない。
 
 体にかけられた重みと触れたところから伝わる体温が心地よくて、気付けば私も眠ってしまったのだった。



 
 あの後様子を見に来てくれたライザに起こされた私は、トーマにフランを任せてお会計し部屋に戻る。 
 
 夜風にあたっていたが思ったより短時間だったのと、フランの体温のお陰で風邪を引かなかった私は、その翌日約束通り彼と町に買い物に来たのだが。
 

「…………頭が痛い」
「一杯飲んだだけであんなに酔えて、しかも二日酔いにまでなるなんてフランってばアルコール耐性ゼロ男じゃない」
「……すまん、返事する元気が……」
「ちょ、大丈夫!?魔法かけてみようか?」
「いい、いいから……、頭に響くからゆっくり、ゆっくり話してくれ……」

 完全に二日酔いのフランは真っ青になっていた。

 
“こんな状態なら無理して来なきゃ良かったのに”

 確かに町へ付き合って欲しいとはお願いしたが、だからって体調不良でも来て欲しかった訳ではもちろんなくて。

「私一人でもなんとかなるけど」
「いや、お前には重いだろ」

 言いながらカチャンと取り出したのは褒賞で貰った宝剣だった。


「でもこれ、実用的じゃないぞ?護衛に持たせるならもっと他のやつの方が……」
「あ、それ今から売るのよ」
「はぁっ!?…………ッ、痛……っ」

 さらっと告げた私の言葉に驚いたフランが声をあげ、その自分の声が頭に響いたらしく痛みを堪えるように額に手を当てる。


 そう、今日の目的地は攻略本を売ったあの店である。
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