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3.もう遅くとも
しおりを挟む「ミステリーが好きなんですか?」
「特にこれが好きっていうのはあまりないですね。恋愛ものも読むし、ファンタジーも読むし。雑食です」
そう言って笑うと、侑李が声を出して笑った。
「雑食ですか」
「変ですか?」
「いいえ。いいと思います」
「小鳥遊さんは……」
さっきから自分のことばかり話してしまった。もっと彼のことも知りたい、と切り出そうとした奈月を、侑李がやんわりと制した。
「名前で呼んでください、奈月さん」
「あ……はい……」
微笑まれ、奈月は少し逡巡する。彼は目上の人だ。取引先の副社長だとか、そういうことを抜きにしても、年上の人を気軽に下の名前で呼んで良いものだろうか。だが、奈月を見つめるブルーの瞳は、名前で呼ばれるのを待っている。
「じゃあ、侑李、さん……私からも、一ついいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「敬語じゃなくていいです。私の方が年下ですし」
年下の自分が敬語を使うのは当たり前だと思っている。だが、年上の彼に敬語を使われるのは何だか居た堪れない。すると、少し考えた素振りを見せた侑李は、にっこりと笑って奈月を見た。
「では、お互いに敬語もなしにしましょう」
「え?」
まさか自分もだとは思わず、奈月は素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女を見る侑李の視線は、どこか悪戯めいていた。
「年は関係なく、対等でいましょう。もちろん、プライベートでは」
「っ……」
「いいかな、奈月さん?」
ニッコリ微笑む侑李に、なんだかしてやられた気分になる。だが、提案したのは奈月だ。そこに自分を含めたつもりはなかったけれど、彼が求めるなら応じる他ない。
「わかり……わかった」
言い直した奈月に、侑李は心底嬉しそうな顔になる。その顔を見ただけで、いろんな考えが霧散するのは惚れた弱みだろうか。
「特にこれが好きっていうのはあまりないですね。恋愛ものも読むし、ファンタジーも読むし。雑食です」
そう言って笑うと、侑李が声を出して笑った。
「雑食ですか」
「変ですか?」
「いいえ。いいと思います」
「小鳥遊さんは……」
さっきから自分のことばかり話してしまった。もっと彼のことも知りたい、と切り出そうとした奈月を、侑李がやんわりと制した。
「名前で呼んでください、奈月さん」
「あ……はい……」
微笑まれ、奈月は少し逡巡する。彼は目上の人だ。取引先の副社長だとか、そういうことを抜きにしても、年上の人を気軽に下の名前で呼んで良いものだろうか。だが、奈月を見つめるブルーの瞳は、名前で呼ばれるのを待っている。
「じゃあ、侑李、さん……私からも、一ついいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「敬語じゃなくていいです。私の方が年下ですし」
年下の自分が敬語を使うのは当たり前だと思っている。だが、年上の彼に敬語を使われるのは何だか居た堪れない。すると、少し考えた素振りを見せた侑李は、にっこりと笑って奈月を見た。
「では、お互いに敬語もなしにしましょう」
「え?」
まさか自分もだとは思わず、奈月は素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女を見る侑李の視線は、どこか悪戯めいていた。
「年は関係なく、対等でいましょう。もちろん、プライベートでは」
「っ……」
「いいかな、奈月さん?」
ニッコリ微笑む侑李に、なんだかしてやられた気分になる。だが、提案したのは奈月だ。そこに自分を含めたつもりはなかったけれど、彼が求めるなら応じる他ない。
「わかり……わかった」
言い直した奈月に、侑李は心底嬉しそうな顔になる。その顔を見ただけで、いろんな考えが霧散するのは惚れた弱みだろうか。
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