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2.その常套句、いただくわ
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コルンの休みに合わせ呼び出したのは町一番の可愛いカフェだ。
ここを選んだ理由はひとつ。決めゼリフをコルンに告げた後の溺愛実感ターンで念願のデザート一口食べさせあいっこを実行する為である。
“心にもないことを言うけど許してねコルン! 今まで以上に私の想いをぶつけるから!”
これから待っているラブラブな未来に口角が緩みそうになるのを堪えつつ待っていると、少し遅れてコルンが店内へと入ってくる。
「申し訳ありません、お待たせしましたか」
「全然いいのよ、コルン。それでその、今日私は貴方に、その、つたっ、伝えたいことがあって、えっと、来たの!」
緊張で若干しどろもどろになりつつ話し出すと、余りにも私が噛むからか彼の表情が怪訝なものへと変わる。
“でもそんな表情も格好いいわ!”
「体調が悪いなら今日は――」
この難関を乗り越えればまだ見ぬラブラブハッピーエンド。
その想いに背中を押されるように、私を心配してくれるコルンの声をぶったぎって私は大きく息を吸い口を開いた。
「私ッ、貴方を愛するつもりはないの!!」
「……はい?」
「だっ、だからその、実はコルンのことをそのっ、愛してなかったというか、これからも愛するつもりはないのよ!」
“言ったわ!!”
これで第一関門はクリアだ。
後は呆然としているだろうコルンに全力で好き好きアピールをかまし溺愛するだけ――……!
「あぁ、どうりで話しにくそうだと思いました」
私の計画では呆然と固まっているはずのコルンが、ふっと息を吐きながらそう口にする。
「この婚約は仕方なかったということですか?」
“いえ、私の熱望です”
「他に愛される方がいらっしゃるのですか?」
“貴方以外カボチャに見えます”
心の中で全力でそう答えながら、だが実際に口にするのはまだ早いと必死に口をつぐむ。
何故ならこれは落として上げるという恋愛テクニックなのだ。
冷静に見えるよう目の前のカップを手に取りゆっくりと口をつける。
余りにも彼に愛を叫ぶことに慣れすぎて、そうやって物理的に口を塞がなければ彼への愛が溢れそうだったからである。
「そうですか、わかりました。いつも心にもない言葉を言わせてしまい申し訳ありません」
「へ?」
そうやって黙っていた私に何か思うところがあったのか、コルンから謝罪の言葉を言われ私はぽかんとした。
「ご安心ください。いつでも対応出来るようちゃんと準備はしておりましたので」
「え、……え?」
呆然とさせるはずが私の方が呆然としてしまう。
そんな私の前に差し出された一枚の書類。
その書類の一番上には大きく『婚約破棄合意書』と表記されていた。
「こ、婚約破棄……っ!?」
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃に目を白黒させながらそう叫ぶと、コルンがゆっくりと頷く。
「いつかこうなると思っていました。俺の方はもうサインが済んでおりますので、あとはアリーチェ様のサインをいただければ婚約破棄出来ますよ」
「あ、えっ、えっ、お、お父様のサインまであるのだけれど……」
「はい。事前に頂いておいて良かったです」
“どういうことなの……!?”
理解が出来ない。
婚約破棄?
私が? コルンと?
「そ、そんなっ」
「出来れば侯爵家まで護衛したいところですが、きっと婚約破棄した元婚約者に送られたくはないでしょう。侯爵家へは連絡を入れておきますので、迎えが来るまではごゆっくりなさっていてください」
「あ……、え」
“違うの! そうじゃないの!”
動揺で上手く声が出ない。
今引き留めなければかなりまずいということはわかるのに、喉がカラカラに乾き張り付いてしまっている。
「では失礼いたします」
「待っ」
ペコリと頭を下げたコルンを呆然として見つめる。
背筋を伸ばしたままカフェを出るその姿は彼の指先までもを格好良く見せ、何一つ現実感はなかった。
――ただわかるのは、私の目の前に残された婚約破棄合意書が本物であり、紛れもない現実として私の目の前に残されていることだけである。
ここを選んだ理由はひとつ。決めゼリフをコルンに告げた後の溺愛実感ターンで念願のデザート一口食べさせあいっこを実行する為である。
“心にもないことを言うけど許してねコルン! 今まで以上に私の想いをぶつけるから!”
これから待っているラブラブな未来に口角が緩みそうになるのを堪えつつ待っていると、少し遅れてコルンが店内へと入ってくる。
「申し訳ありません、お待たせしましたか」
「全然いいのよ、コルン。それでその、今日私は貴方に、その、つたっ、伝えたいことがあって、えっと、来たの!」
緊張で若干しどろもどろになりつつ話し出すと、余りにも私が噛むからか彼の表情が怪訝なものへと変わる。
“でもそんな表情も格好いいわ!”
「体調が悪いなら今日は――」
この難関を乗り越えればまだ見ぬラブラブハッピーエンド。
その想いに背中を押されるように、私を心配してくれるコルンの声をぶったぎって私は大きく息を吸い口を開いた。
「私ッ、貴方を愛するつもりはないの!!」
「……はい?」
「だっ、だからその、実はコルンのことをそのっ、愛してなかったというか、これからも愛するつもりはないのよ!」
“言ったわ!!”
これで第一関門はクリアだ。
後は呆然としているだろうコルンに全力で好き好きアピールをかまし溺愛するだけ――……!
「あぁ、どうりで話しにくそうだと思いました」
私の計画では呆然と固まっているはずのコルンが、ふっと息を吐きながらそう口にする。
「この婚約は仕方なかったということですか?」
“いえ、私の熱望です”
「他に愛される方がいらっしゃるのですか?」
“貴方以外カボチャに見えます”
心の中で全力でそう答えながら、だが実際に口にするのはまだ早いと必死に口をつぐむ。
何故ならこれは落として上げるという恋愛テクニックなのだ。
冷静に見えるよう目の前のカップを手に取りゆっくりと口をつける。
余りにも彼に愛を叫ぶことに慣れすぎて、そうやって物理的に口を塞がなければ彼への愛が溢れそうだったからである。
「そうですか、わかりました。いつも心にもない言葉を言わせてしまい申し訳ありません」
「へ?」
そうやって黙っていた私に何か思うところがあったのか、コルンから謝罪の言葉を言われ私はぽかんとした。
「ご安心ください。いつでも対応出来るようちゃんと準備はしておりましたので」
「え、……え?」
呆然とさせるはずが私の方が呆然としてしまう。
そんな私の前に差し出された一枚の書類。
その書類の一番上には大きく『婚約破棄合意書』と表記されていた。
「こ、婚約破棄……っ!?」
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃に目を白黒させながらそう叫ぶと、コルンがゆっくりと頷く。
「いつかこうなると思っていました。俺の方はもうサインが済んでおりますので、あとはアリーチェ様のサインをいただければ婚約破棄出来ますよ」
「あ、えっ、えっ、お、お父様のサインまであるのだけれど……」
「はい。事前に頂いておいて良かったです」
“どういうことなの……!?”
理解が出来ない。
婚約破棄?
私が? コルンと?
「そ、そんなっ」
「出来れば侯爵家まで護衛したいところですが、きっと婚約破棄した元婚約者に送られたくはないでしょう。侯爵家へは連絡を入れておきますので、迎えが来るまではごゆっくりなさっていてください」
「あ……、え」
“違うの! そうじゃないの!”
動揺で上手く声が出ない。
今引き留めなければかなりまずいということはわかるのに、喉がカラカラに乾き張り付いてしまっている。
「では失礼いたします」
「待っ」
ペコリと頭を下げたコルンを呆然として見つめる。
背筋を伸ばしたままカフェを出るその姿は彼の指先までもを格好良く見せ、何一つ現実感はなかった。
――ただわかるのは、私の目の前に残された婚約破棄合意書が本物であり、紛れもない現実として私の目の前に残されていることだけである。
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