勇者として召喚されましたが性別間違えてますのでその結婚はお断りです!

春瀬湖子

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プロローグ:異世界召喚は唐突に

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「玲!あんた大学生なのにまたそんな格好して⋯!!」
「んー、いいじゃん楽なんだから⋯」

部屋に突撃してきた母の小言を聞きながら仕方なくのそのそと起き上がる。
ふと鏡に映るのは、しっかり“高校ジャージ”を着た肩より少し短いショートの自分の姿で。


「⋯うわ、髪の毛伸びたなぁ⋯」

世間的には短い方だろう髪の毛だが、中学高校とバレー部に所属しベリーショートだったせいか大学三回生になった今でもまだ少し違和感があった。


「玲大学は?今日2限からって言ってたでしょう?」
「あ、なんか休講になった」

“まぁ、だから二度寝したんだけど⋯”

流石にこの状況で三度寝は出来ないか、と考え起きる準備をした私を見て母の目がキラめいた。


「あ!じゃあちょっとトイレットペーパー買ってきてよ!」
「え⋯普通に面倒くさいんだけど⋯」
「お母さんだって毎日あんたのお世話面倒くさいわよ」

サックリ言い返され言葉を呑み込む。
きっとここで何を言っても絶対言いくるめられる未来を想像し――


「⋯わかった、行ってくる」
小さくため息を吐いた私は、“そのままの格好”で立ち上がった。


「ちょ、あんた着替えないの!?」
「えー?近所のスーパーでしょ、面倒だしこれでいく」
「寝癖くらい直しなさいな!」
「んー、まぁすぐ重力で直るんじゃないー?」
「もうっ!それでも女子大生なのかしら!?どう見ても中学生男子じゃない」
「それは言い過ぎでしょ」
「そんなことないわよっ!男の子に間違われても知らないからね!?女子トイレで痴漢と間違われてもお母さんに文句言わないでよ」
「はいはい、男子トイレに入りまーす」


母の小言を流しながら財布だけ掴んで部屋を出る。

“むしろ女子大だからこそ今更女らしくなってもなぁ”
なんてサボる言い訳をしながら階段を降りきった私はそのままスーパーに向かった。


平日の昼前という事であまり混んでおらず、すぐにおつかいを終えた私はトイレットペーパーを抱えながら近道をしようと神社の階段を上る。

境内を突っ切ればすぐそこが家の裏で。


「距離はかなり短縮出来るけど階段きっついなぁー」

“引退して3年⋯もうすぐ4年かな?そりゃ体力も落ちるわなぁ⋯”

――なんて、ぼんやりしていたのが悪かったのか。はたまた寝起きだったせいなのか。



「ー⋯え?」

つっかけサンダルがスポッと抜けたせいでバランスを崩した私は、投げ捨てればいいのにトイレットペーパーをしっかり抱えたまま頭から落下した。


“あ、死んだかも――”


神社の階段は石畳。
受け身も取れずに頭を打ち付ける想像をし、ひゅっと内臓が浮いたような不快感に思わず目を瞑る。


あぁ、落ちる瞬間って全てがスローに感じるというのは本当だったのか、なんて事が頭に過る私を襲ったのは、石畳で自分の頭蓋骨が割れる衝撃⋯



⋯では、なく。



「⋯やった!成功だ!!」
「へ⋯?」

眩しいほど真っ白な部屋と、漫画やアニメで見るような神官っぽい人達が抱き合って喜ぶ異様な光景。

そして。



「⋯っ、よ、ようこそいらっしゃいました!勇者様っ!」
「ゆ、勇者⋯?」

私を見て一瞬目を見開き、何かを思案したかのような表情になったかと思ったらすぐに頬を染める。
まるで花が綻ぶような可愛らしい笑顔と聞き捨てならない言葉を言ったのは、まさに物語の『お姫様』だった。
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