とんでも三姉妹の宣言日記

春瀬湖子

文字の大きさ
上 下
7 / 9

1.三女の入れ替わり既成事実宣言

しおりを挟む
リーシェン伯爵家の長女はしっかり者。
リーシェン伯爵家の次女は可憐で麗しく。
リーシェン伯爵家の三女は····問題児。

「ねぇ、なんで私だけ問題児なんだと思う?」
三女のミアがそう声をかけたのは、ミアの護衛騎士であるアルフォンスことアルだ。

「お嬢様がお転婆だからじゃないですかねぇ」
「アイシラ姉さまもユーリ姉も上手くヤったみたいなのよ」
「お嬢様、ヤったではなく、やったと発音ください」
「いや、ほぼ同じ発音だし···」


アイシラとユーリにはそれぞれ婚約者がいたがミアにいないのは、問題児だから···ではなく、次期当主である長女が侯爵家から婿を取り、次女が幼馴染みとは言え同じ伯爵家へ嫁に行く事で家同士が繋ぐべき縁が十分だからでもある。

どこかに有力な子息がいれば話は別だが、わざわざ結婚で結ばなければならないほどの縁もなかったので相手を選ぶ権利がミアに与えられており、縁談を全て断った為に未だにミアには婚約者がいないのだ。
それにミアは···

「二人が幸せなのはとても嬉しいんだけど、そろそろ私も幸せになりたいななんて思っているのよ」
「それはそれは」

チラリのドアの前に立つアルを見て、声をかける。

「アル、中に入る気はないかしら?」
「お嬢様の寝室には1歩も入るつもりはございませんね」
「そこをなんとか、まずは1歩!」
「絶対嫌です」

この不遜な態度の護衛騎士にずっと片想いをしていて。

「アル、私と結婚しない?」
「しません」
「どうしても?」
「どうしても」

そうよねぇ、とため息を吐きながら、手元の封筒を眺めていた。


「これ、何だと思う?」
「お手紙ですね」
「これは婚約の申し込みの手紙なのだけど」

そう伝えた時、ピクッとアルの眉が動いた事に気付く。

「····アルって、私のこと好きよね?」
「大切なお嬢様ですから」
「異性として好きよね?」
「いえ、お嬢様としてですね」
「本当に?」
「本当です」

じっとアルの様子を見ると、そっと視線を外される。
ユーリ姉に一際優しいレント様よりもわかりやすく表情に出るアルは、絶対絶対両想いだと思うんだけど···

どうしたら確信を持てるのか、と考えふと思い付いたのは。

「気持ちがわからないなら体に聞けばいいんだわ!」
「ちょっと待って下さいなんか怖い言葉が聞こえたんですけど!?」
「アルっていつも私を見てるし」
「そりゃお嬢様の専属護衛騎士なんで!」
「でも、休みの日も気遣ってくれてるし、護衛騎士がしないようなフォローもいつもしてくれるじゃない?」
「お嬢様が問題児だからですよっ!」
「それに恋人もずっといないし、私に婚約の申し込みがある度に娼館で買う女性は金髪を1つに纏めた紫の瞳の子で、私にそっくりだったわ!」
「ちょっとヤメテ!なんでそんなこと知ってるんです!?」
「でも私が婚約の申し込みを全部断った後から娼館を利用しなくなったのも知ってる!」
「誰から聞いた!?」

アルと話しながら手に持った婚約の申し込み書を見せつけるようにしてドアに近付く。

わかりやすいくらいに動揺するアルは、やっぱりどう見ても脈アリで···

「コレが今ここにあるということは、今日も誰かを買うのかしら」
「お、お嬢さ···っ」
「買うなら、相手は私にすればいいじゃない?」
「む、無茶言わないで下さいよっ!身分差とか考えたことあります!?俺平民上がりのただの護衛なんですけど!?」

そう叫ぶように告げられてハッとする。

「そんなこと気にしてたの?」
「そんなこと!?」

アルが平民上がりだと言うことはもちろん知っている。
そして努力してここまで上った事もリーシェン伯爵家は誰よりも知っているのだ。
そんなアルだからこそミアはずっと好きだったし、ミアの気持ちはいつもオープンなので伯爵含めた全員が知っていて。

「なんだ!問題ないじゃない!」
「問題しかないわ~~っ!」
あははと笑ったミアに、青ざめて嘆くアル。

「でも気持ちもしっかり確かめ合ったし」
「確かめ合ってませんよね!?」
「でも何かキッカケがないとアルは身を引きそうだから」
「は?ちょ、なんかもうずっと嫌な予感がするんですけどっ」

コホンと咳払いし、真っ直ぐアルを見つめて宣言する。

「既成事実を作りましょう!!」
「このクソ問題児がぁっ!」

半泣きになって後退るアルを無視し、ミアは魔法を発動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私、夫が血迷っちゃっただけの女、だそうなのですが。

夏笆(なつは)
恋愛
男爵令嬢であるマリアは、騎士団の小隊長を務める父が邸に招いた部下で伯爵子息でもある騎士レスターと出会う。 互いにひと目で恋に落ちたふたりは、身分という格差を越え、周りからも祝福されて婚姻を結ぶ。 結婚後も変わらず優しいレスターと幸せな毎日を過ごすマリアだが、閨で感じ過ぎてしまい、レスターに呆れられているようなのが悩みの種。 そしてもうひとつ、街で執拗に睨みつけて来る謎の女性に頭を悩ませていると、その女性がマリアに急接近。 レスターと自分は、マリアとレスターが婚姻する前よりの恋人同士だと宣言する。 レスターと離縁などしたくないマリアは、自分が感じることがなくなればレスターに嫌われることもないと決意。 薬師でもある魔女の元へ行き、不感となる薬を調剤して欲しいと依頼する。 小説家になろうにも掲載。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...