とんでも三姉妹の宣言日記

春瀬湖子

文字の大きさ
上 下
4 / 9

1.次女の媚薬による夜這い宣言

しおりを挟む
「アイシラ姉さまは上手くやったみたいねぇ」
そうぼんやりアイシラの部屋で外を眺めるのはリーシェン伯爵家の次女、ユーリである。

輝く金色がふんわりカーブを描く柔らかそうな髪とアメジストのような紫のたれ目を少し閉じて小さくため息を吐くと、部屋がノックされた。

「アイシラお嬢様、伯爵様がお呼びです」
聞こえてきたのは侍女長の声。

「あら、出番だわ」
スクッと立ち上がりドアを開ける。

「ユーリお嬢様?アイシラお嬢様は···」
「今日は私とお買い物に出ているとお伝えしていただけますか?」
「え?でも···」

少し困った様子の侍女長に、少しずつ魔法を発動する。
“これくらいかしら”

「お願い?」
だめ押しと言わんばかりに小首を傾げると、ポッと赤くなった侍女長がすぐに頭を下げて出ていった。

「これでアリバイ工作は成功ね」

ユーリの使える魔法は『魅了』。
自身の魅力を上げ、相手からの好意を一時的に操る魔法だ。
もちろん相手から元々持たれている好意を底上げするものなので、嫌われている相手に魅了の魔法をかけてもあまり効果は出ない。
逆に侍女長のように元々信頼や好意を持っている相手であれば、少しの魔法でおねだりや我が儘を通して貰えたりするのだが。


「効きすぎると困るから全力で魔法を使った事はないのだけど、もしこれをレントに使ったら···」
そう考えて頭を振る。
強すぎる魅了を発動すると、それは媚薬にも等しい効果が出てしまうからだ。

スーヴェ伯爵家の次男であるレントは幼馴染みでありユーリの婚約者だ。
レントは騎士団に所属しており、魔獣討伐や日々の訓練であまり会えてはいないが家族ぐるみで親しい幼馴染み同士という事もあって仲も悪くないのだが。

「奥手···なのよねぇ」
というか、魅了の魔法が全く効かない。
好かれてないなんて事はないはずなのだが、キスの1つもしたことがなく、それがユーリは不満であった。

大切には、されている。
長期で任務に出る時は遠征先から手紙もくれるし、休みの日にはユーリの行きたいところに連れてってくれる。
騎士団に所属している事もあり自制心が強く魅了を発動しても全く表情を変えないが、それでも婚約者として大事にされていることはわかるのだが。

「もしかして、家族愛であって恋人とは思われてない···?」
「レント様の話?」
「ひゃあっ!ミア!?」

いつの間に、と驚いて振り向くと妹のミアがこちらを不思議そうに眺めていた。

「ユーリ姉の魅了、効かないの?」
「発動してもしなくてもあまり変わらないのよねぇ、態度がいつも丁寧だから···」
「レント様はユーリ姉に特別優しいから、少々魅了しても既に好感度が振りきってるだけなのでは?」
「そうなのかしら···」

確かにその可能性はある。
その可能性はあるが、それでももう少しくらい求めて欲しいと思うのは恋する乙女としては当然の感情で。

「でしたら今晩、私の転移でレント様の部屋にお送りしてあげましょうか?」
「ひゃぁあ!アイシラ姉さま!?」

転移で帰ってきたらしいアイシラを見てドキッとした。
今までも美しい姉ではあったが、色気が溢れ花が色づいたように頬を染めていて。

「こ、コリン様は凄かったのね···」
と思わず口が滑るほどだったのだ。

「でも、ユーリ姉は誰がみても相思相愛じゃない、わざわざ行かなくてもいいんじゃないの?」
「まぁ、それもそうですわね」
なんて二人の会話を聞きながら、アイシラの色気から目が離せない。

“私も、せめてもう少しレントと近付きたい···”
ゴクリと喉を鳴らし、口を開く。

「アイシラ姉さま、転移をお願いしたいですわ」
「あら」
「えっ!?」

ふうっ、と息を吐き決意を込めて二人を見つめる。

「脱・幼馴染みですわ!夜這いをかけて参ります!!!」

そう姉妹に宣言した。
決行日は今夜である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私、夫が血迷っちゃっただけの女、だそうなのですが。

夏笆(なつは)
恋愛
男爵令嬢であるマリアは、騎士団の小隊長を務める父が邸に招いた部下で伯爵子息でもある騎士レスターと出会う。 互いにひと目で恋に落ちたふたりは、身分という格差を越え、周りからも祝福されて婚姻を結ぶ。 結婚後も変わらず優しいレスターと幸せな毎日を過ごすマリアだが、閨で感じ過ぎてしまい、レスターに呆れられているようなのが悩みの種。 そしてもうひとつ、街で執拗に睨みつけて来る謎の女性に頭を悩ませていると、その女性がマリアに急接近。 レスターと自分は、マリアとレスターが婚姻する前よりの恋人同士だと宣言する。 レスターと離縁などしたくないマリアは、自分が感じることがなくなればレスターに嫌われることもないと決意。 薬師でもある魔女の元へ行き、不感となる薬を調剤して欲しいと依頼する。 小説家になろうにも掲載。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...