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1.次女の媚薬による夜這い宣言
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「アイシラ姉さまは上手くやったみたいねぇ」
そうぼんやりアイシラの部屋で外を眺めるのはリーシェン伯爵家の次女、ユーリである。
輝く金色がふんわりカーブを描く柔らかそうな髪とアメジストのような紫のたれ目を少し閉じて小さくため息を吐くと、部屋がノックされた。
「アイシラお嬢様、伯爵様がお呼びです」
聞こえてきたのは侍女長の声。
「あら、出番だわ」
スクッと立ち上がりドアを開ける。
「ユーリお嬢様?アイシラお嬢様は···」
「今日は私とお買い物に出ているとお伝えしていただけますか?」
「え?でも···」
少し困った様子の侍女長に、少しずつ魔法を発動する。
“これくらいかしら”
「お願い?」
だめ押しと言わんばかりに小首を傾げると、ポッと赤くなった侍女長がすぐに頭を下げて出ていった。
「これでアリバイ工作は成功ね」
ユーリの使える魔法は『魅了』。
自身の魅力を上げ、相手からの好意を一時的に操る魔法だ。
もちろん相手から元々持たれている好意を底上げするものなので、嫌われている相手に魅了の魔法をかけてもあまり効果は出ない。
逆に侍女長のように元々信頼や好意を持っている相手であれば、少しの魔法でおねだりや我が儘を通して貰えたりするのだが。
「効きすぎると困るから全力で魔法を使った事はないのだけど、もしこれをレントに使ったら···」
そう考えて頭を振る。
強すぎる魅了を発動すると、それは媚薬にも等しい効果が出てしまうからだ。
スーヴェ伯爵家の次男であるレントは幼馴染みでありユーリの婚約者だ。
レントは騎士団に所属しており、魔獣討伐や日々の訓練であまり会えてはいないが家族ぐるみで親しい幼馴染み同士という事もあって仲も悪くないのだが。
「奥手···なのよねぇ」
というか、魅了の魔法が全く効かない。
好かれてないなんて事はないはずなのだが、キスの1つもしたことがなく、それがユーリは不満であった。
大切には、されている。
長期で任務に出る時は遠征先から手紙もくれるし、休みの日にはユーリの行きたいところに連れてってくれる。
騎士団に所属している事もあり自制心が強く魅了を発動しても全く表情を変えないが、それでも婚約者として大事にされていることはわかるのだが。
「もしかして、家族愛であって恋人とは思われてない···?」
「レント様の話?」
「ひゃあっ!ミア!?」
いつの間に、と驚いて振り向くと妹のミアがこちらを不思議そうに眺めていた。
「ユーリ姉の魅了、効かないの?」
「発動してもしなくてもあまり変わらないのよねぇ、態度がいつも丁寧だから···」
「レント様はユーリ姉に特別優しいから、少々魅了しても既に好感度が振りきってるだけなのでは?」
「そうなのかしら···」
確かにその可能性はある。
その可能性はあるが、それでももう少しくらい求めて欲しいと思うのは恋する乙女としては当然の感情で。
「でしたら今晩、私の転移でレント様の部屋にお送りしてあげましょうか?」
「ひゃぁあ!アイシラ姉さま!?」
転移で帰ってきたらしいアイシラを見てドキッとした。
今までも美しい姉ではあったが、色気が溢れ花が色づいたように頬を染めていて。
「こ、コリン様は凄かったのね···」
と思わず口が滑るほどだったのだ。
「でも、ユーリ姉は誰がみても相思相愛じゃない、わざわざ行かなくてもいいんじゃないの?」
「まぁ、それもそうですわね」
なんて二人の会話を聞きながら、アイシラの色気から目が離せない。
“私も、せめてもう少しレントと近付きたい···”
ゴクリと喉を鳴らし、口を開く。
「アイシラ姉さま、転移をお願いしたいですわ」
「あら」
「えっ!?」
ふうっ、と息を吐き決意を込めて二人を見つめる。
「脱・幼馴染みですわ!夜這いをかけて参ります!!!」
そう姉妹に宣言した。
決行日は今夜である。
そうぼんやりアイシラの部屋で外を眺めるのはリーシェン伯爵家の次女、ユーリである。
輝く金色がふんわりカーブを描く柔らかそうな髪とアメジストのような紫のたれ目を少し閉じて小さくため息を吐くと、部屋がノックされた。
「アイシラお嬢様、伯爵様がお呼びです」
聞こえてきたのは侍女長の声。
「あら、出番だわ」
スクッと立ち上がりドアを開ける。
「ユーリお嬢様?アイシラお嬢様は···」
「今日は私とお買い物に出ているとお伝えしていただけますか?」
「え?でも···」
少し困った様子の侍女長に、少しずつ魔法を発動する。
“これくらいかしら”
「お願い?」
だめ押しと言わんばかりに小首を傾げると、ポッと赤くなった侍女長がすぐに頭を下げて出ていった。
「これでアリバイ工作は成功ね」
ユーリの使える魔法は『魅了』。
自身の魅力を上げ、相手からの好意を一時的に操る魔法だ。
もちろん相手から元々持たれている好意を底上げするものなので、嫌われている相手に魅了の魔法をかけてもあまり効果は出ない。
逆に侍女長のように元々信頼や好意を持っている相手であれば、少しの魔法でおねだりや我が儘を通して貰えたりするのだが。
「効きすぎると困るから全力で魔法を使った事はないのだけど、もしこれをレントに使ったら···」
そう考えて頭を振る。
強すぎる魅了を発動すると、それは媚薬にも等しい効果が出てしまうからだ。
スーヴェ伯爵家の次男であるレントは幼馴染みでありユーリの婚約者だ。
レントは騎士団に所属しており、魔獣討伐や日々の訓練であまり会えてはいないが家族ぐるみで親しい幼馴染み同士という事もあって仲も悪くないのだが。
「奥手···なのよねぇ」
というか、魅了の魔法が全く効かない。
好かれてないなんて事はないはずなのだが、キスの1つもしたことがなく、それがユーリは不満であった。
大切には、されている。
長期で任務に出る時は遠征先から手紙もくれるし、休みの日にはユーリの行きたいところに連れてってくれる。
騎士団に所属している事もあり自制心が強く魅了を発動しても全く表情を変えないが、それでも婚約者として大事にされていることはわかるのだが。
「もしかして、家族愛であって恋人とは思われてない···?」
「レント様の話?」
「ひゃあっ!ミア!?」
いつの間に、と驚いて振り向くと妹のミアがこちらを不思議そうに眺めていた。
「ユーリ姉の魅了、効かないの?」
「発動してもしなくてもあまり変わらないのよねぇ、態度がいつも丁寧だから···」
「レント様はユーリ姉に特別優しいから、少々魅了しても既に好感度が振りきってるだけなのでは?」
「そうなのかしら···」
確かにその可能性はある。
その可能性はあるが、それでももう少しくらい求めて欲しいと思うのは恋する乙女としては当然の感情で。
「でしたら今晩、私の転移でレント様の部屋にお送りしてあげましょうか?」
「ひゃぁあ!アイシラ姉さま!?」
転移で帰ってきたらしいアイシラを見てドキッとした。
今までも美しい姉ではあったが、色気が溢れ花が色づいたように頬を染めていて。
「こ、コリン様は凄かったのね···」
と思わず口が滑るほどだったのだ。
「でも、ユーリ姉は誰がみても相思相愛じゃない、わざわざ行かなくてもいいんじゃないの?」
「まぁ、それもそうですわね」
なんて二人の会話を聞きながら、アイシラの色気から目が離せない。
“私も、せめてもう少しレントと近付きたい···”
ゴクリと喉を鳴らし、口を開く。
「アイシラ姉さま、転移をお願いしたいですわ」
「あら」
「えっ!?」
ふうっ、と息を吐き決意を込めて二人を見つめる。
「脱・幼馴染みですわ!夜這いをかけて参ります!!!」
そう姉妹に宣言した。
決行日は今夜である。
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