とんでも三姉妹の宣言日記

春瀬湖子

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2.長女の悪役令嬢フラグへし折り宣言

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妹達に家とアリバイ工作を任せ、月明かりを見上げる。

「そろそろいいわね···」

そう呟いたアイシラは、アイシラの使える唯一の魔法である『空間転移』を使った。
移動先はもちろん。


「な、え、だ、誰かいるのか!?」
「今晩は、コリン。貴方の婚約者、アイシラです」
「へっ!?アイシラ?」

月明かりに輝く黒曜石の髪に、淡いエメラルドの瞳を目一杯開き驚いていたのは、アイシラの婚約者であるコリンだった。

「え、な、なんで俺の寝室に?」
動揺を隠せずポカンとしているコリンを一瞥する。

「私思ったのです、何故世の悪役令嬢はヒロインに対してアレコレするのかと」
「ご、ごめん何の話···?」
「そもそも悪いのは婚約者がいるのに他の女にうつつを抜かす男ではないのかと!」
「え、凄い指指されてるんだけどまさか俺の話じゃない···よね?」
「そして解決策を持って参りましたわ」

ふふふ、と笑ったアイシラに本能的にマズイと気付いたのかコリンが後退るが、パチンと指を鳴らしてアイシラが陣取っているコリンのベッドにコリンを転移させる。

「えっと、アイシラ、何かしらの誤解があると思うんだが」
「解決策を行使した後にお伺いしましょう」
「あー、じゃあ、何を解決する解決策なのかはわからないけど、とりあえず解決策って何かを聞いていいか?嫌な予感しかしなくて」
「簡単な事です。ヒロインより先に既成事実を作ればいいんですわ!」
「既成事実!?ていうかヒロインって何!?誰のことっ!?」

全く心当たりがない、という表情のコリンを見て少し疑問を持つが、手紙のやり取りもなくデートもほぼしたことのない自分と、男爵家の令嬢と仲睦まじく買い物するところを目撃されているコリンではやはり信じられるのは自分の考えで。

「男爵家の令嬢とデートしていたとの噂、聞いておりますわ」
「·····えっ?」

そう伝えるとカァッと顔を赤くしたコリンを見て一気に頭に血がのぼる。

「私にはデートどころか手紙すらくださったことはないくせに!」
「いや、だってそれは時間が···っ」
「時間がないなんて言い訳は聞きませんわ。だって他の女性とはデートされているんですもの!」

そういっておもむろにコリンの下半身を鷲掴む。

「うわぁ!?ちょっ!」

あら、と思った。
既成事実を作るには勃たせる必要があるが、どうやって勃たせるかが一番の難関だと思っていたのにコリンのソコは既に芯を持っていたからだ。

「どうして?」
「どうしてはこっちのセリフなんだけど!?ていうか、そりゃ、アイシラと二人きりでベッドの上なんかにいたら···そりゃ···」
「まぁ!正直な体ですこと」
「待ってそれ言われるの俺の方なの?泣きそう」

少し項垂れているコリンがなんだか可愛く見えて思わず笑ってしまう。
あまり大きな声で笑ってしまうとコリンを傷つけるかしら?と思ったが、クスクスと笑いが溢れるのを止められなくて。

「····アイシラって笑うと幼く見えるんだね」
「あら、お好みじゃなかったかしら」
「そうじゃなくて。···既成事実、本当に作っていいの?」

淡い緑の瞳が意思をもって射抜いてきて、アイシラは思わず唾を飲み込む。

「え、えぇ。その為に来たんですもの」

そう答えた瞬間、肩を押され仰向けに転がされて。

「脱がすよ?」
そう言うが早いか、素早くアイシラの服を脱がせていくコリン。
その手際が余りにも良くて。

「ま、まさかコリン、もう既に誰かと···?」
まさか男爵令嬢に先を越されたのかしら、と焦る。

「嘘ですわよね?コリン、あなたまさか、まさかですわよね?婚約者である私以外にもう触れたなんてこと····仰らないで、コリン···っ」
動揺したアイシラの瞳が少し潤んだ事に気付いたコリンは、くっと小さく呟いて。

「あぁぁっ、もぉぉっ!」

そのまま脱がす手を止めたコリンがそのままアイシラに覆い被さるようにして顔を埋める。

「こ、コリン?」
「は、はじめてだよ」
「へ?」
「だから、はじめてだって!何度も言わせないでくれないかな、格好つけたいのに!」

そっとコリンの方を向くと耳が真っ赤に染まっていて。

「はじめてだったら、格好つかないんですの?」
「だって、経験豊富な方がいいって聞くし」
「まさかそんな理由で男爵令嬢と!?」
「だからはじめてって言ってるだろ!」

怒鳴るコリンは、照れ隠しだということが丸わかりで怖くなんかなくて。

「コリンがはじめてだったら、嬉しいですわ。その、私も···はじめてですから」

そう伝えそっとコリンの背中に腕を回して抱き締めると。

「····あら?硬いモノが···」
「ご、ごめ、だってアイシラにそんなこと言われたら仕方ないっていうか···!」
「仕方ない?」

うぐ、と言葉を詰めるコリンをじっと見つめる。

「···俺との婚約は正式な物じゃないって知ってる?」
「え?」
「リーシェン伯爵家の婿になる為につけなくちゃいけない知識とか学ぶことが多くて、少しでも早く正式な婚約者になる為にずっと勉強してた。そのせいで寂しい思いさせてたならごめん」
「そ、そうだったのですか···?」
「アイシラに並べるだけの男にならないとって、デートとか···権利ない、から」

つまり、私と結婚する為に勉強してて時間がなかったということ···?
そこまで考え、でも他の女性とデートをしていた事を思い出すが。

「最近流行りのアクセサリーを取り扱ってる商団が男爵家にツテがあって。だからお願いして紹介して貰ってたんだよ。ついでにどういうのが人気かとかも聞いたりして」
「それがデートの正体···ですか?」
「やっとアイシラにプロポーズする許可を伯爵から貰ったから···」

そこまで説明したコリンは顔を赤くしていたが、それ以上にアイシラが真っ赤になっている事に気付いて破顔する。

「そんな顔見せてくれるなんて、俺自惚れていい?」

そう言ってそっと顔を近付けるコリンを見て慌てて目を瞑る。

程なくしてちゅ、と軽く重ねるだけの口付けが落とされた。

「あ、あの、コリン」
「どうしたの?」
「わ、私、帰りますわ···!」
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