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第一章・護衛令嬢、パーティーに出る
7.他に参考資料がなかったならば不可抗力
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譲りに譲って、このお茶会にどうしても来なくてはいけないならそれはもう仕方ない。
参加しよう。
だが、私は『専属護衛』という肩書きを持っている。ならドレスではなく騎士服で参加すれば、ドレスを犠牲にする恐怖に怯えず護衛出来たのではないか、と思ったのだが……
「お、オリアナ御姉様……っ!」
「えっ」
そんな抗議をしている私に突然一人の令嬢が話しかけてきた。
“御姉様?”
弟はいるが、妹はいない。
知らない間に父が養女を迎えた可能性はあるが、私に声をかけてきた令嬢の上腕二頭筋を見て、その薄さからそれもないと判断する。
「ほ、本日はご出席くださりありがとうございます! 私はミネア伯爵家が長女、トリマリです」
「彼女が主宰だよ。一応言っとくと、ここ、ミネア伯爵家の庭園だからね」
「!」
こそっとフレン様が補足した内容にギョッとする。
流石に令嬢として社交界から離れていたとはいえ、招待してくれた相手へ挨拶すらせず席に着き不本意ながらお菓子を貪っているというのは明らかにマナー違反だ。
“フレン様のためにも挽回しなくては!”
今はドレスに身を包んでいるが、本来の私はあくまでも彼の専属護衛騎士。
部下の失態は上司の管理不足になってしまう、と焦りつつ慌てて立ち上がる。
“こういう時、どうやって挽回するんだっけ”
相手を喜ばせつつ、挨拶をする方法。
なるべくスマートで、そして機嫌を取るには――
その時ふと立ち上がった私を見上げるフレン様と目があった。
“そうだ、初対面の時のフレン様は確か……”
「ご招待くださりありがとうございます、ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
そっとトリマリ嬢の前に握手を求めるような角度で右手を差し出すと、反射的に彼女も手を差し出してくれる。
「んっ!? ちょ、オリア――」
その差し出された指先を軽く握った私は、あの時のフレン様がしたみたいにそっと手の甲へ口付けを落とした。
「お会いできて嬉しいな」
「きっ、きゃぁぁぁあ!!!」
今の身分は騎士だが、一応辺境伯家の出である私がガチガチの敬語だと気を遣うだろうと少し言葉を崩したからか。
それともさすがエロマンスの第二王子の真似だったからか。
“ひぇっ”
予想以上に大きな黄色い悲鳴がそこかしこで上がりギョッとする。
「ちょ、トリマリ嬢……」
「はぅあ、耽美……っ」
「た、耽美?」
ただフレン様を真似しただけだった私は、この予想以上の反応にたじたじと狼狽えた。
「ちょ、ど、どうしたらいいと思います?」
「あー、とりあえずその手を離してやれ」
「え、あ、はいっ」
そういえばまだ握っていたな、と慌てて手を離すと、二、三歩後ずさったトリマリ嬢がパチンと指を鳴らす。
するとすぐにメイドが可愛らしいピンクの飲み物を持ってきてくれた。
「ミネア領特産のロゼですの。是非」
「ありがとう」
“ちょっと今の格好良かったな……!”
白グローブをしているのに指パッチンの音が響いたところを見ると相当な練習を積んだはずだ。
何しろ布を介しているのと素手では音を響かせる難易度が格段に変わる。
それを平然とやってのけた彼女に、上腕二頭筋だけで判断しようとした自分を恥じた。
「筋肉は全身にあるのに、私ったら指筋を疎かにしてたな」
「お、おい、変なこと呟くな。なんだ指筋って、俺は聞いたことないぞ……!?」
そっと手渡されたロゼをじっと見る。
透き通ったピンクが、なんだかフレン様の瞳の色を連想してしまい、少し照れ臭くなって。
“さっさと飲んじゃお!”
「あ、待て! それは飲むな、先に俺が中身を確認す……っ」
慌てて制止されるが、時既に遅し。
私はグイッと一気に飲んでしまっていて――
「ッ、?」
その瞬間ぐらりと視界が歪む。
“あ、れ……?”
「くそっ、即効性があるタイプのやつか……!?」
“即効性? なに、なんでそんなに慌てた声を”
隣にいるはずのフレン様の声がやたら遠くに聞こえ、そしてなんだかどんどん遠ざかっていくように感じて。
「ふ、フレン、様……」
「オリアナっ」
そこで私の意識がブツリと途切れた。
「ん……、熱い」
「! オリアナ、気が付いたか!?」
ぼんやりとした視界の先に広がるピンク色。
それが何か気になってつつこうと真っ直ぐ伸ばすと、触れる寸前で手を握られる。
「おい、人の瞳を潰そうとするな」
「!?」
その一言にハッとし一気に覚醒すると、案の定そのピンクの持ち主はフレン様だった。
「なんで!」
「おい、すぐに起き上がるな。気分悪いとかないか?」
「気分は……」
特に、悪くはない。
なんだか熱いが、過酷な気候での戦闘訓練もレリアット家で施されていたので、この程度のポカポカに支障は感じなかった私は、問題ないと言うように素直に頷いた。
「そうか、良かった……」
頷いた私を見て安堵としたらしいフレン様が、ふぅ、と息を吐き私が寝かされていたベッドの横にある椅子にもたれかかる。
銀髪がさらりと揺れ、それを手で押さえたフレン様は、私の方を見て微笑んだ。
――その一連の動作が……、なんか、エロい。
「ッ!?」
“え、な、なに?”
目の前のフレン様はただ少し気怠そうにしただけ。
それなのに何故か熱いと思っていた体がより熱くなる。
その変化に戸惑いながら、けれど騎士たるもの、この程度で主君に不調を訴えるはずもできなくて。
「そっ、それより! お茶会どうなったんですか?」
「うん? オリアナが倒れそうになっていたからな。早々に退散したよ」
「そ、そうなんですかっ、えーっと、どうやって?」
「はぁ? んなの、俺が抱き上げたに決まってるだろ」
「抱き上げた!?」
“筋肉質な私を!?”
言われた内容に驚きつつ、そしてそれ以上に『抱き上げられた』という単語に何故か体がピクリと反応する。
「しかもお姫様抱っこだばーか。しかもその状態で俺の部屋に連れ込まれてっから、明日には城内噂で持ちきりかもな」
「ばかってなんですかッ! というか、ここって」
言われて見渡すと、落ち着いた色合いの寝室は物こそ少ないがどれも質がよく、高級なことが一目でわかる。
そしてここがフレン様の部屋、そして私が寝かされていたのはいつもフレン様が使っているベッド――
――ズクン、と下腹部に一際大きな違和感。
“さ、さっきから何なの……!?”
熱でも出しているのだろうか。
どんどん熱さが増し、冷や汗なのか本当にただの汗なのかわからない雫が額に滲んだ。
「なんてことしてくれ、た……んですかっ、このまま、じゃ、よ、夜の王子様じゃいれませんよっ!」
「残念だったな。俺は昼夜関係なく王子なんだ……てか、なんか様子おかしくないか?」
必死に平静を装ってみるが限界だったのか、軽口を叩いてみても誤魔化せそうになくて。
「おい、オリアナ? やっぱり調子悪いんだな?」
慌ててベッドに腰かけたフレン様が私の顔を覗き込み、座っているのに少し頭をふらつかせた私を支えるように背中に触れた時だった。
「ひゃ、ぁんっ!」
「っ!」
ただ背中に触れられただけ。
それなのにビクビクッと、まるで電流が走ったかのように体を跳ねさせてしまう。
「? あ、え?」
何が起きているのかわからず、混乱していると、ベッドに腰かけたフレン様が大きなため息を吐きながら項垂れた。
「あー、そうか、そっちか」
“な、なに……?”
体に籠る熱が発散出来ず、ぼんやりとして思考がまとまらない。
そんな様子の私を見て再びため息を吐いたフレン様は、いつものどこか飄々とした雰囲気を消し真っ直ぐ射貫くように私と目を合わせた。
参加しよう。
だが、私は『専属護衛』という肩書きを持っている。ならドレスではなく騎士服で参加すれば、ドレスを犠牲にする恐怖に怯えず護衛出来たのではないか、と思ったのだが……
「お、オリアナ御姉様……っ!」
「えっ」
そんな抗議をしている私に突然一人の令嬢が話しかけてきた。
“御姉様?”
弟はいるが、妹はいない。
知らない間に父が養女を迎えた可能性はあるが、私に声をかけてきた令嬢の上腕二頭筋を見て、その薄さからそれもないと判断する。
「ほ、本日はご出席くださりありがとうございます! 私はミネア伯爵家が長女、トリマリです」
「彼女が主宰だよ。一応言っとくと、ここ、ミネア伯爵家の庭園だからね」
「!」
こそっとフレン様が補足した内容にギョッとする。
流石に令嬢として社交界から離れていたとはいえ、招待してくれた相手へ挨拶すらせず席に着き不本意ながらお菓子を貪っているというのは明らかにマナー違反だ。
“フレン様のためにも挽回しなくては!”
今はドレスに身を包んでいるが、本来の私はあくまでも彼の専属護衛騎士。
部下の失態は上司の管理不足になってしまう、と焦りつつ慌てて立ち上がる。
“こういう時、どうやって挽回するんだっけ”
相手を喜ばせつつ、挨拶をする方法。
なるべくスマートで、そして機嫌を取るには――
その時ふと立ち上がった私を見上げるフレン様と目があった。
“そうだ、初対面の時のフレン様は確か……”
「ご招待くださりありがとうございます、ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
そっとトリマリ嬢の前に握手を求めるような角度で右手を差し出すと、反射的に彼女も手を差し出してくれる。
「んっ!? ちょ、オリア――」
その差し出された指先を軽く握った私は、あの時のフレン様がしたみたいにそっと手の甲へ口付けを落とした。
「お会いできて嬉しいな」
「きっ、きゃぁぁぁあ!!!」
今の身分は騎士だが、一応辺境伯家の出である私がガチガチの敬語だと気を遣うだろうと少し言葉を崩したからか。
それともさすがエロマンスの第二王子の真似だったからか。
“ひぇっ”
予想以上に大きな黄色い悲鳴がそこかしこで上がりギョッとする。
「ちょ、トリマリ嬢……」
「はぅあ、耽美……っ」
「た、耽美?」
ただフレン様を真似しただけだった私は、この予想以上の反応にたじたじと狼狽えた。
「ちょ、ど、どうしたらいいと思います?」
「あー、とりあえずその手を離してやれ」
「え、あ、はいっ」
そういえばまだ握っていたな、と慌てて手を離すと、二、三歩後ずさったトリマリ嬢がパチンと指を鳴らす。
するとすぐにメイドが可愛らしいピンクの飲み物を持ってきてくれた。
「ミネア領特産のロゼですの。是非」
「ありがとう」
“ちょっと今の格好良かったな……!”
白グローブをしているのに指パッチンの音が響いたところを見ると相当な練習を積んだはずだ。
何しろ布を介しているのと素手では音を響かせる難易度が格段に変わる。
それを平然とやってのけた彼女に、上腕二頭筋だけで判断しようとした自分を恥じた。
「筋肉は全身にあるのに、私ったら指筋を疎かにしてたな」
「お、おい、変なこと呟くな。なんだ指筋って、俺は聞いたことないぞ……!?」
そっと手渡されたロゼをじっと見る。
透き通ったピンクが、なんだかフレン様の瞳の色を連想してしまい、少し照れ臭くなって。
“さっさと飲んじゃお!”
「あ、待て! それは飲むな、先に俺が中身を確認す……っ」
慌てて制止されるが、時既に遅し。
私はグイッと一気に飲んでしまっていて――
「ッ、?」
その瞬間ぐらりと視界が歪む。
“あ、れ……?”
「くそっ、即効性があるタイプのやつか……!?」
“即効性? なに、なんでそんなに慌てた声を”
隣にいるはずのフレン様の声がやたら遠くに聞こえ、そしてなんだかどんどん遠ざかっていくように感じて。
「ふ、フレン、様……」
「オリアナっ」
そこで私の意識がブツリと途切れた。
「ん……、熱い」
「! オリアナ、気が付いたか!?」
ぼんやりとした視界の先に広がるピンク色。
それが何か気になってつつこうと真っ直ぐ伸ばすと、触れる寸前で手を握られる。
「おい、人の瞳を潰そうとするな」
「!?」
その一言にハッとし一気に覚醒すると、案の定そのピンクの持ち主はフレン様だった。
「なんで!」
「おい、すぐに起き上がるな。気分悪いとかないか?」
「気分は……」
特に、悪くはない。
なんだか熱いが、過酷な気候での戦闘訓練もレリアット家で施されていたので、この程度のポカポカに支障は感じなかった私は、問題ないと言うように素直に頷いた。
「そうか、良かった……」
頷いた私を見て安堵としたらしいフレン様が、ふぅ、と息を吐き私が寝かされていたベッドの横にある椅子にもたれかかる。
銀髪がさらりと揺れ、それを手で押さえたフレン様は、私の方を見て微笑んだ。
――その一連の動作が……、なんか、エロい。
「ッ!?」
“え、な、なに?”
目の前のフレン様はただ少し気怠そうにしただけ。
それなのに何故か熱いと思っていた体がより熱くなる。
その変化に戸惑いながら、けれど騎士たるもの、この程度で主君に不調を訴えるはずもできなくて。
「そっ、それより! お茶会どうなったんですか?」
「うん? オリアナが倒れそうになっていたからな。早々に退散したよ」
「そ、そうなんですかっ、えーっと、どうやって?」
「はぁ? んなの、俺が抱き上げたに決まってるだろ」
「抱き上げた!?」
“筋肉質な私を!?”
言われた内容に驚きつつ、そしてそれ以上に『抱き上げられた』という単語に何故か体がピクリと反応する。
「しかもお姫様抱っこだばーか。しかもその状態で俺の部屋に連れ込まれてっから、明日には城内噂で持ちきりかもな」
「ばかってなんですかッ! というか、ここって」
言われて見渡すと、落ち着いた色合いの寝室は物こそ少ないがどれも質がよく、高級なことが一目でわかる。
そしてここがフレン様の部屋、そして私が寝かされていたのはいつもフレン様が使っているベッド――
――ズクン、と下腹部に一際大きな違和感。
“さ、さっきから何なの……!?”
熱でも出しているのだろうか。
どんどん熱さが増し、冷や汗なのか本当にただの汗なのかわからない雫が額に滲んだ。
「なんてことしてくれ、た……んですかっ、このまま、じゃ、よ、夜の王子様じゃいれませんよっ!」
「残念だったな。俺は昼夜関係なく王子なんだ……てか、なんか様子おかしくないか?」
必死に平静を装ってみるが限界だったのか、軽口を叩いてみても誤魔化せそうになくて。
「おい、オリアナ? やっぱり調子悪いんだな?」
慌ててベッドに腰かけたフレン様が私の顔を覗き込み、座っているのに少し頭をふらつかせた私を支えるように背中に触れた時だった。
「ひゃ、ぁんっ!」
「っ!」
ただ背中に触れられただけ。
それなのにビクビクッと、まるで電流が走ったかのように体を跳ねさせてしまう。
「? あ、え?」
何が起きているのかわからず、混乱していると、ベッドに腰かけたフレン様が大きなため息を吐きながら項垂れた。
「あー、そうか、そっちか」
“な、なに……?”
体に籠る熱が発散出来ず、ぼんやりとして思考がまとまらない。
そんな様子の私を見て再びため息を吐いたフレン様は、いつものどこか飄々とした雰囲気を消し真っ直ぐ射貫くように私と目を合わせた。
応援ありがとうございます!
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