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第一章・護衛令嬢、パーティーに出る
6.悪いのは、甘いお菓子か甘い言葉
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イライラしても、次の日とやらはやってくるもの。
“どんな顔で会えばいいんだろ”
一晩時間を置いたお陰ですっかり頭を冷やした私は、自分はあくまでも護衛であって婚約者じゃなかったことを思い出していた。
「怒る資格、なかったのよねぇ」
はぁ、た大きなため息を吐き後悔するが、怒鳴り付けた過去は戻ってこない。
“好感度高くなかった、は無いわね……”
これは流石に不敬罪に問われるかもしれない、と不安になりつつフレン様の部屋の前まで来た私が扉の前でオロオロしていると、突然扉がガチャリと開いた。
「うぉっ」
「ひょえっ」
驚いて思わず変な声が出てしまい焦る。
扉を開いたのは、銀髪にピンクの瞳がちょっと可愛いこの部屋の主であるフレン様。
“こういうのは最初に終わらす!”
「昨日は申し訳ありませんでしたッ」
「え、何が?」
罪を問われるのは仕方ないとして、反省したならばゴメンナサイはしなくては!
と、開口一番に頭を下げた私に向けられたのは、ぽかんとしたフレン様の顔。
“な、何がって……”
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。
「いや、あの、昨日でしゃばった事を言ったというか」
「そうか?」
「酷いことも言いましたし」
「え、どれだろ……」
「そもそも私には関係なかったのに」
「それは今傷ついたぞ」
“え、本当に気にしてないの?”
最後の言葉は別として、どうやら本当に気にしていない様子のフレン様。
不敬罪も覚悟していたのでありがたいといえばありがたいのだが、ここまで気にされてないとなると、それはそれでどうでもいいと言われているように感じ、胸の奥が少しもやっとした。
「まぁ、いいか。それよりオリアナ」
「なんですか」
「げ、急にめっちゃ拗ねてんじゃん。よし、美味しいお菓子あるから。オリアナ、マカロンとか好きだろ? マカロンは見た目も可愛いしな」
ムスッとしている私に気付いたのか、むしろフレン様が怒ってもいいのに何故か私のご機嫌を取る方へ傾いたらしい。
ご機嫌取りの方法がお菓子で釣るという子供扱いはいただけないが、そもそもご機嫌を取る必要などない彼が少し必死になっているのはなんだかくすぐったかった。
「あ、良かった。機嫌直ったな」
「普通主君は、護衛の機嫌を取らないものですよ」
拗ねた自分を棚上げし、少し誤魔化すように咳払いをしながらそんなことを言うと、相変わらずどこか掴みどころのないフレン様はふわりと微笑んで。
「オリアナはいいんだよ」
「ッ!」
“な、なんで私はいいの……!”
確かに身の潔白という意味ではフレン様のお墨付きも出ているし、その結果私がフレン様唯一の護衛で側近という立場にいる。
それゆえの特別扱い……だというのはわかる、のだが。
“ちょっと私を甘やかしすぎじゃない?”
倒れるまで、むしろ倒れても剣で斬りかかるスパルタ特訓がデフォルトのレリアット家。
騎士団に入団した後は、最強になるべく自らにその家訓を刻み鍛練に鍛練を重ね、ついたあだ名は鋼鉄の剣。
そんな私が甘やかされるなんて、私自身が一番想像していなかったのに。
「そうだ、昨日の額の傷はどうだ? 痕とか残ってないよな?」
「かすり傷です、流石に昨日の今日で完治とはいいませんが、傷も塞がってますしすぐに治ります」
「そうか」
ホッとした顔を向けられると、本当に私だけが特別扱いされているようでじわりと頬が熱くなった。
「詫び……って訳じゃないんだが、これをオリアナに」
「え……」
さっと通された部屋に置いてあったのは一着のドレス。
私の赤紫の瞳に合わせたのか、淡い紫に赤のリボンが編み込まれたそのドレスは、シルエットがシンプルにまとまっているお陰で可愛らしさよりは綺麗さを際立たせた少し大人っぽいデザインになっていた。
「これって……」
「昨日ドレスを用意するって言っただろ」
「で、ですがあれは……!」
「オリアナに着て欲しいんだ。サイズまでは流石に合わせられてないから微調整はいるが、一晩で用意した割にはいいだろ?」
“これ一晩で作るって、屍が何体も生まれたんじゃ……”
徹夜どころじゃない作業をさせられただろう針子たちを想像しゾッとしていると。
「ちなみにこれは母が昔着ていたものをリボンでアレンジしたものだから。誰も過労死してないぞ、安心しろ」
「それならまぁ……って、王妃様の!?」
“それ違う意味で安心できないんですけどっ”
安心させるために言ったのだろうが、違う意味でゾッとさせられた私はその畏れ多すぎるドレスの出所に目眩がした。
「流石に……着れないんですが……っ! 汚したらどうするんです!?」
「洗えばいいんじゃないか?」
「汚れが取れなかったらどうするんです!」
「なら染めよう」
「んなバカなッ」
半泣きで抗議していると、必死になっている私が可笑しかったのかぷっとフレン様が吹き出して。
「……ちょっと」
「悪い、まぁ、大丈夫だ。最悪一緒に斬首されよう」
「汚した代償大きすぎません!?」
「うはっ、はははっ」
とうとうお腹を抱えて笑い出す。
「……からかいましたね」
「からかいじゃなかったらヤバすぎるだろ」
斬首だぞ? と、突然スンッと真顔になったフレン様だが、私は彼の頬がピクピクとしているのを見逃さなかった。
“笑いを堪えてる……!”
今日一番の半眼になった私に、また笑ったフレン様は、それでもドレスは着させる気みたいで。
「命令だ、って言えば着てくれるのか?」
「ですが、私は護衛で」
「ドレスで動きを鈍らせるようなら鋼鉄の剣とまでは呼ばれねぇだろ?」
“それはまぁ、そうだけど……”
だが、ドレスでの戦闘は確実にドレスを犠牲にする。
折角のドレスを汚すどころか、破き刻む可能性を考えるといくら主君の命とはいえ素直に頷くのは躊躇ってしまうのだが――
「大丈夫だ、オリアナが不安になることはねぇよ。ほら、マカロン用意するって言ったろ?」
「え、それ本気だったんです?」
「あぁ。俺は嘘は吐かない。今日の予定は昨日の詫びがてらドレスを着てマカロンを食べるだけだ」
“ドレスを着て……マカロンを食べるだけ……”
確かに、それだけなら。
それだけならいいかも……と、頷いた数刻前の自分を全力で殴りたい。
「だ、騙された……!!!」
「騙してない。言ったろ? 俺は嘘は吐かないって」
「えぇえぇ! そうですね! ドレス着て、マカロンもありますねっ!」
確かにフレン様が言った言葉は全て正しい。
ドレスを着た私の目の前にはマカロンどころか他にも可愛いお菓子がいっぱいある。
……が。
「えっ、鋼鉄の剣……!?」
「ドレス姿も凛々しくて素敵……!」
“どう見てもお茶会!!”
若い令嬢中心の茶会に参戦している私とフレン様。
王妃様のドレスが洗練されているお陰か、なんとか女装だと笑われるようなことにならずにホッとはしたものの、そもそも昨日暗殺者に狙われたばかりの護衛対象と共に大人数のいる場所に赴くだなんて言語道断だ。
“マカロン? マカロンが悪いの? それとも言いくるめられた私が悪いの!?”
「あの、もうマカロン諦めるので昨日の犯人の手がかりが掴めるまで大人しくして貰え……ぐごっ」
そう耳打ちする私の口に無理やり突っ込まれるのは紅茶のクッキー。
“せめてそこはマカロンでしょ!”
内心文句を言う私に、逆に耳打ちするようにフレン様が顔を近付ける。
「ちょっと気になる噂があったから確めに来たんだ」
「んご、んごご」
「なるほど、次こそはマカロンだな?」
「んごご! ごごご!!」
全く成立していない会話をどう認識したのか、フレン様の手がマカロンに伸びたのを見て慌ててクッキーを飲み込んだ。
「百歩譲りこのお茶会に絶対参加しなきゃいけなかったとして」
「おう」
「私、護衛として参加すれば良かったんじゃないですか!?」
“どんな顔で会えばいいんだろ”
一晩時間を置いたお陰ですっかり頭を冷やした私は、自分はあくまでも護衛であって婚約者じゃなかったことを思い出していた。
「怒る資格、なかったのよねぇ」
はぁ、た大きなため息を吐き後悔するが、怒鳴り付けた過去は戻ってこない。
“好感度高くなかった、は無いわね……”
これは流石に不敬罪に問われるかもしれない、と不安になりつつフレン様の部屋の前まで来た私が扉の前でオロオロしていると、突然扉がガチャリと開いた。
「うぉっ」
「ひょえっ」
驚いて思わず変な声が出てしまい焦る。
扉を開いたのは、銀髪にピンクの瞳がちょっと可愛いこの部屋の主であるフレン様。
“こういうのは最初に終わらす!”
「昨日は申し訳ありませんでしたッ」
「え、何が?」
罪を問われるのは仕方ないとして、反省したならばゴメンナサイはしなくては!
と、開口一番に頭を下げた私に向けられたのは、ぽかんとしたフレン様の顔。
“な、何がって……”
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。
「いや、あの、昨日でしゃばった事を言ったというか」
「そうか?」
「酷いことも言いましたし」
「え、どれだろ……」
「そもそも私には関係なかったのに」
「それは今傷ついたぞ」
“え、本当に気にしてないの?”
最後の言葉は別として、どうやら本当に気にしていない様子のフレン様。
不敬罪も覚悟していたのでありがたいといえばありがたいのだが、ここまで気にされてないとなると、それはそれでどうでもいいと言われているように感じ、胸の奥が少しもやっとした。
「まぁ、いいか。それよりオリアナ」
「なんですか」
「げ、急にめっちゃ拗ねてんじゃん。よし、美味しいお菓子あるから。オリアナ、マカロンとか好きだろ? マカロンは見た目も可愛いしな」
ムスッとしている私に気付いたのか、むしろフレン様が怒ってもいいのに何故か私のご機嫌を取る方へ傾いたらしい。
ご機嫌取りの方法がお菓子で釣るという子供扱いはいただけないが、そもそもご機嫌を取る必要などない彼が少し必死になっているのはなんだかくすぐったかった。
「あ、良かった。機嫌直ったな」
「普通主君は、護衛の機嫌を取らないものですよ」
拗ねた自分を棚上げし、少し誤魔化すように咳払いをしながらそんなことを言うと、相変わらずどこか掴みどころのないフレン様はふわりと微笑んで。
「オリアナはいいんだよ」
「ッ!」
“な、なんで私はいいの……!”
確かに身の潔白という意味ではフレン様のお墨付きも出ているし、その結果私がフレン様唯一の護衛で側近という立場にいる。
それゆえの特別扱い……だというのはわかる、のだが。
“ちょっと私を甘やかしすぎじゃない?”
倒れるまで、むしろ倒れても剣で斬りかかるスパルタ特訓がデフォルトのレリアット家。
騎士団に入団した後は、最強になるべく自らにその家訓を刻み鍛練に鍛練を重ね、ついたあだ名は鋼鉄の剣。
そんな私が甘やかされるなんて、私自身が一番想像していなかったのに。
「そうだ、昨日の額の傷はどうだ? 痕とか残ってないよな?」
「かすり傷です、流石に昨日の今日で完治とはいいませんが、傷も塞がってますしすぐに治ります」
「そうか」
ホッとした顔を向けられると、本当に私だけが特別扱いされているようでじわりと頬が熱くなった。
「詫び……って訳じゃないんだが、これをオリアナに」
「え……」
さっと通された部屋に置いてあったのは一着のドレス。
私の赤紫の瞳に合わせたのか、淡い紫に赤のリボンが編み込まれたそのドレスは、シルエットがシンプルにまとまっているお陰で可愛らしさよりは綺麗さを際立たせた少し大人っぽいデザインになっていた。
「これって……」
「昨日ドレスを用意するって言っただろ」
「で、ですがあれは……!」
「オリアナに着て欲しいんだ。サイズまでは流石に合わせられてないから微調整はいるが、一晩で用意した割にはいいだろ?」
“これ一晩で作るって、屍が何体も生まれたんじゃ……”
徹夜どころじゃない作業をさせられただろう針子たちを想像しゾッとしていると。
「ちなみにこれは母が昔着ていたものをリボンでアレンジしたものだから。誰も過労死してないぞ、安心しろ」
「それならまぁ……って、王妃様の!?」
“それ違う意味で安心できないんですけどっ”
安心させるために言ったのだろうが、違う意味でゾッとさせられた私はその畏れ多すぎるドレスの出所に目眩がした。
「流石に……着れないんですが……っ! 汚したらどうするんです!?」
「洗えばいいんじゃないか?」
「汚れが取れなかったらどうするんです!」
「なら染めよう」
「んなバカなッ」
半泣きで抗議していると、必死になっている私が可笑しかったのかぷっとフレン様が吹き出して。
「……ちょっと」
「悪い、まぁ、大丈夫だ。最悪一緒に斬首されよう」
「汚した代償大きすぎません!?」
「うはっ、はははっ」
とうとうお腹を抱えて笑い出す。
「……からかいましたね」
「からかいじゃなかったらヤバすぎるだろ」
斬首だぞ? と、突然スンッと真顔になったフレン様だが、私は彼の頬がピクピクとしているのを見逃さなかった。
“笑いを堪えてる……!”
今日一番の半眼になった私に、また笑ったフレン様は、それでもドレスは着させる気みたいで。
「命令だ、って言えば着てくれるのか?」
「ですが、私は護衛で」
「ドレスで動きを鈍らせるようなら鋼鉄の剣とまでは呼ばれねぇだろ?」
“それはまぁ、そうだけど……”
だが、ドレスでの戦闘は確実にドレスを犠牲にする。
折角のドレスを汚すどころか、破き刻む可能性を考えるといくら主君の命とはいえ素直に頷くのは躊躇ってしまうのだが――
「大丈夫だ、オリアナが不安になることはねぇよ。ほら、マカロン用意するって言ったろ?」
「え、それ本気だったんです?」
「あぁ。俺は嘘は吐かない。今日の予定は昨日の詫びがてらドレスを着てマカロンを食べるだけだ」
“ドレスを着て……マカロンを食べるだけ……”
確かに、それだけなら。
それだけならいいかも……と、頷いた数刻前の自分を全力で殴りたい。
「だ、騙された……!!!」
「騙してない。言ったろ? 俺は嘘は吐かないって」
「えぇえぇ! そうですね! ドレス着て、マカロンもありますねっ!」
確かにフレン様が言った言葉は全て正しい。
ドレスを着た私の目の前にはマカロンどころか他にも可愛いお菓子がいっぱいある。
……が。
「えっ、鋼鉄の剣……!?」
「ドレス姿も凛々しくて素敵……!」
“どう見てもお茶会!!”
若い令嬢中心の茶会に参戦している私とフレン様。
王妃様のドレスが洗練されているお陰か、なんとか女装だと笑われるようなことにならずにホッとはしたものの、そもそも昨日暗殺者に狙われたばかりの護衛対象と共に大人数のいる場所に赴くだなんて言語道断だ。
“マカロン? マカロンが悪いの? それとも言いくるめられた私が悪いの!?”
「あの、もうマカロン諦めるので昨日の犯人の手がかりが掴めるまで大人しくして貰え……ぐごっ」
そう耳打ちする私の口に無理やり突っ込まれるのは紅茶のクッキー。
“せめてそこはマカロンでしょ!”
内心文句を言う私に、逆に耳打ちするようにフレン様が顔を近付ける。
「ちょっと気になる噂があったから確めに来たんだ」
「んご、んごご」
「なるほど、次こそはマカロンだな?」
「んごご! ごごご!!」
全く成立していない会話をどう認識したのか、フレン様の手がマカロンに伸びたのを見て慌ててクッキーを飲み込んだ。
「百歩譲りこのお茶会に絶対参加しなきゃいけなかったとして」
「おう」
「私、護衛として参加すれば良かったんじゃないですか!?」
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