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王家の影はポンコツ令嬢!はじめての任務で×××
1.王家の影として潜入します!
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――『王家の影』
それは、表で動く王家の裏側を守る役目。
ある時は密偵となり、ある時は工作もする。
危険を伴う事も多いのに、“影”である以上その功績が認められる事もない。
必要なのは忠義心のみ――
私ことクリスティナ・ダフネはそんな『影』を担うダフネ伯爵家の長女であるのだがー⋯
「どうして私には何の任務も与えられませんのぉぉ!?」
成人の儀もとっくに終えた19歳、兄は既に他国で情報を集めるなど活躍している。
「お兄様が16歳の頃には既に影としての仕事を始めたと聞いておりますのに⋯」
“どうして⋯!!!”
「私に魔力がないからですの⋯!?」
しかし魔力がある人も、魔法を使える人も少数。
確かに任務に行く兄はいつも魔法で髪色を変えたりはしていたがー⋯
「魔道具だってあるのに⋯」
魔法を使える人が少ないからこそ、魔道具が発達したこの国では、多種多様な魔道具が揃っており魔法が使えなくても何も困らない。
「だったら、どうしてですのぉぉお!!!」
悔しくて歯痒くて、気付けば私は枕を噛みながらベッドの上でごろごろと転げ回る日々⋯だったの、だが。
「⋯クリスティナ、お前の指名で依頼が入った」
「!!!」
お父様の執務室に呼ばれ、言われたその一言に私のテンションは急上昇しー⋯
“いけないわクリスティナ!!浮かれているとバレては役目を外されてしまいます!!ここは冷静を装うのですっ!”
「いえっ、元々冷静ですけれどもねぇっ!!?オ~ッホッホッ!!」
まぁ笑うくらいはいいだろう、と堪えきれない笑いを令嬢らしく扇で隠しながらくすりと溢した。
「⋯声が漏れてる⋯」
「不安しかない⋯」
笑う私とは対照に、何故か項垂れる父と兄を見て首を傾げてしまう。
「⋯概要を説明する」
“それにしてもそっくりね”
明るい茶髪にアメジスト色の瞳。
それはダフネ家の色と言っても過言ではなく、目の前に並んだ父と兄の色合いは同じ。
「そして同じ血筋である私も同じ色ですのよ!」
「おかしいな、私は今概要を説明すると言ったのだが」
「まぁまぁまぁ!お父様!!何一つおかしくありませんの。同じ色を持つ私も、このダフネ家に恥じない影になれるという事ですから!!!」
「おかしいな」
完璧な理論を説明したが、何故か項垂れるお父様。
「⋯こんな暴走しかできない妹のどこがお気に召したんだ⋯ディーデリック様は⋯」
同じく父と同じ色の兄も、父と同じように何故か項垂れ⋯
「⋯?今ディーデリック様と仰ったの?」
「流石のお前でも知っていた事に安堵すべきか、いっそ知らなければ断る最善が選べたと嘆くべきか⋯」
「もう!何をぶつぶつ仰られてますの!当然知っておりますわよ!!ディーデリック・ローランド侯爵令息、現宰相様のご子息ですッ!」
あぁ、本当に知っちゃってるかぁ、と倒れ込みそうな兄に怪訝な顔を向けていると、しぶしぶ父が話を続けた。
「この度、ディーデリック様が次期宰相に内定した」
「あら!それはそれは、おめでとうございますですのよっ!」
「あぁ、言葉遣いが⋯言葉遣いまでもが怪しい妹に⋯何故⋯」
項垂れる父の横でひたすら嘆く兄。
ここまで嘆くという事は何かあるのでは、と考えた私は、天才的な発想力で結論を導き出した。
“次期陛下になられる王太子殿下の影であるお兄様と、次期宰相になられるディーデリック様⋯つまりは同僚!!!”
「お兄様、もしかしてディーデリック様と⋯!」
「あぁ、もうダメだ⋯この家はダメだ⋯!クリスティナに家の役目を教えた人間を消して俺も消えます⋯!」
「やめろ、お前がいなくなったら家を継ぐのがクリスティナになってしまう⋯」
「そ、れは⋯本当にこの家が終わってしまいますね⋯」
訳のわからない事をいう二人を見ながら、私は兄の肩に両手を置いて。
「大丈夫ですわ!私が子を産めばお兄様の子供が産まれなくても家は続きます!男同士では子は産まれないでしょう!?私が二人分産みましょう!」
「そういうことじゃない⋯が、絶妙に擦ってくるのやめろ⋯」
「?」
おかしなことを言ったかしら?なんて考える私に、まるで死地に赴くような表情で告げられた私の初めての任務とは⋯
「チョロいですわチョロいですわ、チョロチョロのチョロですわぁ~っ!!!」
「く、クリスティナ様、一応ディーデリック様は寝ている体になっておりますので!」
「そうですわね!よい子はもう寝る時間ですものね!!静かにいたしますともっ!」
「ひぃ、まだ響く⋯!ま、まぁあくまでも寝ている体、なのでいいのですが⋯」
「?」
「いえ、なんでもございません」
どこかたじたじしているメイドを不思議に思うが、その答えを導く前にどうやら目的地に着いたようで。
「⋯ここがディーデリック様の寝室でございます」
「畏まりましたわっ!!!」
「お声ぇ⋯!」
――そうなのだ。
てっきり兄と恋仲なのかと思ったディーデリック様だが、どうやら兄の片想いだったらしく。
“私が王家の影として見極めて見せますわ!次期宰相様の、女癖を!!”
メイドに任せろと言わんばかりの笑顔を向けた私は、そっとディーデリック様の寝室に潜入する。
室内はもっとシンプルなのかと思ったが、至るところに薔薇が飾ってあった。
「まぁ!この薔薇は王家の庭園にしかないと言われる貴重な薔薇じゃないの。とてもいい香りだわ⋯」
まるで誰かを迎えるようにあつらえられた部屋を見渡し考える。
“もしかして⋯”
「本当に色んな女性を連れ込んでるってことなのかしら⋯!!?」
「げふっ、ごふっ!」
「!?」
突然咳が聞こえ、部屋を眺めていた私は慌てて彼の側まで駆け寄った。
そして暫く彼の寝顔をじっと見つめー⋯
「ふぅ、良かったわ。突然咳き込まれたから、喉に何か詰まったのかと思って焦りました。生きててやっほいです!」
「ぶっ」
「???」
“今確実に⋯”
「笑いましたわよね?」
「すやすや」
「寝ておりますわね」
「⋯っ、くっ、す、すや~」
しっかり彼が寝ている事を確認した私は、改めて彼のベッド周りを確認する。
“人が4人は軽く並んで寝れそうなベッド⋯”
「このベッドならば、お兄様とディーデリック様という成人男性同士でも営めますわね⋯」
「そんな性癖、俺も義兄様にもないかなぁ⋯」
「え!?」
「すやぁ」
「まぁ、なんて的確な寝言を!流石次期宰相様ですわ!」
“兄との間は勘違いですのね⋯?”
彼の寝言を聞いて確信する。
「寝言で嘘は言えませんものね」
兄の片想いの線も消えた事に少し安堵した。
何故なら私は今から彼の女癖を調べなくてはならないのだから。
“男にはなれませんもの!男性遍歴まで調べることにならなくて良かったわ”
私に与えられた任務は、彼の女癖⋯というか彼の素行を調べる、である。
「宰相が女に現を抜かして国を傾ける、なんてあってはなりませんものね!!!」
それを確かめに来たのに、ディーデリック様が男性を好きだった場合確かめようがなかったからだ。
それは、表で動く王家の裏側を守る役目。
ある時は密偵となり、ある時は工作もする。
危険を伴う事も多いのに、“影”である以上その功績が認められる事もない。
必要なのは忠義心のみ――
私ことクリスティナ・ダフネはそんな『影』を担うダフネ伯爵家の長女であるのだがー⋯
「どうして私には何の任務も与えられませんのぉぉ!?」
成人の儀もとっくに終えた19歳、兄は既に他国で情報を集めるなど活躍している。
「お兄様が16歳の頃には既に影としての仕事を始めたと聞いておりますのに⋯」
“どうして⋯!!!”
「私に魔力がないからですの⋯!?」
しかし魔力がある人も、魔法を使える人も少数。
確かに任務に行く兄はいつも魔法で髪色を変えたりはしていたがー⋯
「魔道具だってあるのに⋯」
魔法を使える人が少ないからこそ、魔道具が発達したこの国では、多種多様な魔道具が揃っており魔法が使えなくても何も困らない。
「だったら、どうしてですのぉぉお!!!」
悔しくて歯痒くて、気付けば私は枕を噛みながらベッドの上でごろごろと転げ回る日々⋯だったの、だが。
「⋯クリスティナ、お前の指名で依頼が入った」
「!!!」
お父様の執務室に呼ばれ、言われたその一言に私のテンションは急上昇しー⋯
“いけないわクリスティナ!!浮かれているとバレては役目を外されてしまいます!!ここは冷静を装うのですっ!”
「いえっ、元々冷静ですけれどもねぇっ!!?オ~ッホッホッ!!」
まぁ笑うくらいはいいだろう、と堪えきれない笑いを令嬢らしく扇で隠しながらくすりと溢した。
「⋯声が漏れてる⋯」
「不安しかない⋯」
笑う私とは対照に、何故か項垂れる父と兄を見て首を傾げてしまう。
「⋯概要を説明する」
“それにしてもそっくりね”
明るい茶髪にアメジスト色の瞳。
それはダフネ家の色と言っても過言ではなく、目の前に並んだ父と兄の色合いは同じ。
「そして同じ血筋である私も同じ色ですのよ!」
「おかしいな、私は今概要を説明すると言ったのだが」
「まぁまぁまぁ!お父様!!何一つおかしくありませんの。同じ色を持つ私も、このダフネ家に恥じない影になれるという事ですから!!!」
「おかしいな」
完璧な理論を説明したが、何故か項垂れるお父様。
「⋯こんな暴走しかできない妹のどこがお気に召したんだ⋯ディーデリック様は⋯」
同じく父と同じ色の兄も、父と同じように何故か項垂れ⋯
「⋯?今ディーデリック様と仰ったの?」
「流石のお前でも知っていた事に安堵すべきか、いっそ知らなければ断る最善が選べたと嘆くべきか⋯」
「もう!何をぶつぶつ仰られてますの!当然知っておりますわよ!!ディーデリック・ローランド侯爵令息、現宰相様のご子息ですッ!」
あぁ、本当に知っちゃってるかぁ、と倒れ込みそうな兄に怪訝な顔を向けていると、しぶしぶ父が話を続けた。
「この度、ディーデリック様が次期宰相に内定した」
「あら!それはそれは、おめでとうございますですのよっ!」
「あぁ、言葉遣いが⋯言葉遣いまでもが怪しい妹に⋯何故⋯」
項垂れる父の横でひたすら嘆く兄。
ここまで嘆くという事は何かあるのでは、と考えた私は、天才的な発想力で結論を導き出した。
“次期陛下になられる王太子殿下の影であるお兄様と、次期宰相になられるディーデリック様⋯つまりは同僚!!!”
「お兄様、もしかしてディーデリック様と⋯!」
「あぁ、もうダメだ⋯この家はダメだ⋯!クリスティナに家の役目を教えた人間を消して俺も消えます⋯!」
「やめろ、お前がいなくなったら家を継ぐのがクリスティナになってしまう⋯」
「そ、れは⋯本当にこの家が終わってしまいますね⋯」
訳のわからない事をいう二人を見ながら、私は兄の肩に両手を置いて。
「大丈夫ですわ!私が子を産めばお兄様の子供が産まれなくても家は続きます!男同士では子は産まれないでしょう!?私が二人分産みましょう!」
「そういうことじゃない⋯が、絶妙に擦ってくるのやめろ⋯」
「?」
おかしなことを言ったかしら?なんて考える私に、まるで死地に赴くような表情で告げられた私の初めての任務とは⋯
「チョロいですわチョロいですわ、チョロチョロのチョロですわぁ~っ!!!」
「く、クリスティナ様、一応ディーデリック様は寝ている体になっておりますので!」
「そうですわね!よい子はもう寝る時間ですものね!!静かにいたしますともっ!」
「ひぃ、まだ響く⋯!ま、まぁあくまでも寝ている体、なのでいいのですが⋯」
「?」
「いえ、なんでもございません」
どこかたじたじしているメイドを不思議に思うが、その答えを導く前にどうやら目的地に着いたようで。
「⋯ここがディーデリック様の寝室でございます」
「畏まりましたわっ!!!」
「お声ぇ⋯!」
――そうなのだ。
てっきり兄と恋仲なのかと思ったディーデリック様だが、どうやら兄の片想いだったらしく。
“私が王家の影として見極めて見せますわ!次期宰相様の、女癖を!!”
メイドに任せろと言わんばかりの笑顔を向けた私は、そっとディーデリック様の寝室に潜入する。
室内はもっとシンプルなのかと思ったが、至るところに薔薇が飾ってあった。
「まぁ!この薔薇は王家の庭園にしかないと言われる貴重な薔薇じゃないの。とてもいい香りだわ⋯」
まるで誰かを迎えるようにあつらえられた部屋を見渡し考える。
“もしかして⋯”
「本当に色んな女性を連れ込んでるってことなのかしら⋯!!?」
「げふっ、ごふっ!」
「!?」
突然咳が聞こえ、部屋を眺めていた私は慌てて彼の側まで駆け寄った。
そして暫く彼の寝顔をじっと見つめー⋯
「ふぅ、良かったわ。突然咳き込まれたから、喉に何か詰まったのかと思って焦りました。生きててやっほいです!」
「ぶっ」
「???」
“今確実に⋯”
「笑いましたわよね?」
「すやすや」
「寝ておりますわね」
「⋯っ、くっ、す、すや~」
しっかり彼が寝ている事を確認した私は、改めて彼のベッド周りを確認する。
“人が4人は軽く並んで寝れそうなベッド⋯”
「このベッドならば、お兄様とディーデリック様という成人男性同士でも営めますわね⋯」
「そんな性癖、俺も義兄様にもないかなぁ⋯」
「え!?」
「すやぁ」
「まぁ、なんて的確な寝言を!流石次期宰相様ですわ!」
“兄との間は勘違いですのね⋯?”
彼の寝言を聞いて確信する。
「寝言で嘘は言えませんものね」
兄の片想いの線も消えた事に少し安堵した。
何故なら私は今から彼の女癖を調べなくてはならないのだから。
“男にはなれませんもの!男性遍歴まで調べることにならなくて良かったわ”
私に与えられた任務は、彼の女癖⋯というか彼の素行を調べる、である。
「宰相が女に現を抜かして国を傾ける、なんてあってはなりませんものね!!!」
それを確かめに来たのに、ディーデリック様が男性を好きだった場合確かめようがなかったからだ。
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