巻き込まれた薬師の日常

白髭

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迷宮と魔具

第174話 収拾

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『えっ。テトラフィーラ様?!あ、そうか』
『お主。必死になり過ぎて、妾が杖に通信を付けたのを忘れていただろう』
『魔素の供給と調整、ありがとうございます』
『使い方を教えたにすぎん。造作も無いことだ』
『もしかすると、勢いで作ったこの像でしょうか?』
『そうだ。神気を纏う我が像は早やかに教会に寄進しなさい。後ほど嗅ぎつけた教会の人間が来る。問題なのは、一帯に神気が放出されている。この規模ならアドミスタの神殿でも確認されているはず。主格:テトラフィーラからの指示だと、ここの司祭には言っておけ。ここは妾の管轄領域。問題無いはずだ』
『はっ。承知いたしました』
『杖の使用法の貸しは、最近パラケルと作った薬とお前の考える神食の2つで解消してやろう。お主の心が求める最高のものでな。ふふふ。楽しみに待っているぞ』
 杖を介した魔力通信がプツリと終了した。


 パラケル爺さんとエリス様が平然とこちらに寄ってくる。他の村民は像の近くには寄れないようだ。
「パラケル爺さん。エリス様」
「なんだ、小僧。また想像を超えるものを作ったな。ガハハ。楽しかった」
「楽しくないですからね! 想像を超える以上です!レッド君。その手に持つものは何?像も杖からも神気が纏っているわ。まずは、像と共に早く仕舞なさい。村民がひれ伏したままよ!」

 エリス様はパラケル爺さんをキッと睨む。慌てて2つをアイテムボックスにしまう。すると、辺りに漂う、霞んだ白い神気が途端に消えてなくなった。
「ふう。これでよろしいでしょうか?」
「落ち着いたわね。次は、集まっている魔素を念入りに散らして、シュリッター司祭を正気に戻します」
 エリス様は、パチンと指を弾く。風魔法を使用して神気を伴う魔素を散らしたようだ。
「はて、私は?」
「像の神気に充てられていたわ。あなたは感受性が強いから、先にやられていたわね」

「幸せな気分でした。神に仕えていてよかったと心から思います」
「像は一旦、レッド君が回収しています。一帯の魔素の放出は無くなったわ。残る村民を元の状態に戻して頂戴」
「はっ。それでは失礼して。デウス・ノーティス・オムネス」
 司祭は両手で複雑な印を作り、体内の魔素を循環させているようだ。神に祈りを捧げ、魔素を奉納しているように感じる。印を結んだ両手から光が放出された。これが神聖魔法というものなのだろう。

 村民が集まる広場の一角に、司祭が放った癒しの魔力が広がる。当てられた村民は徐々に平常の状態に回復していく。
「はて。良いものを見たように感じるが、なんだったのだろう」
「白いもやが出た後は幸せな感じでしたね」
「教会の雰囲気に近かったわ。久々に感じた包まれた感じ。頻繁に通おうかしら」

「エリス様。これにて正常に戻ったと見てよろしいかと」
「ありがとうございます、シュリッター司祭。村長。会の締めをお願いします」


「これにて子供たちの修練の公開は終了します!お疲れさまでした」
「料理台車にクリスプスを用意している。順番に貰っていってくれ!家族の分ももらってよいぞ!魔術を習うなら、食べ終わった後でもよいのでワシのところに来てくれ!」

 修練を見せていた子供たちはワ~と料理台車に群がる。魔術訓練を行った子供達は神気の影響は特になかったようだ。それを見た大人たちも、料理台車に向かう。

「さて、手伝ってきます。3人では大変そうですから」

 リンネに交じり、と菓子の作成と配付。村民へのオーダーと、空いたところから聞き取りを行っていく。集まった村民にクリスプスが行き渡り、一区切りついたようだ。シュリッター司祭と相談して提案の了承を頂いた。

「教会に通う子供たちの明日の授業は、今日食べたクリスプスの絵を描くこと。それが代金です~」
「えー。面倒くさい~」
「披露したのが代金じゃないの~?」
「ふふ。クリスプスは美味しいけど、頼むのに大変じゃなかった?」
「そう。もう、やきもきして」
「自分の思うように入れて欲しいのに、ローゼのパパに言いたいことが伝わらないし」
 ローゼのパパはトッピングを担当していた。手先は器用だが、トッピングは別分野だろう。ご苦労様です。

「そうだよね。いろんな選択があるから、頼むのが大変だよね。どうすればよいと思う?」
「いくつか、こういうものが作れるよ、と見せるとか?」
 うんうん、と他の子供からも同意が見られた。
「そう。それだよ!キミらが書いた絵をこの木の板に載せて、お客さんに提示できるようにしたい。するとお客さんは君らの絵から選ぶ。君らが美味しかったと思うものが、この台車の品目になるかもしれない。どう、いい案だと思わない?」
 クリスプスには定番の組み合わせがある。その絵を子供たちに書いてもらおう、というのがこの案だ。足りないものは妹たちに頼もう。
「!!」
「うん。やってみる」
「俺の組み合わせが一番だと思うけどな」
「いやいや、私の物が一番おいしいわ」
「絵具はベルナル商会から持ってきたから好きに使って。司祭様に預けておきます」

「まあ、うまく誘導するものだな」
「案外、教師に向いているかもね」
 パラケル爺さんとエリスさんの冷静な話がかすかに聞こえた。クリスプスをどう売り出していこうかと試食をする職人と商人。純粋に菓子を味わう冒険者。どれが一番おいしいかを競い合っている子供の笑い声が響く。村に活気が出ることは良いことだ。この熱気をできるだけ継続させていきたい。それが自分の居場所となるだろう。

 ****
 二章 錬金の法則 完

 ****
 二章はここで終了となります。
この後は、カクヨムで続けています。一本化させていただきますのでよろしくお願いします。


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感想 9

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みんなの感想(9件)

daikoku9
2024.11.03 daikoku9

この物語爺さんの重要度がすごいが、それでも停滞となったから神々の介入なんでしょう戦わない?救世主ですな?

白髭
2024.11.04 白髭

感想ありがとうございます!現地の方も頑張っています!

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いもり
2024.09.22 いもり

カスタードに浸かりたいって感想、分かります(笑)
作ってる横で「飲みたい」とか、「泳ぎたい」「浴びたい」とか、つい言ってしまいます。

白髭
2024.09.22 白髭

感想ありがとうございます!
カスタード良いですよね。ついつい入れてしまいました〜。

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ゆーじ
2024.09.19 ゆーじ

妖精とか非常に萎える、物語は好きだけど昨今流行りの異世界モノだらしょうがないかぁ~、でも妖精かぁー。

白髭
2024.09.19 白髭

なかなか、難しいっすね〜。お供。

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