巻き込まれた薬師の日常

白髭

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幹果と油脂

第156話 居残

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「レッド。あなたはいつから習っていたの?」
リンネにはパラケル師との修練のことを話していなかった。
「自分は今年からだね。半年くらいかな?」
「えっ?半年でここまでの段階に到達できるわけ?どれだけ濃い修練を重ねたのよ」
「魔力回路の増幅と、水の訓練、土の訓練、ポーション作成だよ。魔導具店で行っていたから爺さんの個別指導だったけど」
「また贅沢な話ね。パラケル師、いえ教授の個別指導とは・・・」
「そうかな?その割には自習が多かったと思うけど」

「レッド。リンネ先生。もう少し習っても良いかしら?」
 二人で話していると、少しオドオドした感じで年長のマーシャが聞いてきた。
「いいけど。どこが気になるの」
「コツを教えてもらえないかなって」
「コツも何も、練習するだけかな。どんな時でも魔力循環をしていたくらいかなぁ」
「これを・・・いつも?」
「体を動かすのと同じだから。パラケル爺さん曰く、やればやる程伸びるらしい」

「痛みと、体がモゾモゾ、ザワザワする感じはどうするのよ?」
「他人にやってもらうと違和感があったかもしれない。自分だけだと痛みだけだよ。ひたすら我慢かな」
「少しの間だけ、見てもらえないかしら?」
「いいよ。視力を強化するから、魔力循環を行ってみて」
 魔素の流れを確認する。コツをつかんだのか、両手での循環は出来ているようだ。
「おっ。上手いね。慣れたら手は放してもいいよ。右足の流れがまだイマイチかな。ちょっとごめんね」
 背中に手をあて、該当部位まで進む。詰まりみたいな滞りがあった。
「今までの間に、怪我でもしたのかなぁ? 生まれつきかなぁ? さっきは遠慮したかなぁ。魔素の通りがまだ悪いね。少しびっくりするけど、無理やり開けるね。ちょっと椅子に座ろうか」
「はっ、はい。お願いします」
 右足の魔力回路の流れが通るが悪い。一旦通せば後は流れるだろう。3本ある下肢の動脈のうち、1本の魔素の流れが悪かった。足の先と膝に手をあて、自身の魔力を一気に流す。両方からこじ開け、自分を通り、道を拡張させる。トンネルの道路工事をしているみたいだ。
「いっ。んんんnn」
 キャロルは口を押えて我慢しているみたいだ。痛くて済まない。間違っても顔を上げるわけにはいかなかった。村の女子の服装はワンピースが多い。少女嗜好者では無いが、痴漢だと訴えられてしまう。
「レッド。もう大丈夫みたいよ。魔素は十分に流れているわ」
 幸いにも、リンネが声をかけてくれた。ありがたい。
「リンネ助かった。あの体制では顔を上げるわけにもいかないから」
「あなたね、もう少し考えて施術したほうがよいわよ。いろんな意味で」
 こちらを見たリンネが呆れる。注意深く立ち上がると、そこには女子の皆様がそろっていた。

 マリン、フローラ、ローズ。エステル、キャロルは帰らず、マーシャへの施術を見ていたようだ。逆に男子は遊びに行ったのか誰もいなかった。
「「「「「「個別相談希望します」」」」」
 マリンは左足。フローラは肩。ローズは肘。エステルは目、キャロルは両足。それぞれの魔素の通りが悪いことが分かった。それぞれ魔素の回路をこじ開け、通りを良くする。
「あっ。通りがよくなってる。肩が軽くなった」
「足がポカポカしてきました」
「後で、エステルちゃんの家にいっていい。一緒にやろう?」
「いいね。キャロル、一緒に行こう」
「うん。レッド先生ありがとうござました」
 ペコリとお辞儀をして生徒が帰っていく。


 ******
 レッド少年が少女達に、施術を行う。その様子を2人の教師役が眺めていた。
「パラケル師。あのように行ったのですか?レッド君に」
「いや。基本的なことを教えた後は、専ら自主練だな。回路の滞りなど、自分で解消するモノではないのか?ここでは久しぶりに教えたので、雑に一気に通してしまったが」
「なるほど。魔術の効率が悪いのは、回路の良し悪しみたいですね。勉強になります」
「教会の教育課程では練習法を教わらないのか?」
「自らの鍛錬はしますが、習いませんね。この国では魔術は親から教わるか、自分で身に着けるかとなります。もしくは奉公先で」
「初等教育に落とし込んだ方が良いのではないのか?」
「この国の意向もあるので何とも。おそらく魔術師の数と予算も足りていないでしょうか?それに、司祭の立場の私が先導して行うのは、制度上問題があるのです。今回、外部講師を入れたのは村長の判断です。問題はありません」
「そうか。争いを嫌う教会ならではだな」
「あくまで我々は、中立な立場に立った教育を担います。教会寄りの思想を持たせ、戦力として鍛えるのは問題があるのですよ。それが疑いだったにしても」
「自衛の為なのにな」
「そうなのですが、なんとも」

「お主らにも利点はあるのか?教育など領主に任せればよいではないか?」
「神の言葉を頂戴するために精神を鍛え、教義を習い、教えを広める。この初等許育も修練なんです。赴任し、教育を受け持つ代わりに教えを浸透させる。教えを広めるにも、最低限の理解が必要ですから。そのための初等教育です」
「ホーミー村は人数が少ないから、効率が悪いな」
「そうとも言い切れません。彼女らは純粋です。一人一人の信仰する力が育ちやすいのです」
「そういうものか?」
「はい、ここに訪れる人々の魔素が信仰力となり、御神体に奉納されます。それらはこの土地の地鎮に還元される仕組みです。ヒト族が住まう土地には魔素の安定に重要なのです。常に人を教会に集めやすい授業はその一環も兼ねています」
「なるほどな、お主の役にたっているのであればよい」

「住民の方が教会に参じてくれることは、非常にありがたいこととなります」
「パール家にも相談してみるか・・・」
「パール家と魔導師ギルド。両方に顔が利く、パラケル師の立場なら可能でしょう。私からの提案は問題が出てしまいます。なにとぞ穏便によろしくお願いします」
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