巻き込まれた薬師の日常

白髭

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窯業と産業

第40話 陶師

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 陶芸家ジュアン。父親のサルタンによると、領主一族は以前より陶器を産業としたかったらしい。パール家が他領からスカウトしてきたジュアンは、1年前くらい前から準備をしていた。お抱えの商人にジュアンを預け、窯業の研究をさせていた。ジュアンの専門は残念ながら絵付けだった。陶器全般の知識はあった。魔力総量が少ないジュアンは実験する回数がこなせない。試行錯誤の繰り返しのため、研究は詰まっていただ。そんなジュアンは物の良し悪しはよくわかるらしい。最近は領主との陶器の買い付けによく同伴していた。

 今日は、そんなジュアンと共に素焼きの皿を作成する。ジュアンの設計図をもとにした村営の焼成窯の作成はサルタンとパラケル爺さんの指揮下にてすでに完成している。ホーミィー村にあるものは実験用の最小の窯と中くらいの窯だ。窯の近くには急ピッチで整えられた作業場ができていた。ジュアンさんは持ってきた道具の仕分けの作業をしていた。

「ジュアンさん、おはようございます。この前会議の時に同席したレッドです」
「レッド少年、おはようだね。今日はよろしく」
ボサボサの髪を掻き分け挨拶する。ジュアンさんは会議の後、村長に交渉し、村の空き家を借りていた。身だしなみに頓着が無さそうな彼は、借りてきた家の中が持ってきた本で溢れていると母親から聞いていた。

「ある程度下準備をしたものを持ってきました。陶石と魔物の骨を砕き、ホーミィー村の粘土を加え、水と共に滑らかになるまで練り上げたものがこれです。」
村と城郭都市から来ると想定される陶石・魔物骨現物と粉砕加工品。アイテムボックスから陶土を出す。"ろくろ"にセットし、皿の整形をする。

「いつもは"ろくろ"を使わずに作業をしています。魔力を使用しない工程ならこのように整形をしていきます。自分での工程は魔力を使用して短縮しています。混合においても空気を徹底に抜くようにご指導ください」
「なるほど。魔力が豊富にあるレッド少年ならではの手法だね」
ジュアンさんは、原料をアイテムボックスにしまいながら答える。
「十分に乾燥させた現物を100枚ほど持ってきました。これを使用して焼成試験をお願いします」
「あい、わかった。炎の色はどのくらいか?」
「自分がイメージしている色はこのくらいです。白色に近い赤ですね」1300度くらいの炎を火魔法で出力する。
「おお、陶器の条件よりも温度が高そうだ。」
「この後、絵付けと釉薬を塗布して本焼きに移ります。ちなみに、ポーション磁器瓶で行った条件はこんな感じです」
と昨日実施した磁器瓶の版画、転写紙、本焼き前の素地と本焼き後の現物を見せる。この前の転写インクの特性を話す。

「ほうほう、これは参考になりますね。この割合で魔石を入れるとこんな鮮やかな青になるのか」
ジュアンは驚く。魔石の色変化は珍しいらしい。
「今回の仕事は魔法陣を刻む必要がありました。人手では時間がかかります。木の版をパラケル爺さんに作成してもらいました。インクをいったん紙に移し素地に転写します。円筒形のポーション瓶に魔法陣を刻むには最適な手法と思います」
「これは魔法陣だけでなく、複雑な文様を描くのに良いですね。生産の際には採用したい」
ジュアンは文様の転写に興味を持ったみたいだ。
「陶石、魔物の現物。それぞれの粉末。道具一式と報告書。全て置いていきますから、後はよろしくお願いします」
ジュアンは既におもちゃと戯れる子供のようだった。こちらの話はもう聞いてない。改めてお願いします、と言って退散した。

脱線せずに十分に研究をして成果を出してくれるのだろうか?定期的に見に行こうと思う。
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