巻き込まれた薬師の日常

白髭

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試行と結果

第24話 治薬

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 爺さんと焼き物についての談義をした。この王国で流通しているのは"陶器"で間違いないようだった。狙い目は毛色の違う紋様だとの話だった。"粘土がどうだ""どこで取れる""絵付けはどこのものが良い"の話になる。近隣だと城郭都市西側の村で原料は取れる。きめ細かい粘土質の石が取れるが加工に手間がかかる。需要は見込まれるが、加工の技術が無いので採掘は進んでいなかった。父親のサルタンはすでに商人の親戚を巻き込み、情報収集、材料の確保に奔走しているそうだ。さすが商人の父親、行動はすばやい。

 陶器の前置きと現状は終わり、ようやくポーション作りとへ入る。
「工程は教本で知っての通りだ。薬草を刻み、水へ浸漬する。加熱して煮出した後、布で濾す。最後に瓶に入れる工程だ。魔力を使わないと効力が薄い。薬草に存在する魔素が移動しないからな。浸漬、加熱のところは、最低限魔力を使用する必要がある。薬草に自分の魔力を当てすぎると汎用性が無くなり売り物としては不向きだ。ワシの操作法だと薬草から魔素を弾いて水に移す感覚だ。こればかりは自分の感覚を研ぎ澄ませて、自分なりのやり方になる」

『治薬作成法』の本はパラケルから渡されていた。読み込んでおけと。学院で販売されている本のようだった。時間があるときに読んだところ、使用する薬草と抽出法の本だった。『治薬作成法』の名前とは裏腹に、中身はほぼ料理の本だ。薬草学の部分は薬草の判別方法くらいしか載っていない。後半は、料理しない人間が料理をするような初心者向けの本だ。使用する道具の種類と扱い方。包丁の握り方。薬草の刻み方。まるで絵本だ。あっという間に読める内容だった。

 教本どおりに用意した道具を使用して、少量の試作を行う。最初は魔力を使用せず手技のみだ。
 包丁で薬草を刻み、ビーカーに薬草を放り込む。水が沸騰するまでかまどの熱で加熱する。そのまま十分間煮る。布で漉して冷まし、用意されたポーション瓶に充填する。

「教本通り試作すると劣化品のポーションとなる。飲み味が劣るが効果は同じだ。これが基本だ。冒険者ギルドに卸すときは100mLの容器で一つの規格となる」
 次は、かまどの熱で内容物を加熱する。薬草からの魔素を弾くように分離させてみろ、と爺さん。言われたとおり実行する。

「加熱しながら魔力操作することで、薬草からの魔素が段違いに抜けるのだ」
 強制して分離させないと、薬草からすべての魔素が抜けないのか。確かに教本通りに作ると薬草に魔素が残っている印象を受ける。ただし、魔力操作をしてもすべての魔素は抜けきれていないようにも感じる。

「この魔力操作で魔術師が作成するポーションとなる。【物質鑑定】によると普及品だ」
 さらに、爺さんが実行する。薬草を風魔法で細かく刻み、水に浸漬させる。水は水魔法で処理したものを使用しているらしい。攪拌加熱しながら薬草と水を分離する。土魔法でガラスのポーション瓶を作成し、封印して終了となる。

「これで魔術師の一段上のジョブ、魔導師のパラケルが作成するポーション。【物質鑑定】によると一級品の判定だ」
 全く無駄のない工程だ。作成する時間に、経過させすぎると魔素の拡散が始まる。薬草の魔素が無駄なく液体に移行しているのが確認できた。なるほど、汎用性を増すために自分の魔力を浸透させない必要があるのか。併せて、薬草の魔素をすばやく抽出する必要があるようだ。

「まずは普及品を目指せ。自分の魔力が入ると劣化品の判定を受けるからな。試作するときは魔力を目に集める意識をしろ。魔素の動きがわかるようになったら、尚よい」

 渡されていた『治薬作成法』の本は、一般人用もしくは、学院の初めの教育本とのとことだった。緊急で使用したい人が覚えておきたいときに活用されている。学院で使用する魔術師用の教本は別にあるらしい。その本を基に、さらに個々の魔術・魔導師により創意工夫がある。それも出版されている。ただし各個人の感覚の差がある為、大して役に立たないとか。これからしばらく薬草との格闘が続く。
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