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一章
料理
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そこから数週間ほど経過した。
私たちは、様々な話をした。特に、アルバートさんはよく私に昔の話をしてくれた。
遠い異国の話や、今は亡き部下の話など様々な話をしてくれた。また、金髪の彼を自分の海賊団に誘ったが断られた話もしてくれた。彼らにそのような関係があるとは知らず、驚いた。
彼の楽しい話はアルバートさんの豊富な経験から来るもので、とても面白かった。私は少しアルバートさんが羨ましかった。
一方私には話すことがあまりなかった。と言うのも、私はずっと屋敷で監禁されていたし話し相手も妹のドロシーくらいしかいなかったから、話すネタがない。
「ルイスちゃんは二人兄妹なん?」
「はい、そうですよ」
「…そうなんや」
彼は話すことのない私に色々と質問をした。どうやら私のことをもっと知りたいと思ってくれているらしい。
そんなお喋りを楽しんでいたのだが、海賊が荒々しく入ってきた。いつものひげもじゃではないが、多分ご飯の時間だと思う。ただ、いつもならその手にトレーを持っているが、その男は手ぶらだった。
「今日の飯はなしだ」
「そうなんや」
ここのご飯は不味い。
大抵出てくるのは肉料理か魚料理だ。肉は固くて噛むのが難しく、大量の油で炒めているのかベタベタだ。魚は泥臭く新鮮さの欠片もなく、こちらはパサパサでまずい。一口食べただけで食欲がなくなってしまう。
「……」
ただ、黙っておいた。生きていくにはご飯が必要だし、まずいから「なくて良かった」とか言って餓死させられたら困る。
「なんでなん?」
「キッチン係共が揃って熱を出して、俺らが適当に料理をしていたら次の島まで食料が持たなかった。」
本当に無能。ちょっと考えたらわかるだろ。アルバートさんと私は彼らを呆れた顔で見て、黙っていた。海賊はその目線に気付いているのかいないのか、そのまま話し続ける。
「ボスが飯が不味くて食いたくねぇらしい。最近酒しか飲んでない」
ああ、金髪の彼は別に味覚が狂っているわけではない様だ。あのようなご飯を海賊になってから毎日毎日食べているのだとしたら不快で仕方がないだろう。私は初めて彼に同情した。
「捕虜、お前は料理ができるか?」
「出来るわけないやろ、全部部下がやっとったわ」
そうなのか。確かにアルバートさんはほかの海賊団のボスだし、ここの船と同じく下っ端が料理をしていたのだろうな。
「お坊ちゃんは包丁も持ったことがないだろう」
「できます」
海賊の目は侮蔑に満ちていた。まるでお坊ちゃんだから何も出来ないだろと言いたげな顔だ。
確かに今世ではお父様に勉学などを禁じられ、ここ数年で始まった軍隊並みの体術の授業以外ほとんど何も知らない無知と言っていい。が、私には前世の経験の記憶がある。具体的に自分が誰でどんな人と関わってきたかなどはほとんど思い出せないが、その人生で培った技術の記憶だけは残っていた。
(前世は男で、人並み以上に料理をしていたはずだ)
ただ、そんなこと海賊は知る由もないし、そもそも別にわざわざ料理するメリットないから自己主張する必要はなかった。黙っていたら良かったかもしれない。
「できるなら着いてこい」
「………」
結局着いて行かされた
キッチンは散々な見た目だった。
そこら中から腐敗した食材の異臭が漂っており、汚れた食器や包み紙、生ゴミが雑然と積み重ねられていた。床はぬれていて、足元にはねとついた液体が広がっている。
「…………汚すぎ」
料理がこんな汚いキッチンで作られていたとは。吐き気がする。空気は腐敗と焦げ臭さで充満し、喉に刺さるような臭いが鼻腔を刺激した。目の前に広がる光景は、まるで食欲を奪い取られるような悪夢のようだった。
こんなところで料理なんかできない。海賊共にその辺を片付けるように指示を出した。
「ついてこい」
私は食料庫に案内された。
本当にろくなものがない。肉は見当たらなかったが、代わりに魚があった。しかし、魚の周りにはハエが集まっており、腐敗は進んでいないように見えたが、私には食べたいとは思えなかった。
一方、果物は幾つか残っていた。そして、新鮮なパンも一部残っていた。
「確かにろくなものがない」
「次の港まであと一日、ボスにだけでも食べていただく。俺たちの腕ではこれだけの食材料理は作れない」
そういうことか。だから先ほどボスがご飯を食べないと言っていたのか。あの人だけにでも食べてもらうって…あんなにも脅えているくせに、あの男のどこを何をそんなに信仰しているのか。他の部下たちが殺されているというのに。
「そもそも、私が作ってあの人食べるんですか?」
海賊は首を振った。そりゃそうだ。人間不信のように見える海賊のボスが、敵対する私の料理なんて食べるわけが無い。
「お前が作ったと言わなければいい」
「なるほど」
私は一つ頷いた。
私たちは、様々な話をした。特に、アルバートさんはよく私に昔の話をしてくれた。
遠い異国の話や、今は亡き部下の話など様々な話をしてくれた。また、金髪の彼を自分の海賊団に誘ったが断られた話もしてくれた。彼らにそのような関係があるとは知らず、驚いた。
彼の楽しい話はアルバートさんの豊富な経験から来るもので、とても面白かった。私は少しアルバートさんが羨ましかった。
一方私には話すことがあまりなかった。と言うのも、私はずっと屋敷で監禁されていたし話し相手も妹のドロシーくらいしかいなかったから、話すネタがない。
「ルイスちゃんは二人兄妹なん?」
「はい、そうですよ」
「…そうなんや」
彼は話すことのない私に色々と質問をした。どうやら私のことをもっと知りたいと思ってくれているらしい。
そんなお喋りを楽しんでいたのだが、海賊が荒々しく入ってきた。いつものひげもじゃではないが、多分ご飯の時間だと思う。ただ、いつもならその手にトレーを持っているが、その男は手ぶらだった。
「今日の飯はなしだ」
「そうなんや」
ここのご飯は不味い。
大抵出てくるのは肉料理か魚料理だ。肉は固くて噛むのが難しく、大量の油で炒めているのかベタベタだ。魚は泥臭く新鮮さの欠片もなく、こちらはパサパサでまずい。一口食べただけで食欲がなくなってしまう。
「……」
ただ、黙っておいた。生きていくにはご飯が必要だし、まずいから「なくて良かった」とか言って餓死させられたら困る。
「なんでなん?」
「キッチン係共が揃って熱を出して、俺らが適当に料理をしていたら次の島まで食料が持たなかった。」
本当に無能。ちょっと考えたらわかるだろ。アルバートさんと私は彼らを呆れた顔で見て、黙っていた。海賊はその目線に気付いているのかいないのか、そのまま話し続ける。
「ボスが飯が不味くて食いたくねぇらしい。最近酒しか飲んでない」
ああ、金髪の彼は別に味覚が狂っているわけではない様だ。あのようなご飯を海賊になってから毎日毎日食べているのだとしたら不快で仕方がないだろう。私は初めて彼に同情した。
「捕虜、お前は料理ができるか?」
「出来るわけないやろ、全部部下がやっとったわ」
そうなのか。確かにアルバートさんはほかの海賊団のボスだし、ここの船と同じく下っ端が料理をしていたのだろうな。
「お坊ちゃんは包丁も持ったことがないだろう」
「できます」
海賊の目は侮蔑に満ちていた。まるでお坊ちゃんだから何も出来ないだろと言いたげな顔だ。
確かに今世ではお父様に勉学などを禁じられ、ここ数年で始まった軍隊並みの体術の授業以外ほとんど何も知らない無知と言っていい。が、私には前世の経験の記憶がある。具体的に自分が誰でどんな人と関わってきたかなどはほとんど思い出せないが、その人生で培った技術の記憶だけは残っていた。
(前世は男で、人並み以上に料理をしていたはずだ)
ただ、そんなこと海賊は知る由もないし、そもそも別にわざわざ料理するメリットないから自己主張する必要はなかった。黙っていたら良かったかもしれない。
「できるなら着いてこい」
「………」
結局着いて行かされた
キッチンは散々な見た目だった。
そこら中から腐敗した食材の異臭が漂っており、汚れた食器や包み紙、生ゴミが雑然と積み重ねられていた。床はぬれていて、足元にはねとついた液体が広がっている。
「…………汚すぎ」
料理がこんな汚いキッチンで作られていたとは。吐き気がする。空気は腐敗と焦げ臭さで充満し、喉に刺さるような臭いが鼻腔を刺激した。目の前に広がる光景は、まるで食欲を奪い取られるような悪夢のようだった。
こんなところで料理なんかできない。海賊共にその辺を片付けるように指示を出した。
「ついてこい」
私は食料庫に案内された。
本当にろくなものがない。肉は見当たらなかったが、代わりに魚があった。しかし、魚の周りにはハエが集まっており、腐敗は進んでいないように見えたが、私には食べたいとは思えなかった。
一方、果物は幾つか残っていた。そして、新鮮なパンも一部残っていた。
「確かにろくなものがない」
「次の港まであと一日、ボスにだけでも食べていただく。俺たちの腕ではこれだけの食材料理は作れない」
そういうことか。だから先ほどボスがご飯を食べないと言っていたのか。あの人だけにでも食べてもらうって…あんなにも脅えているくせに、あの男のどこを何をそんなに信仰しているのか。他の部下たちが殺されているというのに。
「そもそも、私が作ってあの人食べるんですか?」
海賊は首を振った。そりゃそうだ。人間不信のように見える海賊のボスが、敵対する私の料理なんて食べるわけが無い。
「お前が作ったと言わなければいい」
「なるほど」
私は一つ頷いた。
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