美形貴族のお坊ちゃん×極悪非道のツン/ヤンデレ海賊の激甘執着ラヴ

ゆっくり

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一章

脱走

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 2週間ほどが経過した。ただし、窓から光が差し込まないため、実際にはそれくらいの時間が経過したのかはわからない。

「この環境で一人で1ヶ月も過ごしてたの?」

「そうやで。まじで頭おかしなるかと思ったわ」

 ここでは頭がおかしくなるのも納得だ。ここには何もない。暇つぶしもなく、景色も変わらず、ご飯を食べるだけ。時折立ち上がってストレッチするものの、肩が凝っているようで、締まった感触がある。この環境は私たちに大きな悪影響を与えていた。




 突如として船が激しく揺れ、波の音が耳に響いた。船体は一瞬不安定な揺れに包まれ、その後、何かに激しく衝突したかのような衝撃が船体を貫いた。
 私はストレッチのために立ち上がっていたのだが、目を白黒させて一旦座り込んだ。

「あー多分どっかに着いたんちゃう?」

 彼は慣れたような口調でそう言った。依然として床にゆったりとした体制で座っている。

「着いた?奴隷市場のある国に着いたときにはそんな衝撃なかったけど…」

「奴隷市場っていったらあそこか、確かあそこは海賊が許容されてる国やったやろ?」

 確かにそうだ。彼らはまるで自分たちは漁師だぞというような顔で海賊船を港に停めていた。しかし、一度も海軍を呼び寄せる様子は見せなかった。

「大急ぎで停めて防波堤かなんかにぶちあたったんやろ。前の国と違って、ここは海賊捕まる国なんちゃう?」

「そうなんだ」

 そういえばこの人も海賊だった。そう言う事情に詳しいのだろう。

「てことは、いま港にいるってことだよね。この船の甲板から陸に逃げ出したりできないかな」

「この牢屋抜けられるんやったらできるんちゃう?」

 彼は少し意地悪な顔で私にそう言った。私は少し考えるが、どう考えてもこの牢屋を鍵なしで抜け出す方法が見つからなかった。

「うーん、無理かも」

 そこがいちばんの難関だ。腕も通らないほどに格子が張ってあるので、鍵が開かない限り出ることは出来ないだろう。
 私はまあ理想論だなと投げやりになって寝転がった。ピンク髪の彼はそんな態度の私を見て少し笑っていた。



「おい」

 そこには彼の部下の一人の、毛むくじゃらが立っていた。私はその男を睨む。
 もしかして、また奴隷市場に連れて行かれるのだろうか。

「逃がしてやる。こっちに来い」

 その言葉は明らかに罠のように聞こえたので、私は眉を顰めた。彼が一体何を言っているのか理解できなかった。私が出て行こうと言った瞬間、折檻されるのではないのか?

「誰が信じるんです?その言葉」

「信じるか、死ぬかだ」

 死ぬ。
 ついに、私の処刑が船内で行われることになるのか。少し目を閉じてから、再びその毛むくじゃらの光景に向き直った。

「つまり、私はそろそろ彼に殺されるってことですか」

「……違う」

 私はその男の返答にさらに訝しむ。違う?何が違うのか。その男は周囲を見て、誰もいないことを確認すると、ヒソっと声を小さくして言った。

「近々、船長の部下の何人かが、クーデターを決行しようと目論んでる。この船を彼ごと沈めて殺すつもりだ」

「クーデターって……」

 クーデターとは反乱行為だ。上の人間の権力の転覆を試みて、成功すれば新たな権力者が生まれる。そして大抵その上の人間は殺される。
 金髪の彼のあの日々の圧政の数々を思えば、この行為は妥当なのかもしれない。私は少しずつ話が読めてきた。

「つまり、逃げなければ私たちは牢屋に閉じ込められたまま溺れて死ぬってこと?」

「そうだ」

 だから今のうちに逃してやろうという話か。私はまだ彼のことを信用しきってはいなかったが、これはまたとないチャンスだということもわかっていた。
 牢屋の鍵が開けられ、その男が掌を差し出してきた。私はその男の手を握る。掌には荒れた手のひらの感触があった。

「…待ってください、私だけではなくこの人も連れて行ってほしい」

「…この人つーと、アルバートの野郎か?」

 ピンク髪の彼はアルバートというらしい。アルバートさんの方を見たら、まだあのゆったりとした体勢でこちらを悠々と見ていた。

「そりゃ無理な相談だ。俺らはこいつに恨みを買っている。こいつを逃せば俺らは痛い目を見るだろうな」

「………じゃあ行きません。行かない」

 私の返答に、静けさが船内を支配した。海の波音と風のざわめきだけが聞こえ、緊張感が漂う。
 しかし、急に船内に笑い声が響き渡った。それは明るく、まるで闇を切り裂くようだった。私は振り返り、アルバートさんが笑っているのを見た。船内の緊張が、彼の笑顔と共にほんの少し緩和された瞬間だった。

「ばかやな、ルイスちゃん。うちなんか放っておいてサッサ行きゃええねん」

「でも……アルバートさん…」

「こんな状況で会ったからうちに情が湧いてるだけやで。さっさと大海を知ってうちのことなんか忘れや、あんた箱入りの小鳥ちゃんなんやから」

 彼はヘラヘラとしながらも、確固たる諦めのような感情をその目に宿していた。その目は私に切なく映った。

「さっさと行くぞ。甲板に上がったらバレないように行け。幸いお頭連中はご不在だからな」

 男が私の手を無理やり引いていく。

「アルバートさん、やだ、一緒に行きたい」

「ばいばーい元気でな~」
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