上 下
8 / 22
一章

奴隷市場

しおりを挟む
 堂々と海賊船で停泊している海賊船の数々を見て驚く。この国の王族と海賊は共存関係があるらしい。海賊が海軍に捕まっていないのは不思議に感じられた。祖国との価値観の違いに戸惑った。

 連れて行かれた場所は、金髪の男の言った通り奴隷市場だった。人間を檻に入れて売るなんて、恐ろしい考えがあるものだなとどこか他人事で見ていた。
 船長が前を歩きながら、私を振り返ってチラッと見てきた。その瞬間、その男は辟易とした顔をし、あからさまにため息をついた。なんだ?何が言いたいんだ。

「なに楽しそうにしてやがる。目で腐ってんのか、それともお貴族様だから奴隷市場なんて見慣れてるか?」

 彼が私の髪を掴んで引き寄せた。激しい痛みが地肌を襲う。髪の毛が彼の手の中で絡まってプチ…という音がした。
 なぜそのようなことをされるのか理解できず、彼の瞳をキョトンと見つめ返した。彼は、そんな私の様子を見て舌打ちをした。眉をひそめ、口元を引き攣らせるような不機嫌な表情を浮かべいる。

「危機感のかけらもねぇな。今までは買う側だったかも知れねぇが、今回は売られる側ってことわかってんのか?」

 そう凄んでこられても、私は船に帰りたくないので少し笑ってしまった。彼はその厳しい表情の前でうっすら困惑した表情を顔に浮かべた。自分自身でも、流石に状況に合っていない顔をしている自覚はある。

「なんだこいつ、頭おかしいんじゃねぇか?」

 彼は冷たい瞳を浮かべて、私の体を無理矢理押した。彼の方に倒れ込んでいたのだが、後ろにいた彼の部下の方に押し付けられた。相変わらずそいつは不潔で、見るだけで嫌悪感が湧いた。こいつは汚いから嫌だ。

 その後、奴隷市場を一周してどこがどう恐ろしいのかの説明を逐一されたが、あいにく奴隷が売られるどのタイミングで動くのが一番逃げられる確率が高いかを考えていたので話を聞いていなかった。

「……いいんだな、本当に売っちまうが」

 船長の彼の厳しい視線が私に突き刺さる。だが私は恐れずににっこりと笑みを浮かべた。彼が手続きに没頭している間に、後ろの男に向かって素早く蹴りを放ち、北の階段を駆け上がって逃げることが1番良い作戦だろう。
 船長の彼が手続きに向かった。彼の姿が物陰に隠れたのを確認すると、私は機敏に動く。船長の背後にいる大男に自分の足を絡めさせ、柔道の投げのようにその男を倒す。驚愕した表情を浮かべる男の頭を踏みつけて退けると、急いで北へと駆け出す。足音が響き渡る中、外に出られる出口のゲートを目指す。そこは特権層と海賊しか出入りができない特別のゲートらしい。私は胸が高鳴る緊張感と戦いながら、自由を求めて必死に目的地へと向かった。

 裸足で必死に駆け抜け、ゲート前に到着した。見張りが5人もいて、ここからの脱出は不可能に見えた。逃げた奴隷そのものの格好をしているため、目立ちすぎる。
 壁を登るしかないが、腕が縛られている。しかし、入ってきたときに見逃していた搬入ゲートがあることを思い出した。奴隷たちの食糧物資などを運ぶためのゲートだ。そこから、外から物を運び込むタイミングで外に出る作戦だ。
 搬入ゲートへと走るが、周囲の人々に気付かれてしまった。急いで行動しなければならない。そのとき、大きなサイレンの音が鳴り響いた。かなりうるさい音だ。

『奴隷脱走‥奴隷脱走…直ちに捕えよ』

 ああ、おおごとになっている。
 慌ただしいサイレンの音が緊張を高める中、私は裸足で駆け抜けてきた。ゲート前には多くの見張りが5人も立ち塞がっており、私は行く手を阻まれた。周囲の人々が騒然とし始め、混乱が広がる。私の逃走がおおごととなり、警備が強化されているのだろう。
 どうやらこの作戦は無謀だったようだ。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...