クリスマスバースディー

詩織

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長期出張

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付き合って半年になる頃

「えっ?3ヶ月!?」

「まぁ、実際は3ヶ月までないけど」

来月から約3ヶ月間出張があると言われた。

「ごめん」

「なんで裕貴が謝るの?」

「まぁ、そうだけど」

「大事なお仕事なんだもん。仕方ないよ」

これからもあるんだろうな。

そりゃ、まぁこういう立場だもんな。

「毎日電話する」

「うん、嬉しい。でも疲れたときはちゃんと休んでほしい。だから無理に連絡しないでいいからね」

私がそういうと

ギュッと抱きしめてくれて

「…わかった」

裕貴もまだ取締役になって間もない。

本当は大変なのに私にはそういうの見せない。

他の人に言っちゃいけないこともあるから私にも言えないんだと思うけど、大変なのときに助けれないってのが無力だなって思う。


とは解ってても、これだけ毎日甘い日々を過して急にいなくなるのは淋しい。

ある日お酒を2人で飲んだ日。

もう少しで出張だと思うと寂しくってつい

「いやー、裕貴いないのさびしー」

「可奈美、飲みすぎだって」

「だってぇー、寂しんだもーん」

「俺はいつもここに居るよ」

「いなくなるじゃーん」

「居るよ!」

「裕貴と一緒がいいー!」

完璧にやってしまってた。

「ほら、少し寝よう」

「ううう」

「可奈美、泣かないの」

「裕貴!」

と言って、自分から抱きしめた。

「こんなにさ、毎日甘やかされて、それで3ヶ月って耐えられる?」

「可奈美…」

「私、裕貴いないとダメなの」

いかん!脳のどこかで解ってても、酔っ払ってる私はもう寂しさを全て言ってしまった。

「裕貴ぃー」





うーん…

ハッ!

あれ?私…

「あっ…」

思い出した。昨日裕貴に…

寝室には1人だったので、1階のリビングに行ってみると

「あっ、おきた?」

裕貴が朝ごはんを作ってくれてた。

「おはよう!」

優しい笑顔で挨拶されて

「お、おはよう…ございます」

「もう出来るから座って」

と言われて素直に椅子に座った。

テーブルには料理が準備されていた。


3分くらいで準備が出来て

「じゃ、食べよっか」

と言ってご飯を食べ始めた。

「あのー、裕貴昨日は…」 

「ん?」

「…ごめんなさい」

食べる前に頭を下げて謝った。

「いや、嬉しいよ」

「え?」

「だって、仕事だから仕方ないってしか言わないし、本当はあまり寂しくないのかなって思ってたから」

「そ、そんなこと…」

「たまにはお酒のまして本心聞かないと」

と、笑顔で言われた。


そっか、迷惑かけまいと言ったつもりが、全然寂しくないようにも見えるのか

「私は裕貴を信じてるから言えてるんだよ。でもやっぱり寂しいのもあったのかな」

と、恥ずかしそうに言うと

「俺も寂しいよ」



そして裕貴長い出張に行ってしまった。

見送りしたかったけど、引き止めそうで怖かったので空港の見送りは我慢した。

裕貴がいない毎日がこんなに辛いとは…

「愛しの彼氏様がいないのは、辛そうですね」

休憩所で珈琲を飲んでたら真下君に声を掛けられた。

「面白がってるでょ?」

「いえ全然です。最近の課長は色気があると言われてますよ」

「は?」

なにそれ?

「恋して綺麗になってるとか?」

「そんなのあるわけないでしょう?」

「いやー、俺からみてもなんか変わった気がします」

「ないない!」

「寂しかったらいつでも飲み相手しますからね」

「…」



「まぁ、少しは変わったかもな」

帰りの居酒屋で松永さんにも言われた。

「え?」

「女らしくなったというか…」

「今まで私どう思われてたんですか?」

「いや、まぁ恋して変わったってことだろ?」

そんなもんなの?

全く本人は気がついてないが

「で、見合いも見送りになったんだから、話とかあった?」

「うーん、特には」

「え?そうなのか?」

「仕事も覚えること多いし、まだ私達の期間も短いしね。いつかは考えてるかもだけどすぐはないのかなー」

「そうなのか。意外だな」

「え?」

「あの取締役なら、なんかガンガン行きそうに見えたから」
 
そういう感じの言い方は何度か聞いたけど、実際のプロポーズ的なのはないしな。

まだ私達は恋人としてやっていたほうがいいと思ってるのかもしれない。



家に帰るとちょうど裕貴から電話がきた

「おかえり」

テレビ電話なので裕貴の背景が見える

「そっち朝?」

「あ、うん。そそ」

「まだ出張来たばかりなのに、可奈美に会いたくってたまらねー」

と、言ってる裕貴が嬉しくって笑ってしまった。

「でも、こうやって話せるし少しは寂しさも緩和されてるから」

「それは俺も」

2日に一回はこうやって話してる。

本当は忙しいのにそれを顔に見せずニコニコしてる裕貴って凄いなって思う。

「じゃそろそろ行くね!」

「行ってらっしゃい!」

私も仕事頑張らないと!

裕貴に負けてられない。

そう思って翌日から気を引き締めようとしてた。



そんな時に

「えっ?」

部下が大きなミスをして、部長と課長の私が呼びされた。

「君たちの管理がしっかりしてないから…」

「責任感じてるのかね?」

「大きな損害なんだぞ」

と、他の部署、幹部からこっぴどく叱られた。

そして

「だから女の子上司はダメなんだよ」

誰かがボソっと言った。

男女関係ないだろ!と言いたかったが、ぐっと堪えた。

悔しい!!

押し殺すように頭を下げて会議室を出た。

「部長、申し訳ありませんでした。」

一緒に頭を下げてくれて部長。

「君のせいじゃない。あんなの気にするな!」

部長は優しく言ってくれた。

自分の席に戻ると

「課長!」

心配してくれる部下たち。

「大丈夫よ!私がもっと皆のことしっっかりみてればこんなことに…、ごめんね」

メールで送ったとき、一番まずい情報を外部に添付して送ってしまった。

幸いパスワードがないと、そのファイルは開けないので見ることは出来ないが、どういう情報をどこに送ろうとしてたのか、解ってしまった。

「すいません」

メールで送った人、そのチームのリーダー、そのメンバ皆が謝りにきて

「これから気をつけよう!」

それで話しは落ち着くかに見えた。



しかし…

幹部の一人が外部に漏れた会社に対してかなりの対抗意識があって、我々の始末書だけでは納得がいかないと言い出してた。

そして

「それって…、左遷ってことですか?」

部長から言いにくそうに言われたのは、私が中部支店に転勤となると言うことだ。

しかも転勤先では役職はない。

「何度も話し合ったんだが、上のやつらは考えを変えてくれなくってな」 

「そ、そんな…」

部長、疲れた顔してる。

「部長!色々すいません」

「いや、全く力になれなかった。俺も一緒に行くと言ったんだが…」

「お気持ちだけで有り難いです」

私は部長に頭を下げた。

多分だけど、それを言ったのは女だからって言ったヤツな気がする。

とりあえず、多分ってかもうここ本社に戻ることはないだろう。

よっぽど、腹の虫が収まらなかったのか…、1度のトラブルてで左遷って…



「そんな、馬鹿な!!」

松永さんに話したら怒りだした。

「お前は毎日真剣に取り組んでたよ!そこも評価せず転勤て…」

泣きそうで泣けない顔をみて

「ちょっとこっちでも動いてみる」

「いや!いいです。そんなことして松永さんとかまでになにかあったら、そっちのが辛い。」

「でもな!」

「本当に大丈夫です!部長もかなり掛け合ってくれたそうです。だからもう十分です」

「…」

松永さんは、何も言えないでいる。

「大丈夫ですから」

これ以上私のために、誰かが動くのは…

悔しいけど他の人には迷惑かけたくなかった。

数日後

「課長!」

「中部支店に転勤って本当ですか?」

「あ、うん、」

まだ言ってないのに、情報は早いな。

「それって、もしかして…」

「あー、私が志願してたのよ!前から」

「え?」

そうは言ったが、みんな納得してない顔をしてた。



休憩所で珈琲を飲む。

この休憩所。意外に和むんだよな。

あとどれくらい来れるんだろう

「課長」

真下君が心配そうな顔をしてる。

私は横に首をふった。

「なんで?」

「この件は私だけの問題だから、お願いだから裕貴には言わないで」

「!?」

びっくりした顔をして

「今一番大変な時だと思うの。私から言うからこのことで裕貴には言わないで欲しいの。」

「でも中部支店に行ったら、引っ越すわけだし嫌でも解ることになるでしょう」

「…そうね。そこも考える」

「課長はいい人すぎですよ」

そう言った真下君に笑顔で返した。

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