毎日!アルスの日常365

星月

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睦月

テーマ【仕事初め】(全4話)

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~はじめに~

今回のテーマは【仕事初め】です。

お正月休みが終わり、今日から仕事が始まったという人も多いはず。

今回は4タイトル全て、同じテーマに沿ったお話です。
各タイトルの世界観をお楽しみください。



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《ナタモチ》

部屋の一角で、一心に刃物を研ぐナタモチ。
砥石と刃が擦れ合う、滑らかな音が一帯に響いていた。

美優「...なんでそれの手入れしてるの?」

それを見掛けた美優が、声をかける。

ナタモチ「本日から私は仕事が始まりますのでね。コンディションを整え、気持ちを高めているのですよ。」

美優「そ、そうなんだ...」

そういえば、私の両親も今日から仕事があると言っていた。
仕事人の休み明けは大体、今日であるのだろうか。

美優「今15時なんですけど...何時からなんですか?」

思えば、今は午後だ。
もしかしたら夜勤なのかもしれない。

ナタモチ「そうですねぇ...今の時期は18時開始なので、まだ時間はありますよ。」

時計を確認する男性。

ていうか、今気付いたんだけどナタを使う仕事してるの?
18時は、あのゲームの始まる時間帯と同じであるが...。

美優「え、もしかして仕事って...。」

私は察してしまった。
いやまさか、本当にそうなのだろうか。

ナタモチ「そうです、あのゲームですよ。」

今の参加者の皆さん、お疲れさまです。
 


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《アルスの日常》

午前10時頃、エルとクレは、ある家のインターホンを押した。
庭の方から、アルスがスコップとじょうろを持ってやって来た。

アルス「おいっす」

彼の手は、土や泥で汚れている。

エル「なにしてたの?」

手の汚れを払うアルスに、エルが問いかける。

アルス「庭の手入れだ」

庭の端に道具を置きながら、こう続ける。

アルス「家族や知り合いが、今日から仕事なんだ。だから俺もちょっとは働いてみることにしたってわけ。」

先ほどアルスが行っていたのは、水で地面を柔らかくして、雑草を抜く作業だったらしい。
だから手があんなにも汚れていたのか。

アルス「おかげさまで腰が痛い目に、あいたたた。ホンマにいてぇわ。」

腰を叩きながら、玄関に置いてある鞄を持つ。

アルス「ほんで、どこに行くんだっけ?」
エル「年末年始閉まってた行きつけの喫茶店が、今日からまた開くからね。だから早速お邪魔させてもらおうと思って。」

とあるカフェの写真を見せながら言う。

クレ「いや~楽しみだよ!はぅ~...早く食べたいの~...。」

クレは喫茶店が休みだった1週間、そのことしか考えていなかったらしい。
彼女はすでに、あの喫茶店のとりことなってしまっている。

エル「本当にすきだよね~」
アルス「相変わらず甘いものに目がないんだな」

そんなクレを見て、2人は微笑む。

エル「まあ、そんなわけで喫茶店へレッツゴー!」



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《四元戦士の理》

台所は、使った食器で溢れていた。

温水を出せば、手先が凍えることなく洗い物をすることができる。
そんな、ライフハックとも呼べない誰もが知る常識を実践しようにも、こう寒い日が続くとなかなか気が進まない。

始めてしまえば済む話なんだけど、それまでが長いから苦労する。

鼻歌交じりで皿を洗っていると、携帯が鳴った。
相手は同じ学校の教員仲間である、斉藤先生だった。

シーワ「はいシーワです」
斉藤「シーワ先生!いまどこにいるんですか!?」

電話に出るなり、焦った様子を見せる。

シーワ「どうしたんだいそんなに慌てちゃって」

その原因は、彼の次の言葉で分かった。

斉藤「もう職員会議が始まる時間ですよ!あとはシーワ先生だけなんですが...」

そうか、今日学校に用事があるんだった。
なんか教員一人一人が、今年の抱負や方針を発表するという謎の会議が、今日の13時からあるんだった。

シーワ「ごめんなさいね、今親戚の看病をしているの。つきっきりで昨日からずっとそばにいて。」

私は淡々と、そう述べる。

シーワ「だから私は会議へ出ることができない。そう伝えておいてくれる?」

ああ、心が痛い。
咄嗟に浮かんだ戯言なので、もちろんそのような事実は一切ない。

斉藤「そうだったんですね...分かりました。あれ?でもさっきどうしたんだとかなんとか」

私は電話を切り、止めていた手を動かす。

シーワ「...」

無心で、ひたすら減る気配のない食器を洗っていく。

シーワ「これやる意味無いね」

不意にそんな事実に気が付く。

私はお湯を止め、手にしているスポンジと食器を置き、タオルで手を拭いた。

シーワ「よ~し...もう少し寝よう。」


今の時間は10時。
ちょっとした仮眠を取るには、十分ゆとりがある。

私に限って、起きたら昼過ぎ大惨事など...そんな失態は犯さないだろう。
そんな自信を抱き、眠りについた。

数時間後...

電話の着信音に気付き、目を覚ます。
電話に出ると、斉藤先生の慌てた声が聞こえた。

斉藤「シーワ先生!いまどこにいるんですか!?もう職員会議が始まる時間ですよ!」

時刻は13時大惨事。


支度を済ませ、玄関の扉を開ける。
今回こそはゆとりを持って家を出れた。

さて...しばらくぶりの学校だ。

この長い休みで、すっかり怠けぐせが付いてしまった。

今日からはしっかりする、過ちを繰り返してはならない。
自分にそう言い聞かせた。

シーワ「帰ったら...洗い物しないとね。」

台所は、使った食器で溢れていた。



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《電脳戦士の理》

ホームシイク「おはようございます、リーテ様。」

ノックをしてから、室内へと入るホームシイク。
閉めた扉の前でお辞儀をし、窓際のカーテンを開ける。

ホームシイク「リーテ様、本日の天気は晴れでございますが、かなり気温が低いようです。お出掛けの際は、服装に要注意を。」

鍵を外し、窓を開放する。
部屋には外の空気が入り込み、布団の中に潜っているにも関わらず、寒さを感じる。

ホームシイク「リーテ様、本日の朝食のスープはいかがなさいましょう。」
リーテ「...コーンスープが飲みたい。」

布団から顔を出し、目をこすりながらそう答えた。

ホームシイク「承知いたしました。シェフの方へお伝えして参ります。」

ホームシイクは部屋の扉を開け、一礼してから部屋を出た。



軽く着替えてから、食事の用意されている大広間へと向かった。
部屋へ入ると、使い人達の姿が見えた。

ホームシイク「リーテ様、本日のお品書きです。それではどうぞごゆっくり、ご堪能ください。」

席に着いた僕に、1枚の紙を渡す。
そこには、これからありつく朝食のメニュー名と、カロリーが書かれていた。

リーテ「ありがとう。...そういえば、今日からみんないるんだね。」

周りの使い人達を見渡しながら、そう言った。
各自、昨日まで冬期休暇を取っていたので、彼らがいない間は寂しく感じていた。

ホームシイク「ええ。いい休みだったとお話ししてくれる方もたくさんいましたよ。是非、聞いてあげてください。」

ホームシイクは微笑み、より一層優しい表情となる。
そんな姿を見るのが、これまたいい。

リーテ「...僕、気になってることがあるんだけどさ。」

リーテは、持っていたお品書きの紙を机に置いた。

リーテ「ホームシイクの休みって、いつなの?」

今思えば、ホームシイクは年末年始どころかほぼ毎日、僕に付き添っていた。
休みを取らなくて、大丈夫なのだろうか。
そんな心配をするリーテ。

ホームシイク「私は、リーテ様の生活の補佐を勤める事が生き甲斐であり、生活の一部までありますからね。」

優しい表情のまま、そう話すホームシイク。

ホームシイク「リーテ様がお気を遣うことはございませんよ。」

自分で言うのもなんだけど、これは本心なんだと思い、僕はとても愛されているんだと感じる。

リーテ「そう...なんだ。」

僕はうつむき、照れた表情を隠す。

リーテ「...ホームシイク。」

僕は彼の名を口にする。

リーテ「遅れたけど改めて、今年もよろしくね。」
ホームシイク「はい、リーテ様。私の方こそよろしくお願い致します。」

お互い微笑み合う姿を見た使い人達も、遠くで暖かい表情を浮かべる。

少し長くなってしまったけど、リーテは食事にありついた。
まずは希望したコーンスープから...

リーテ「あちっ!」

冷めていると思って油断していたが、全然余裕で熱かった。

ホームシイク「リーテ様!ただいま氷をお持ちするよう呼び掛けますぞ!?」

普段冷静なホームシイクが、慌てた様子で駆け寄った。
滅多に見られない姿...なんて言ってる場合か。

リーテ「だ、大丈夫だよ!ちょっとビックリしただけだから...。」

手で仰ぎながら、無理やり笑みを浮かべる。

茉愛「私がフーフーしてあげようか?」

どこからか、聞き覚えのある声が聞こえた。
声の正体は、目の前に飾られた花束に隠れていた、茉愛だった。

堪能できるか!

リーテ「ホームシイク...やっぱり氷持ってきて。」

舌先に遅れて、ヒリヒリとした感覚が襲ってきた。
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