上 下
39 / 72
第二部 巫女

37 トーク・トゥ・ハー

しおりを挟む

「先生が《楓の乙女メイプル・メイデン》だったんですか?」
「なんや、知佳やんも知っとったん? 恥ずいなあ」

 知佳は頭の中でそろばんを弾いた。《楓の乙女メイプル・メイデン》が在学していたのはたしか前世紀末だ。二〇年以上前になる。

「……先生、何歳なんですか」

 冨士野はどう見ても、三〇前後にしか見えない。

「魔女は自分の年なんて数えへんのよ」冨士野はウィンクした。「顔見せもすんだし、もう帰ってええ?」
「そんな」蒼衣は言った。「もうちょっとゆっくり――」
「久しぶりの再会なのに随分つれないじゃない、楓」夢路が呼び留めた。「それにしてもすっかり年を取ったわね。気づかなかったわ」

 冨士野は振り向いた。

「あら、夢路さん」冨士野は表情を明るめた。「懐かしいなあ。直接話すのは何年振りやろ」
「さあね。神様も年なんて数えないから」
「夢路さんは変わらんなあ」
「あなたは相変わらずものぐさみたいだけどね。もうちょっと早くこの子たちを助けられたはずでしょ」
「これでも裏では暗躍しとったんやけどなあ」
「どうだか。去年の二年生だって説得に失敗したじゃない。それで巫女は空中分解。残った子はどうなったかしら」
「夢路さん、それは――」蒼衣は言った。
「そやな」冨士野は静かに言った。「そもそも、ああなる前に手を打っておけばよかったんやと思う」
「そうよ。夢路だってやりたくてやってるわけじゃないんだから。神隠しはあくまで最後の手段なの」夢路は言った。「お互い、穏やかな日常を送れるならそれに越したことはないでしょう? 夢路はそれ以上のものを望んだことなんてないわよ」

 どこが遠くで工事をしているらしい。さっきまで気づかなかったドリルのような音が聞こえてくる。

「せっかくお越しになられたんだから、お茶でも飲んでいってください」蒼衣は掌をぱんと重ね、言った。「茶楽部の顧問、引き受けてくれるんでしょう?」
「そうだな。今後の話もしておきたいし」カナが同意する。

 冨士野は頬を掻いた。困ったように笑い、ため息混じりに言う。

「今度は逃げられへんようやな」冨士野はスリッパを脱いで畳にあがった。「今日から茶楽部の顧問を勤めさせていただく冨士野楓や。よろしゅうな」

   *** ***

「それで廃部を免れたってわけですね」アヤは言った。「市川先輩の入部と、冨士野先生の顧問就任で」

 知佳の部屋だった。アヤはローテーブルの上に問題集を広げている。知佳はその様子を見守りながら、廃部騒動の顛末を語っていた。もちろん、りんご様や巫女といった非現実的な側面には触れず。

「アヤちゃんってどこまで知ってるの?」
「どこまでって……お姉ちゃんたちは天羽先輩の影響で変な部活に入ってるんでしょう? お姉ちゃんが話すから知ってます」

 どうやら、りんご様や巫女のことは知らないらしい。

「高校ってすごいですよね」アヤは半ば呆れたように言った。「色んな部活があって」
「……たぶんよその学校にはないと思うよ」知佳は言った。「あ、アヤちゃんそこまででいったん止めようか」

 知佳はとあるきっかけからアヤの勉強を見ることになった。二月末の受験までの一ヶ月間。主にアヤが市川家を訪れる形で。

「部活って何をやるんですか」

 答案に目を通していると、尋ねられた。

「まあ、いろいろね」
「いろいろ?」

 知佳は壁掛けのカレンダーに目をやった。廃部騒動からおよそ二週間。カレンダーの日付は二月に突入している。今日はちょうど節分だ。十四日に丸がついていた。

「そう、バレンタインとかね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...