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第二部 巫女
37 トーク・トゥ・ハー
しおりを挟む「先生が《楓の乙女》だったんですか?」
「なんや、知佳やんも知っとったん? 恥ずいなあ」
知佳は頭の中でそろばんを弾いた。《楓の乙女》が在学していたのはたしか前世紀末だ。二〇年以上前になる。
「……先生、何歳なんですか」
冨士野はどう見ても、三〇前後にしか見えない。
「魔女は自分の年なんて数えへんのよ」冨士野はウィンクした。「顔見せもすんだし、もう帰ってええ?」
「そんな」蒼衣は言った。「もうちょっとゆっくり――」
「久しぶりの再会なのに随分つれないじゃない、楓」夢路が呼び留めた。「それにしてもすっかり年を取ったわね。気づかなかったわ」
冨士野は振り向いた。
「あら、夢路さん」冨士野は表情を明るめた。「懐かしいなあ。直接話すのは何年振りやろ」
「さあね。神様も年なんて数えないから」
「夢路さんは変わらんなあ」
「あなたは相変わらずものぐさみたいだけどね。もうちょっと早くこの子たちを助けられたはずでしょ」
「これでも裏では暗躍しとったんやけどなあ」
「どうだか。去年の二年生だって説得に失敗したじゃない。それで巫女は空中分解。残った子はどうなったかしら」
「夢路さん、それは――」蒼衣は言った。
「そやな」冨士野は静かに言った。「そもそも、ああなる前に手を打っておけばよかったんやと思う」
「そうよ。夢路だってやりたくてやってるわけじゃないんだから。神隠しはあくまで最後の手段なの」夢路は言った。「お互い、穏やかな日常を送れるならそれに越したことはないでしょう? 夢路はそれ以上のものを望んだことなんてないわよ」
どこが遠くで工事をしているらしい。さっきまで気づかなかったドリルのような音が聞こえてくる。
「せっかくお越しになられたんだから、お茶でも飲んでいってください」蒼衣は掌をぱんと重ね、言った。「茶楽部の顧問、引き受けてくれるんでしょう?」
「そうだな。今後の話もしておきたいし」カナが同意する。
冨士野は頬を掻いた。困ったように笑い、ため息混じりに言う。
「今度は逃げられへんようやな」冨士野はスリッパを脱いで畳にあがった。「今日から茶楽部の顧問を勤めさせていただく冨士野楓や。よろしゅうな」
*** ***
「それで廃部を免れたってわけですね」アヤは言った。「市川先輩の入部と、冨士野先生の顧問就任で」
知佳の部屋だった。アヤはローテーブルの上に問題集を広げている。知佳はその様子を見守りながら、廃部騒動の顛末を語っていた。もちろん、りんご様や巫女といった非現実的な側面には触れず。
「アヤちゃんってどこまで知ってるの?」
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どうやら、りんご様や巫女のことは知らないらしい。
「高校ってすごいですよね」アヤは半ば呆れたように言った。「色んな部活があって」
「……たぶんよその学校にはないと思うよ」知佳は言った。「あ、アヤちゃんそこまででいったん止めようか」
知佳はとあるきっかけからアヤの勉強を見ることになった。二月末の受験までの一ヶ月間。主にアヤが市川家を訪れる形で。
「部活って何をやるんですか」
答案に目を通していると、尋ねられた。
「まあ、いろいろね」
「いろいろ?」
知佳は壁掛けのカレンダーに目をやった。廃部騒動からおよそ二週間。カレンダーの日付は二月に突入している。今日はちょうど節分だ。十四日に丸がついていた。
「そう、バレンタインとかね」
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