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蒼編
3 黒川一星
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三日後の夜。
大学の帰り道で路地裏から人が争う声が聞こえた。慌てて見に行くと、茶髪で細身の男性が男に絡まれているのが見えた。
「おい、ひとぼしちゃん~、いいだろ~っ」
「良くないです! そもそも貴方はライブラで出禁になってるじゃないですか」
「おいおいつれない事を言うなよ~」
険悪な雰囲気で、俺は今にも殴り合いになりそうな2人をハラハラしながら見詰めていた。俺は慣れない大声で叫ぶ。
「おまわりさんこっちですっ」
「っ」
「チッ」
覚えてろよ、と捨て台詞を吐いて男はその場から立ち去った。
まさか自分がこんなアクション映画のような事を言うなんて驚きだった。
俺は急いで男性に近寄る。男性は右の前髪を長くした、ミステリアスな雰囲気を持つ人だった。
「大丈夫でしたか?! 警察は呼んでないんで、取り敢えずここから離れましょう」
「あ…すみません。助けていただいて…。そうですね。ここから離れた方がいいでしょう…ってあれ…」
男性は頭を下げ、聖月を凝視する。そして、驚き目を見開く。そしてさらに言葉を続けた。
「貴方はディメントナンバー3のセイ…?!」
「え?!」
俺は彼と同じく驚きの声を上げた。
――どうしてこの人が俺の肩書を知っているんだ…?!
男性は「あぁ。すみません、すみません」とさらに頭を下げて謝った。
「自己紹介がまだでしたね。俺、近くの『ライブラ』っていう男娼館でスタッフとして働いているんです。黒川一星(くろかわ ひとぼし)っていいます」
そう俺に黒川一星と名乗った彼は笑いかけた。
俺と黒川はカフェに移動した。
お礼がしたいと黒川に頼まれれば断る理由は特になかった。どうして黒川が絡まれているか気になった。
席につきコーヒーを頼んだ黒川は一口飲むと、 経緯を話し始めた。
「あの人はライブラのお客様だったのですが、指名した子に無理なプレイをする人で…。出禁になっていたんです。
俺の事を前から気に入っていたみたいなんですけど…俺はただのスタッフだから行為は出来ないって何度も言っているのに、諦めてくれなくて…。
それでさっき店の買い出しに行こうとしたら、店のところから着けられていたみたいで…。ああして絡まれてしまって。
セイさんに助けて貰って助かりました。あそこから逃げられるアイディアが思い浮かばなかったし…」
「そ…そうだったんですね…。――というか、それってストーカーなんじゃ…」
「やっぱりそうですよね。オーナーに相談しくちゃな…あの人に話したら絶対に怒り爆発させる…どうやって言おうかな…」
そう言う黒川が、羨ましいと思ってしまった。
ディメントでストーカー被害に遭っているとオーナーの小向に言ってもまともにとり合ってくれないような気がしてならない。
こうしてオーナーに相談して、一緒になって考えてくれることが羨ましいと思った。
ちなみに黒川が働いているライブラは、ディメントと同じくマニアックなプレイが売りの男娼館だ。
まだ若く、規模こそかなり小さいが、根強い人気を獲得している。
そこのオーナーはどんな人か気になり、つい俺は聞いてしまっていた。
「あの、ライブラのオーナーってどんな人なんですか? スタッフを思いやっていていい人なんですね」
「いい人はいい人なんですけど、少し過保護というか…ウザいっていうか…。ノリがキツイっていうか…。
俺を雇ってくれている時点でいい人なんですけど…。
セイさんに会ったら絶対ライブラに勧誘するので、会わない方が身のためですよ」
「へぇ…」
オーナーの事を辛辣に言う黒川が至って普通の青年に思えた。
不思議な雰囲気のある彼だが、本当は普通の青年なのかもしれない。
ライブラはディメントよりもスタッフや男娼の関係性が良いのだろう。信頼関係が築けていて羨ましかった。
いやむしろディメントの内部の雰囲気があまり良くないのかもしれない。
ナンバー制度があるせいで、必ず男娼同士に格差が生まれる。勝ち負けがはっきりしている世界だ。
売れれば大金を稼げ、下位になればなる程ハードな行為を求められる。売れていないメンバーはNGプレイをやられても泣き寝入りが多いと聞く。
「はぁ…」
「…何か悩み事でも…?」
大きくため息をつく黒川が気になり、俺は問いかける。すると黒川は頭を下げた。
「ごめんなさいっ! ため息なんてついちゃって! こんな初対面な人に見せていい姿じゃなかったですよね?!」
黒川の頭の天辺を見て、俺は慌てた。
どうしてこんなに人の頭の天辺を見ると焦ってしまうのだろう。
「い、いえ! 何か気になることがあればお話して下さいっ。それで解決するかもしれませんし…。俺じゃ役に立たないかもしれないですけど…」
「セイさん…」
「あ…今更ですけど、俺…君塚聖月って言います。セイはディメントの源氏名なので…」
「あ! そうですよね…、君塚さん…」
黒川はそう言ってから、少しの間黙った。
そして「重い話なんですけど、いいですか?」とおずおずと黒川は言った。俺は「重い話」という言葉に緊張しながら、ゆっくりと頷いた。
妙な空気がテーブルに流れた。黒川は自分の身の上話を話始めた。それはテレビドラマのような話だった。
黒川
「俺には3歳下の妹が居るんです。うちの家庭がよくなくて…。よく妹は親から暴力を受けていたんです。俺はそれをよく庇っていました。
包丁を持ち出された時があって、それから守ろうとしたら右目をざっくりヤられました」
醜い傷になったので、前髪で隠してますとあくまで明るく言った黒川に衝撃を受ける。隠されていた前髪にはそんな悲しい過去があったのだ。
どうしてそんな可哀そうな境遇を明るく言えるのだろう、と思う。
何て事はないように話す黒川の言葉を俺は真剣に聞いていた。
「それで…両親から離れて祖母のところで暮らしているんですけど…。やはり妹…瑠璃(るり)と言うんですが…人からの愛に飢えているんですよね。
俺も愛情を注いできたんですけど、やっぱりそれだけじゃダメみたいです。人からの愛情…特によく父親に暴力を振るわれていたせいか、男の人の愛情に飢えていて…すぐに彼氏を作っているみたいで…」
そう言って黒川はスマホの待ち受け画面の瑠璃と黒川のツーショット写真を見せてきた。仲良さそうに黒川と並びピースをして映っている彼女は綺麗で大人しそうな女の子だった。
これでは兄である黒川は心配でたまらないだろう。両親が信用出来ない中、ただ1人の可愛い妹だ。彼女の目が黒川に似ていた。
「それはいいんですけど…。瑠璃には幸せになってもらいたいので。でも、大学に通ってから中々仲のいい友達が出来ないことに悩んでいたんです。
それで寂しかったのか、町でキャッチされたホストクラブに行ってしまったみたいで…」
「え?」
大学の帰り道で路地裏から人が争う声が聞こえた。慌てて見に行くと、茶髪で細身の男性が男に絡まれているのが見えた。
「おい、ひとぼしちゃん~、いいだろ~っ」
「良くないです! そもそも貴方はライブラで出禁になってるじゃないですか」
「おいおいつれない事を言うなよ~」
険悪な雰囲気で、俺は今にも殴り合いになりそうな2人をハラハラしながら見詰めていた。俺は慣れない大声で叫ぶ。
「おまわりさんこっちですっ」
「っ」
「チッ」
覚えてろよ、と捨て台詞を吐いて男はその場から立ち去った。
まさか自分がこんなアクション映画のような事を言うなんて驚きだった。
俺は急いで男性に近寄る。男性は右の前髪を長くした、ミステリアスな雰囲気を持つ人だった。
「大丈夫でしたか?! 警察は呼んでないんで、取り敢えずここから離れましょう」
「あ…すみません。助けていただいて…。そうですね。ここから離れた方がいいでしょう…ってあれ…」
男性は頭を下げ、聖月を凝視する。そして、驚き目を見開く。そしてさらに言葉を続けた。
「貴方はディメントナンバー3のセイ…?!」
「え?!」
俺は彼と同じく驚きの声を上げた。
――どうしてこの人が俺の肩書を知っているんだ…?!
男性は「あぁ。すみません、すみません」とさらに頭を下げて謝った。
「自己紹介がまだでしたね。俺、近くの『ライブラ』っていう男娼館でスタッフとして働いているんです。黒川一星(くろかわ ひとぼし)っていいます」
そう俺に黒川一星と名乗った彼は笑いかけた。
俺と黒川はカフェに移動した。
お礼がしたいと黒川に頼まれれば断る理由は特になかった。どうして黒川が絡まれているか気になった。
席につきコーヒーを頼んだ黒川は一口飲むと、 経緯を話し始めた。
「あの人はライブラのお客様だったのですが、指名した子に無理なプレイをする人で…。出禁になっていたんです。
俺の事を前から気に入っていたみたいなんですけど…俺はただのスタッフだから行為は出来ないって何度も言っているのに、諦めてくれなくて…。
それでさっき店の買い出しに行こうとしたら、店のところから着けられていたみたいで…。ああして絡まれてしまって。
セイさんに助けて貰って助かりました。あそこから逃げられるアイディアが思い浮かばなかったし…」
「そ…そうだったんですね…。――というか、それってストーカーなんじゃ…」
「やっぱりそうですよね。オーナーに相談しくちゃな…あの人に話したら絶対に怒り爆発させる…どうやって言おうかな…」
そう言う黒川が、羨ましいと思ってしまった。
ディメントでストーカー被害に遭っているとオーナーの小向に言ってもまともにとり合ってくれないような気がしてならない。
こうしてオーナーに相談して、一緒になって考えてくれることが羨ましいと思った。
ちなみに黒川が働いているライブラは、ディメントと同じくマニアックなプレイが売りの男娼館だ。
まだ若く、規模こそかなり小さいが、根強い人気を獲得している。
そこのオーナーはどんな人か気になり、つい俺は聞いてしまっていた。
「あの、ライブラのオーナーってどんな人なんですか? スタッフを思いやっていていい人なんですね」
「いい人はいい人なんですけど、少し過保護というか…ウザいっていうか…。ノリがキツイっていうか…。
俺を雇ってくれている時点でいい人なんですけど…。
セイさんに会ったら絶対ライブラに勧誘するので、会わない方が身のためですよ」
「へぇ…」
オーナーの事を辛辣に言う黒川が至って普通の青年に思えた。
不思議な雰囲気のある彼だが、本当は普通の青年なのかもしれない。
ライブラはディメントよりもスタッフや男娼の関係性が良いのだろう。信頼関係が築けていて羨ましかった。
いやむしろディメントの内部の雰囲気があまり良くないのかもしれない。
ナンバー制度があるせいで、必ず男娼同士に格差が生まれる。勝ち負けがはっきりしている世界だ。
売れれば大金を稼げ、下位になればなる程ハードな行為を求められる。売れていないメンバーはNGプレイをやられても泣き寝入りが多いと聞く。
「はぁ…」
「…何か悩み事でも…?」
大きくため息をつく黒川が気になり、俺は問いかける。すると黒川は頭を下げた。
「ごめんなさいっ! ため息なんてついちゃって! こんな初対面な人に見せていい姿じゃなかったですよね?!」
黒川の頭の天辺を見て、俺は慌てた。
どうしてこんなに人の頭の天辺を見ると焦ってしまうのだろう。
「い、いえ! 何か気になることがあればお話して下さいっ。それで解決するかもしれませんし…。俺じゃ役に立たないかもしれないですけど…」
「セイさん…」
「あ…今更ですけど、俺…君塚聖月って言います。セイはディメントの源氏名なので…」
「あ! そうですよね…、君塚さん…」
黒川はそう言ってから、少しの間黙った。
そして「重い話なんですけど、いいですか?」とおずおずと黒川は言った。俺は「重い話」という言葉に緊張しながら、ゆっくりと頷いた。
妙な空気がテーブルに流れた。黒川は自分の身の上話を話始めた。それはテレビドラマのような話だった。
黒川
「俺には3歳下の妹が居るんです。うちの家庭がよくなくて…。よく妹は親から暴力を受けていたんです。俺はそれをよく庇っていました。
包丁を持ち出された時があって、それから守ろうとしたら右目をざっくりヤられました」
醜い傷になったので、前髪で隠してますとあくまで明るく言った黒川に衝撃を受ける。隠されていた前髪にはそんな悲しい過去があったのだ。
どうしてそんな可哀そうな境遇を明るく言えるのだろう、と思う。
何て事はないように話す黒川の言葉を俺は真剣に聞いていた。
「それで…両親から離れて祖母のところで暮らしているんですけど…。やはり妹…瑠璃(るり)と言うんですが…人からの愛に飢えているんですよね。
俺も愛情を注いできたんですけど、やっぱりそれだけじゃダメみたいです。人からの愛情…特によく父親に暴力を振るわれていたせいか、男の人の愛情に飢えていて…すぐに彼氏を作っているみたいで…」
そう言って黒川はスマホの待ち受け画面の瑠璃と黒川のツーショット写真を見せてきた。仲良さそうに黒川と並びピースをして映っている彼女は綺麗で大人しそうな女の子だった。
これでは兄である黒川は心配でたまらないだろう。両親が信用出来ない中、ただ1人の可愛い妹だ。彼女の目が黒川に似ていた。
「それはいいんですけど…。瑠璃には幸せになってもらいたいので。でも、大学に通ってから中々仲のいい友達が出来ないことに悩んでいたんです。
それで寂しかったのか、町でキャッチされたホストクラブに行ってしまったみたいで…」
「え?」
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