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第一章
第三話 35 正義
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「へえ、結局話すんですか」
意外そうには見えないが、納得したように蒼は頷いた。「意外だなぁ~…でも相当小向オーナーも聖月のことが気にいったんだ」とケイも感慨深そうに、呟く。
蒼はニヤついたまま、感想を口にする。
「でも鬼畜だな~オーナーは。だって、聖月は兄ちゃんの紹介でここが施設だって思ってんでしょ? ひっでえよなぁ~。ネタばらししちゃったら、兄ちゃんのこと嫌いになるんじゃないんですかね?」
そのことを想像しているか、蒼は喜びを隠しきれていない。嗜虐を嗜むものの目の光を宿して、今後の未来を愉しむかのような声音だ。蒼が今一番望んでいるのは、聖月がある顔をする瞬間をこの目で見ることだ。
そのためなら、今後の展開を悪い方に向かわせないと意味がない。
「聖月のお兄さんが直接関わっているわけじゃないから、恨まないと思うけどな」
神山の言葉に、露骨にがっかりとして蒼は自分の思うところを話す。身振り手振りを使って、大げさ気味だ。
「でも、ここを好意で紹介したのは兄ちゃんでしょ? ここがどんなところが知らないで言ったんだろうけど、運が悪いっていうかなんていうか」
「それもそうだよね。聖月本当運がないよねえ~」
ケイは顔を緩めて、ふふっと笑った。
「まずオーナーに目をつけられたのが、運のツキってか」
ニヤニヤとして、蒼はさも愉しそうに言う。
その言葉に神山は眉をひそめたが、それは蒼の挑発だと分かっている。それに、たしかに小向に気に入られたら一般のひとには恐怖そのものでしかないと神山でも思うので、何も咎めずに言わなかった。
「いいすぎ~、でもその通りかも~」
ケイと蒼は、聖月のことを言い放題に言った。
これを聖月に聞かせたらなんと思うかは分からないが――嫌な顔をするのは確実なのだが、この会話は今いない人だから言えることだった。
「あ、もう22時かぁ」
「もうそんな時間か…」
ケイが時計を確認して、ため息ぎみに呟く。面倒くさそうに、あくびをひとつする。今の時刻は22時という言葉を聞いて神山は、はっと意識を飛ばしていたことを思い出した。
思い出したそのことをすばやく忘れないうちに、蒼に伝えることにした。
「蒼、23時に上な」
「上ですか?」
蒼は、神山の意図を掴めぬまま生返事をする。
「ああ、6階のいつものところ。わかるな?」
「あ、今日その日だったか。そのことすっかり忘れてました。今日って何人来るんです?」
「何人だったけな……ま、いけば分かるでしょ」
「それもそうですね」
蒼も自分のやるべきことを思い出して、想いを馳せた。面倒だが、やらなければいけないことはやらないといけない。それが、蒼の仕事だと蒼自身分かっているからだ。だけどな――目を閉じながら聖月の顔をぼんやりと蒼は思い返す。
いつ、聖月の泣き顔を見れるんだろうかと深い息を吐く。
それは案外早く来るかもしれないな――と、妙に当たる自身の勘を信じて椅子に深く座りなおした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ…メール来てる…」
聖月がご飯を食べ部屋に戻ると、机に置いてあった携帯のお知らせランプが光っていた。
メールを開けてみると、差出人は友人の十夜だった。
メールが来たのは今から20分ほど前だった。メールを開くと文面はこう打たれてあった。質素だが、絵文字がところどころに使われてる所に十夜らしい。
『明日の映画何時からがいい?』
明日の映画のことだった。十夜が誘ってくれた、ありがたい遊びの相談で聖月はつい表情を緩めてしまう。そう、明日は十夜と映画を見に行くのだ。十夜と遊ぶのは結構久しぶりので、明日は楽しみだった。
やはり、遊ぶのだから何時がいいかな――?と時間を考えた末に、メールを打った。
「13時がいいな」
寝坊したら怖かったので、遅めに時間を指定する。すぐに十夜から、メールの返信が来た。
『分かった。何見たい?俺決めちゃっていいかな?見たいのあるんだけど』
「うん!いいよ!場所は駅でいいんだよね」
『そうそう! 駅だよ。アクションだけど大丈夫?』
「平気。恋愛物とかだったら、寝ちゃうかもしれないからちょうどよかった」
『おい、寝るなよ!今回のは平気だといいんだけど…。じゃあ、13時に駅だから』
「了解。おやすみなさい!」
『うん、おやすみ』
携帯を閉じ、聖月はベットに身を預けた。
明日楽しみだなと、自然に笑みを浮かべてしまう。友達と遊ぶのも、十夜とも遊ぶのも久しぶりで胸が高鳴る。時計を確認すると、もう11時すぎだった。早く寝ようと、毛布を引き上げようとしたとき聖月の耳に悲痛の悲鳴が鳴り響いた。
今たしかに『やめてっ……』と叫ぶ声が聞こえた気がした。痛そうな、苦しそうな声。
「え…っ」
はっと目をあけ、身体を起こす。
また、悲鳴――?
聖月は先ほどとは違う、心臓の音を感じていた。
『お願い、助けて…!』
今度は違う声音の悲鳴だった。助けてと誰かに懇願している、男の子の声。
「うそ、だろ…」
ざわざわと胸が騒ぐ。嫌な汗がたらりと肌に滲んだ。
本当に、虐待なのか――?
昨日も同じ夜の時間に、子供の悲鳴が聞こえた。前は上の階からだったが、今回もたしかに上のところから悲鳴が響いたような気がする。
――いや、確かに聞こえた。上の階からだ――…。
前も男の子の声だったが、今聞こえたのも男の子だった。
ドクンドクンと心臓の鼓動を静かに聞きながら、先程の声を聞こえる様に耳を澄ました。
上の階に意識を向けると、さまざまの音が上から聞こえてくる。物音のような、人がいるのか移動しているのかは分からないが声もまじっている音。聖月は耳を研ぎ澄まして悲鳴を確認した。
物音にまじった、青年の悲鳴が確かにかすかに聞こえる。
上の階は、たしか蒼が聞いた限りでは立ち入り禁止じゃなかったのか。
聖月は、じわりと噴き出る汗を手で擦りながら鈍った脳で考える。
何故、行けもしない場所から子供の悲鳴なんて聞こえるのか。しかも今は、夜だ。その聞こえてくる、理由はなんなのか。
ぼうっとした熱帯夜ぬるい空気が、聖月を包んで離さない。生ぬるい部屋の温度は、聖月の思考を鈍らせる。クーラーをつけようかとと躊躇ったが、聖月は少し考えてリモコンを元も場所に戻す。
鈍っておかしくなりそうな思考だが、これだけは分かる。
今の悲鳴は普通は聞こえない――と。
ありえない、と。
聖月は、嫌な可能性が確信に変わるようなものを知って分かってしまったようで、頭を抱え込んだ。信じたくはない。―――意を決してその予想があっているかどうか確かめる決心をする。いつもはこんなことは、危険極まりない行為なんて聖月はしたことがない。
だが、子供が危ない目にあっているかもと考えるとそうはいかない。聖月の良心が痛むのだ。
立ち入り禁止だとは、分かる。いってはいけない場所だと、蒼に何度も念を押され注意をされた。
だけど、確かめたい。上の階で何が行なわれているのか。聖月はこの目で、真実を見たかった。
時計を確認すると、メールを貰ってから10分ほど経過していた。はぁ、と息を整える。細い息を吐くと、唇が震えた。
やはり緊張しているのか、心臓の音がうるさい。ドクドクと鳴り響く鼓動を感じ、胸を抑える。どうにか聖月は自分の身体を宥めて、タンスのなかを探る。
聖月は、静かに身支度を整えると兄の清十郎が誕生日に買ってくれた一眼レフカメラに手をしのばせる。
これは、兄が一か月前に買ってくれたもので、あまり使ってはもったいないと思ってあまり使っていない品物だった。新品同様のカメラをこんなところで聖月自身使うとは思ってもみなかった。
これで、もし施設の人間が子供たちに虐待している決定的な写真が撮れたら万々歳だ。
そして撮れた写真を、警察に届けてこの施設を告発してやろう――聖月は未来の予想をたてる。
そうならなければいい。
聖月の思いすごしで、間違いだったらそれが一番いい。
理不尽な暴力をされている子供がいなければいい。そうであってほしかった。
「…とにかく頑張ろう」
聖月は震える自分を奮い立たせ廊下に出るためドアを開ける。
この判断がのちの聖月の人生を大きく変えてしまうことは知らず、聖月は上に登るために行ってはいけない立ち入り禁止の場所に繋がっている階段へと向かったのだった。
意外そうには見えないが、納得したように蒼は頷いた。「意外だなぁ~…でも相当小向オーナーも聖月のことが気にいったんだ」とケイも感慨深そうに、呟く。
蒼はニヤついたまま、感想を口にする。
「でも鬼畜だな~オーナーは。だって、聖月は兄ちゃんの紹介でここが施設だって思ってんでしょ? ひっでえよなぁ~。ネタばらししちゃったら、兄ちゃんのこと嫌いになるんじゃないんですかね?」
そのことを想像しているか、蒼は喜びを隠しきれていない。嗜虐を嗜むものの目の光を宿して、今後の未来を愉しむかのような声音だ。蒼が今一番望んでいるのは、聖月がある顔をする瞬間をこの目で見ることだ。
そのためなら、今後の展開を悪い方に向かわせないと意味がない。
「聖月のお兄さんが直接関わっているわけじゃないから、恨まないと思うけどな」
神山の言葉に、露骨にがっかりとして蒼は自分の思うところを話す。身振り手振りを使って、大げさ気味だ。
「でも、ここを好意で紹介したのは兄ちゃんでしょ? ここがどんなところが知らないで言ったんだろうけど、運が悪いっていうかなんていうか」
「それもそうだよね。聖月本当運がないよねえ~」
ケイは顔を緩めて、ふふっと笑った。
「まずオーナーに目をつけられたのが、運のツキってか」
ニヤニヤとして、蒼はさも愉しそうに言う。
その言葉に神山は眉をひそめたが、それは蒼の挑発だと分かっている。それに、たしかに小向に気に入られたら一般のひとには恐怖そのものでしかないと神山でも思うので、何も咎めずに言わなかった。
「いいすぎ~、でもその通りかも~」
ケイと蒼は、聖月のことを言い放題に言った。
これを聖月に聞かせたらなんと思うかは分からないが――嫌な顔をするのは確実なのだが、この会話は今いない人だから言えることだった。
「あ、もう22時かぁ」
「もうそんな時間か…」
ケイが時計を確認して、ため息ぎみに呟く。面倒くさそうに、あくびをひとつする。今の時刻は22時という言葉を聞いて神山は、はっと意識を飛ばしていたことを思い出した。
思い出したそのことをすばやく忘れないうちに、蒼に伝えることにした。
「蒼、23時に上な」
「上ですか?」
蒼は、神山の意図を掴めぬまま生返事をする。
「ああ、6階のいつものところ。わかるな?」
「あ、今日その日だったか。そのことすっかり忘れてました。今日って何人来るんです?」
「何人だったけな……ま、いけば分かるでしょ」
「それもそうですね」
蒼も自分のやるべきことを思い出して、想いを馳せた。面倒だが、やらなければいけないことはやらないといけない。それが、蒼の仕事だと蒼自身分かっているからだ。だけどな――目を閉じながら聖月の顔をぼんやりと蒼は思い返す。
いつ、聖月の泣き顔を見れるんだろうかと深い息を吐く。
それは案外早く来るかもしれないな――と、妙に当たる自身の勘を信じて椅子に深く座りなおした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ…メール来てる…」
聖月がご飯を食べ部屋に戻ると、机に置いてあった携帯のお知らせランプが光っていた。
メールを開けてみると、差出人は友人の十夜だった。
メールが来たのは今から20分ほど前だった。メールを開くと文面はこう打たれてあった。質素だが、絵文字がところどころに使われてる所に十夜らしい。
『明日の映画何時からがいい?』
明日の映画のことだった。十夜が誘ってくれた、ありがたい遊びの相談で聖月はつい表情を緩めてしまう。そう、明日は十夜と映画を見に行くのだ。十夜と遊ぶのは結構久しぶりので、明日は楽しみだった。
やはり、遊ぶのだから何時がいいかな――?と時間を考えた末に、メールを打った。
「13時がいいな」
寝坊したら怖かったので、遅めに時間を指定する。すぐに十夜から、メールの返信が来た。
『分かった。何見たい?俺決めちゃっていいかな?見たいのあるんだけど』
「うん!いいよ!場所は駅でいいんだよね」
『そうそう! 駅だよ。アクションだけど大丈夫?』
「平気。恋愛物とかだったら、寝ちゃうかもしれないからちょうどよかった」
『おい、寝るなよ!今回のは平気だといいんだけど…。じゃあ、13時に駅だから』
「了解。おやすみなさい!」
『うん、おやすみ』
携帯を閉じ、聖月はベットに身を預けた。
明日楽しみだなと、自然に笑みを浮かべてしまう。友達と遊ぶのも、十夜とも遊ぶのも久しぶりで胸が高鳴る。時計を確認すると、もう11時すぎだった。早く寝ようと、毛布を引き上げようとしたとき聖月の耳に悲痛の悲鳴が鳴り響いた。
今たしかに『やめてっ……』と叫ぶ声が聞こえた気がした。痛そうな、苦しそうな声。
「え…っ」
はっと目をあけ、身体を起こす。
また、悲鳴――?
聖月は先ほどとは違う、心臓の音を感じていた。
『お願い、助けて…!』
今度は違う声音の悲鳴だった。助けてと誰かに懇願している、男の子の声。
「うそ、だろ…」
ざわざわと胸が騒ぐ。嫌な汗がたらりと肌に滲んだ。
本当に、虐待なのか――?
昨日も同じ夜の時間に、子供の悲鳴が聞こえた。前は上の階からだったが、今回もたしかに上のところから悲鳴が響いたような気がする。
――いや、確かに聞こえた。上の階からだ――…。
前も男の子の声だったが、今聞こえたのも男の子だった。
ドクンドクンと心臓の鼓動を静かに聞きながら、先程の声を聞こえる様に耳を澄ました。
上の階に意識を向けると、さまざまの音が上から聞こえてくる。物音のような、人がいるのか移動しているのかは分からないが声もまじっている音。聖月は耳を研ぎ澄まして悲鳴を確認した。
物音にまじった、青年の悲鳴が確かにかすかに聞こえる。
上の階は、たしか蒼が聞いた限りでは立ち入り禁止じゃなかったのか。
聖月は、じわりと噴き出る汗を手で擦りながら鈍った脳で考える。
何故、行けもしない場所から子供の悲鳴なんて聞こえるのか。しかも今は、夜だ。その聞こえてくる、理由はなんなのか。
ぼうっとした熱帯夜ぬるい空気が、聖月を包んで離さない。生ぬるい部屋の温度は、聖月の思考を鈍らせる。クーラーをつけようかとと躊躇ったが、聖月は少し考えてリモコンを元も場所に戻す。
鈍っておかしくなりそうな思考だが、これだけは分かる。
今の悲鳴は普通は聞こえない――と。
ありえない、と。
聖月は、嫌な可能性が確信に変わるようなものを知って分かってしまったようで、頭を抱え込んだ。信じたくはない。―――意を決してその予想があっているかどうか確かめる決心をする。いつもはこんなことは、危険極まりない行為なんて聖月はしたことがない。
だが、子供が危ない目にあっているかもと考えるとそうはいかない。聖月の良心が痛むのだ。
立ち入り禁止だとは、分かる。いってはいけない場所だと、蒼に何度も念を押され注意をされた。
だけど、確かめたい。上の階で何が行なわれているのか。聖月はこの目で、真実を見たかった。
時計を確認すると、メールを貰ってから10分ほど経過していた。はぁ、と息を整える。細い息を吐くと、唇が震えた。
やはり緊張しているのか、心臓の音がうるさい。ドクドクと鳴り響く鼓動を感じ、胸を抑える。どうにか聖月は自分の身体を宥めて、タンスのなかを探る。
聖月は、静かに身支度を整えると兄の清十郎が誕生日に買ってくれた一眼レフカメラに手をしのばせる。
これは、兄が一か月前に買ってくれたもので、あまり使ってはもったいないと思ってあまり使っていない品物だった。新品同様のカメラをこんなところで聖月自身使うとは思ってもみなかった。
これで、もし施設の人間が子供たちに虐待している決定的な写真が撮れたら万々歳だ。
そして撮れた写真を、警察に届けてこの施設を告発してやろう――聖月は未来の予想をたてる。
そうならなければいい。
聖月の思いすごしで、間違いだったらそれが一番いい。
理不尽な暴力をされている子供がいなければいい。そうであってほしかった。
「…とにかく頑張ろう」
聖月は震える自分を奮い立たせ廊下に出るためドアを開ける。
この判断がのちの聖月の人生を大きく変えてしまうことは知らず、聖月は上に登るために行ってはいけない立ち入り禁止の場所に繋がっている階段へと向かったのだった。
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