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第一章
第二話 22 黒瀬 衛
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「俺、別に勉強しに来たんじゃない」
突飛もない十夜の言葉に聖月は驚いた。
「じゃあ、何しに学校しにきたんだよ。意味ねぇじゃん」
つっぱねた口調で聖月は、憎まれ口を叩いた。拗ねた口調の聖月に十夜は勝ち誇った顔で言い切った。
「聖月の勉強をおしえるため」
ウインクをしてみせた十夜に聖月は目を丸くする。
「へえ………、ええッ! いいの?!」
聖月は大声で思わず叫ぶ。何人かが注目していることが分かり声を聖月は抑えた。十夜は続けて言った。
「ああ、聖月の成績なんかビミョーじゃん。だからこの俺様が手取り足とり教えてやろうと思ってさ。数学のセンセーおしえかた酷い悪いじゃん。 俺のほうがうまいと思うぜ? どう、やる?」
十夜は自信に満ちた様子で言い切った。それが様になっているのが、美形である十夜だからこそだろう。聖月は迷わず十夜の問いかけの答えを出す。
「う、うん! ありがとう、十夜っ! 嬉しいっ…助かったーっ! あの先生の授業早口だから、呪文のように聞こえるんだよね。何言ってんだか分かんないし」
「ぶっふ! 何だそれ、あんなの数字の羅列じゃん。それを計算すればいいだけじゃん」
十夜は聖月の発言が自分の笑いのツボになったようで、腹を抱えて笑っている。
聖月は十夜の申し出に快(こころよ)く了承した。学年で成績トップの十夜に教えてもらえば、脳みそが少ない自分でも少しでも分かるかもしれない。
聖月の成績は十夜のいう通り微妙であった。3ばかりで、もう少しで内申が低評価の2がついてしまうものがちらほらあるぐらいだ。
数学の先生は早口で何より黒板を消すのが早いので、聖月は前々から困っていた。なので十夜に教えてもらえるなら何とかなるのかもしれない。
話しこんでいた二人だったが突然十夜の机にガツンと音がした。聖月がびっくりして、上を仰ぐと訪問者が来ていた。よく見る顔が聖月の視界を捉えた。その瞬間、軽い声質が聖月の耳朶にはいりこむ。
「おっはよーっ! ミツ、じゅうくん!」
天真爛漫な明るい元気な声。
そんな声がした人物を十夜は気づいたようで、その相手を親し気に名前で呼んだ。
「あ、衛(まもる)」
急に聖月と十夜の間に割り込んできたのは、二人の共通の友人である黒瀬 衛 (くろせ まもる)だ。聖月のことを【ミツ】と呼び、十夜のことを【じゅうくん】と愛称で親しく呼ぶのはこの人以外いない。
シャツをだらしなく出し、腰に履いている学校指定のズボンをずいぶんと下がっている、所謂≪行き過ぎた着崩しファッション≫を衛はしていた。そんなだらしのない緩みきった衛の服装に、聖月は眉をひそめた。
「うわ、衛くん! また、お尻までズボン下げてるよ…歩きづらくない?」
「聖月、あきらめろ。コイツはもう、節度がなさすぎる」
「えーっ! ひっど、じゅうくん! じゅうくんだって、校則破っているところあるじゃん、人のこと言える? ひっどー、自分のことは棚にあげるんだね…ふうーん…」
「俺は少し髪染めただけだ。お前はやりすぎ」
思わず聞いてしまった聖月に、十夜はあきらめろと言いたげなことをいった。そのことは本当なのだろう、十夜の表情が雄弁に語っていた。
そんな十夜の言葉が不服なのか、衛はぶーぶーと抗議している。十夜の顔がどんどんしかめっ面になっていく。十夜のことだから、面倒くさいとでも考えているのだろうと、聖月は勝手に解釈した。
衛の髪はもとは黒髪だったらしいが、綺麗な金髪になっている。まるで、ライオンの鬣(たてがみ)のような金髪だ。
癖っ毛らしい羽毛のような髪を、前髪はピンをつけて固定していた。
人好きしそうな、奥二重のネコ目に、柔らかい線の細い鼻筋と、きちんと整えられている生意気そうに吊りあがっている眉が特徴的だ。
それよりも聖月の目を奪ってならないのは、耳にこれでもかというほど付いているピアスだ。本当にたくさんついている。見ているこっちが痛くなってくるぐらいに。前に聖月は衛に見せてもらったが彼の舌にもピアスがあった。
首にはセンスのいいシルバーのネックレスが付いているし、指にもなにか物を掴む時邪魔じゃないかと聖月が心配してやまないぐらいにたくさんのオシャレな指輪が付いている。
初めて会った時は、聖月は衛の印象が悪かった。
悪いと言うよりも、住む世界が違って苦手な系種の人間だというのが正確かもしれない。
聖月はよくいえば素朴で、悪く言えば地味な風貌をしている。
わざわざ校則を破ってまで、オシャレという自己主張はしたくないと思う人種だ。
その逆で衛は煌びやかな物を好んでいる。ましてや聖月にとっては異色のピアスなんてものをゴロゴロしている衛は、見た限り性格があいそうになかった。もしかしたら、言語が違っているかもしれないと思うほど、聖月は衛のことをあまり理解できなかった。
2年で初めてクラスが同じになったが、特に接点はないだろうと考えていた。だが衛は驚くべきことに聖月に話しかけてきた。
進級初日の4月の新学期で名前順であり、席が後ろ前だったかもしれないが衛はさもあたりまえのように、眩しい笑みを浮かべ
『君塚 聖月くんでしょ? オレは黒瀬 衛っていうんだ。【衛】って呼んでね? オレも【ミツ】って呼ぶからっ!』
と満面の笑みでいったのだ。椅子に座ってぼんやりとした脳に、衛の言葉が響いた。
そう言われた瞬間聖月の頭の中はパニックになっていた。なんで、黒瀬みたいな人物が自分に話しかけるのか、まったく分からなかったからだ。聖月はよく判らずにその『チャラい黒瀬が話しかけてきた」という事実だけがあった。
それからは、人見知りの聖月にとって地獄みたいな日々が始まった。
次の日から怒号のように、暇さえあればかなり話しかけられたが、もしかしてパシリにでも使われるのではないだろうとビクビクし、だいたい話しかけられても聞こえないふりをしていた。
そんな無視をし続ける日々を1か月がたちそろそろ諦めただろうかと聖月は安心していた。だがまだ諦めていなかったようで、衛はしつこく聖月に喋りかけてきた。
よく自分がノイローゼにならなかったのだと、聖月は自分を褒め称えたいぐらい衛はしつこかった。一日中暇さえあれば聖月を追いまわしていた。
そんなしつこさについに聖月は泣くように折れて、少しずつであるが衛の質問に答える様になっていた。そうしたほうが、まだましだと考えたからだった。
そして何カ月もかけて衛が、思っていたよりもいい人だったことも聖月は気づいて、今の友人の立場になっていた。
突飛もない十夜の言葉に聖月は驚いた。
「じゃあ、何しに学校しにきたんだよ。意味ねぇじゃん」
つっぱねた口調で聖月は、憎まれ口を叩いた。拗ねた口調の聖月に十夜は勝ち誇った顔で言い切った。
「聖月の勉強をおしえるため」
ウインクをしてみせた十夜に聖月は目を丸くする。
「へえ………、ええッ! いいの?!」
聖月は大声で思わず叫ぶ。何人かが注目していることが分かり声を聖月は抑えた。十夜は続けて言った。
「ああ、聖月の成績なんかビミョーじゃん。だからこの俺様が手取り足とり教えてやろうと思ってさ。数学のセンセーおしえかた酷い悪いじゃん。 俺のほうがうまいと思うぜ? どう、やる?」
十夜は自信に満ちた様子で言い切った。それが様になっているのが、美形である十夜だからこそだろう。聖月は迷わず十夜の問いかけの答えを出す。
「う、うん! ありがとう、十夜っ! 嬉しいっ…助かったーっ! あの先生の授業早口だから、呪文のように聞こえるんだよね。何言ってんだか分かんないし」
「ぶっふ! 何だそれ、あんなの数字の羅列じゃん。それを計算すればいいだけじゃん」
十夜は聖月の発言が自分の笑いのツボになったようで、腹を抱えて笑っている。
聖月は十夜の申し出に快(こころよ)く了承した。学年で成績トップの十夜に教えてもらえば、脳みそが少ない自分でも少しでも分かるかもしれない。
聖月の成績は十夜のいう通り微妙であった。3ばかりで、もう少しで内申が低評価の2がついてしまうものがちらほらあるぐらいだ。
数学の先生は早口で何より黒板を消すのが早いので、聖月は前々から困っていた。なので十夜に教えてもらえるなら何とかなるのかもしれない。
話しこんでいた二人だったが突然十夜の机にガツンと音がした。聖月がびっくりして、上を仰ぐと訪問者が来ていた。よく見る顔が聖月の視界を捉えた。その瞬間、軽い声質が聖月の耳朶にはいりこむ。
「おっはよーっ! ミツ、じゅうくん!」
天真爛漫な明るい元気な声。
そんな声がした人物を十夜は気づいたようで、その相手を親し気に名前で呼んだ。
「あ、衛(まもる)」
急に聖月と十夜の間に割り込んできたのは、二人の共通の友人である黒瀬 衛 (くろせ まもる)だ。聖月のことを【ミツ】と呼び、十夜のことを【じゅうくん】と愛称で親しく呼ぶのはこの人以外いない。
シャツをだらしなく出し、腰に履いている学校指定のズボンをずいぶんと下がっている、所謂≪行き過ぎた着崩しファッション≫を衛はしていた。そんなだらしのない緩みきった衛の服装に、聖月は眉をひそめた。
「うわ、衛くん! また、お尻までズボン下げてるよ…歩きづらくない?」
「聖月、あきらめろ。コイツはもう、節度がなさすぎる」
「えーっ! ひっど、じゅうくん! じゅうくんだって、校則破っているところあるじゃん、人のこと言える? ひっどー、自分のことは棚にあげるんだね…ふうーん…」
「俺は少し髪染めただけだ。お前はやりすぎ」
思わず聞いてしまった聖月に、十夜はあきらめろと言いたげなことをいった。そのことは本当なのだろう、十夜の表情が雄弁に語っていた。
そんな十夜の言葉が不服なのか、衛はぶーぶーと抗議している。十夜の顔がどんどんしかめっ面になっていく。十夜のことだから、面倒くさいとでも考えているのだろうと、聖月は勝手に解釈した。
衛の髪はもとは黒髪だったらしいが、綺麗な金髪になっている。まるで、ライオンの鬣(たてがみ)のような金髪だ。
癖っ毛らしい羽毛のような髪を、前髪はピンをつけて固定していた。
人好きしそうな、奥二重のネコ目に、柔らかい線の細い鼻筋と、きちんと整えられている生意気そうに吊りあがっている眉が特徴的だ。
それよりも聖月の目を奪ってならないのは、耳にこれでもかというほど付いているピアスだ。本当にたくさんついている。見ているこっちが痛くなってくるぐらいに。前に聖月は衛に見せてもらったが彼の舌にもピアスがあった。
首にはセンスのいいシルバーのネックレスが付いているし、指にもなにか物を掴む時邪魔じゃないかと聖月が心配してやまないぐらいにたくさんのオシャレな指輪が付いている。
初めて会った時は、聖月は衛の印象が悪かった。
悪いと言うよりも、住む世界が違って苦手な系種の人間だというのが正確かもしれない。
聖月はよくいえば素朴で、悪く言えば地味な風貌をしている。
わざわざ校則を破ってまで、オシャレという自己主張はしたくないと思う人種だ。
その逆で衛は煌びやかな物を好んでいる。ましてや聖月にとっては異色のピアスなんてものをゴロゴロしている衛は、見た限り性格があいそうになかった。もしかしたら、言語が違っているかもしれないと思うほど、聖月は衛のことをあまり理解できなかった。
2年で初めてクラスが同じになったが、特に接点はないだろうと考えていた。だが衛は驚くべきことに聖月に話しかけてきた。
進級初日の4月の新学期で名前順であり、席が後ろ前だったかもしれないが衛はさもあたりまえのように、眩しい笑みを浮かべ
『君塚 聖月くんでしょ? オレは黒瀬 衛っていうんだ。【衛】って呼んでね? オレも【ミツ】って呼ぶからっ!』
と満面の笑みでいったのだ。椅子に座ってぼんやりとした脳に、衛の言葉が響いた。
そう言われた瞬間聖月の頭の中はパニックになっていた。なんで、黒瀬みたいな人物が自分に話しかけるのか、まったく分からなかったからだ。聖月はよく判らずにその『チャラい黒瀬が話しかけてきた」という事実だけがあった。
それからは、人見知りの聖月にとって地獄みたいな日々が始まった。
次の日から怒号のように、暇さえあればかなり話しかけられたが、もしかしてパシリにでも使われるのではないだろうとビクビクし、だいたい話しかけられても聞こえないふりをしていた。
そんな無視をし続ける日々を1か月がたちそろそろ諦めただろうかと聖月は安心していた。だがまだ諦めていなかったようで、衛はしつこく聖月に喋りかけてきた。
よく自分がノイローゼにならなかったのだと、聖月は自分を褒め称えたいぐらい衛はしつこかった。一日中暇さえあれば聖月を追いまわしていた。
そんなしつこさについに聖月は泣くように折れて、少しずつであるが衛の質問に答える様になっていた。そうしたほうが、まだましだと考えたからだった。
そして何カ月もかけて衛が、思っていたよりもいい人だったことも聖月は気づいて、今の友人の立場になっていた。
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