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第一章
第一話 6 神山秋人
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小向を『様』といって呼んでいるので、ここで働いているのだろうか。青年はスーツを着ているのでそうかもしれない。
それにしても美しい青年だ。 まるで白百合のような純白さと気品が感じられる。まじまじと聖月は彼を見てしまっていた。何歳ぐらいなんだろう?―――聖月がぼんやりと青年を見て考えていると、彼の綺麗な口角が上がった。
「君塚さんですよね?」
「えっ、あ!はい」
「私はここで働いている神山 秋人といいます」
神山 秋人(こうやま あきと)と名乗った青年は口を上げにっこりと微笑んだ。まるで花が咲く瞬間を見たような気分になる。
うう、まぶしい。きっと女の子が見たら倒れるほど眩しい笑みで、つい聖月は顔をしかめてしまった。
「神山、五階にある私の隣の部屋まで聖月くんを案内してやってくれ」
小向は神山にそういうと、また聖月を見ながら笑っている。今日でその笑顔を何回見ただろうか。
「はい、分かりました」
神山は深々と小向にお辞儀をした。完璧なお辞儀で、見ているこっちが惚れ惚れしてしまう。
「聖月くん」
「はい」
「私の部屋に10時に来てくれないか。君の隣の部屋だから。いいね?」
「あ。はい、分かりました!」
聖月が勢い良く返事をすると、小向は満足げに右手をあげ聖月の頭をまるで子供をあやすように撫でる。頭を撫でる大きな手に身体がかたまる。
―――小向に撫でられると、何かを思い出す。物凄く、大切な聖月にとって大事な思い出が。男に人の大きな手。優しい匂い。笑顔。あぁ、―――聖月は思い出した。
この手、小向の手は父に似ているのだ。
聖月の父は小さいころから悪いことや、いいことを聖月がしたときに頭を優しく撫でた。
ダメじゃないか――――。…いいこだね―――。そう優しく笑って、聖月の名前を呼んでいた。
どんな時も―――嬉しいときも、悲しいときも父は傍にいたら頭を撫でてくれた。
聖月を優しくそっと撫でてくれた父はもういない。もう母もいなくなってしまった。突然兄と聖月を置いて天国へ逝ってしまった。聖月の家族は愛する両親の死という引き裂かれ方で、バラバラになってしまった。
―――ミツ。ミツ…
どこかで声がした。この声は優しい父の声だ。あぁ、大好きな父の声。もう聞けないなんて嘘みたいだ。
一気に父への想いが聖月の中に駆け巡り胸が刺されたように痛んだ。胸も、きゅうっ…と誰かに心臓を掴まれたように苦しい。
体が、心が…聖月を形成する全部が痛くなる。心がバラバラに引き裂かれたように苦しい。身体が殴られたような感情の衝撃に揺れていた。
―――目が熱い。
ダメだ、俺。もう何も考えるな。考えても、何をどう思ったって父も母も帰って来ないじゃないか。そう思ったら、鼻がツンと痛む。
そんなことを思った刹那、小向が驚いた顔をしていた。
「聖月くん…? どうしたの?」
――――しまった。
と思ったら頬に生温かい液体が伝っていた。
―――…あれ、俺……泣いている?
聖月は頬を触り、頬が濡れていて自分が泣いているのを知って驚いていた。そして泣いてしまった自分がどうしようもなく恥ずかしくなる。何を、やってるんだろうか。人の前であられもなく泣くなんて。自分らしくない。迷惑がかかる。恥ずかしい。恥ずかしい。恥かしい…。
涙を止めよう止めよう…と思っているのに、まるで堰が外れてしまったみたいにほろほろと涙の粒が溢れ落ちてく。
手でごしごしと顔をこすっても涙は止まってはくれやしない。手から涙は零れ落ち、しかもあろうことか鼻水まで垂れそうだ。なんということだ、人の前で泣くことだけではあきたらず鼻水もたらすなんて。
まるで子供じゃないか。恥かしい。突然自分の感情に流され泣いてしまって、小向達に申し訳ない。
「ご、ごめん…な…さい、とっ…止め…っる、から…」
鼻をずるずると啜りながら、みっともなく二人に嗚咽を漏らしながらも必死に謝る。小向たちだって、急にまえぶれもなく泣かれても困るだろう。ボタボタと床に聖月の涙や鼻水が落ちる。
――――あぁ、恥かしい。自分が惨めで、子供みたいで、本当に嫌だ。みっともない。恥かしい。嫌だ。誰にも見られたくない―――!
止まれ、止まれともう一度思っているのに聖月の意志とは関係なくどんどんとあふれていく。涙も、溢れだした様々な感情が止まらない。
顔を聖月はたまらなくなって両手で隠した。もう消えてしまいたい。消えてなくなってしまえば、両親に会えるのだろうか。
そんなことを考えているときに、急に体がなにか温かいものに包まれた。
どうやら小向が聖月のことを抱きしめてくれているらしい。混乱している聖月にはいきなりなんでそんな行動を小向が取ったのかがよくわからなかった。
それにしても美しい青年だ。 まるで白百合のような純白さと気品が感じられる。まじまじと聖月は彼を見てしまっていた。何歳ぐらいなんだろう?―――聖月がぼんやりと青年を見て考えていると、彼の綺麗な口角が上がった。
「君塚さんですよね?」
「えっ、あ!はい」
「私はここで働いている神山 秋人といいます」
神山 秋人(こうやま あきと)と名乗った青年は口を上げにっこりと微笑んだ。まるで花が咲く瞬間を見たような気分になる。
うう、まぶしい。きっと女の子が見たら倒れるほど眩しい笑みで、つい聖月は顔をしかめてしまった。
「神山、五階にある私の隣の部屋まで聖月くんを案内してやってくれ」
小向は神山にそういうと、また聖月を見ながら笑っている。今日でその笑顔を何回見ただろうか。
「はい、分かりました」
神山は深々と小向にお辞儀をした。完璧なお辞儀で、見ているこっちが惚れ惚れしてしまう。
「聖月くん」
「はい」
「私の部屋に10時に来てくれないか。君の隣の部屋だから。いいね?」
「あ。はい、分かりました!」
聖月が勢い良く返事をすると、小向は満足げに右手をあげ聖月の頭をまるで子供をあやすように撫でる。頭を撫でる大きな手に身体がかたまる。
―――小向に撫でられると、何かを思い出す。物凄く、大切な聖月にとって大事な思い出が。男に人の大きな手。優しい匂い。笑顔。あぁ、―――聖月は思い出した。
この手、小向の手は父に似ているのだ。
聖月の父は小さいころから悪いことや、いいことを聖月がしたときに頭を優しく撫でた。
ダメじゃないか――――。…いいこだね―――。そう優しく笑って、聖月の名前を呼んでいた。
どんな時も―――嬉しいときも、悲しいときも父は傍にいたら頭を撫でてくれた。
聖月を優しくそっと撫でてくれた父はもういない。もう母もいなくなってしまった。突然兄と聖月を置いて天国へ逝ってしまった。聖月の家族は愛する両親の死という引き裂かれ方で、バラバラになってしまった。
―――ミツ。ミツ…
どこかで声がした。この声は優しい父の声だ。あぁ、大好きな父の声。もう聞けないなんて嘘みたいだ。
一気に父への想いが聖月の中に駆け巡り胸が刺されたように痛んだ。胸も、きゅうっ…と誰かに心臓を掴まれたように苦しい。
体が、心が…聖月を形成する全部が痛くなる。心がバラバラに引き裂かれたように苦しい。身体が殴られたような感情の衝撃に揺れていた。
―――目が熱い。
ダメだ、俺。もう何も考えるな。考えても、何をどう思ったって父も母も帰って来ないじゃないか。そう思ったら、鼻がツンと痛む。
そんなことを思った刹那、小向が驚いた顔をしていた。
「聖月くん…? どうしたの?」
――――しまった。
と思ったら頬に生温かい液体が伝っていた。
―――…あれ、俺……泣いている?
聖月は頬を触り、頬が濡れていて自分が泣いているのを知って驚いていた。そして泣いてしまった自分がどうしようもなく恥ずかしくなる。何を、やってるんだろうか。人の前であられもなく泣くなんて。自分らしくない。迷惑がかかる。恥ずかしい。恥ずかしい。恥かしい…。
涙を止めよう止めよう…と思っているのに、まるで堰が外れてしまったみたいにほろほろと涙の粒が溢れ落ちてく。
手でごしごしと顔をこすっても涙は止まってはくれやしない。手から涙は零れ落ち、しかもあろうことか鼻水まで垂れそうだ。なんということだ、人の前で泣くことだけではあきたらず鼻水もたらすなんて。
まるで子供じゃないか。恥かしい。突然自分の感情に流され泣いてしまって、小向達に申し訳ない。
「ご、ごめん…な…さい、とっ…止め…っる、から…」
鼻をずるずると啜りながら、みっともなく二人に嗚咽を漏らしながらも必死に謝る。小向たちだって、急にまえぶれもなく泣かれても困るだろう。ボタボタと床に聖月の涙や鼻水が落ちる。
――――あぁ、恥かしい。自分が惨めで、子供みたいで、本当に嫌だ。みっともない。恥かしい。嫌だ。誰にも見られたくない―――!
止まれ、止まれともう一度思っているのに聖月の意志とは関係なくどんどんとあふれていく。涙も、溢れだした様々な感情が止まらない。
顔を聖月はたまらなくなって両手で隠した。もう消えてしまいたい。消えてなくなってしまえば、両親に会えるのだろうか。
そんなことを考えているときに、急に体がなにか温かいものに包まれた。
どうやら小向が聖月のことを抱きしめてくれているらしい。混乱している聖月にはいきなりなんでそんな行動を小向が取ったのかがよくわからなかった。
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