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2 犬に論語
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いつも記憶にある祖父は笑っていた。おとなしくて、地味な自分を明るくさせようといつも楽しそうに笑っていた。
祖父が笑うと、惇人も笑った。祖父が楽しそうだと、惇人も楽しかった。あの家には、笑顔で溢れていた。祖母が死んでしまった時も、彼は惇人をみて笑みを浮かべた。たった二人っきりになった家族。ずっと続いてほしいと思った。おとなしく友達も少ないなか、惇人には祖父が心のよりどころだった。
だけれど、そんな生活は長くは続くわけがなかった。一週間前、祖父が死んだ。突然心臓発作で倒れ、そのまま病院に運ばれ、医者の苦労も甲斐なく息を引き取った。
あの日から、惇人の心にはぽっかりと穴が開いている。
一番大好きな人がいなくなってしまった。
惇人は、幼い頃に両親が死んでいて、親戚もほかにはいなかった。天涯孤独の身になってしまった。これからどうしたらいいのかわからず、言いようのない不安と焦燥感が常に自分の中にあった。貯金額も限られている。
大学3年生だったが、今後の学費が払えるかと言われれば、かなり不透明だった。
喪主をつとめ、あわただしく葬式を行い、あっけなく祖父を見送った。祖父の葬式は一人きりで行った。
灰になった祖父の骨は、ほとんどとれることはなかった。とてももろい身体だったのに、無理をさせていたのだとやっと気づいた。
そのまま一緒に、じいちゃんと眠りたい…――――。
そんな思いが、心の奥に眠る。惇人は、祖父だけが生きがいだった。友人もいない。頼る人なんていない。生きがいを失い、もう生きていく希望がなくなったのだ。
―――じいちゃん、待ってて、もう少しで向かいに行くからね。
そんな決意を胸に秘め、惇人は夜の街に繰り出した。今思えば、それがいけなかった。家で死ぬべきだった。
カフェで、紅茶を飲み、そのまま近くの森に行こうとぼんやりと考えていた。惇人の家の近くには樹海があって、迷い込んだら戻れないという自殺の名所だった。
『一人?』
突然、男に話しかけられる。低く、甘い声だった。惇人には、そこからの記憶がない。
気づいたら、この密室にいた。
出口はない。この、場所もわからない密室に。
惇人はこの日から、すべてを監視され、自我すら忘れさせてしまうことなんて知る由もなかった―――。
「…っ」
ガンガンと続く頭痛に、惇人は強制的に目を覚ます。寝起きが最悪だとか、そういう次元を超えているようだった。そして、すぐに自分の異常な姿を知ることになった。手が、何かに縛れていた。それに、身体が奇妙なことに浮いている。
自分が裸のままつるされていることに気づいたのは、すぐのことだった。
どうしてと混乱していると、昨日のことがフラッシュバックする。
訳のわからない痛みにあえいで、惇人はそのまま気絶してしまったのだ。
「……ぅ…」
頭痛が邪魔をして、まともな思考ができない。ただ自分が、予期せぬ事態に巻き込まれていることだけはわかった。手首に縄が食い込む痛みの感覚は、脳を麻痺させた。自分が宙に浮いているという倒錯的な事態に静かに混乱する。
身体がどこもかしこも痛い。これ以上、声をあげるのも、縄から逃れるために身体を動かすこともできなかった。
周りを見渡すと、コンクリートの要塞が昨日と同じように惇人を取り囲んでいた。逃げることは、不可能に近い。堅くドアも閉められている。
その時、難攻不落だと思われたドアが開かれた。外から、ドアが開かれたのだ。もしかしたら―――という希望は、あっけなく砕けた。ドアを開けたのは、冬賀と名乗る男だった。圧倒的オーラを放って、こちらに向かっている。
精悍な顔立ちで、厚い唇は色香を放っている。惇人が女性だったら、思わず感嘆をあげていただろう。
だが、今の惇人には、恐怖の声をあげた。身体がどうしようもなく震え、身体が冷えていく。今の惇人は裸で、無防備な状況も相まって恐怖がより深まった。
「ジョン。起きてるな、いい子だ」
「じょ…ん…?」
昨日かなり叫んだせいで、喉が痛くてたまらなかった。この埃っぽい部屋のせいでもあるのだろう。
自分がジョンと呼ばれ、意味が分からず瞬きを繰り返す。
「お前の名前だ。犬にぴったりだろ?」
犬って…―――。
そう声をあげたかったが、是非も言わさぬ冬賀の雰囲気に飲み込まれ惇人は何も言えなかった。
惇人(ジュント)とジョンは、全然違う。だが、そう呼ぶということは本当に目の前のこの人は惇人のことをモノとしか扱っていないと感じた。それにぞっとする。昨日と同じように、レザーパンツだけきている冬賀の手には鞭が握られていた。長い、黒い鞭。
頭が真っ白になる。
昨日の痛みの記憶が一気によみがえる。あの、痛み。
「…ぁ…」
「震えてるな。怖いのか?」
ぐいっと、顎をあげられる。惇人の顔がゆがんだ。惇人の容姿はふと見れば印象のいい小奇麗な顔立ちだった。大学のクラスでも、ひそかに人気だったということを惇人自身は知らない。その小奇麗な顔が歪み、ひくつく姿は男にとって酷く興奮させるものだった。
「そんなに、俺の奴隷になるのが嫌か?」
くくっと、嗤う冬賀に惇人は怯える。
昨日、嬉々として身体を痛みつけた男が目の前にいる。
「…ぁっ、…そんな…おれ、ど、どれい…なんて…」
声が震えた。
奴隷なんて、おかしい。それはわかっているのに、大きな声をあげられない。
「昨日の威勢はどうした? 文句があるなら、言ってみろ」
「ぇ……、…じょ、冗談…ですよね…。あ…の、ドッキリとか…そういう…」
ははっと、笑ったが全然惇人は笑えなかった。目の前の男は、一瞬無表情になる。
その瞬間、自分の言った言葉はダメだったのだと悟った。
「そうか、まだわかってなかったのか。馬鹿犬の調教は手に余るな」
「……ッ、」
無機質な冬賀の言葉を理解する前に、鞭が惇人の背中を打つ。突然の痛みに、瞳の中で火花が散る。うめき声をあげる間もなく、続いての鞭が振り落とされた。鋭い痛みに、惇人の身体はデクのように歪にしならせた。
昨日の傷が残っており、その上から鞭が振り落とされるので、その前打たれた痛みより激痛が走る。
宙に浮いたままの打ち付けは体中で痛みがまわり、さらに脳に酸素があまり回らない状況でより身体的にも負担が大きかった。
「ん? どうした。もう限界か」
「…い…痛い……なんで…かえりた…い…、んっ、や、め」
惇人は涙ながらに、懇願する。だが、それを遮ったのは冬賀の武骨な大きな手による胸の尖りの愛撫だった。
突然の刺激に、腰が揺れ身体が宙に浮いたまま揺れる。
「じゃあ、ゲームをしようか。ジョン、お前はいい子だからきっとできるぞ」
いい子だと言いながら、冬賀は惇人の片方の乳首を引っ張る。痛みに惇人が呻いても、冬賀はやめようとしない。むしろ惇人が痛がっているとわかると、より痛みを深めようと爪を立てた。
「お前が1時間イかなったら勝ちだ。望み通りここから出してやる。出来なかったら、そうだな…ここから出ることは諦めて奴隷になってもらう」
冬賀はニカっと笑う。だが、その笑みは惇人を陥れる悪魔の笑みだった。
「い、いく…?」
あまり言ったことのない言葉で、惇人は言いながら顔を赤らめる。惇人にはおとなしい性格のため彼女ができたことがなく、ましてや好きな人などできたことがなかった。性的接触も少なく、今のように長時間人に裸を晒しているのも初めてだった。
このゲームをやろうという冬賀の意図がわからなかった。だが、今すぐにでもここから出たい惇人には選ぶ余裕はなく、小さくうなづく。
自分は、性欲はあまりないほうだと惇人は知っていた。自慰も、同年代の男子よりもやったことはなかった。男女の交わりは自分には無縁の世界だった。
耐えられる。たとえ、調教師だという冬賀の愛撫だとしても。なんとしても、耐えてみせる。
惇人は、心臓が高まるのを感じつつ、決意を決め目をとじる。
ピッ、と何か機械音が流れた。冬賀が、ストップウォッチを惇人に見せる。60分とセットされたタイムがだんだんと短く刻んでいた。冬賀はそれを床に置き、惇人と向き合った。冬賀は野獣の瞳をしていた。これから、どうやっていたぶろうかと思っている目だった。
惇人は思わず自分の萎えているペニスを見て、ほっとする。こんな状況じゃ、竦みあがって勃起もありゃしないのだ。
「そうだな…。このままここを触ったら、ジョンには不平等だなぁ…。ここに触らないで、イッたらにするか」
絶対にそっちのほうがありがたいので、惇人はコクコクとうなづく。
「…そんな余裕で、ほんとに我慢できんのか、よっ」
「ア゛ッ?!」
脳天に響く刺激に、惇人は大声をあげた。また、鞭でぶたれたのだ。今度は局部近くを。鞭が、惇人の雄の象徴をかすめる。惇人は深く息を繰り返す。カタカタと恐怖で震える惇人を置いて、次の一撃が繰り出される。
「ひっ……ン、ぐ…っ!」
何度も打ち付けられて、惇人はただ唸り喘ぐことしかできなかった。触らないでと冬賀は言っていたが、こんなんじゃ不公平でもなんでもない。
手と脳がだんだん麻痺して、惇人は意識が遠のく。冬賀は嗤いながら愉しそうに、鞭を振るっていた。脳を抉る痛みは、耐えられるものではなかった。
このまま意識が飛ぶ―――そう感じた。だが、それを阻んだのは、冬賀の指だった。
「ぁ……な、……いっ、っ……」
冬賀の指がまた、晒された乳首を弄る。今度は親指でころころと回すように弄ばれた。男の乳首なんて触っても何もないだろうと、惇人は痛みで疲弊した頭で考える。
だが―――…。
「おいおい、ちんこが震えてんぜ? 気持ちいいのかよ」
嘲る嗤いに、惇人は頭が真っ白になる。嘘だろ、と思い自分のペニスを見ると少し勃ちあがっていた。
惇人の頭は真っ白に染まり、身体の震えがとまらなかった。
嘘だろ…―――。俺の身体、バカになっちゃってる…―――!
祖父が笑うと、惇人も笑った。祖父が楽しそうだと、惇人も楽しかった。あの家には、笑顔で溢れていた。祖母が死んでしまった時も、彼は惇人をみて笑みを浮かべた。たった二人っきりになった家族。ずっと続いてほしいと思った。おとなしく友達も少ないなか、惇人には祖父が心のよりどころだった。
だけれど、そんな生活は長くは続くわけがなかった。一週間前、祖父が死んだ。突然心臓発作で倒れ、そのまま病院に運ばれ、医者の苦労も甲斐なく息を引き取った。
あの日から、惇人の心にはぽっかりと穴が開いている。
一番大好きな人がいなくなってしまった。
惇人は、幼い頃に両親が死んでいて、親戚もほかにはいなかった。天涯孤独の身になってしまった。これからどうしたらいいのかわからず、言いようのない不安と焦燥感が常に自分の中にあった。貯金額も限られている。
大学3年生だったが、今後の学費が払えるかと言われれば、かなり不透明だった。
喪主をつとめ、あわただしく葬式を行い、あっけなく祖父を見送った。祖父の葬式は一人きりで行った。
灰になった祖父の骨は、ほとんどとれることはなかった。とてももろい身体だったのに、無理をさせていたのだとやっと気づいた。
そのまま一緒に、じいちゃんと眠りたい…――――。
そんな思いが、心の奥に眠る。惇人は、祖父だけが生きがいだった。友人もいない。頼る人なんていない。生きがいを失い、もう生きていく希望がなくなったのだ。
―――じいちゃん、待ってて、もう少しで向かいに行くからね。
そんな決意を胸に秘め、惇人は夜の街に繰り出した。今思えば、それがいけなかった。家で死ぬべきだった。
カフェで、紅茶を飲み、そのまま近くの森に行こうとぼんやりと考えていた。惇人の家の近くには樹海があって、迷い込んだら戻れないという自殺の名所だった。
『一人?』
突然、男に話しかけられる。低く、甘い声だった。惇人には、そこからの記憶がない。
気づいたら、この密室にいた。
出口はない。この、場所もわからない密室に。
惇人はこの日から、すべてを監視され、自我すら忘れさせてしまうことなんて知る由もなかった―――。
「…っ」
ガンガンと続く頭痛に、惇人は強制的に目を覚ます。寝起きが最悪だとか、そういう次元を超えているようだった。そして、すぐに自分の異常な姿を知ることになった。手が、何かに縛れていた。それに、身体が奇妙なことに浮いている。
自分が裸のままつるされていることに気づいたのは、すぐのことだった。
どうしてと混乱していると、昨日のことがフラッシュバックする。
訳のわからない痛みにあえいで、惇人はそのまま気絶してしまったのだ。
「……ぅ…」
頭痛が邪魔をして、まともな思考ができない。ただ自分が、予期せぬ事態に巻き込まれていることだけはわかった。手首に縄が食い込む痛みの感覚は、脳を麻痺させた。自分が宙に浮いているという倒錯的な事態に静かに混乱する。
身体がどこもかしこも痛い。これ以上、声をあげるのも、縄から逃れるために身体を動かすこともできなかった。
周りを見渡すと、コンクリートの要塞が昨日と同じように惇人を取り囲んでいた。逃げることは、不可能に近い。堅くドアも閉められている。
その時、難攻不落だと思われたドアが開かれた。外から、ドアが開かれたのだ。もしかしたら―――という希望は、あっけなく砕けた。ドアを開けたのは、冬賀と名乗る男だった。圧倒的オーラを放って、こちらに向かっている。
精悍な顔立ちで、厚い唇は色香を放っている。惇人が女性だったら、思わず感嘆をあげていただろう。
だが、今の惇人には、恐怖の声をあげた。身体がどうしようもなく震え、身体が冷えていく。今の惇人は裸で、無防備な状況も相まって恐怖がより深まった。
「ジョン。起きてるな、いい子だ」
「じょ…ん…?」
昨日かなり叫んだせいで、喉が痛くてたまらなかった。この埃っぽい部屋のせいでもあるのだろう。
自分がジョンと呼ばれ、意味が分からず瞬きを繰り返す。
「お前の名前だ。犬にぴったりだろ?」
犬って…―――。
そう声をあげたかったが、是非も言わさぬ冬賀の雰囲気に飲み込まれ惇人は何も言えなかった。
惇人(ジュント)とジョンは、全然違う。だが、そう呼ぶということは本当に目の前のこの人は惇人のことをモノとしか扱っていないと感じた。それにぞっとする。昨日と同じように、レザーパンツだけきている冬賀の手には鞭が握られていた。長い、黒い鞭。
頭が真っ白になる。
昨日の痛みの記憶が一気によみがえる。あの、痛み。
「…ぁ…」
「震えてるな。怖いのか?」
ぐいっと、顎をあげられる。惇人の顔がゆがんだ。惇人の容姿はふと見れば印象のいい小奇麗な顔立ちだった。大学のクラスでも、ひそかに人気だったということを惇人自身は知らない。その小奇麗な顔が歪み、ひくつく姿は男にとって酷く興奮させるものだった。
「そんなに、俺の奴隷になるのが嫌か?」
くくっと、嗤う冬賀に惇人は怯える。
昨日、嬉々として身体を痛みつけた男が目の前にいる。
「…ぁっ、…そんな…おれ、ど、どれい…なんて…」
声が震えた。
奴隷なんて、おかしい。それはわかっているのに、大きな声をあげられない。
「昨日の威勢はどうした? 文句があるなら、言ってみろ」
「ぇ……、…じょ、冗談…ですよね…。あ…の、ドッキリとか…そういう…」
ははっと、笑ったが全然惇人は笑えなかった。目の前の男は、一瞬無表情になる。
その瞬間、自分の言った言葉はダメだったのだと悟った。
「そうか、まだわかってなかったのか。馬鹿犬の調教は手に余るな」
「……ッ、」
無機質な冬賀の言葉を理解する前に、鞭が惇人の背中を打つ。突然の痛みに、瞳の中で火花が散る。うめき声をあげる間もなく、続いての鞭が振り落とされた。鋭い痛みに、惇人の身体はデクのように歪にしならせた。
昨日の傷が残っており、その上から鞭が振り落とされるので、その前打たれた痛みより激痛が走る。
宙に浮いたままの打ち付けは体中で痛みがまわり、さらに脳に酸素があまり回らない状況でより身体的にも負担が大きかった。
「ん? どうした。もう限界か」
「…い…痛い……なんで…かえりた…い…、んっ、や、め」
惇人は涙ながらに、懇願する。だが、それを遮ったのは冬賀の武骨な大きな手による胸の尖りの愛撫だった。
突然の刺激に、腰が揺れ身体が宙に浮いたまま揺れる。
「じゃあ、ゲームをしようか。ジョン、お前はいい子だからきっとできるぞ」
いい子だと言いながら、冬賀は惇人の片方の乳首を引っ張る。痛みに惇人が呻いても、冬賀はやめようとしない。むしろ惇人が痛がっているとわかると、より痛みを深めようと爪を立てた。
「お前が1時間イかなったら勝ちだ。望み通りここから出してやる。出来なかったら、そうだな…ここから出ることは諦めて奴隷になってもらう」
冬賀はニカっと笑う。だが、その笑みは惇人を陥れる悪魔の笑みだった。
「い、いく…?」
あまり言ったことのない言葉で、惇人は言いながら顔を赤らめる。惇人にはおとなしい性格のため彼女ができたことがなく、ましてや好きな人などできたことがなかった。性的接触も少なく、今のように長時間人に裸を晒しているのも初めてだった。
このゲームをやろうという冬賀の意図がわからなかった。だが、今すぐにでもここから出たい惇人には選ぶ余裕はなく、小さくうなづく。
自分は、性欲はあまりないほうだと惇人は知っていた。自慰も、同年代の男子よりもやったことはなかった。男女の交わりは自分には無縁の世界だった。
耐えられる。たとえ、調教師だという冬賀の愛撫だとしても。なんとしても、耐えてみせる。
惇人は、心臓が高まるのを感じつつ、決意を決め目をとじる。
ピッ、と何か機械音が流れた。冬賀が、ストップウォッチを惇人に見せる。60分とセットされたタイムがだんだんと短く刻んでいた。冬賀はそれを床に置き、惇人と向き合った。冬賀は野獣の瞳をしていた。これから、どうやっていたぶろうかと思っている目だった。
惇人は思わず自分の萎えているペニスを見て、ほっとする。こんな状況じゃ、竦みあがって勃起もありゃしないのだ。
「そうだな…。このままここを触ったら、ジョンには不平等だなぁ…。ここに触らないで、イッたらにするか」
絶対にそっちのほうがありがたいので、惇人はコクコクとうなづく。
「…そんな余裕で、ほんとに我慢できんのか、よっ」
「ア゛ッ?!」
脳天に響く刺激に、惇人は大声をあげた。また、鞭でぶたれたのだ。今度は局部近くを。鞭が、惇人の雄の象徴をかすめる。惇人は深く息を繰り返す。カタカタと恐怖で震える惇人を置いて、次の一撃が繰り出される。
「ひっ……ン、ぐ…っ!」
何度も打ち付けられて、惇人はただ唸り喘ぐことしかできなかった。触らないでと冬賀は言っていたが、こんなんじゃ不公平でもなんでもない。
手と脳がだんだん麻痺して、惇人は意識が遠のく。冬賀は嗤いながら愉しそうに、鞭を振るっていた。脳を抉る痛みは、耐えられるものではなかった。
このまま意識が飛ぶ―――そう感じた。だが、それを阻んだのは、冬賀の指だった。
「ぁ……な、……いっ、っ……」
冬賀の指がまた、晒された乳首を弄る。今度は親指でころころと回すように弄ばれた。男の乳首なんて触っても何もないだろうと、惇人は痛みで疲弊した頭で考える。
だが―――…。
「おいおい、ちんこが震えてんぜ? 気持ちいいのかよ」
嘲る嗤いに、惇人は頭が真っ白になる。嘘だろ、と思い自分のペニスを見ると少し勃ちあがっていた。
惇人の頭は真っ白に染まり、身体の震えがとまらなかった。
嘘だろ…―――。俺の身体、バカになっちゃってる…―――!
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