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28 絡み取られる
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――――この想いは、どこに向かうのか自分でも検討がつかない―――
明日の声で樹は目を覚ます。耳を明日の甘い声が侵略していって、脳髄まで犯し、麻痺してしまう。それは錯覚ではなく、本当のことだ。樹は今までずっとずいぶんと長い夢を見ていたような気がした。
『…どこにも行かないで』
「ッ」
樹は息をのんで勢いに任せて今まで眠っていた机にイヤホンを耳のなかから投げ捨てた。耳元に囁いたのはRe:asu-リアス-の歌詞の一部だ。いや歌詞にある台詞の一部、といったほうが適切かもしれない。この甘い囁きは何人のファンを陶酔させてきたのだろう。
「クソッ」
樹は口汚く叫ぶ。夢だと思っていたのに、頭にこびり付いた記憶が嘘じゃないと言ってくる。
―――イズ…好き……嫌だ…僕を置いていかないで…。
頭の中で明日の自分への切羽詰まった告白が蘇る。それはあまりに信じられない桃源郷の世界にみえる。だがあれは現実だった。身体が、彼の匂いも、感触も、何もかも覚えている。忘れるはずがない。あんな麻薬みたいな出来事を。
「…なんで」
樹は呻くように口を開き再生され続けている音楽プレーヤーを見つめる。樹はあれからどうしようも出来なくてずっとリアスの音楽を聴いていた。少しでも明日のことが分かるんじゃないかって。だが分かったのは明日は歌詞に苦しい恋の歌を書き続けていたということだけだ。
明日のことを分かっていなかったのは自分のほうだ。
明日の本当の姿はすべて分かっていたはずなのに、樹はそれは偶像の明日だろうと思っていた。リアスの歌詞を―――過激な恋の歌も、切ない恋の歌も書いていたのは紛れもなく明日自身だったのに。
聖人で天使ではなく、ただの一人の人間の『五十嵐明日』だったのに。樹は自分の勝手な明日のイメージを押し付けて、こんなのは明日ではないと言ってしまった。らしくない、今日の明日はおかしいと。そう明日に言って傷つけてしまった。
「…最低だ…」
天使だった明日がバラバラに壊れていくのが怖くて、明日を逆に自分が言葉で壊してしまった。樹は誰もいない朝の自室で項垂れた。カーテンを開けていない部屋はいつもより薄暗く樹の心のなかのようだった。
明日の執着はホンモノだった。それを恐ろしいと思う自分と、ゾクゾクするほど歓喜にわく自分がいる。それはどちらも樹だ。そのまま明日という罠に嵌まり咀嚼されてしまいたいという気持ちと、こんなのはダメだよと叫ぶ理性の自分。
どちらも自分の本当の気持ちだ。どちらも捨てられない、大切な気持ち。
―――じゃあ、確認するために下脱いじゃおっか?
明日の言葉に樹は首を振る。まるで目の前に本当に明日がいるような気がした。
「…ダメだよ」
―――大丈夫、誰も見てないから。
明日がそう言えば、世界に2人しかいないような気がした。
「……」
頭の中が現実の明日と妄想の明日でグチャグチャになる。もうどうにかなりそうだ。そう樹は想う。明日に縋りついて自分も好きだと言えたらどれだけいいのだろう。
――――ぜーんぶイズのせいだよ
「…違うよ。ぜんぶあーちゃんがいけないんだ…」
自然と手が自分の秘部に動く。立ちながらズボンをずらし、性急に性器を擦る。すぐに硬度をもち粘着質な音が響き渡る。まるで獣のようだと思う。明日のことを考えているとすぐに達してしまった。まるで盛りのついた犬のようだ。
全部が樹のせいだと明日は言った。樹を責め、全部樹がいけない、可愛いからダメなんだよ…そう言った。
樹は精を吐き出しながらぼんやりと思う。
どうして明日は2日間だけ恋人になってほしいと、自分にとって後々辛くなる選択をしたのだろうか、と。
日がたつにつれて明日に告白された事実が重石のように圧しかかる。あれから明日の連絡はない。樹は手足が蜘蛛の巣に絡み取られ放置されたようなものだった。決して外すことはできない糸に絡まれジタバタともがくとさらに深みにハマってしまうように。
―――恋人になってほしい。
樹は明日の言葉を反芻した。恋人って、どういうことをするんだろう。そんなことを樹は暇さえあれば考えていた。考えることは明日のことぐらいだ。
恋人の意味は分かる。明日に恋人になってほしいとずっと思っていたのだから。だがいざなれ、と言われてもなんとなくピンとこなかった。今までずっと明日と樹は友人だった。二日間の期間限定の恋人だとしても、いきなりなることはできるんだろうか…――そんなことを考える。
恋人という関係性は出来る限り毎日電話したり、毎日ご飯食べたり、直接会って愛を囁き合ったりするものだとテレビのドラマや小説で見たことがある。町中で手をつなぎ合うカップルも見たことがある。だがそれは明日と樹では難しいとは分かっていた。
明日は忙しいし有名人だから毎日会うようなことは無理だろう、男同士なんだから街中や人前で手をつなぐことは厳しい。
そうなると、デートになるのかな。
恋人になったらデートをやりたいと樹はずっと思っていた。どこかへ出かけたりするんだろうか。
そんなことを考えて学校帰りに、駅前をふらふらと歩いていたら小さな人だかりができている場所があった。気になり目を向けると樹は思わずソレに目を奪われた。
「みてみて、海岸のポスター」
「カッコい~! これ公式ついったーにアップされてたよね、写メ写メ」
「あたしもあたしも」
キャッキャッと女の子たちが歓声をあげ、ケータイカメラを向けているのはRe:asu-リアス-の大型ポスターだ。駅前に大きく張り出された新曲の宣伝ポスターは喧騒とした駅前広場で目立っていた。誰もが視線がポスターに向いているのが分かる。
今どきの女子高生たちが嬉しそうにはしゃいでいるのを見て樹は胸が締め付けられる。
樹も思わず立ち止まりそのポスターを見つめる。リアスのメンバーが4人煌びやかにポーズをとっていた。タキシード姿の4人は真ん中に明日、彼を囲むように右からジャック、リヤン、トーマスと並んでいる。クリスマスのイルミネーションと合わさって余計に綺麗にかっこよく見える。
彼女たちが去った後、大人しそうな20代の女性がポスターの前に行きカメラをとっていた。幸せそうにポスターを見つめ、とても嬉しそうな横顔だった。それはまるで彼氏を前にした彼女のようにみえた。
「……」
樹はその彼女を見てからさらに顔を歪めた。さらに現実味を帯びていく罪悪感に押しつぶされそうになる。自分はあんな幸せそうに笑っている人たちを、裏切る行為を今からしようとしているのではないか?と。
―――彼女たちの幸せを壊して、あまつさえ傷つけようとしているのではないか。
―――明日と付き合うことは、ファンを傷つける行為しかならないではないのか。
そんな考えが樹の首に巻き付く。これからのことを考えれば考えるほど、自分が嫌でたまらなくなっていく。嫌な心臓の音が響き渡ったときだった。
「あれ樹?」
低い甘い声。香る甘い香り。
「あ、明日…ッ…翔…さん…?」
肩を叩かれて振り向くと明日だと思って声をあげる。だが明日によく似た男性的な色香を持つ実の兄である明日翔だと気づくとビックリすると同時に、むしろ明日でなくてよかったとほっと息を吐いた。高級そうな皮のコートを羽織り首に巻いた赤いマフラーは彼によく似合っていて樹はいつにもましてドキドキした。
「あ、明日だと思っただろ? びっくりさせたか?」
あはは、と軽薄に―――いや豪快に笑う彼は明日によく似ていたが雰囲気や仕草、言葉遣いはまったく違っていた。純粋な弟の明日に比べると、明日翔は色気のある野生児のような魅力があった。
「あ…、すみません…」
「なーに謝ってんだよ。べつに怒ってないよ」
軽快に笑う明日翔にほっとする。相当街中で明日翔は有名人の明日に間違われたのだろう。その言葉は慣れた口ぶりだった。明日翔も十分明日の兄という立場じゃなくても、日本にいたときからカッコよくてみんなの憧れだった。
今も長身でスタイルのよい青い瞳の彫りの深い美しく雄々しい明日翔に、すれ違う人が振り返っているのが分かる。明日のポスターの前に立っている二人はかなり目立っていた。だが明日翔はその人々の好奇の視線になれているのか、いつも通りに樹と言葉を交わしている。
「…あ、これリアスのポスターか? 明日も有名になったよなー、俺もよく間違われてサイン求められるし。そんなに似てるか俺たちって」
明日翔は樹の見上げていたポスターを見て口を動かす。その横顔は明日にソックリだった。大人になった明日にソックリなのだろうと、こっそり思う。
「えーと…、顔とかは似てるけど…雰囲気とか性格は全然違います…」
樹が正直に言うと、明日翔は太陽のような眩しい笑みを浮かべた。
「そうだよな~、似てるのは青い目ぐらいだよな~。皆ちゃんと見てんのかよって思うわ」
「…」
ドキッとする。どうしてか、明日翔の言葉がグルグルと頭に回った。
「樹どうした? 元気ないな」
筋肉質で健康的な手がふいに頬に触れ、樹は馬鹿みたいに身体がビクつく。明日翔はその様子に一瞬面を食らった顔をしたが、それは崩れた。手を離すと口を押え、目じりに涙を浮かべ爆笑していた。樹も顔が真っ赤になりながら面を食らう。
驚いている樹に明日翔は笑いをこらえながら口を開く。
「そんな真っ赤になるぐらいなら心配いらねぇな。ん、そうだ。もう結構いい時間だし、腹減らねぇか。お前がイイなら、今から飯食いに行かね?」
その誘い文句は言いなれたもので、彼の女性経験も多いのが覗えた。
彼の切れ長の色素の薄い蒼い目はYESしか言えなくさせるものだ。樹は大きく頷くと、明日翔は楽しそうに笑った。
明日に怒られるかもな――――そう言った彼の横顔はとても意地の悪い笑みだった。
明日の声で樹は目を覚ます。耳を明日の甘い声が侵略していって、脳髄まで犯し、麻痺してしまう。それは錯覚ではなく、本当のことだ。樹は今までずっとずいぶんと長い夢を見ていたような気がした。
『…どこにも行かないで』
「ッ」
樹は息をのんで勢いに任せて今まで眠っていた机にイヤホンを耳のなかから投げ捨てた。耳元に囁いたのはRe:asu-リアス-の歌詞の一部だ。いや歌詞にある台詞の一部、といったほうが適切かもしれない。この甘い囁きは何人のファンを陶酔させてきたのだろう。
「クソッ」
樹は口汚く叫ぶ。夢だと思っていたのに、頭にこびり付いた記憶が嘘じゃないと言ってくる。
―――イズ…好き……嫌だ…僕を置いていかないで…。
頭の中で明日の自分への切羽詰まった告白が蘇る。それはあまりに信じられない桃源郷の世界にみえる。だがあれは現実だった。身体が、彼の匂いも、感触も、何もかも覚えている。忘れるはずがない。あんな麻薬みたいな出来事を。
「…なんで」
樹は呻くように口を開き再生され続けている音楽プレーヤーを見つめる。樹はあれからどうしようも出来なくてずっとリアスの音楽を聴いていた。少しでも明日のことが分かるんじゃないかって。だが分かったのは明日は歌詞に苦しい恋の歌を書き続けていたということだけだ。
明日のことを分かっていなかったのは自分のほうだ。
明日の本当の姿はすべて分かっていたはずなのに、樹はそれは偶像の明日だろうと思っていた。リアスの歌詞を―――過激な恋の歌も、切ない恋の歌も書いていたのは紛れもなく明日自身だったのに。
聖人で天使ではなく、ただの一人の人間の『五十嵐明日』だったのに。樹は自分の勝手な明日のイメージを押し付けて、こんなのは明日ではないと言ってしまった。らしくない、今日の明日はおかしいと。そう明日に言って傷つけてしまった。
「…最低だ…」
天使だった明日がバラバラに壊れていくのが怖くて、明日を逆に自分が言葉で壊してしまった。樹は誰もいない朝の自室で項垂れた。カーテンを開けていない部屋はいつもより薄暗く樹の心のなかのようだった。
明日の執着はホンモノだった。それを恐ろしいと思う自分と、ゾクゾクするほど歓喜にわく自分がいる。それはどちらも樹だ。そのまま明日という罠に嵌まり咀嚼されてしまいたいという気持ちと、こんなのはダメだよと叫ぶ理性の自分。
どちらも自分の本当の気持ちだ。どちらも捨てられない、大切な気持ち。
―――じゃあ、確認するために下脱いじゃおっか?
明日の言葉に樹は首を振る。まるで目の前に本当に明日がいるような気がした。
「…ダメだよ」
―――大丈夫、誰も見てないから。
明日がそう言えば、世界に2人しかいないような気がした。
「……」
頭の中が現実の明日と妄想の明日でグチャグチャになる。もうどうにかなりそうだ。そう樹は想う。明日に縋りついて自分も好きだと言えたらどれだけいいのだろう。
――――ぜーんぶイズのせいだよ
「…違うよ。ぜんぶあーちゃんがいけないんだ…」
自然と手が自分の秘部に動く。立ちながらズボンをずらし、性急に性器を擦る。すぐに硬度をもち粘着質な音が響き渡る。まるで獣のようだと思う。明日のことを考えているとすぐに達してしまった。まるで盛りのついた犬のようだ。
全部が樹のせいだと明日は言った。樹を責め、全部樹がいけない、可愛いからダメなんだよ…そう言った。
樹は精を吐き出しながらぼんやりと思う。
どうして明日は2日間だけ恋人になってほしいと、自分にとって後々辛くなる選択をしたのだろうか、と。
日がたつにつれて明日に告白された事実が重石のように圧しかかる。あれから明日の連絡はない。樹は手足が蜘蛛の巣に絡み取られ放置されたようなものだった。決して外すことはできない糸に絡まれジタバタともがくとさらに深みにハマってしまうように。
―――恋人になってほしい。
樹は明日の言葉を反芻した。恋人って、どういうことをするんだろう。そんなことを樹は暇さえあれば考えていた。考えることは明日のことぐらいだ。
恋人の意味は分かる。明日に恋人になってほしいとずっと思っていたのだから。だがいざなれ、と言われてもなんとなくピンとこなかった。今までずっと明日と樹は友人だった。二日間の期間限定の恋人だとしても、いきなりなることはできるんだろうか…――そんなことを考える。
恋人という関係性は出来る限り毎日電話したり、毎日ご飯食べたり、直接会って愛を囁き合ったりするものだとテレビのドラマや小説で見たことがある。町中で手をつなぎ合うカップルも見たことがある。だがそれは明日と樹では難しいとは分かっていた。
明日は忙しいし有名人だから毎日会うようなことは無理だろう、男同士なんだから街中や人前で手をつなぐことは厳しい。
そうなると、デートになるのかな。
恋人になったらデートをやりたいと樹はずっと思っていた。どこかへ出かけたりするんだろうか。
そんなことを考えて学校帰りに、駅前をふらふらと歩いていたら小さな人だかりができている場所があった。気になり目を向けると樹は思わずソレに目を奪われた。
「みてみて、海岸のポスター」
「カッコい~! これ公式ついったーにアップされてたよね、写メ写メ」
「あたしもあたしも」
キャッキャッと女の子たちが歓声をあげ、ケータイカメラを向けているのはRe:asu-リアス-の大型ポスターだ。駅前に大きく張り出された新曲の宣伝ポスターは喧騒とした駅前広場で目立っていた。誰もが視線がポスターに向いているのが分かる。
今どきの女子高生たちが嬉しそうにはしゃいでいるのを見て樹は胸が締め付けられる。
樹も思わず立ち止まりそのポスターを見つめる。リアスのメンバーが4人煌びやかにポーズをとっていた。タキシード姿の4人は真ん中に明日、彼を囲むように右からジャック、リヤン、トーマスと並んでいる。クリスマスのイルミネーションと合わさって余計に綺麗にかっこよく見える。
彼女たちが去った後、大人しそうな20代の女性がポスターの前に行きカメラをとっていた。幸せそうにポスターを見つめ、とても嬉しそうな横顔だった。それはまるで彼氏を前にした彼女のようにみえた。
「……」
樹はその彼女を見てからさらに顔を歪めた。さらに現実味を帯びていく罪悪感に押しつぶされそうになる。自分はあんな幸せそうに笑っている人たちを、裏切る行為を今からしようとしているのではないか?と。
―――彼女たちの幸せを壊して、あまつさえ傷つけようとしているのではないか。
―――明日と付き合うことは、ファンを傷つける行為しかならないではないのか。
そんな考えが樹の首に巻き付く。これからのことを考えれば考えるほど、自分が嫌でたまらなくなっていく。嫌な心臓の音が響き渡ったときだった。
「あれ樹?」
低い甘い声。香る甘い香り。
「あ、明日…ッ…翔…さん…?」
肩を叩かれて振り向くと明日だと思って声をあげる。だが明日によく似た男性的な色香を持つ実の兄である明日翔だと気づくとビックリすると同時に、むしろ明日でなくてよかったとほっと息を吐いた。高級そうな皮のコートを羽織り首に巻いた赤いマフラーは彼によく似合っていて樹はいつにもましてドキドキした。
「あ、明日だと思っただろ? びっくりさせたか?」
あはは、と軽薄に―――いや豪快に笑う彼は明日によく似ていたが雰囲気や仕草、言葉遣いはまったく違っていた。純粋な弟の明日に比べると、明日翔は色気のある野生児のような魅力があった。
「あ…、すみません…」
「なーに謝ってんだよ。べつに怒ってないよ」
軽快に笑う明日翔にほっとする。相当街中で明日翔は有名人の明日に間違われたのだろう。その言葉は慣れた口ぶりだった。明日翔も十分明日の兄という立場じゃなくても、日本にいたときからカッコよくてみんなの憧れだった。
今も長身でスタイルのよい青い瞳の彫りの深い美しく雄々しい明日翔に、すれ違う人が振り返っているのが分かる。明日のポスターの前に立っている二人はかなり目立っていた。だが明日翔はその人々の好奇の視線になれているのか、いつも通りに樹と言葉を交わしている。
「…あ、これリアスのポスターか? 明日も有名になったよなー、俺もよく間違われてサイン求められるし。そんなに似てるか俺たちって」
明日翔は樹の見上げていたポスターを見て口を動かす。その横顔は明日にソックリだった。大人になった明日にソックリなのだろうと、こっそり思う。
「えーと…、顔とかは似てるけど…雰囲気とか性格は全然違います…」
樹が正直に言うと、明日翔は太陽のような眩しい笑みを浮かべた。
「そうだよな~、似てるのは青い目ぐらいだよな~。皆ちゃんと見てんのかよって思うわ」
「…」
ドキッとする。どうしてか、明日翔の言葉がグルグルと頭に回った。
「樹どうした? 元気ないな」
筋肉質で健康的な手がふいに頬に触れ、樹は馬鹿みたいに身体がビクつく。明日翔はその様子に一瞬面を食らった顔をしたが、それは崩れた。手を離すと口を押え、目じりに涙を浮かべ爆笑していた。樹も顔が真っ赤になりながら面を食らう。
驚いている樹に明日翔は笑いをこらえながら口を開く。
「そんな真っ赤になるぐらいなら心配いらねぇな。ん、そうだ。もう結構いい時間だし、腹減らねぇか。お前がイイなら、今から飯食いに行かね?」
その誘い文句は言いなれたもので、彼の女性経験も多いのが覗えた。
彼の切れ長の色素の薄い蒼い目はYESしか言えなくさせるものだ。樹は大きく頷くと、明日翔は楽しそうに笑った。
明日に怒られるかもな――――そう言った彼の横顔はとても意地の悪い笑みだった。
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