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11 きっといけない事
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じゃあ、もっとこすればいいのかな』
頭がぼんやりしたまま、樹は言う。樹の頭の中には小さな快楽の種が埋められていて、弾けば飛んでしまいそうだった。エアコンの風の音なんて聞こえはしなかった。目の前のことで精いっぱいだった。樹は自分の言葉に突き動かされるように、明日の小さなそれを握りなおす。
小さい明日の首がヒクンと動く。樹は今まで揉んでいただけの動きに、緩やかに上下に動かすことも加えた。拙い上下運動は、みるみると明日の様子を変えていった。
『あ…っ』
小さなもどかしさを訴えた声は、あまりに甘く甘美なものだった。粘土のような硬さが、徐々に芯を持ち始めていく。樹はその変化を面白く思いながら、目の前の明日の痴態に見入っていた。じっとりとした肌のまとわりつく汗が、自分のものじゃないような気がした。
明日も荒い息を吐きながら、樹の真似をするように、陶器のような白い指で上下に動かす。
樹は、幼いながら、頭が真っ白になっていく。ここまでくると、本能のまま気持ちいい快感を追っていく。部屋の中に小さな獣たちの嬌声が上がった。
『ん、……ぁ、っ』
『…ぁ、やだぁ…』
小さく悲鳴を上げたのは、明日だった。ぷくり、と先端が膨れた瞬間。
『…んぁっ』
目の前に閃光が弾ける。いや、弾けたのは明日の小さな性器からだった。白い液体が樹の腹部に飛び散る。聞いたこともないような、可愛い女の子の声の悲鳴が上がったと思ったら明日の口から出てきたものだった。首を下げると、自分の腹にテラテラと光るものが広がっている。感触はべっとりとしたものだった。
明日の表情を見て思わず震えた。あまりに無邪気な表情だった。荒く息をする表情、紅く染まっている頬———。愉しそうに、明日は笑っていた。
『白いのいっぱいでたぁ…』
嬉しそうに、明日は自分の出したものを見つめている。初めての感覚だった。身体の奥から沸き立つこの感情は、樹はこれから一生忘れることは出来ないだろう。何故か恥ずかしさで目が泳いだ。樹ははっとなって、手を放す。ドクドクと心臓が鳴り響く。自分のものじゃないように、血液が逆流している。今目にしている明日の存在が、特別だというように輝いた。昔から明日は樹の中心だった。それは分かっていたのに。
『イズ……』
自分を熱っぽく見つめる天使の声に、樹は目を逸らす。このまま見続けると、自分が自分ではなくなるような気がしたから。その時明日が寂しそうな顔をしたのを、樹は知らなかった。
妙に甘ったるい雰囲気が流れを変えたのは、ニッコリと屈託なく笑った明日だった。
『僕の勝ちだね』
ふふっと笑う明日に、カァッと顔が熱くなる。小悪魔なのか天使なのか、それすらも分からない。
『う、う、~…』
負けた悔しさなのか、今までしてきたことの恥ずかしさなのか。顔を膨らませ、呻くような癇癪声を出すしか、この感情を形容出来るものはなかった。
今まで勝負をしていたのに、俺はいったい何を———?
『くやしいなら、もう一回やる?』
『…やだ』
樹は首を振って、べっとりとした腹部にかかったものを見つめた。そっと手で拭い、幼い手で感触を確かめる。べたついた、糸を引く『白いの』は明日だけが出たもの。自分には出なかったもの。何が違かったのだろう。明日は、樹の答えにふてくされていた。樹はそっとその『白いの』の匂いを嗅いでみた。それは好奇心だった。少しすっぱい匂いがして、顔をしかめる。だけど、それは不快感からではなかった。樹は、何だか明日との差がはっきり出てしまい本当に『勝負』に負けた気分になってしまっていた。
べとついたものが何だか拭きたくなくて、しばらく放っておいていたが、明日が『もう一回やろうよ~、気持ちよかったから』と笑いかけてきて慌ててティッシュで拭いてしまった。
気持ちよかったから、という言葉を聞いてやっと樹はあの気の遠くなるような感覚は『気持ちのよい』ものだったと知った。樹は、明日のあの姿を思い出しムズムズとした感情が沸き立ってしまい明日の提案を断った。———もう一度明日のあの乱れた姿を見て、自分がどうなってしまうのか分からなくて怖かったから。
結局、その日から樹は明日を見るたびに裸の明日を思い出してしまい、そんな自分に目を逸らしたまま日々を送った。半年後のある日。朝起きた時、自分の下着に『白いの』がべったりとついてきて自分が『大人』になったのだとはしゃいだ。
母親に嬉しくなって朝ご飯の時に報告すると、少し気まずそうに教えてくれた。それは大人になった証で、生理現象だと。男の子はそこが『勃起』し硬くなって、『射精』すること。そして白い液体がでること。それは気持ちがいいこと。でも、必要以上に触って刺激を与えないこと。
それを聞いて、樹は何となくこれは喜ばしいのだけれど、母親に言うべきじゃなかったと気づいた。きっと後ろめたいことなのだと。日常生活では隠すべきことなのだと。デリケ—トな話なのだと。樹は、明日との出来事を思い出し、カァッと下半身が熱くなり思わずトイレに逃げた。
恐る恐るパンツを脱ぐと、硬くなった樹のペニスが勃ち上がっていた。
樹は顔を真っ青にさせ、何故か明日のことを想うとそうなってしまうことに怯えた。子供ながらに、これはおかしいことなのだと気づいてしまったのだ。樹は明日にどうしようもなく謝りたくなった。その後、保健体育の時の授業でより詳しいことを知り、樹はさらにその想いを強くした。
教科書には『好意を持った相手や異性に対しての感情』でそうなると書いてあったのだ。クラスメイトたちは休み時間に、楽しそうに好きな人のことを話していた。それは異性だけが話題に上がったのだ。そして友達である明日に抱くこの熱情は普通に考えればおかしいのだと。
好きな人の話題に上がる『五十嵐明日』という名前に、俺も、と言いたくても言えなかった。
男の自分が女の子と同じことを言ってはおかしいだろうと、分かったから。
その時、樹は想った。自分が女の子に生まれればこんなことにならなかったのに、と。
この小学校のアイドル明日が、落ち込んでいる樹の机の前に来て『遊ぼう』と笑う。その笑顔はまぶしくて。そのことは、この世のことがどうでもよくなるように、うれしくて。
『うん』
樹が自分の皆とは違うチグハグな想いを抱えたまま、この後の人生を歩むことなんてきっと明日は知らないだろう。そうしてこの想いを、隠し通そうと決めた。知られたら、きっと、嫌われる、そう信じて。
頭がぼんやりしたまま、樹は言う。樹の頭の中には小さな快楽の種が埋められていて、弾けば飛んでしまいそうだった。エアコンの風の音なんて聞こえはしなかった。目の前のことで精いっぱいだった。樹は自分の言葉に突き動かされるように、明日の小さなそれを握りなおす。
小さい明日の首がヒクンと動く。樹は今まで揉んでいただけの動きに、緩やかに上下に動かすことも加えた。拙い上下運動は、みるみると明日の様子を変えていった。
『あ…っ』
小さなもどかしさを訴えた声は、あまりに甘く甘美なものだった。粘土のような硬さが、徐々に芯を持ち始めていく。樹はその変化を面白く思いながら、目の前の明日の痴態に見入っていた。じっとりとした肌のまとわりつく汗が、自分のものじゃないような気がした。
明日も荒い息を吐きながら、樹の真似をするように、陶器のような白い指で上下に動かす。
樹は、幼いながら、頭が真っ白になっていく。ここまでくると、本能のまま気持ちいい快感を追っていく。部屋の中に小さな獣たちの嬌声が上がった。
『ん、……ぁ、っ』
『…ぁ、やだぁ…』
小さく悲鳴を上げたのは、明日だった。ぷくり、と先端が膨れた瞬間。
『…んぁっ』
目の前に閃光が弾ける。いや、弾けたのは明日の小さな性器からだった。白い液体が樹の腹部に飛び散る。聞いたこともないような、可愛い女の子の声の悲鳴が上がったと思ったら明日の口から出てきたものだった。首を下げると、自分の腹にテラテラと光るものが広がっている。感触はべっとりとしたものだった。
明日の表情を見て思わず震えた。あまりに無邪気な表情だった。荒く息をする表情、紅く染まっている頬———。愉しそうに、明日は笑っていた。
『白いのいっぱいでたぁ…』
嬉しそうに、明日は自分の出したものを見つめている。初めての感覚だった。身体の奥から沸き立つこの感情は、樹はこれから一生忘れることは出来ないだろう。何故か恥ずかしさで目が泳いだ。樹ははっとなって、手を放す。ドクドクと心臓が鳴り響く。自分のものじゃないように、血液が逆流している。今目にしている明日の存在が、特別だというように輝いた。昔から明日は樹の中心だった。それは分かっていたのに。
『イズ……』
自分を熱っぽく見つめる天使の声に、樹は目を逸らす。このまま見続けると、自分が自分ではなくなるような気がしたから。その時明日が寂しそうな顔をしたのを、樹は知らなかった。
妙に甘ったるい雰囲気が流れを変えたのは、ニッコリと屈託なく笑った明日だった。
『僕の勝ちだね』
ふふっと笑う明日に、カァッと顔が熱くなる。小悪魔なのか天使なのか、それすらも分からない。
『う、う、~…』
負けた悔しさなのか、今までしてきたことの恥ずかしさなのか。顔を膨らませ、呻くような癇癪声を出すしか、この感情を形容出来るものはなかった。
今まで勝負をしていたのに、俺はいったい何を———?
『くやしいなら、もう一回やる?』
『…やだ』
樹は首を振って、べっとりとした腹部にかかったものを見つめた。そっと手で拭い、幼い手で感触を確かめる。べたついた、糸を引く『白いの』は明日だけが出たもの。自分には出なかったもの。何が違かったのだろう。明日は、樹の答えにふてくされていた。樹はそっとその『白いの』の匂いを嗅いでみた。それは好奇心だった。少しすっぱい匂いがして、顔をしかめる。だけど、それは不快感からではなかった。樹は、何だか明日との差がはっきり出てしまい本当に『勝負』に負けた気分になってしまっていた。
べとついたものが何だか拭きたくなくて、しばらく放っておいていたが、明日が『もう一回やろうよ~、気持ちよかったから』と笑いかけてきて慌ててティッシュで拭いてしまった。
気持ちよかったから、という言葉を聞いてやっと樹はあの気の遠くなるような感覚は『気持ちのよい』ものだったと知った。樹は、明日のあの姿を思い出しムズムズとした感情が沸き立ってしまい明日の提案を断った。———もう一度明日のあの乱れた姿を見て、自分がどうなってしまうのか分からなくて怖かったから。
結局、その日から樹は明日を見るたびに裸の明日を思い出してしまい、そんな自分に目を逸らしたまま日々を送った。半年後のある日。朝起きた時、自分の下着に『白いの』がべったりとついてきて自分が『大人』になったのだとはしゃいだ。
母親に嬉しくなって朝ご飯の時に報告すると、少し気まずそうに教えてくれた。それは大人になった証で、生理現象だと。男の子はそこが『勃起』し硬くなって、『射精』すること。そして白い液体がでること。それは気持ちがいいこと。でも、必要以上に触って刺激を与えないこと。
それを聞いて、樹は何となくこれは喜ばしいのだけれど、母親に言うべきじゃなかったと気づいた。きっと後ろめたいことなのだと。日常生活では隠すべきことなのだと。デリケ—トな話なのだと。樹は、明日との出来事を思い出し、カァッと下半身が熱くなり思わずトイレに逃げた。
恐る恐るパンツを脱ぐと、硬くなった樹のペニスが勃ち上がっていた。
樹は顔を真っ青にさせ、何故か明日のことを想うとそうなってしまうことに怯えた。子供ながらに、これはおかしいことなのだと気づいてしまったのだ。樹は明日にどうしようもなく謝りたくなった。その後、保健体育の時の授業でより詳しいことを知り、樹はさらにその想いを強くした。
教科書には『好意を持った相手や異性に対しての感情』でそうなると書いてあったのだ。クラスメイトたちは休み時間に、楽しそうに好きな人のことを話していた。それは異性だけが話題に上がったのだ。そして友達である明日に抱くこの熱情は普通に考えればおかしいのだと。
好きな人の話題に上がる『五十嵐明日』という名前に、俺も、と言いたくても言えなかった。
男の自分が女の子と同じことを言ってはおかしいだろうと、分かったから。
その時、樹は想った。自分が女の子に生まれればこんなことにならなかったのに、と。
この小学校のアイドル明日が、落ち込んでいる樹の机の前に来て『遊ぼう』と笑う。その笑顔はまぶしくて。そのことは、この世のことがどうでもよくなるように、うれしくて。
『うん』
樹が自分の皆とは違うチグハグな想いを抱えたまま、この後の人生を歩むことなんてきっと明日は知らないだろう。そうしてこの想いを、隠し通そうと決めた。知られたら、きっと、嫌われる、そう信じて。
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