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12 どうして隣に栗須が?!

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 そのあと、みんなで和食の朝食を食べた。なかなかおいしくて、俺は嫌な不安なんてすっかり忘れてしまった。
 そのあと俺たちはバスで移動し、有名な寺がある場所の駐車場までいき、そこから京都探索をすることになった。天気は快晴。秋晴れのいい天気模様だった。古くからある木造家屋が多く、紅葉が紅くあたりを染まらせる。
 あまりに綺麗で、俺はしばらく見入った。
 紅い綺麗な紅葉を拾い、持っていた手帳の中に挟む。
「結構増栄って、ロマンチストなんだな」
「げ、なんでいるんだよ」
「そりゃあ、同じ班だからな」
 角川に後ろからささやかれて、俺は顔をゆがめた。つーか、見られてた…。めっちゃ恥ずかしい…。
 手帳をいそいそと隠しながら、俺は反論する。
「これは、思い出だからいいんだよ」
「ふーん、思い出、ねぇ…」
 にやにやと笑っている角川を俺は睨む。子供みたいな奴だと思っている顔だった。
「ちょっと増栄くん、先に行かないでよ」
 ぱたぱたと走ってきたのは、西島だった。その隣には栗須と虹田、伏矢がいる。いつの間にか班員が全員集まっていた。
「ごめん、ちょっと紅葉見てた」
 西島に謝ると、隣にいた角川が栗須に言った。
「聞いてくれよ栗須、増栄ってば」
「おい、言うなよ!」
 即座に栗須に言おうとする角川に思わず叫ぶ。栗須は無表情だったが願望では『何を見たんだろう。教えてほしい』と思っている。まさか栗須まで知られるわけにはいかないので、俺はなんとか阻止しようとしていた。
「え~。なんで」
「恥ずかしいだろ!」
 西島は、状況がなんとなく察せられたのか、にまにまと笑っていた。
 京都についても、角川は角川だった。
「あの~……」
 突然声がきた方向を見ると、女子3人が可愛い仕草でそこに立っていた。目がどう見ても、キラキラとしたものだった。それは西島と、角川と、栗須に向けられたものだった。次の言葉を聞く前に願望が聞こえてきたので、俺はそっとその場を離れる。
『一緒に京都回ってくれないかなぁ』
『カッコいい! 高校生だよね、付き合いたい~』
『彼女とかいるのかな~? どれか、ゲットしたい!』
 俺はそんな彼女たちの願望を聞いてどっと疲れた。
 3人とも可愛い子たちだったが、あんな願望を聞いてしまうとどうにも萎える。虹田と伏矢は彼女たちの心の声なんて聞こえてこないので、楽しそうに彼女たちを見詰めていた。西島は嫌そうな顔をして、こちらを覗っている。
 なんとか西島だけでも助けたいが、彼女たち以外にもあの3人を狙っているクラスの女子たちも集まってきて、その場はカオスを極めていた。
 イケメンってすげえ…。
 俺はそんなことを考えつつ、疲れたのでお茶屋さんのベンチに座る。
 ここで待っていれば、いずれ誰かが抜け出してくるだろうと思ったからだった。
「隣いいか?」
「あ、うん……って、」
 俺は思わず、口を覆う。
 隣に座ってきたのは、栗須だった。長い足を組み、こちらを見詰めている。端正な顔立ちは、どう見ても栗須だった。
「…なにか、ついてる?」
「えっ? いや、そういうわけじゃ…」
 あまりに驚いて、俺はじっと栗須を見ていたらしい。栗須に不思議そうな顔をされて、慌てて顔を逸らす。なんていうタイミングというか、なんというか…。というか、さっきまで女子たちに囲まれてなかったか?
 まさか、栗須の能力って瞬間能力?
「違う」
 栗須の言葉に俺は再度驚いた。
 はっきりした口調で否定されて、瞬きを繰り返す。
「…口に出てた?」
「…うん」
 栗須に肯定されて、俺は項垂れる。でも俺は、気になって「さっきまで、女子に囲まれてたじゃん」と問う。
「…抜け出した」
『あんな奴らと一緒なぐらいなら、増栄と一緒にいたい』
「…っ」
 言葉とともに、告げられた『願望』に頭が痛くなる。やっぱり、2人きりなんてなるもんじゃない。こんな痛いぐらいの気持ちをきかされて、いったいどうすればいいのだろう。
 ふいに、女子たちの塊があった方向を見てみると、そこには誰もいなかった。
「あれ? みんなどこ行った?」
 慌てて立ち上がると、隣の栗須のぶっきらぼうな声が聞こえた。
「……みんなで行動するって」
「え?! 西島も?!」
 栗須の言葉に、俺は叫ぶ。
 そこにタイミングよく、ケイタイがぶるっと震えた。確認すると西島からのメールで「2時間ぐらい女子たちと行動することになっちゃった。本当に、ごめんなさい! その間に角川くんにいろいろと聞いてみるから、待ってて。栗須くんと一緒だと思うけど、人の多いところで行動して!」と書いてある。
 俺は、ため息をついた。頼みの綱である西島がいないと、いろいろと困る。あの女子たち押しが強すぎるだろ…。
「…なんだって?」
 栗須が聞いてきて、俺は慌ててケイタイを隠す。こんな内容見られたら終わる。
「2時間ぐらい、女子たちと行動することになったって」
「…そうなんだ」
 栗須の無表情は変わらない。
『増栄と二人っきりだ…うれしい。…このまま一緒に回りたい』
 ドキドキとした感情がこちらまで伝わってくる。
 今のはある意味で『吊り橋効果』なのだろうか。怖い状態であるドキドキを、恋愛のものだと勘違いする現象。栗須がドキドキしているから、こちらもドキドキと鼓動が早まる。こういうのが、『吊り橋効果』っていうんだよな。
 俺たちはしばらく見つめあった。
「…暇だし、どっかまわろっか」
 そう言って、折れたのは俺だった。栗須の顔が、少し優しいものになる。心の声は喜ばしいものに変わった。
 そのことを、後悔するのはもう少しあとのことだった――――………。

 

 

 

 
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