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第4章 入団までの1年間(3)、グラナダ迷宮と蓋をした私の思い
101:チェスターは、勇者に興味がない(3)
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ルナリア帝国第9兵団・3番部隊隊長の私・<チェスター・バシュラール>は、グラナダ迷宮11階層で気配を消しつつ、約1か月前の出来事を思い出していた。
*********
「ばかな・・・」
1か月前・・・・・私は目の前で起きた信じられない出来事に、そう思わず声をもらしていた。
それは、<常陽の森>でレイ皇国の天才児<フレデリック・フランシス>を暗殺する任務中の出来事だった。
フレデリックを<勇者>に急襲させるも、敵陣営に事前に察知されたようで殺すには至らず、勇者が反撃を受けたあとのこと。
もちろん反撃を受けるのも、私の想定内だった。
だから、その結果を見る前から私は走り出していたし、すぐさま勇者に反撃したと思われる<護衛の男>を倒すべく、その男に短剣で攻撃を加えていたのだが・・・・。
どうやらその読み自体が・・・・・・・間違いだった、と気づいたのだ。
私が<護衛の男>と剣を打ち合うのを横目で伺うと、間違えの原因であるその女は・・・・あろうことか、すさまじい威力の身体強化魔法を私の目の前で披露したのだ。
(この私でもあの速さで移動するのは難しい・・・・・・ありえん・・・・!!)
女は、1秒もかからず、200M以上離れた女の兄である<フレデリック・フランシス>に駆け寄り、勇者と対峙した。
思わず夢中でその女・・・・<レティシア・フランシス>の姿を目で追ってしまう・・・・。取るに足らないはずだった存在が、急に敵陣営の戦力になったのだ、それがどのくらいの実力か見極める必要があった。
だが、それが私に隙を生んだのだろう。
ゴツッッ・・・
「・・・ッ!!!?」
私としたことが目の前から注意をそらしすぎたようで、斬り結んでいた<護衛の男>からみぞおちに拳の一撃をくらった。
(くっ、汚い手が私の服に・・・)
護衛の男は普通の冒険者や兵と比べればできる方なのだろう。だが、もちろんルナリア帝国で影をまとめている私の敵などではない。短剣を落としてしまったが、殴られても倒れるほどでもなく、ダメージはほとんどないに等しい。
・・・・しかし、私を殴ったその手は・・・・・先ほどまで魔獣・<ファングドッグ>を解体していた汚いものだ。
ふつふつとした怒りがわいてくる。任務中だから多少汚れるのは仕方ない・・・仕方ないのだが、任務中でも、ここまで私が汚れたのは久しぶりであった。
(この男・・・フレデリックともども早く殺してやる。今日は心置きなく風呂に入らねば気が済まん・・・・・!)
私がいまこの時を思い返し、敗因をあげるとしたら、<レティシア・フランシス>という想定外の戦力を目の前で見たにもかかわらず、彼女が強くても<フレデリック・フランシス>以上ではないだろうと侮ったことだろう。
簡単な任務という先入観がまだ私の中にあったのだ。
目の前の護衛の男の剣をかわし、地面に落ちた汚い剣ではなく、懐に入れている予備の短剣でその腹に一撃を入れる。
くずれ落ちる護衛の男にさらに剣を深く突き刺すと、意識を失ったようで崩れおちた。そのまま頸動脈をかき斬ってもいいが、放っておいても一刻も経たずに死ぬだろう。今の優先事項はこの男ではない。<フレデリック・フランシス>の暗殺だ。
そう思い、勇者が対峙しているであろう<フレデリック・フランシス>の方向に足を向ける。
そうして駆けだした私の目に映しだされた光景は、女・・・・・・<レティシア・フランシス>に右腕をねじ伏せられ、首元に剣をつきつけられている勇者の姿であった。
(・・・勇者が死ぬとさすがに任務上、まずいな)
条件反射で部下を助ける時のように、勇者を助けようと即座に判断を下すが・・・・次の瞬間に、そのおかしさに気付く。
そう、私が助けようとしているのは<勇者>なのだ。
*********
「ばかな・・・」
1か月前・・・・・私は目の前で起きた信じられない出来事に、そう思わず声をもらしていた。
それは、<常陽の森>でレイ皇国の天才児<フレデリック・フランシス>を暗殺する任務中の出来事だった。
フレデリックを<勇者>に急襲させるも、敵陣営に事前に察知されたようで殺すには至らず、勇者が反撃を受けたあとのこと。
もちろん反撃を受けるのも、私の想定内だった。
だから、その結果を見る前から私は走り出していたし、すぐさま勇者に反撃したと思われる<護衛の男>を倒すべく、その男に短剣で攻撃を加えていたのだが・・・・。
どうやらその読み自体が・・・・・・・間違いだった、と気づいたのだ。
私が<護衛の男>と剣を打ち合うのを横目で伺うと、間違えの原因であるその女は・・・・あろうことか、すさまじい威力の身体強化魔法を私の目の前で披露したのだ。
(この私でもあの速さで移動するのは難しい・・・・・・ありえん・・・・!!)
女は、1秒もかからず、200M以上離れた女の兄である<フレデリック・フランシス>に駆け寄り、勇者と対峙した。
思わず夢中でその女・・・・<レティシア・フランシス>の姿を目で追ってしまう・・・・。取るに足らないはずだった存在が、急に敵陣営の戦力になったのだ、それがどのくらいの実力か見極める必要があった。
だが、それが私に隙を生んだのだろう。
ゴツッッ・・・
「・・・ッ!!!?」
私としたことが目の前から注意をそらしすぎたようで、斬り結んでいた<護衛の男>からみぞおちに拳の一撃をくらった。
(くっ、汚い手が私の服に・・・)
護衛の男は普通の冒険者や兵と比べればできる方なのだろう。だが、もちろんルナリア帝国で影をまとめている私の敵などではない。短剣を落としてしまったが、殴られても倒れるほどでもなく、ダメージはほとんどないに等しい。
・・・・しかし、私を殴ったその手は・・・・・先ほどまで魔獣・<ファングドッグ>を解体していた汚いものだ。
ふつふつとした怒りがわいてくる。任務中だから多少汚れるのは仕方ない・・・仕方ないのだが、任務中でも、ここまで私が汚れたのは久しぶりであった。
(この男・・・フレデリックともども早く殺してやる。今日は心置きなく風呂に入らねば気が済まん・・・・・!)
私がいまこの時を思い返し、敗因をあげるとしたら、<レティシア・フランシス>という想定外の戦力を目の前で見たにもかかわらず、彼女が強くても<フレデリック・フランシス>以上ではないだろうと侮ったことだろう。
簡単な任務という先入観がまだ私の中にあったのだ。
目の前の護衛の男の剣をかわし、地面に落ちた汚い剣ではなく、懐に入れている予備の短剣でその腹に一撃を入れる。
くずれ落ちる護衛の男にさらに剣を深く突き刺すと、意識を失ったようで崩れおちた。そのまま頸動脈をかき斬ってもいいが、放っておいても一刻も経たずに死ぬだろう。今の優先事項はこの男ではない。<フレデリック・フランシス>の暗殺だ。
そう思い、勇者が対峙しているであろう<フレデリック・フランシス>の方向に足を向ける。
そうして駆けだした私の目に映しだされた光景は、女・・・・・・<レティシア・フランシス>に右腕をねじ伏せられ、首元に剣をつきつけられている勇者の姿であった。
(・・・勇者が死ぬとさすがに任務上、まずいな)
条件反射で部下を助ける時のように、勇者を助けようと即座に判断を下すが・・・・次の瞬間に、そのおかしさに気付く。
そう、私が助けようとしているのは<勇者>なのだ。
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