上 下
57 / 103
第3章 入団までの1年間(2)、帝国の陰謀とグラナダ迷宮

57:鍛錬3日目・初めての指名依頼

しおりを挟む
「おい、坊主。F級冒険者って、本当に本当の冒険者なり立てじゃねぇか・・・っっ!金に釣られるのも分かるが、今すぐやめろ!!死ぬだけだ!!!」


いかつい癖に優しい性格なのだろう、先ほどの男が私の冒険者証を見て焦りながら、忠告してくる。受付の男性もそれにこくこく頷いている。

だが、私に折れる気はない。
もう私はこの可愛らしい女性からの指名依頼を受ける気でいた。

お金も魅力的だが、彼女の言った<もう一人のA級冒険者並みの人物>に興味があったのだ。


(どんな強いヤツなんだろうか?)


ワクワクしてきた。アルフレッド殿は昨日重傷を負ったばかりだし、しばらくは安静が続く。・・・つまりは暇だ。

ならしばらくは迷宮を楽しむしかない・・・。つまりは、彼女の指名依頼を受けようが受けまいが、予定は変わらないのだ。
だったら、お金の問題も解決するし、強いヤツと共闘できるこの依頼を受けない手はないというもの。

私の意志が固いのが分かったのだろう、受付の男性は軽く息を吐いた後、事務処理のために私の冒険者証を四角い緑色をした箱の上に置いた。

そして、目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。

不思議に思い、その箱のようなものに表示された文字を覗き見ると・・・・。


(なるほどなぁ・・・いままで私が倒した魔獣はこうやって表示されるのか)


その文字には、登録の日付と倒した魔獣の種類と数、それを倒した日付がずらりと書かれていた。
<南の領地>最大都市<サリム>で受付の少女が言っていた通り、冒険者カードには討伐記録機能があるらしい。

見ると、私が昨日倒した魔獣の数は百を超えていた。しかもC級・B級もいる。新人が倒せる魔獣でも、数でもないから、(なるほど、これを見て驚いたのか)と納得した。

震える手で、今日の日付と指名依頼の内容を私の冒険者カードに打ち込んでいく受付男性。
打ち込み終わると静かに息を吐く。


「・・・・・・指名依頼、確かに受け付けました。前払いのゴールドはベルタ様のカードから、フレド様のカードに移すかたちでよろしいでしょうか?」


この世界の身分証、そして冒険者カードは、前世で言うプリペイド式キャッシュレスカードのような役割も担っているらしい。そう尋ねられた。

私がうなずくと、またカードに何かを打ち込む。そうして、受付男性はすべてを終えると、私と先ほど<ベルタ>と名乗った可愛らしい女性にそれぞれ身分証のカードを返却した。


「・・・っっ、ゲラーシェ!新人をつぶす気か・・・っっ!!!」


その様子を見ていたいかつい男が受付の机をたたき、すごむ。受付男性は、無言で首を横に振る。


「・・・・。冒険者ギルドでは、双方が納得した指名依頼を、受付者の個人的感情で取り消すことはできません」

「くそっ・・・!坊主、死ぬなよ・・・っっ」


そう吐き捨てると、いかつい男性は仲間たちのもとへ去っていった。冒険者ギルド内部のざわめきも次第に収まっていくのを感じる。

一度受けた指名依頼を、他の冒険者が取り消すのは難しいからだろう。


「さぁ、それじゃあ迷宮探索に必要なものたちを買いに行きましょう!あとさっき話した一緒に探索するもう一人の男も紹介するわねっっ!!探索は・・・・んんん~、早い方がいいわ!!明日からでいいかしら?」


そう言って可愛らしく微笑む<ベルタ>に、同じく公爵子息教育で培ったほほ笑みをかえしながら、うなずく。どうやら強いヤツは男らしい。

そうして彼女<ベルタ>と買い物をし、お昼を一緒に食べ、さらに買い物を続けると、なんと夕方近くになっていた。

それというのも、彼女<ベルタ>は道で猫を見かける度に、追いかけまわしたから、異様に時間がかかったのだ。
・・・・だが、思い返すと前世の姉も買い物には時間がかかっていたし、私が早く終わるだけで、普通はこんなものなのかもしれない。


「ここ、ここ!私が猫ちゃんたちと暮らす家よ・・・!
あっ!一緒に探索する男も住んでるけどね・・・っ」


迷宮都市<アッシド>の端にある小さな一軒家を指さしながら、ベルタが笑顔で私に話しかける。

飼い猫に会えるのがそんなに嬉しいのか、と私まで少し嬉しい気分になり、微笑み返す。

そうして彼女が自分の家だからか、ノックもせず、扉を開けた先には・・・・彼女が言っていたA級並みに強いヤツだろうか。
一人の男が、大量の猫に囲まれ、ソファに腰かけているのが見えた。


(まずは挨拶しないといけないな)


そう思い、公爵子息教育で得た優雅なほほ笑みを貼り付け、男の顔を見た瞬間・・・・・・

私は固まった。

そこにいたのは・・・・・・・・

私、レティシアの前世・理奈の唯一の彼氏だった・・・男・・・・

つまり元彼がいたのだ。

この世界にいるはずがないというのに・・・・・・・。

元彼・仲河光輝なかがわこうきの姿かたちをした男は、猫に囲まれながら、私を見上げ、私と同じように驚愕の表情を浮かべ、固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」 ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。 きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。 いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

処理中です...