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第3章 入団までの1年間(2)、帝国の陰謀とグラナダ迷宮

53:勇者は相棒に翻弄される(2)

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今朝のことだった。
この世界の習慣にならい、日の出とともに起きたオレは、リビングで深刻そうな顔をしたベルタを見つけた。


「・・・どうした?」

「これよっっ!」


ベルタが指し示すのはこの家に住む猫たちについている<隷属の首輪>だ。

この<首輪>は<ルナリア帝国>の暗部・通称<影>と呼ばれる兵士が、猫狂いのベルタを従わせるために、つけたものである・・・・人質ならぬ、猫質だ。


「昨日はあなた、わざと追撃しなかったでしょ?
あの時、もし追撃して、あの大柄な彼を殺していたら、この子たちの首輪は取れていたと思うとね・・・・はぁあああああ」


あからさまな嫌味をいいながら、オレを見つめわざとらしく溜息を吐くベルタに少しむっとする。

だが、感情的にならないように右手でこめかみをおさえながら、いらっとした気持ちを受け流した。
ベルタに感情的になっても仕方ないと、短いながらも同居生活で学んでいたのだ。この女性は基本、猫以外には全く興味がないのだ。

現に昨日襲撃したアルフレッドの名前はおろか、オレの名前さえ憶えていない。
・・・・・・・怒っても無駄だ。


「首輪が取れる?聞いた話だと、依頼された4人全員を殺さないと、<影>に<隷属の首輪>は取ってもらえないんじゃなかったのか?」

「そうだけど!それだと私のモチベーションが上がらないっ!と抗議したのっ!!!
4人全員なんて、仮に同じ国に全員いてもすごく時間がかかるじゃないっ。
そうしたら、1人殺すごとに、5にゃんこ解放するって約束してくれたのよっっ!!!」


数えたことはなかったが、1人5匹ということは、猫質にとられた猫はどうやら20匹らしい。
ちなみにオレは出会った当初、ベルタの前で猫を数えるのに「匹」を使ったところ、猛烈に怒り狂われて、「匹」ではなく「にゃんこ」を使うよう強制されている。
その時彼女は、猫に敬意を称して数える時は「匹」ではなく、「にゃんこ」を使うのだと力説していた。


「1にゃんこでも早く解放したいの。
この首輪があるから、あのくっらい男(影)の理不尽な命令を聞かなきゃいけないなんて・・・・っっ!!なんて不憫な猫ちゃんたちなのっっっ!!!!」


そう言って、1匹の猫を抱き寄せる。
ちなみに、猫に<隷属の首輪>をつけた<影>が猫に命令している内容は1点だけである。


「ベルタに飼われろ」


抱き寄せた瞬間、猫がギニャーと鳴いて彼女を引っ掻くのを見て、オレは「確かに理不尽な命令かもな・・・・」と頬をひきつらせ、思わずうなずいてしまった。


「あなたは、昨日、長距離転移を多用しましたし、あと1週間・・・は転移魔法が使えないんだっけ?
昨日みたいな襲撃はまだしばらくできない・・・・・・とすると・・・・んんん~。

そうね!今日・・出来ることと言ったら、大柄な彼と一緒にいた、もう一人の暗殺対象者の男の子・・・を私がこの目で見ることくらいかぁ」


そう続けたベルタの言葉に、オレは心の中で疑問符を浮かべた。

オレの1週間転移魔法が使えないというのは、もちろん<ルナリア帝国>用の設定・・だ。

そして、ベルタは<固有魔法>という特定の個人、もしくは血族のみしか使えない魔法が使える。

彼女の固有魔法は「一目見た相手でさえあれば、その人物の<現在の様子と場所>が正確に分かる」というもの。

つまり音声・・を聞くことはできないのだ。

だから、オレの襲撃現場にいた少女を<フレデリック・フランシス>だと思っている。だからいま、一緒にいた<男の子>と言った。
<影>がアルフレッドはいま、<南の領主>嫡男ちゃくなん<フレデリック・フランシス>の魔法騎士養成の講師をしていると言っていたから、当然彼と一緒に少年風の人物がいたら、そう思うのも当然である。

いつものオレならその間違いをすぐに訂正しただろう。彼女が誤って殺されたらと想像するだけで・・・・なぜだか胸がつぶれそうに痛くなるのだから。

だけど、疑問に思ったことに気を取られ、それを訂正せずに・・・・・ベルタに疑問をぶつけてしまう。


「ベルタは実際に目で見た・・・・・・・人物しか、固有魔法を発動できない・・・・だから、一緒にいたやつを見に行きたいというのは・・・・・・分かる。
暗殺対象を全員、固有魔法の射程内・・・に収めたいのは当然だしね。

でも・・・・<今日・・出来ること>と言ったが、今日出来ないんじゃないのか?
昨日、彼らはここから早馬でも2日・・はかかる場所にいたはずだろう?」

「いやいや~、それがいるのよっ!びっくり!!
あなたみたいに、時空魔法<テレポート>が使えるわけでもないのにね!

その男の子は昨日の昼頃、<深縁の森>からアルフレッド君を乗せた白い馬と一緒に走って・・・・・・・・・・、夕方には、この迷宮都市<アッシド>に来たんだよ」


なんでもないことのように淡々とベルタは喋るが、この世界に来て、色々な人物の実力を知るオレとしては、とても信じられるものではなかった。白い馬は<精霊>だというから、そのくらい出来るのかもしれないが・・・・。

それと並走できる彼女は一体、何者なのだ。いや、あの時、本物の<フレデリック・フランシス>が「レティ」と呼んでいたのだから、大体の予想はつくが・・・・。

呆然としているオレをしり目にベルタは、おもむろに眼帯を外し、固有魔法を発動させた。
そうして、「んんん~?・・・・大柄な男と神殿にいるのかな?ふーん、なんか面白いことになってる?まぁどうでもいいかっ!」と言いながら、颯爽と出かけて行った。


「すぐ帰ってくるからね」・・・と猫たちに話しかけ、オレに「私が帰ってくるまで猫ちゃんの面倒よろしくね」と言いながら。

そうして、出て行ってから数刻、もう10時間は経っただろうか。
そろそろ夕方になるというのに・・・・・・

ベルタは一向に帰ってこない。
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