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×25 旅の終着点
しおりを挟むシェリィ、ルキ、クイナ、メリル、エルク。
何度かイカホの町に戻りながらも、彼女たちは遺跡を進む。
戦い、悩み、力と知恵を合わせ、古代人の試練を突破していく。
そして辿り着いた。古代人の遺跡、最深部。
そこで待っていたのは最後の敵。魔力と土によって作られた巨人。
五人は力を合わせ、古代人の最終兵器と戦っていた――
「やーい、ノロマめ! こっちだよー」
巨人が手に持った剣を振るうが、ルキはたやすくその攻撃をいなしていく。
縦に剣が振り下ろされたタイミングで、ルキは巨人の腕に飛びつき、登る。肩まで一気に駆け上がり、そこから真上にジャンプ。
巨人の注意が跳んだルキに向く。空中で巨人と目が合ったルキは叫んだ。
「今だ! みんなー!」
「行くわよ! メリル!」
「いつでもいいよ! 任せて!」
メリルの札を握りしめたクイナが巨人の足元に潜り込む。
「聖光闘気拳!」
気で強化された必殺拳が巨人の足に命中。
足を破壊された巨人は大きくバランスを崩し、轟音と共にうつ伏せに倒れた。
直後、倒れた巨人に飛び掛かるのは――
「はっ!」
闇の魔力を乗せ、強化した剣で巨人の背中を切り裂くシェリィ。
「見えた! あれが巨人の核か!」
切り裂かれた背中から見える、大きな青い石。
飛び上がったエルクはそれを確認。
それと同時に、右手に雷の魔力を集中させていく――
「ライトニング・ハンマァァァ!」
空中で右腕を振り下ろし、集めた魔力を解き放つ、解放された魔力は強力な落雷となって巨人の核を破壊した。
核を壊された巨人の体はボロボロに崩れ、ただの土へと還っていった。
「アタシたちの敵じゃなかったわね~」
崩れた巨人の破片を踏みつぶしながらクイナは笑顔に。
「これが最後の試練だと、石板には書いてありましたね。やっと世界樹が見られるのでしょうか」
「ふぅ……長かったね。ここまで……」
エルクとシェリィは息をついて武器を収めた。そして何か変化はないのかと辺りを見回す。
それから数秒後、遺跡の床に魔法陣が浮き出てくる。
エルクがすぐに駆け寄り調べ始めた。
「これは石板と同じですね。魔力を流し込む事で、予め仕込まれた術が発動する紋様です……恐らく空間転移ではないでしょうか。皆さん、この中に集まってください」
「いよいよ、だな。あたしワクワクしてきたー!」
呼びかけに応じてそれぞれが魔法陣の中へと入る。
「準備はよろしいですね? 行きますよ! はぁ!」
手の平を魔法陣につけ、ぐっと魔力を流し込む。
魔法陣を光を放ち、シェリィたちの体をどこか、別の場所へと運んでゆく……
最初に感じたのは、風。
体の自由を奪われるほどではなく、戦いで火照った体には心地いい。
気が付くと、シェリィたちは石造りの祭壇のような所に立っていた。
足元には魔法陣が、恐らくここからやって来たのだろう。
「………………すごい……」
絞り出すようにシェリィがそう呟く、普段は騒がしいルキたちも息を呑んでいる。
目の前に広がっていたのは――真っ白な雲海。
風によって流れていく雲に目が奪われる。
輝く太陽の光と合わさり、まるでこの世のものでないような、そんな美しい光景が目の前にあった。
「……あっ、シェリィさん。後ろを見て、大きな木があるよ。あれが世界樹かなぁ?」
メリルに言われ、振り向くシェリィ。
石の祭壇を下りたところには陸地があり、地面だけでなく植物も存在していた。
そして遠くには、一本の巨大な樹が見えている。
「本当に……天空の島なんだね……ここは……凄く綺麗……」
五人は祭壇を下り、世界樹に向かって歩き始めた。
「はぁ~、おばあちゃんが言ってたこと、本当だったんだな」
「ふふっ、ルキさん。それはオウカさんに失礼ですよ」
「だってこんなの自分の目で見なきゃ信用できないってー」
「疑ってたわけじゃないけど、わたしもビックリしちゃったなぁ」
「う~ん、そう言われれば、わたくしもそうですね……ここの話を誰かにしても、信じてはもらえないだろうな」
「……? クイナ、どうしたの? 珍しく静かじゃん」
大人しく歩いていたクイナにルキが声を掛けた。
「いや、なんだかね……随分遠くまで来ちゃったなって……」
「そんな感傷的になるような奴だったっけ?」
「うっさい! そういう性格なのよ」
「ここまで長かったし、色々な事があったからね……もう少しで終わるって考えたら、尚更ぐっと来ちゃうよね」
優しい笑顔でクイナの手を握るシェリィ。
「あっ……ありがと、シェリィ……」
顔を赤くして俯くクイナ。
「けーっ! 余計な事言っちまったぜ」
つまらなそうな顔をして、ルキは歩く速度をあげた。
世界樹へと向かって島を歩く五人。
草原の中に、百メートルを超えるほどの大樹が一本だけあるので迷う事もない。
まっすぐに歩を進める。
「ッ!? みんな! 止まって! 何かいる!」
唐突に、シェリィが足を止めた。
剣を抜き、尋常でない様子で周囲を警戒している。
「な、なに? 何なの?」
怯えた様子できょろきょろとしているメリル、他の三人は既に険しい顔で武器を構えている。
「詳しい場所は分からない、だけど近くにいるのは分かるの! とんでもないのが隠れてる!」
目を見開き、冷や汗をかきながらシェリィは言う。
その姿を見て、四人の緊張は高まる。
やがて、どこからともなくその声は聞こえてきた。
『魔龍の使者よ……ここから立ち去れ……これ以上……我等の母に近付けるわけにはいかない』
男の声だった。怒っているわけではなく、むしろ優しさすら感じるような、穏やかな声。
「ワケわかんねーこと言ってんじゃねーわよ! 隠れてないでとっとと出てきなさい!」
クイナの言葉に反応するように、それは姿を現した。
何もない空間に突如浮かび上がる、鎧とマントを身に着けた騎士。
異様なのはその顔。いや、顔と呼べるようなものですらない。
それは髑髏(どくろ)。白骨化した人間だった。
「モンスター!? どうしてこんなところに……」
敵の姿を確認出来た事で、少し冷静になるメリル。気を集中させ戦闘に備える。
『使者よ……立ち去れ……出来る事ならば殺したくはないのだ……例えそれが……穢れた魂であったとしても……』
髑髏の騎士は片手をゆっくりと前に突き出すと、その手に魔力を集中させていく。
そして、その手から大量の水が凄まじい勢いで放たれた。吐き出された水はまっすぐにシェリィへと向かう。
「シェリィさん!」
シェリィの前にメリルが飛び出した。結界を張って水を防ぐ。
「馬鹿な!? 魔法だと? 何故モンスターが……」
驚きながらも駆け出しているエルク。
「だが水の属性ならば都合が良い! ライトニングスネイク! 行け!」
腕を振って雷の蛇を飛ばす。四体生み出された蛇は一斉に髑髏の騎士へ襲いかかった。
それを見た髑髏の騎士は地面に手を付ける。すると土が盛り上がり、その場に壁を作り出し蛇から身を守った。
「なっ、何故!?」
生まれ持った魔力の性質というのは一つである。
水の魔法を使った後で、土の魔法を使う事などはありえないはずだった。
「いきなりやってくれるじゃない!」
「ガイコツは墓の下で寝てなー」
クイナとルキが髑髏の騎士の両隣へ、挟み込むような形で攻撃するが……
『退け、妹たちよ……邪魔をしないでおくれ……』
髑髏の騎士を中心に突風が起こる。
猛烈な風によって二人は大きく吹き飛ばされた。
「ルキちゃん! クイナちゃん!」
走り込んできていたシェリィが剣を構え――
「神速剣!」
魔力を腕と剣に乗せ、全力でその剣を振る!
だが――その剣は髑髏の騎士に届かず止まる。
燃え盛る炎で形作られた剣によって、防がれてしまっていた。
「そんな……」
『その強力な悪しき力……放置しておけば、必ずや弟や妹たちの災いとなろう……すまない……』
今度は氷の剣を作り出し、炎の剣で受け止めたシェリィの剣を……髑髏の騎士は一振りで破壊した。
「シェリィさぁん!!!」
メリルとエルクが焦って動き出すがもう間に合わない。
髑髏の騎士は二本の魔法剣をシェリィに向かって振るった。
――――その時、シェリィは足元から真っ黒な刃を引きずり上げる。そのままの勢いで、神速剣をも超える速度で漆黒の刃を走らせた。
結果、二本の魔法剣をバラバラに破壊し、髑髏の騎士の頭部を高く弾き飛ばした。
「はぁ……はぁ……」
大きく肩で息をするシェリィ。手に持っていた刃は、どろっと融解し地面に落ちていく。
「シェリィ……さん……?」
走り込んできていたエルクとメリルの足が次第に止まる。
「はぁ……はぁ……分からない……私……何したんだろ……分からないよ……」
自身の震える手を見つめ、不安そうにシェリィは呟いた。
「どう? シェリィ。少し落ち着いた?」
座って休んでいたシェリィに、ルキが声を掛ける。
「うん、ありがとう」
自分自身への怖れを隠し、笑顔で答えるシェリィ。
「そっか、良かった。でもまだ心配だからさ。クイナたちが戻って来るまでは、そうして休んでなよ」
クイナたち三人は、先に世界樹へと向かわせた。
誰も口には出さなかったが、全員が気付いている。
髑髏の騎士は、立ち去れと言いながら、シェリィだけに攻撃を行っていた。
自分はここで休んでいるから先に行け、とシェリィが言い出した時に、三人が大人しく従ったのは、そんなシェリィの心の内を察してのことである。
ルキだけはどうしてもと言って残ったのだが。
「……もうすぐ、分かるんだよね。自分の事が」
「シェリィ……」
「だから、考えてても、仕方ない事なんだよね」
「不安になる事なんてないよ!」
しゃがみ込んでシェリィと目線を合わせるルキ。
「記憶が戻ったら……シェリィの本当の名前も、どんな人だったのかも分かるんだろうけどさ。あたしにとって……いやみんなにとっても、シェリィはシェリィだから! あたしはシェリィのことシェリィって呼ぶからな! 今までと何にも変わらないから! また……一緒に旅をしよう!」
そう言って、明るく、八重歯を見せながらにぱっと笑うルキ。
強い感情に動かされ、シェリィはルキを強く抱きしめた。
頬を伝う涙はシェリィのものなのか、それとも……
何があっても、仲間たちとの思い出は残り続ける。
オウカの言ったその言葉を、自らに言い聞かせるように、シェリィは思い出していた――
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