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正義のミカタ最終章~零の襲来~
第2話 黒の腕
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ぼくは、お嬢の屋敷で夕食を済ませ、暗くなってから、例のデートとやらに二人で出かけた。
「では、どこに参りましょうか、お嬢様?」
ぼくは冗談めかして言った。
これから命のやり取りをするかもしれない。今だけでも明るくしておかなくては。
「そうだなあ、夜の公園なんてどうだい? なんと犯人に出遭える確率九〇パーセントなんだってさ。今なら邪魔なカップルもいなくてオススメだよ★」
「うわー怖エ★」
無理。明るくなんてできない。フォローしきれない。
「ほら行くよ月下君」
「あ、本気で行くんだ……」
「確率は高い方がいいだろ?」
「しかも確率も本当なんだ……」
ぼくは、なかば引きずられるように、お嬢に手を引かれて公園にたどり着いた。
「じゃあ、カップルとして自然な感じでデートしようか月下君!」
「じゃあ、まずそのセーラー服を脱ごうかお嬢」
君のその格好がまず不自然なことに気づいてくれ。
「や、やだ月下君、いきなりそんな」
「いや、そういう意味じゃなくてね」
うん、確かにぼくの言い方が悪かったね。
「出かける前に着替えてほしかったな……。まるでぼくが援助交際しているみたいだ」
「じゃあ、今更しょうがないから、それで」
「やめろ!」
誤解を招くシチュエーションはよせ!
と、お嬢とデートというよりは漫才をしていると、ふと何かの視線と気配を感じた。
ぼくとお嬢は漫才を中断して、気配のする方を見た。
「……気づかれたか」と、『何か』は言った。
公園の外灯に照らされて、少年が立っていた。
赤い髪を後ろでまとめている。瞳も赤い。
黒いジャケットの下には黒い短パンだけで、上半身は何も着こんでいない。ジャケットの腕は手袋になっていて、両腕が真っ黒のように見えた。黒い両腕に、赤い炎の模様が入っている。
「うわあ……まさしく放火殺人犯っぽい外見じゃないか、月下君」
「ああ……明らかに何かを燃やす意志を持った服装だね、お嬢」
「放火殺人犯……。俺を捕まえに来た、か」
少年は、やけに落ち着いた様子で腕など組んでいる。
「認めるのかい? 君がやったって」
お嬢は口の端を上げたまま、少年を見据えた。
「当り前だろう? 認めなければ、燃やした意味などないのだから」
少年は無表情を変えることなく答えた。
「『認めなければ、燃やした意味がない』……?」
ぼくは聞き返した。
「犯罪者の中には、犯罪することで自己の存在を主張する者がいる、ということだ。少なくとも、『我々』はな」
「我々……だって?」
ぼくには、少年の話は理解しがたいものだった。人を焼殺することが……自己主張?
「自己紹介が遅れたな。俺の名は『黒の腕』……霧崎零の従者。はじめまして、零の刃を逃れた者ども」
少年は、組んでいた腕を解き、体勢を低くすると、
「俺の焔を逃れられなければ――ここでさようならだ」
こちらへ走り出した。
「月下君、援護は頼んだよ」
お嬢は黒の腕の前に立ちはだかった。ぼくは拳銃をかまえながら後ろへ下がる。
「前衛が素手、後衛は小銃、か。それで俺を捕まえられるとでも?」
「なーに、やってみなけりゃ分からない、ってね!」
お嬢は黒の腕のこめかみを狙ってハイキックを繰り出した。が、こめかみの寸前で、パシッと足首をつかまれてしまった。
「残念、いきなり右足がさようならだ」
「お嬢!」
ぼくはお嬢の足首をつかんでいる右手首を撃った。キイン、という金属音が、夜の公園に響いた。
「無駄だ」
黒の腕が握っている足首に、突然炎が上がった。
(何も火器類を持っていないのに……!?)
「くっ!」
お嬢は黒の腕の手を振り払って、距離をとった。
「お嬢、怪我は?」
「平気。ちょっと皮膚は溶けたけど」
お嬢の右脚を見ると、確かに人工皮膚が、煙を上げて溶けてしまっていた。黒く光る鋼の義足が姿を現している。
「一体どこから炎を……?」
ぼくがつぶやくと、
「ほう……俺と同類か、女」
黒の腕が、撃ったはずの右手を見せながら言った。
黒い手袋には、ぼくの銃弾が作ったと思われる裂け目ができて、そこから鋼の腕が見えた。――鋼の義手。おそらく、火器を内蔵しているのだろう。
「犯罪者なんかと同類扱いされたくはないなあ」
お嬢は言いながら敵をにらみつけた。
「自分は罪を犯さないという、絶対の自信があるのだな、正義のミカタとやら」
黒の腕は、侮蔑するでも嘲笑するでもなく、ただ無感情にそう言った。
「形だけでもそういうことにしないと、断罪なんてできないだろ?」
お嬢は眉間にしわを寄せながら言った。この状況でも口は笑っている。いや、笑みの形にしかできないのだ。
「ふん……零の刃にかかって笑うことしかできなくなった女、か……。確か、両腕両脚を切られたとかいう。……四肢がすべて義肢は厄介だが、武器を内蔵している様子も無し、まあ、燃やせば済むか」
つぶやきながら、黒の腕はぼくを見た。
「ということは、お前が零を見ただけで白髪になったとかいう男か? ……問題外だな」
「カイナ君は両腕が義肢なんだね」
ぼくは苦笑しながら言った。
「家業である霧崎零の目付け役を継ぐために『改良』された。健康な両腕ぶったぎられてな」
「そりゃすごいね……」
もう、一般人のぼくはどうコメントしたらいいものやら。
「……じゃあ、義肢は腕だけかな」
ぼくは、ぼそっとつぶやいた。
「……雑談は終わりだ。お前らに付き合っていたら夜が明ける。武器を持たない機械人間と生身の臆病者では俺は捕まえられない。
――さっさと消し炭になれ」
黒の腕は両腕を構えて突撃してきた。
おそらく、あの手のひらに捕まったら、今までの被害者たちのように全身に火がまわってしまうのだろう。
「黒こげは勘弁だなあ……」
言いながら、ぼくは拳銃を構えた。
照準を足首に合わせて、かすらせるように撃つ。一応、両足。
ぱん。ぱん。
「ぐっ……!?」
黒の腕は、痛みのためかバランスを失って倒れた。
「日本の警察は、銃の扱いには厳しくてね」
ぼくは口を開いた。
「よほどの非常事態でもなければ、犯人を射殺することはタブーとされているんだ。銃を使うだけでも、狙うのはたいてい足首。命の危険なく相手の機動力を一気に削げるからね。――思ったとおり、脚は義肢じゃないみたいだね」
「馬鹿な……!」
黒の腕は、痛みに顔を歪めながらも、なんとか身体を起こした。
「簡単に言ってくれる……! 走っている人間の両足首を一足一発で撃ち抜くなど、並みの芸当ではない……お前、何者だ!?」
「君が知っているとおりの男だよ。霧崎零にビビって白髪になった臆病者。でも、その頃から今までずっとそのままだと思った?」
黒の腕に話しかけながらも、拳銃は下ろさない。
「これでも『正義のミカタ』の相方なんでね。それなりに戦力にならないと困るだろ? ……霧崎零の従者、なんだっけ? 話を聞きたいから、一緒に来てもらえるかな」
一応、身分証を見せながら、同意を求めてみる。ルールにのっとるのは大事だよね。……まあ、言うこと聞くわけないだろうけど。
「……くく……」
黒の腕は顔をうつむけた。表情はうかがえないが、どうやら笑っているらしい。
「? どうしたの?」
ぼく、何か可笑しなことを言っただろうか、と思いながら、黒の腕の返答を待つ。
「ははは……俺はどうやら『正義のミカタ』のネームバリューにつられていたようだな。留意すべきは女よりむしろお前のようだな、若白髪。いいぞ……心が震える」
「わ、若白髪……」
結構気にしてるのに……。
そして、この少年はどうやら、敵との戦いに喜びを見出すタイプのようだ。今までの無表情が崩れて、なんというか、とても良い笑顔をしていらっしゃる。
「面白い……流石は零に屠られなかっただけはある。あの男、お前らの可能性を見込んだとか言っていたか。……楽しかった。そろそろ夜が明ける。しばらくは弱いものいじめをしなくても済むくらい満たされた。今回は見逃しておこう」
黒の腕はゆっくり立ち上がった。まだふらついていて、こちらに背を向けて左手で木に寄りかかる。
「おっと、君は良くても、こっちは君に聞きたいことがあるんだよ。悪いけど、ボクらは君を逃がす気はないよ」
お嬢はそう言って、黒の腕に近寄った。
黒の腕は、キッとお嬢をにらむと、空いている右手を開いてお嬢に向けた。
「! お嬢!」
ぼくはとっさにお嬢を抱えて、地を蹴り後ろに跳び下がる。
お嬢の立っていた場所に、黒の腕の右手から火炎が吐き出されていた。
(――火炎放射器も搭載、ね……)
危ないところだった。
「焦らずとも、また逢えるだろう。……『零の継承式』でな」
そう言うと、黒の腕の左手が、寄りかかっていた木を炎で包んだ。手を離すと、黒の腕はゆっくりと公園の出口へ歩き出す。
「待て!」
お嬢が叫ぶが、黒の腕は振り向かない。
「俺を追うより、消防に連絡しなければ、公園が火の海になるぞ」
黒の腕の姿は、夜明け前の闇に紛れて見えなくなってしまった。
「……クソッ!」
お嬢はひざをついて地面を殴った。
「と、とにかく消防を……」
ぼくは携帯を取り出して、消防に連絡した。公園のことは、彼らに任せればいいだろう。
「お嬢、とりあえず引き上げよう」
「……」
「今は追いかけようにも黒の腕の居場所を特定できない。あいつ、いくつか気になることを言っていただろ? 一旦、捜査一課に行って皆に相談してみよう? こういうときは組織の力に頼ったほうが早い」
ぼくは、なるべくきちんと理由を説明した。曖昧な理由では、お嬢は納得しないから。
「……そうだね。ごめん」
お嬢はやっと立ち上がった。申し訳なさそうにぼくを見上げて笑っている。
「いやー、流石、警視庁で二番目に射撃が上手い刑事さんだね月下君! すごくかっこよかったよ!」
「それはどうも」
ぼくはお嬢が元気を取り戻したことに安心して微笑した。
ぼくは朝食もお嬢の邸宅でお世話になって、それから本庁へ報告と相談に行くことにした。もちろん、お嬢も一緒に。
〈続く〉
「では、どこに参りましょうか、お嬢様?」
ぼくは冗談めかして言った。
これから命のやり取りをするかもしれない。今だけでも明るくしておかなくては。
「そうだなあ、夜の公園なんてどうだい? なんと犯人に出遭える確率九〇パーセントなんだってさ。今なら邪魔なカップルもいなくてオススメだよ★」
「うわー怖エ★」
無理。明るくなんてできない。フォローしきれない。
「ほら行くよ月下君」
「あ、本気で行くんだ……」
「確率は高い方がいいだろ?」
「しかも確率も本当なんだ……」
ぼくは、なかば引きずられるように、お嬢に手を引かれて公園にたどり着いた。
「じゃあ、カップルとして自然な感じでデートしようか月下君!」
「じゃあ、まずそのセーラー服を脱ごうかお嬢」
君のその格好がまず不自然なことに気づいてくれ。
「や、やだ月下君、いきなりそんな」
「いや、そういう意味じゃなくてね」
うん、確かにぼくの言い方が悪かったね。
「出かける前に着替えてほしかったな……。まるでぼくが援助交際しているみたいだ」
「じゃあ、今更しょうがないから、それで」
「やめろ!」
誤解を招くシチュエーションはよせ!
と、お嬢とデートというよりは漫才をしていると、ふと何かの視線と気配を感じた。
ぼくとお嬢は漫才を中断して、気配のする方を見た。
「……気づかれたか」と、『何か』は言った。
公園の外灯に照らされて、少年が立っていた。
赤い髪を後ろでまとめている。瞳も赤い。
黒いジャケットの下には黒い短パンだけで、上半身は何も着こんでいない。ジャケットの腕は手袋になっていて、両腕が真っ黒のように見えた。黒い両腕に、赤い炎の模様が入っている。
「うわあ……まさしく放火殺人犯っぽい外見じゃないか、月下君」
「ああ……明らかに何かを燃やす意志を持った服装だね、お嬢」
「放火殺人犯……。俺を捕まえに来た、か」
少年は、やけに落ち着いた様子で腕など組んでいる。
「認めるのかい? 君がやったって」
お嬢は口の端を上げたまま、少年を見据えた。
「当り前だろう? 認めなければ、燃やした意味などないのだから」
少年は無表情を変えることなく答えた。
「『認めなければ、燃やした意味がない』……?」
ぼくは聞き返した。
「犯罪者の中には、犯罪することで自己の存在を主張する者がいる、ということだ。少なくとも、『我々』はな」
「我々……だって?」
ぼくには、少年の話は理解しがたいものだった。人を焼殺することが……自己主張?
「自己紹介が遅れたな。俺の名は『黒の腕』……霧崎零の従者。はじめまして、零の刃を逃れた者ども」
少年は、組んでいた腕を解き、体勢を低くすると、
「俺の焔を逃れられなければ――ここでさようならだ」
こちらへ走り出した。
「月下君、援護は頼んだよ」
お嬢は黒の腕の前に立ちはだかった。ぼくは拳銃をかまえながら後ろへ下がる。
「前衛が素手、後衛は小銃、か。それで俺を捕まえられるとでも?」
「なーに、やってみなけりゃ分からない、ってね!」
お嬢は黒の腕のこめかみを狙ってハイキックを繰り出した。が、こめかみの寸前で、パシッと足首をつかまれてしまった。
「残念、いきなり右足がさようならだ」
「お嬢!」
ぼくはお嬢の足首をつかんでいる右手首を撃った。キイン、という金属音が、夜の公園に響いた。
「無駄だ」
黒の腕が握っている足首に、突然炎が上がった。
(何も火器類を持っていないのに……!?)
「くっ!」
お嬢は黒の腕の手を振り払って、距離をとった。
「お嬢、怪我は?」
「平気。ちょっと皮膚は溶けたけど」
お嬢の右脚を見ると、確かに人工皮膚が、煙を上げて溶けてしまっていた。黒く光る鋼の義足が姿を現している。
「一体どこから炎を……?」
ぼくがつぶやくと、
「ほう……俺と同類か、女」
黒の腕が、撃ったはずの右手を見せながら言った。
黒い手袋には、ぼくの銃弾が作ったと思われる裂け目ができて、そこから鋼の腕が見えた。――鋼の義手。おそらく、火器を内蔵しているのだろう。
「犯罪者なんかと同類扱いされたくはないなあ」
お嬢は言いながら敵をにらみつけた。
「自分は罪を犯さないという、絶対の自信があるのだな、正義のミカタとやら」
黒の腕は、侮蔑するでも嘲笑するでもなく、ただ無感情にそう言った。
「形だけでもそういうことにしないと、断罪なんてできないだろ?」
お嬢は眉間にしわを寄せながら言った。この状況でも口は笑っている。いや、笑みの形にしかできないのだ。
「ふん……零の刃にかかって笑うことしかできなくなった女、か……。確か、両腕両脚を切られたとかいう。……四肢がすべて義肢は厄介だが、武器を内蔵している様子も無し、まあ、燃やせば済むか」
つぶやきながら、黒の腕はぼくを見た。
「ということは、お前が零を見ただけで白髪になったとかいう男か? ……問題外だな」
「カイナ君は両腕が義肢なんだね」
ぼくは苦笑しながら言った。
「家業である霧崎零の目付け役を継ぐために『改良』された。健康な両腕ぶったぎられてな」
「そりゃすごいね……」
もう、一般人のぼくはどうコメントしたらいいものやら。
「……じゃあ、義肢は腕だけかな」
ぼくは、ぼそっとつぶやいた。
「……雑談は終わりだ。お前らに付き合っていたら夜が明ける。武器を持たない機械人間と生身の臆病者では俺は捕まえられない。
――さっさと消し炭になれ」
黒の腕は両腕を構えて突撃してきた。
おそらく、あの手のひらに捕まったら、今までの被害者たちのように全身に火がまわってしまうのだろう。
「黒こげは勘弁だなあ……」
言いながら、ぼくは拳銃を構えた。
照準を足首に合わせて、かすらせるように撃つ。一応、両足。
ぱん。ぱん。
「ぐっ……!?」
黒の腕は、痛みのためかバランスを失って倒れた。
「日本の警察は、銃の扱いには厳しくてね」
ぼくは口を開いた。
「よほどの非常事態でもなければ、犯人を射殺することはタブーとされているんだ。銃を使うだけでも、狙うのはたいてい足首。命の危険なく相手の機動力を一気に削げるからね。――思ったとおり、脚は義肢じゃないみたいだね」
「馬鹿な……!」
黒の腕は、痛みに顔を歪めながらも、なんとか身体を起こした。
「簡単に言ってくれる……! 走っている人間の両足首を一足一発で撃ち抜くなど、並みの芸当ではない……お前、何者だ!?」
「君が知っているとおりの男だよ。霧崎零にビビって白髪になった臆病者。でも、その頃から今までずっとそのままだと思った?」
黒の腕に話しかけながらも、拳銃は下ろさない。
「これでも『正義のミカタ』の相方なんでね。それなりに戦力にならないと困るだろ? ……霧崎零の従者、なんだっけ? 話を聞きたいから、一緒に来てもらえるかな」
一応、身分証を見せながら、同意を求めてみる。ルールにのっとるのは大事だよね。……まあ、言うこと聞くわけないだろうけど。
「……くく……」
黒の腕は顔をうつむけた。表情はうかがえないが、どうやら笑っているらしい。
「? どうしたの?」
ぼく、何か可笑しなことを言っただろうか、と思いながら、黒の腕の返答を待つ。
「ははは……俺はどうやら『正義のミカタ』のネームバリューにつられていたようだな。留意すべきは女よりむしろお前のようだな、若白髪。いいぞ……心が震える」
「わ、若白髪……」
結構気にしてるのに……。
そして、この少年はどうやら、敵との戦いに喜びを見出すタイプのようだ。今までの無表情が崩れて、なんというか、とても良い笑顔をしていらっしゃる。
「面白い……流石は零に屠られなかっただけはある。あの男、お前らの可能性を見込んだとか言っていたか。……楽しかった。そろそろ夜が明ける。しばらくは弱いものいじめをしなくても済むくらい満たされた。今回は見逃しておこう」
黒の腕はゆっくり立ち上がった。まだふらついていて、こちらに背を向けて左手で木に寄りかかる。
「おっと、君は良くても、こっちは君に聞きたいことがあるんだよ。悪いけど、ボクらは君を逃がす気はないよ」
お嬢はそう言って、黒の腕に近寄った。
黒の腕は、キッとお嬢をにらむと、空いている右手を開いてお嬢に向けた。
「! お嬢!」
ぼくはとっさにお嬢を抱えて、地を蹴り後ろに跳び下がる。
お嬢の立っていた場所に、黒の腕の右手から火炎が吐き出されていた。
(――火炎放射器も搭載、ね……)
危ないところだった。
「焦らずとも、また逢えるだろう。……『零の継承式』でな」
そう言うと、黒の腕の左手が、寄りかかっていた木を炎で包んだ。手を離すと、黒の腕はゆっくりと公園の出口へ歩き出す。
「待て!」
お嬢が叫ぶが、黒の腕は振り向かない。
「俺を追うより、消防に連絡しなければ、公園が火の海になるぞ」
黒の腕の姿は、夜明け前の闇に紛れて見えなくなってしまった。
「……クソッ!」
お嬢はひざをついて地面を殴った。
「と、とにかく消防を……」
ぼくは携帯を取り出して、消防に連絡した。公園のことは、彼らに任せればいいだろう。
「お嬢、とりあえず引き上げよう」
「……」
「今は追いかけようにも黒の腕の居場所を特定できない。あいつ、いくつか気になることを言っていただろ? 一旦、捜査一課に行って皆に相談してみよう? こういうときは組織の力に頼ったほうが早い」
ぼくは、なるべくきちんと理由を説明した。曖昧な理由では、お嬢は納得しないから。
「……そうだね。ごめん」
お嬢はやっと立ち上がった。申し訳なさそうにぼくを見上げて笑っている。
「いやー、流石、警視庁で二番目に射撃が上手い刑事さんだね月下君! すごくかっこよかったよ!」
「それはどうも」
ぼくはお嬢が元気を取り戻したことに安心して微笑した。
ぼくは朝食もお嬢の邸宅でお世話になって、それから本庁へ報告と相談に行くことにした。もちろん、お嬢も一緒に。
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