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正義のミカタ最終章~零の襲来~
第1話 危険なデートのお誘い
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「ねえ、月下君。今夜デートしようよ」
「…………はい?」
ここは警視庁のトップ、警視総監殿のご自宅(大豪邸)。
家の主の御令嬢、角柱寺六花からの突然のデートのお誘い。ちなみにその直前、彼女はセーラー服のまま床でごろごろ寝転がったり、ぼくの背中に寄り掛かったり、暇そうにぼくの白髪頭をいじっていて、ぼくはといえば意味もなく手帳に書いてあった過去の書き込みを眺めていて、つまりはそんなことを言われるような予兆はどこにもなかったのだが、とにかくぼくはぼんやりしていたせいで反応に遅れてしまった。
「……え、えっと、お嬢、何か言った? ぼく、よく聞こえなかったな」
ぼくは、事実を無かったことにしようと、無駄なあがきを始めた。
「だから、デートしようよ」
「……あ、あー……ごめん、頭がうまく回らなくて言われた内容が理解できないなー……」
「へー……じゃあ、君の頭を三六〇度くらい回せば理解してくれるかな」
「!! 違う、そっちの回す違う! 首ねじ切れちゃう! すいません今理解できました! まことにすいません!」
――ぼく、月下氷人がお嬢とのデートを嫌がる理由が理解できない人がいるかもしれない。
お嬢は眼鏡をかけていても美人とわかる顔立ち、体も細くて女の子らしいし、現役ではないものの年齢は一八歳と女子高生で通じる若さ(常にセーラー服着てるし)。頭も良ければ運動もできる。流石に血筋が良いのか、非の打ちどころのない完璧少女だ。
ぼくに何故かよく懐いていて、ぼくも一緒にいて別に不快なわけではないのだが、
(……ぼく、お嬢と付き合った覚え、ないんだけど……)
デート拒否理由その一。
ぼくは二五歳、彼女は一八歳。
近年、年の差カップルが流行っているとはいえ、成人男性と未成年女性の組み合わせはロリコンっていうか、犯罪だとぼくは思っている。ぼくが潔癖すぎるんだろうか。
……いや、それでも警視庁の刑事(ぼく)が、(現役女子高生じゃないけど)セーラー服を着た少女と恋人というのは……。
いや、違う、恋人じゃない。そもそも付き合ってない。ぼく、他に好きな人いるし。
……と、とにかく、「付き合ってもいないのにデートってなんかおかしくない?」
「月下君、今は女の子同士が買い物に行くにも冗談めかして『デート』と呼ぶ時代だよ」
「!? お嬢、なんでぼくの考えることが分かっ……!?」
嘘だろ、『正義のミカタ』って読心術もできんの!?
「今、声に出てたんだけど。やれやれ、しょうがないなあ。そんなにボクと二人でデートが嫌かい、月下君」
「仕事が終わったのに事件に遭遇したくないよ、正直」
デート拒否理由その二。
お嬢と一緒に外出すると、たいてい事件に巻き込まれる。それはもう、何かに取り憑かれているとしか思えないほどだ。
「お嬢、一度お祓いしてもらえば?」
「仮にも刑事が何をほざいているんだい? 月下君のような刑事が増えたら、そのうち魔女狩りが再発しそうだな」
「んな大げさな……」
心配して言っただけなのに、なんでここまで言われなきゃならないんだ。
「……デートが嫌なら、仕事、と言えば満足かい?」
お嬢の空気が変わった。
お嬢を見ると、口は笑みのまま、眼は少女とは思えない、鋭いものに変わっていた。
『正義のミカタ』の仕事モードだ。
お嬢――角柱寺六花は、セーラー服を着てはいるが、高校には通っていない。
家業の手伝い――つまり、父親である警視総監の補佐をしている。それが、警察組織では手出しできない犯罪を単独で取り締まる『正義のミカタ』だ。もちろん非公式ではあるが、警察のトップが黙認してしまっているので、特に文句を言う人間はいない(というか、『正義のミカタ』の存在自体、警察内でも知っている人間は限られている)。
ちなみにぼくは、ひょんなことから、お嬢のパートナーとして、正義のミカタの仕事の補佐から家庭教師の真似事までしている。
……警視総監の補佐の補佐、と考えると、とても微妙な気分である。
「……仕事、というのはどういうことかな」
ぼくも、頭を仕事モードに切り替える。
「最近、火だるま騒ぎが起きてるのは知ってるかい?」
「ああ……なんか騒いでるね、本庁でも」
ぼくはその事件を担当してはいないが、毎日ニュースになっているのでよく知っている。
秋に入ってから、何者かが人間に放火して、騒ぎになっている。深夜に連続して発生しているため、最近は夜中に出歩く人もいない。マスコミは『火だるま無差別殺人』と名付けたようだ。犯人がどんな人間なのかはわからない。目撃者もなく、――被害者は全員死亡しているからだ。
死亡率百パーセント、早朝に発見される死体。警視庁にも苦情が殺到している。
「――そうか、とうとうぼくらの出番が回ってきたんだね」
ぼくが言うと、お嬢はうなずいた。
「うん、父上からの直々の命令。
――『なんか苦情がうるさいから火だるま騒ぎ解決しといて』、だとさ」
……。
相変わらずノリが軽いな、警視総監……。
「簡単に言ってくれるよねー、父上も。
ということで、今晩、オトリ捜査デートとしゃれこもうじゃないか!」
「……お嬢も軽く言ってくれるよね……」
間違いなく親子だな。
「大丈夫だよ、月下君はボクが守るから。月下君だって強いしね」
そう言って、お嬢はぼくに何かを投げてよこした。
受け取ると、それは黒く光る拳銃だった。
「お嬢、こんなものを投げると危ないよ。……許可、もらってきたんだね」
ぼくは、弾丸が入っていることを確認した。
「凶悪事件だからね。二つ返事で渡してくれたよ」
「……ま、期待に応えられるように全力を尽くすよ」
ぼくは拳銃をしまった。ふと、さっきまで眺めていた手帳を見る。キャバクラ嬢ばかりが喉を刃物で切られて死体で発見された、連続殺人事件についての書き込み。
ぼくとお嬢が追い続けている、ある殺人犯が起こしたという事件の一つだ。
「……この事件、あいつと……『霧崎零』と関係があるのか?」
「さあね」
お嬢は肩をすくめた。
「放火犯の正体は誰も見ていない。あいつがやった確証はどこにもない。ただ――」
お嬢はぼくに背を向けて、夕陽の差し込む窓に目を向けた。
窓からは警視庁の特徴的なビルが見える。
「父上には、少なくとも奴に関係する気がしてるみたいだ。刑事の勘ってやつなのかな。――父上も、霧崎零に遭ったことがあるらしいんだ。奴に出遭って生きていられたのは、父上と、ボクと、そして月下君、君を含めた三人だけ――なんだよ」
〈続く〉
「…………はい?」
ここは警視庁のトップ、警視総監殿のご自宅(大豪邸)。
家の主の御令嬢、角柱寺六花からの突然のデートのお誘い。ちなみにその直前、彼女はセーラー服のまま床でごろごろ寝転がったり、ぼくの背中に寄り掛かったり、暇そうにぼくの白髪頭をいじっていて、ぼくはといえば意味もなく手帳に書いてあった過去の書き込みを眺めていて、つまりはそんなことを言われるような予兆はどこにもなかったのだが、とにかくぼくはぼんやりしていたせいで反応に遅れてしまった。
「……え、えっと、お嬢、何か言った? ぼく、よく聞こえなかったな」
ぼくは、事実を無かったことにしようと、無駄なあがきを始めた。
「だから、デートしようよ」
「……あ、あー……ごめん、頭がうまく回らなくて言われた内容が理解できないなー……」
「へー……じゃあ、君の頭を三六〇度くらい回せば理解してくれるかな」
「!! 違う、そっちの回す違う! 首ねじ切れちゃう! すいません今理解できました! まことにすいません!」
――ぼく、月下氷人がお嬢とのデートを嫌がる理由が理解できない人がいるかもしれない。
お嬢は眼鏡をかけていても美人とわかる顔立ち、体も細くて女の子らしいし、現役ではないものの年齢は一八歳と女子高生で通じる若さ(常にセーラー服着てるし)。頭も良ければ運動もできる。流石に血筋が良いのか、非の打ちどころのない完璧少女だ。
ぼくに何故かよく懐いていて、ぼくも一緒にいて別に不快なわけではないのだが、
(……ぼく、お嬢と付き合った覚え、ないんだけど……)
デート拒否理由その一。
ぼくは二五歳、彼女は一八歳。
近年、年の差カップルが流行っているとはいえ、成人男性と未成年女性の組み合わせはロリコンっていうか、犯罪だとぼくは思っている。ぼくが潔癖すぎるんだろうか。
……いや、それでも警視庁の刑事(ぼく)が、(現役女子高生じゃないけど)セーラー服を着た少女と恋人というのは……。
いや、違う、恋人じゃない。そもそも付き合ってない。ぼく、他に好きな人いるし。
……と、とにかく、「付き合ってもいないのにデートってなんかおかしくない?」
「月下君、今は女の子同士が買い物に行くにも冗談めかして『デート』と呼ぶ時代だよ」
「!? お嬢、なんでぼくの考えることが分かっ……!?」
嘘だろ、『正義のミカタ』って読心術もできんの!?
「今、声に出てたんだけど。やれやれ、しょうがないなあ。そんなにボクと二人でデートが嫌かい、月下君」
「仕事が終わったのに事件に遭遇したくないよ、正直」
デート拒否理由その二。
お嬢と一緒に外出すると、たいてい事件に巻き込まれる。それはもう、何かに取り憑かれているとしか思えないほどだ。
「お嬢、一度お祓いしてもらえば?」
「仮にも刑事が何をほざいているんだい? 月下君のような刑事が増えたら、そのうち魔女狩りが再発しそうだな」
「んな大げさな……」
心配して言っただけなのに、なんでここまで言われなきゃならないんだ。
「……デートが嫌なら、仕事、と言えば満足かい?」
お嬢の空気が変わった。
お嬢を見ると、口は笑みのまま、眼は少女とは思えない、鋭いものに変わっていた。
『正義のミカタ』の仕事モードだ。
お嬢――角柱寺六花は、セーラー服を着てはいるが、高校には通っていない。
家業の手伝い――つまり、父親である警視総監の補佐をしている。それが、警察組織では手出しできない犯罪を単独で取り締まる『正義のミカタ』だ。もちろん非公式ではあるが、警察のトップが黙認してしまっているので、特に文句を言う人間はいない(というか、『正義のミカタ』の存在自体、警察内でも知っている人間は限られている)。
ちなみにぼくは、ひょんなことから、お嬢のパートナーとして、正義のミカタの仕事の補佐から家庭教師の真似事までしている。
……警視総監の補佐の補佐、と考えると、とても微妙な気分である。
「……仕事、というのはどういうことかな」
ぼくも、頭を仕事モードに切り替える。
「最近、火だるま騒ぎが起きてるのは知ってるかい?」
「ああ……なんか騒いでるね、本庁でも」
ぼくはその事件を担当してはいないが、毎日ニュースになっているのでよく知っている。
秋に入ってから、何者かが人間に放火して、騒ぎになっている。深夜に連続して発生しているため、最近は夜中に出歩く人もいない。マスコミは『火だるま無差別殺人』と名付けたようだ。犯人がどんな人間なのかはわからない。目撃者もなく、――被害者は全員死亡しているからだ。
死亡率百パーセント、早朝に発見される死体。警視庁にも苦情が殺到している。
「――そうか、とうとうぼくらの出番が回ってきたんだね」
ぼくが言うと、お嬢はうなずいた。
「うん、父上からの直々の命令。
――『なんか苦情がうるさいから火だるま騒ぎ解決しといて』、だとさ」
……。
相変わらずノリが軽いな、警視総監……。
「簡単に言ってくれるよねー、父上も。
ということで、今晩、オトリ捜査デートとしゃれこもうじゃないか!」
「……お嬢も軽く言ってくれるよね……」
間違いなく親子だな。
「大丈夫だよ、月下君はボクが守るから。月下君だって強いしね」
そう言って、お嬢はぼくに何かを投げてよこした。
受け取ると、それは黒く光る拳銃だった。
「お嬢、こんなものを投げると危ないよ。……許可、もらってきたんだね」
ぼくは、弾丸が入っていることを確認した。
「凶悪事件だからね。二つ返事で渡してくれたよ」
「……ま、期待に応えられるように全力を尽くすよ」
ぼくは拳銃をしまった。ふと、さっきまで眺めていた手帳を見る。キャバクラ嬢ばかりが喉を刃物で切られて死体で発見された、連続殺人事件についての書き込み。
ぼくとお嬢が追い続けている、ある殺人犯が起こしたという事件の一つだ。
「……この事件、あいつと……『霧崎零』と関係があるのか?」
「さあね」
お嬢は肩をすくめた。
「放火犯の正体は誰も見ていない。あいつがやった確証はどこにもない。ただ――」
お嬢はぼくに背を向けて、夕陽の差し込む窓に目を向けた。
窓からは警視庁の特徴的なビルが見える。
「父上には、少なくとも奴に関係する気がしてるみたいだ。刑事の勘ってやつなのかな。――父上も、霧崎零に遭ったことがあるらしいんだ。奴に出遭って生きていられたのは、父上と、ボクと、そして月下君、君を含めた三人だけ――なんだよ」
〈続く〉
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