隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ

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おまけ&完結編

おまけ・能登原家にご挨拶!(スバル視点)

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「ここがこずえさんのご実家ですか」
わたくしはこずえさんとともに車から降り立ちました。
こずえさんの実家は関東の某県にあり、こずえさんは「田舎」と呼んでいましたが、こずえさんが上京する前よりも開発が進んでいるようで、こずえさんも驚いていました。
家の前の邪魔にならない位置に車を停め、わたくしはこずえさんの家のチャイムを鳴らしました。

***

「はじめまして、藤井スバルと申します」
「あらあらまあまあ、イケてるメンズじゃないのちょっと~。あたしが結婚したいくらいだわぁ」
「母さん?」
「あらやだ、冗談よぉ」
東京で買った土産物の菓子折りを渡しながらご挨拶すると、すでにお義母様はわたくしに陥落したようでした。お義父様が軽く睨みますが、お義母様は笑ってお義父様の背中をバンバン叩きます。
「仲のよろしいご夫婦なんですね」
わたくしがニッコリ笑うと、お義母様はすっかりメロメロといった状態でした。
「いやしかし、たしかにいい男だね。こずえが変な男に捕まらなくてよかった」
「ちょっと、どういう意味よそれ。失礼ね」
お義父様の言葉に、こずえさんは少しムッとした顔をしました。しかし、仲が悪いというわけではなく、ジョークの飛ばし合いのようです。
お義父様に促され、わたくしたちは食卓の椅子に向かい合って座りました。わたくしの隣にはこずえさん、向かいにはお義父様とお義母様。
「でもまあ、婚約とはいえ、入籍する前に一言声をかけてはほしかったかな」
「……ごめんなさい」
すでに名字の変わったこずえさんは、お義父様の静かな口調にシュンとしました。
「いや、怒ってるわけじゃないんだ。でも、一度名字を変えてしまうと色々大変だろう? スバルくんは顔がいいから女の子にモテるだろうし、ちょっと心配でね」
「ちょ、お父さん」
お義父様の言葉に、こずえさんは慌てた声を出しました。
――つまり、浮気をするかもしれない、という可能性を示唆しているのでしょう。
「いやねえ、お父さんったら、そんな話して」
お義母様は意味を理解していながらのんびりした顔をしていらっしゃいます。
どうも一筋縄ではいかないご家族のようでした。一人娘なので、色々と気苦労が絶えないのでしょう。
「わたくしはこずえさん一筋ですが、たしかにそれを証明するのは難しいでしょう」
「……」こずえさんもお義父様も、黙ってしまいました。
そう、未来のことは誰にもわからない。将来どうなるかなんて証明のしようがないし、できたところで納得していただけるとも思えない。
「ですから、わたくしはここで誓約します。わたくしがもしこずえさんをないがしろにするようなことがあれば、お義父様はわたくしを好きにしていただいて構いません。腹を切れと言えば切りますし、首を吊れと言うなら吊ります」
わたくしの言葉に、こずえさんもお義母様もぎょっとした顔をしました。しかし、わたくしは本気でした。
真剣な眼差しでお義父様を見つめると、やがてお義父様は目を閉じてそっと息をつきました。
「――本気なんだね」
「はい」
「……うん、まあ、入籍してしまったものを今更どうこうできないしね、私たちには。経済的にもこずえを支えられるだろうし、そのへんは信用してるよ」
「ありがとうございます」
「こずえを、どうかよろしく」
お義父様は、ふっと力を抜いて笑いました。
きっと、初めて心を許してくださったのだと思います。
「絶対にこずえさんを幸せにします」
「おっと、『絶対』なんて強い言葉を簡単に使わないでくれよ?」
「それだけ本気なのです」
わたくしはお義父様に笑い返しました。

***

「車でそのまま日帰りは大変だろうから、今日は泊まっていきなさい」というお義父様の言葉で、わたくしたちはこずえさんのご実家にとどまることになりました。
「お風呂いただきました。……すみません、一番風呂をいただいてしまって」
「ああ、いいよ。一番風呂って寒いから、老体にはこたえるんだ」
縁側に座っていたお義父様はそう言って笑ってくださいました。今日一日でずいぶん打ち解けた気がします。
「お酒は飲めるかい?」
「たしなむ程度です」
お義父様の差し出す缶ビールを、わたくしは受け取りました。
「お義母様のお料理、美味しかったです。こずえさんの作ってくださる料理に似ていました」
「ああ、アレは小さい頃からよく母さんの隣で料理のお手伝いをしていたからね。そのときに覚えたんだろう」
お義父様は懐かしそうに視線を宙に見上げました。
「いつの間にかあの娘も大きくなって……私の元から去っていくんだね」
それを聞くと、なんとも言えない気分でした。わたくしもいつかはそんな気分を味わうことになるのでしょう。
「まあそれはともかく、こずえは会社ではどんな感じなのかな」
「彼女の希望で総務部で働いていただいております。とても優秀な社員です」
「秘書にして自分の傍に置きたいとか、思わないのかい」
「それは考えたのですが、こずえさんに『公私混同は良くない』と叱られてしまいまして」
「ハハッ、こずえらしいな」
お義父様は声を上げて笑っておりました。
「スバルくん、昼間は嫌味なことを言ってすまなかったね」
「いえ、こずえさんを心配する気持ちは、わかりますから」
大切な一人娘ですから、心配するのは当然のことでございましょう。
「こずえの趣味については、もう知っているよね」
「はい」
「こずえは、あの趣味のせいでなかなか遊び相手がいなくてね。女子ともつるまなかったし、男子も成長すると女子を意識して一緒に遊んでくれなくなるだろう? しかも男子と一緒に遊んでいると、『男子に媚を売りたくてそういう趣味を装っている』なんて陰口を言われることもあったそうだ」
「それは……ひどい話ですね」
わたくしは腹立たしく思いました。たしかに異性に話を合わせたくてそういった趣味を口実に出会い目的で近づいてくる人間を、男女問わず見てきました。しかし、こずえさんはそんな女性ではなかった。本当にロボットやプラモやカードゲームや男子向けアニメやテレビゲームや少年漫画を愛していました。
「――ああ、スバルくんのその顔が見られただけで充分わかったよ。君は本当にこずえのことが大切なんだね」
「もちろんでございます」
「……スバルくん、ありがとう。こずえと出会ってくれて」
「わたくしこそ、こずえさんをこの世に生み出してくださって、ありがとうございます」
「ハハッ、なんだいそれ」
わたくしとお義父様は声を上げて笑い合いました。
「お父さん、スバルさん。枝豆茹で上がったけど食べる? ビールだけじゃ物足りないでしょう」
こずえさんがザルいっぱいの枝豆を持ってきてくださいました。
「スバルくんは、枝豆食べたことあるかい?」
「小さい頃は父も零細企業の社長だったので、よくビールに枝豆をつまんでいましたよ。わたくしも少しおこぼれをいただいておりました」
お義父様が嫌味のつもりでいったわけではないと、わたくしはきちんと理解しておりました。
にぎやかに、和やかに、能登原家での夜は更けていきました。

〈おわり〉
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