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裏話(藤井スバル視点)
第10話・裏話
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こうして、わたくしはこずえさんと婚約しました。
今度の連休にでも、折を見てこずえさんのご両親にご挨拶に伺おうと思っています。
それから、わたくしの家族にもこずえさんを紹介しなければなりません。父に船や人を借りた礼もしなければいけませんし。
わたくしとこずえさんは、彼女が寿退社して専業主婦になるか二人で話し合いました。わたくしの収入なら専業主婦でも十分やっていけるのですが、結果的に彼女は藤井コーポレーションに残っています。まあ彼女は優秀なので一日中家にいるのも落ち着かないでしょうし、「せっかくできたカードゲーム仲間ともう少し一緒に遊びたい」と言ってましたし――わたくしがいれば充分だと思うので個人的に納得はしていませんが――、「産休を取るまでは働く」と言っていたので、わたくしももっと頑張らねば、と思っています。
「こずえさん、仕事熱心なのは素晴らしいことですが、もうお昼休みですよ」
今日もわたくしはこずえさんを総務部までお迎えに上がりました。
「社長、会社では名字で呼んでくださいと何度も申し上げているでしょう」
「ですが、名字で呼んだらわたくしと同じですし」
わたくしはクツクツと笑いました。
一応は婚約という立場ですが、すでに入籍は済ませてあるので、彼女はもう能登原こずえではなく、――藤井こずえになっておりました。
「ですから、私のこともスバルで構いませんよ?」
「いえ、社長には社長っていう役職があるじゃないですか」
こずえさんは相変わらず頑固なところがあって、それでもわたくしたちは喧嘩になったことはありません。喧嘩するほどなんとやら、という言葉もございますが、喧嘩しないで円満に越したことはないと、わたくしは思うのです。
「おうおう、仲がいいねえお二人さん」
カードゲーム仲間の男性社員が彼女の肩に触れたのをわたくしは見逃しませんでした。
「ほう……? コンビナート工場のライン作業とか興味ありますか?」
わたくしはこずえさんに触れた男性社員の肩をポンと叩きました。
「え、なになになに、社長、社長? 目が、目が怖いんですけど?」
「こら、社長! ――スバルさん! すぐ社員を左遷させようとするのやめなさい!」
こずえさんに叱られて、反省して、笑って。今まで以上に昼休みが楽しくなりました。
業務が終われば車に乗って二人で家に帰って、――あのクルーザーでの一夜を終えたあと、わたくしがすぐに引っ越し屋を手配してこずえさんのアパートの家財一式をすべてわたくしの家に移しました。こずえさんはあまりの手際の良さに呆れていいのか尊敬していいのかわからない、といった顔をしていました――毎日我が家で『マジック&サマナーズ』や他のゲームをしたり、ふたりでプラモを組んだり、眠くなってきたら一緒のベッドに眠る、夢のような生活。夢なら覚めないでほしい、というのはこういう気持ちを言うのでございましょう。
「こずえさん」
「なんですか」
「……今、とても幸せです」
「そういう台詞って普通、女性が言うものじゃありません? ……私も、幸せですよ」
左手同士を、ベッドの中でつないで。窓から差し込んだ月の光が、ふたりの指輪を照らして。
わたくしは、このまま眠るのが惜しい、と思いながら睡魔に負けて目を閉じました。
わたくしは今、幸せの絶頂にいます。こずえさんが隣りにいてくださる限り、わたくしが絶頂から降りることはないでしょう。
〈裏話・完〉
今度の連休にでも、折を見てこずえさんのご両親にご挨拶に伺おうと思っています。
それから、わたくしの家族にもこずえさんを紹介しなければなりません。父に船や人を借りた礼もしなければいけませんし。
わたくしとこずえさんは、彼女が寿退社して専業主婦になるか二人で話し合いました。わたくしの収入なら専業主婦でも十分やっていけるのですが、結果的に彼女は藤井コーポレーションに残っています。まあ彼女は優秀なので一日中家にいるのも落ち着かないでしょうし、「せっかくできたカードゲーム仲間ともう少し一緒に遊びたい」と言ってましたし――わたくしがいれば充分だと思うので個人的に納得はしていませんが――、「産休を取るまでは働く」と言っていたので、わたくしももっと頑張らねば、と思っています。
「こずえさん、仕事熱心なのは素晴らしいことですが、もうお昼休みですよ」
今日もわたくしはこずえさんを総務部までお迎えに上がりました。
「社長、会社では名字で呼んでくださいと何度も申し上げているでしょう」
「ですが、名字で呼んだらわたくしと同じですし」
わたくしはクツクツと笑いました。
一応は婚約という立場ですが、すでに入籍は済ませてあるので、彼女はもう能登原こずえではなく、――藤井こずえになっておりました。
「ですから、私のこともスバルで構いませんよ?」
「いえ、社長には社長っていう役職があるじゃないですか」
こずえさんは相変わらず頑固なところがあって、それでもわたくしたちは喧嘩になったことはありません。喧嘩するほどなんとやら、という言葉もございますが、喧嘩しないで円満に越したことはないと、わたくしは思うのです。
「おうおう、仲がいいねえお二人さん」
カードゲーム仲間の男性社員が彼女の肩に触れたのをわたくしは見逃しませんでした。
「ほう……? コンビナート工場のライン作業とか興味ありますか?」
わたくしはこずえさんに触れた男性社員の肩をポンと叩きました。
「え、なになになに、社長、社長? 目が、目が怖いんですけど?」
「こら、社長! ――スバルさん! すぐ社員を左遷させようとするのやめなさい!」
こずえさんに叱られて、反省して、笑って。今まで以上に昼休みが楽しくなりました。
業務が終われば車に乗って二人で家に帰って、――あのクルーザーでの一夜を終えたあと、わたくしがすぐに引っ越し屋を手配してこずえさんのアパートの家財一式をすべてわたくしの家に移しました。こずえさんはあまりの手際の良さに呆れていいのか尊敬していいのかわからない、といった顔をしていました――毎日我が家で『マジック&サマナーズ』や他のゲームをしたり、ふたりでプラモを組んだり、眠くなってきたら一緒のベッドに眠る、夢のような生活。夢なら覚めないでほしい、というのはこういう気持ちを言うのでございましょう。
「こずえさん」
「なんですか」
「……今、とても幸せです」
「そういう台詞って普通、女性が言うものじゃありません? ……私も、幸せですよ」
左手同士を、ベッドの中でつないで。窓から差し込んだ月の光が、ふたりの指輪を照らして。
わたくしは、このまま眠るのが惜しい、と思いながら睡魔に負けて目を閉じました。
わたくしは今、幸せの絶頂にいます。こずえさんが隣りにいてくださる限り、わたくしが絶頂から降りることはないでしょう。
〈裏話・完〉
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