隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ

文字の大きさ
上 下
2 / 25
本編

第2話 喫煙室でカードゲーム!

しおりを挟む
前回までのあらすじ。
私が勤めている会社の若社長と、趣味の話で意気投合した。
飲みすぎて悪酔いして社長に迷惑をかけてしまった。
私は酔ったときのことをしっかり覚えていたので今すごく恥ずかしい。

「社長、あの……昨日はあの……本当にご迷惑おかけしてすみません……」
「いえいえ、お酒の失敗は誰にでもあるものですから」
申し訳無さでいっぱいの私に、社長は微苦笑を浮かべる。
「わたくしもよく取引先の社長にたらふく飲まされて酔い潰されたりするので、もっと上手いお酒の付き合い方を考えないといけませんね」
「そういうことあるんですね……」
藤井社長は若いので、そういったタヌキ親父に甘く見られたり一杯食わされることもあるのだろう。大変な世界だ。
今は昼休み。コンビニで買っておいたおにぎりを持って、私と社長はともに廊下を歩き、喫煙室へ向かっている。
だんだんタバコの匂いが強くなってきて、私たちは喫煙室の前に立った。
コンコン、と社長が喫煙室のドアをノックすると、「どうぞ」と中から男性の声が聞こえる。
「失礼します」
「し、失礼します……」
社長がドアを開けると、むせかえるようなタバコの煙が一気に押し寄せた。中では三人の男性社員がタバコを吸っている。彼らも傍らにおにぎりやらサンドイッチやらを置いているので、きっとカードゲームをしながら食べているのだろう。
「社長、その子は?」
タバコを片手に、男性社員のひとりが訊ねる。
「総務部の能登原さんです。彼女、『マジック&サマナーズ』をやってるんですよ」
「マジっすか!?」
社長の言葉に、男性社員が食いつく。
「えっ、スマホ版!? 現物も集めてるんすか!?」
「い、一応どっちも集めてます」
「マジか~! ちょ、ちょっとスマホ版のデッキ見せてもらっていいですか!?」
「は、はい」
男性社員たちの食いつきぶりに多少怯えながらも、なんとか私は反応を返す。
「えっえっ、これ排出率が低くて激レアなカードじゃないすか! それを二枚も!?」
「はい? ちょっとそれ初耳なんですけど、わたくしにも見せてもらえます?」
男性社員たちと社長は私のスマホを奪い合うように押し合いへし合いしながら画面を見る。
「え、もしかして能登原さん廃課金勢……?」
男性社員のひとりが怯えたような目で私を見る。いや、廃課金を見たときの恐怖は私も分かる。
「いえ、無課金勢です」
「嘘でしょ……リアルラックだけでこんなカード集まる……?」
「すごい豪運ですよね、能登原さんって」
何故か社長が誇らしげに笑う。
「これから能登原さんも喫煙室に遊びに来てもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ、大歓迎!」
「うんうん、デッキ見ただけでガチ勢ってわかったし」
男性社員たちは笑顔で私を歓迎してくれた。
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
社長はにこやかに私に言った。
「ようこそ、能登原こずえさん。我々カードゲーマーはあなたを歓迎いたしますよ」
その後、私たちはおにぎりやサンドイッチ片手にスマホ版の『マジック&サマナーズ』でオンライン対戦をした。
スマホ版は全国のユーザーと対戦できるのだが、目の前に相手がいるカードゲームというのは本当に十年単位で久しぶりのことだ。勝っても負けても楽しい。小学校低学年の頃の記憶が蘇るようだ。
「それにしても、社長が女の子連れてくるなんてびっくりしたなあ」
男性社員のひとりがポツリと言った。
「ほんとほんと。とうとう彼女でも紹介するのかと思っちまったよな」
「……あまりからかわないでくださいよ」
社長は困ったような苦笑を浮かべた。
「ねえねえ、能登原さんは今フリー? 彼氏いるの?」
「あ、俺も社長の彼女じゃないならちょっとお近づきになりたいな」
「え、え?」
男性社員たちの悪ノリに、私は困惑する。
「おっと、出会い目的のカードゲームは見過ごせませんね」
「冗談ですって、社長!」
「社長、目がマジになってますよ。おーこわ」
男性社員たちは朗らかに笑いながら社長を茶化す。カードゲームを通じて仲良くなったのか、社長の眼力にも怯えない程度には親しい仲のようだった(あと、社長は顔が端正すぎて睨んでもあまり怖くないというのは私にとって新しい発見であった)。
ふと、社長が喫煙室の壁にかかった時計を見た。
「ああ、そろそろ昼休みが終わってしまいますね」
「あ、ホントだ」
「じゃあそろそろ解散しますか~」
男性社員たちは食事で出たゴミを片付け、タバコの火を灰皿に押し付けた。
「対戦楽しかったよ、能登原さん」
「はい、ありがとうございました。また来ます」
私はペコペコと頭を下げる。
「うん、またいつでも来てね」
「俺達は昼休みいつもここにいるからさ。もしかしたら増えてるかもしれないけど」
「我が社は意外とカードゲーマーが多いんですよ」
社長はそう言って心底嬉しそうに笑う。
喫煙室を出ると、総務部に帰る私に、何故か社長がついてくる。
「社長……? 社長室にお戻りにならないんですか?」
「ああ、いえ……ちょっと総務部に用事がありまして……」
「ああ、そうなんですか」
そのまま二人で総務部まで歩いていくことにした。
「能登原さん、いかがでしたか?」
「とっても楽しかったです! 誰かと対面したりみんなでわいわいカードゲームするの、久しぶりで」
「それはよかった」
社長はホッとした顔をする。
「ご気分を悪くされたのではないかと思って、安心いたしました」
「?」
気分を悪くするような要素、あっただろうか。
「昨日も言いましたけど、私はタバコのニオイ、平気ですよ?」
「ああいえ、そうではなく」
社長はなんと言ったらいいものか、と視線をさまよわせる。
「その……わたくしの彼女、と思われたことなど、ですね……」
「え? それ気分悪くなることなんですか?」
私は思わず言ってしまった。
実際、社長の彼女と思われて気分を害する女なんていないと思う。こんな完璧スペックのイケメンと付き合ってると思われるなんてむしろ誉れというか……いや、こんな美形の隣に立つにふさわしいか考えると胃が痛む繊細な人もいるかもしれないが。私もそのタイプ。でも気分が悪くなるなんてことはない。
「社長、もっと自信持ってください。社長は充分魅力ありますよ」
魅力ありすぎて困るくらい。いや、イケメンすぎて困ることなんてストーカー被害くらいしかない。
多分社長は自分の顔がいいことに気づいてないタイプのイケメンだ。もったいないな。
「……ありがとうございます」
社長は困ったような照れたような微妙な顔をしていた。こころなしか顔が赤い気がする。
そうこうしているうちに総務部の部屋についた。
「そういえば社長の用事ってなんですか? 私で良ければお取次ぎしますよ」
「いえ、もう用事は済みましたので」
「え?」
「――能登原さんをお送りしたかっただけですよ」
社長はくすっと笑って、踵を返して歩いていってしまった。
今度は私の顔が赤くなる番だった。
ああ、自覚のないイケメンはずるいな。ホントずるい。

〈続く〉
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます

はなたろう
恋愛
人気アイドルの恋愛事情① 国宝級イケメン、人気アイドルとの秘密の恋。長身、イケメン、態度はそっけないけど、優しい恋人。ハイスペ過ぎる彼が、なぜごく普通な私を好きになったのか分からない。ただ、とにかく私を溺愛して、手放す気はないらしい。 甘いキスで溶ける日々のはじまり。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く私。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動予定 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! 本作品の関連作品もぜひご覧ください。ドゥルキスの最年長、アラタの物語です。こちらはBL要素のあるストーリーですが、ちゃんとアイドルと主人公の女の子くっつきますw 「美容系男子と秘密の診療室。のぞいた日から私の運命が変わりました」

君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。 「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」 副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。 真面目OLの恋の行方は?

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

処理中です...