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第5話 エフと大学

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「ごしゅじーん、朝ですよー。今日は大学のある日でしょー」
翌朝、エフの声で目を覚ました。食卓には既に朝食が並んでいる。
エフの料理はとても美味しい。昨日のオムレツも絶品だった。一人暮らしを始めたばかりの私ではかなわない。
「うーん……料理の腕で携帯に負けるのはなんかシャクだけど、ここまで美味いと文句はないね」
「おほめにあずかり光栄です」
エフは真面目に返した。
「さて、今日は大学なんだけど」
「お供します」
昨日と同じパターン。ただ、今回は。
「お供は嬉しいんだけどね、大学は関係者しか入れないよ」
「学生の携帯は関係者だと思いますよ」
「携帯電話の形ならね」
さすがに、構内に青色スーツの男がいたら目立つ。ものっそ目立つ。
「ああ、なるほど。では、機械型に戻りますね」
エフを携帯に戻してカバンに入れると、私は大学に行く準備を始めた。

***

午前の授業が終わって、私は友人たちと食堂で昼食をとった。
「みーたんのケータイ、FQシリーズに買い換えたんだ?」
友人が私に言った。ちなみに私は周囲から『みーたん』と呼ばれている。
「やっぱFQシリーズ買うよね? ケータイがイケメンになるって面白すぎるっしょ」
友人たちはみんな、FQシリーズに買い換えたらしい。全員で携帯を取り出して、食事の終わったテーブルに置いた。
ボウ、と、例の淡い光が友人たちの携帯を包み込んだ。光の中で、携帯たちが、モゾ、と動いている。光が消えると、小人サイズの青年たちがテーブルの上に起き上がっていた。
「おお……!?」
ちっちゃい。
「FQシリーズって電話型と大人サイズと小人サイズになれるんだよー」
みーたん、また説明書読んでないんでしょー、と、友人たちが笑う。
『もちろん私も小人サイズになれますよ。やってみましょうか?』
携帯電話の姿のまま、エフが私に話しかけた。
「うん、やってみて」
エフも、光に包まれて、電話から小人になった。
「わ、みーたんのケータイめちゃくちゃカッコイイじゃん!」
「すっご!」
「これぞイケメンである!」
友人たちは、エフを手に乗せて黄色い声を上げている。エフは驚きつつも、少し顔が赤くなっている。
「すごいね、みーたん。当たりくじだよ。FQシリーズのケータイって一つ一つみんな顔が違うんだよ。人間みたいだよねー」
人間『みたい』。
そう、言動があまりに人間らしくてうっかり忘れそうになるが、エフは人間ではないのだ。この場合はアンドロイドというのだろうか。
(まるで心があるみたいなのにね……)
友人の手から下ろしてもらったエフは、友人たちの携帯と握手していた。
「あ、そうだ、メルアド新しくしたから、送っとくよ」
そう私が言うと、
「大丈夫だよ。こうやってケータイ同士で握手すると、自動的に電話帳にアドレスが登録されるんだよー」
と友人の一人が返した。
「あはは、少しは説明書読みなよ、みーたん」
昼休みが終わるまで談笑してから、私たちはそれぞれの授業に向かった。
「ご主人、みーたん、なんて呼ばれてるんですね。そういえば、まだご主人のお名前を聞いていないんですが」
「……名前は恥ずかしいから教えない」

〈続く〉
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