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第1話 出会いはケータイショップにて
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今日、携帯を買い換えることにした。
五、六年前に買った初代の携帯は、最近調子が悪く、買った店で相談したところ、修理よりも新しく買った方が安く済む、ということだった。
一人暮らしをしている貧乏学生の身としては、安い方がいいに決まっている。
私は早々に初代を見限った。
ただ、アラーム機能は死んでいなかったので、目覚まし時計代わりにとっておくことにした。
本当はそのまま店でリサイクルに回収してもらうべきだろうが、長い年月を共に過ごした相棒だ。なんとなく手放せなかった。
店内に展示された携帯たちを、ぼんやり眺める。
携帯の機能は、正直よくわからない。
とりあえず、メールと電話ができて、安ければ何でもいい。
そう伝えると、店員の方に苦笑された。……当り前か。
色とりどりの携帯たちを流し見しながら歩いていくと、ふと『女性向けケータイ』と書かれたポップが目に入った。
その前に立ち止まると、女性の店員が説明を始めた。
……カメラの画素数が多いとか、よくわからない説明が延々と続く。
大半を聞き流したが、だいたいの内容は、一人暮らしの女性に嬉しい機能がついているということらしい。
(……ん?)
その女性向けケータイの品ぞろえの中に、一つだけ青い携帯があった。
他の商品は、女性向けというだけあって、可愛らしいピンクやベージュ、青系でもせいぜい水色や黄緑など淡い色ばかりの中に、その携帯だけは本当に真っ青だった。
その、女性向けらしくない反骨精神(?)が気に入った。
店員にその携帯を買いたいと伝えると、心底嬉しそうな笑顔になった。
値札の価格から見て、どうやら売れ残りだったようだ。そうか……反骨精神(?)が仇となっていたのか……。
最新機種にも関わらず、他の女性向け携帯よりも二千円近く安い。初代の修理費よりも下回っている。これはもう、買うしかない、と思った。
ありがとうございましたー、という店員の声を背に受けながら、私は携帯の入った箱を持って店を出た。箱は携帯本体よりも、取扱説明書の分厚さでずっしりと重かった。
――これが、私と『彼』の出会い、だった。
〈続く〉
五、六年前に買った初代の携帯は、最近調子が悪く、買った店で相談したところ、修理よりも新しく買った方が安く済む、ということだった。
一人暮らしをしている貧乏学生の身としては、安い方がいいに決まっている。
私は早々に初代を見限った。
ただ、アラーム機能は死んでいなかったので、目覚まし時計代わりにとっておくことにした。
本当はそのまま店でリサイクルに回収してもらうべきだろうが、長い年月を共に過ごした相棒だ。なんとなく手放せなかった。
店内に展示された携帯たちを、ぼんやり眺める。
携帯の機能は、正直よくわからない。
とりあえず、メールと電話ができて、安ければ何でもいい。
そう伝えると、店員の方に苦笑された。……当り前か。
色とりどりの携帯たちを流し見しながら歩いていくと、ふと『女性向けケータイ』と書かれたポップが目に入った。
その前に立ち止まると、女性の店員が説明を始めた。
……カメラの画素数が多いとか、よくわからない説明が延々と続く。
大半を聞き流したが、だいたいの内容は、一人暮らしの女性に嬉しい機能がついているということらしい。
(……ん?)
その女性向けケータイの品ぞろえの中に、一つだけ青い携帯があった。
他の商品は、女性向けというだけあって、可愛らしいピンクやベージュ、青系でもせいぜい水色や黄緑など淡い色ばかりの中に、その携帯だけは本当に真っ青だった。
その、女性向けらしくない反骨精神(?)が気に入った。
店員にその携帯を買いたいと伝えると、心底嬉しそうな笑顔になった。
値札の価格から見て、どうやら売れ残りだったようだ。そうか……反骨精神(?)が仇となっていたのか……。
最新機種にも関わらず、他の女性向け携帯よりも二千円近く安い。初代の修理費よりも下回っている。これはもう、買うしかない、と思った。
ありがとうございましたー、という店員の声を背に受けながら、私は携帯の入った箱を持って店を出た。箱は携帯本体よりも、取扱説明書の分厚さでずっしりと重かった。
――これが、私と『彼』の出会い、だった。
〈続く〉
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